第4章、王宮にて①
花粉の時期ですね。アレルギーの方は辛い時期だと思います。自分も目がかゆ過ぎて気が狂いそうですが、何とか生きてます。皆さんも頑張ってください…。
「こちらが、エルルフ様の〈扉〉です。」
いつもより早い放課後、エルルフと共にシェラトリスは〈扉の館〉にいた。今は整備の者の案内を受けているところだ。
どうやらエルルフの〈扉〉は、シェラトリスの隣に設置されたようだ。クロノタトンの分家であることを考慮して、そのような注文をノーア家がしたのだろう。でなければ、〈扉〉の数が少ない上流貴族のエリアで、このように近い位置に設置されるはずがない。
「ご相談通り、ノーア家の玄関と繋がっております。こちらが鍵です。」
シェラトリスと同じように、白と黒の薔薇の鍵だ。
「黒薔薇はこちらの部屋に入る時に使用し、中で必ず鍵をかけてから、今度は白薔薇を差してください。鍵のかけ忘れにはくれぐれもご注意を。失くすのは以ての外です。…何かありましたら、先ほどいらっしゃった窓口へお越しください。それでは。」
淡々と説明をして去っていく黒髪の男性 整備士。その背中を見送ってから、シェラトリスは声をかける。
「早く家族にあなたの〈書〉を見せてあげて。」
ノーア家に帰るエルルフと別れ、シェラトリスは自分の〈扉〉の前に立った。その時、背後からコツコツと音が聞こえた。
振り向くと、メアが窓をくちばしで突いていた。シェラトリスが窓を開けると、メアはちょこちょこと歩いて入ってきた。
「シェラトリス・クロノタトン侯爵令嬢。我が主、ルヴァン・イヴァンシェがお呼びです。〈古書〉の件で、お話があるそうですよ。」
それだけ告げるとメアは去って行った。シェラトリスは窓を閉め直すと、大急ぎでルヴァンの元へ向かった。
「“来たか、クロノタトン。アンドロとスティルグはすでに来ているぞ。”」
研究棟にあるルヴァンの部屋。優秀な研究者でもある彼の部屋は、棟に部屋を持つ者の中でも特に広く豪華だ。簡素ではあるがそれでもインテリアにこだわりがあるようで、研究に関係がなさそうな品々があるのは少し意外だとシェラトリスは感じた。
整理整頓されたその部屋の中、すでにシェラトリス以外の〈古書持ち〉が集まっている。
「“明日は祝日で休校日だが、お前たちには学校に来てもらわねばならない。宮殿に行き、そこの図書館で再び儀式を受けてもらう。”」
そう言って、ルヴァンは生徒にプリントを配り始めた。
「“保護者への知らせだ。休みは仕事がある生徒もいるが、それを放っても登校しなければならない理由があることを理解してもらうためのものだ。”」
シェラトリスは、プリントの最後に学校の判子が押されているのを確かめた。
「“形式的なものだ。この場合、拒否をする保護者はまずいないからな。…では解散だ。明日、いつも通りの時間に登校しなさい。ただし、教室ではなく、図書館に。―――以上。”」
ルヴァンはメアを止まり木に移し、椅子に座った。生徒三人は一言、別れの挨拶をして退出した。
生徒がいなくなった静かな部屋の中、ルヴァンはドアを見つめて一言呟いた。
だが、その声は、メアが羽をばたつかせた音にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった―――。