第1章、禍(わざわい)の白①
始まりました「古の魔法書と白ノ魔女」、どうぞお楽しみください。
「あははっ!あなたはその“色”を持つ限り、報いを受けるのは当然なのですわ!」
「まあ~、おかわいそうです~。」
「でも、お似合いですわよ?」
嘲りを隠すこともしない黒髪の魔女たちに囲まれ、水を滴らせる一人の魔女。哀れなその少女の髪色は白。黒やそれに近い色が当たり前の髪色であるこの世界では、その異質さは、度々その者に不幸を招いた。
白髪の魔女―――シェラトリス・クロノタトンはゆるりと顔を上げ、紺色の瞳で目の前の魔女たちを見つめた。ただベンチに座って休んでいたところ、いきなり後ろから魔法で水をかけられ、怒りに満ちている。
「口を慎みなさい、ラトクルフ嬢とそのご友人。」
身分や作法を重んじる貴族社会で、当然の礼儀が欠けていると暗に忠告する。この中では、シェラトリスが一番身分が高い。それもそのはず、シェラトリスの祖父はこの国の宰相を務めており、シェラトリスの父は侯爵である。しかし、白髪を持つ者を蔑むこの国では、シェラトリスは下に見られ、よく苛められていた。
シェラトリスの堂々とした態度に、黒髪たちは少々面食らったようだ。しかし、それも一瞬で立ち直り、言い返す。嫌がらせのリーダー、リリシィ・ラトクルフだ。
「ふん。いつまでそんな態度でいられるかしら。じきにクロノタトンの不正は暴かれ、宰相の座は、我がラトクルフ家が継ぐわ。」
長く美しいその髪を見せびらかすかのように払う様子を、シェラトリスは冷たい眼差しできっぱり言い放った。
「不正が、宰相交代が、本当にあると本気でお思いですか。」
強い口調と鋭い目つきで言葉を返すと、リリシィは顔を真っ赤にさせた。
「このっ!〈白ノ魔女〉がっ!!!!」
(ぶたれる。)
シェラトリスは抵抗なく、それをそのまま受けようとする。このようなことは今までに幾度もある。避けようと思えば避けられるが、それはそれで、激昂して面倒なだけだ。むしろ、ぶたれても平然としていた方が、気味悪がって寄り付かなくなることを期待できる。
しかし、その手はシェラトリスに触れることはなかった。振り上げられたままのポーズで止まっている。
「っ、何をするのよ、クロノタトン!!」
(?私、何もしてない…。)
「私だよ、ラトクルフ嬢。」
突如聞えてきた第三者の声。皆一斉に声の元へ振り向いた。
「アスカルト殿下…!」
恐れの滲むリリシィの声。
廊下の柱に寄り掛かり、腕組みをしてこちらを見る一人の青年。誰よりも黒く美しい髪と対称的に、白を基調とした華やかな装い。含みのある笑み、金色に輝く目は笑っていない。
彼はこの国の第二王子、アスカルト・クルシェン・アーチェスト。未来の国王候補としても名高い人物だ。
アスカルトが無言でリリシィにかけた魔法を解く。それを合図に、その場にいた者はドレスをつまみ上げ、簡単な挨拶をする。
アスカルトは静かで淡々とした口調で話しながら歩み寄る。
「ここで何をしていたんだい?ラトクルフ嬢。どうやらクロノタトン嬢が水を被っているようだが。」
「わ、私はただ、侯爵家の娘だからと言って、好き勝手に行動すべきではないと注意を…。濡れているのは、私たちが来る前からですわ…。」
「へえ、“注意”…ねえ。」
リリシィの白々しい言葉に、アスカルトは目を細めた。すでに笑みは消え、声は低く冷たい。
リリシィたちは、その様子にカタカタと震え始めた。
「ねえ君たち…この世で最も大きな罪が何だか知っているかい?」
アスカルトは突然突拍子もないことを聞き出した。
リリシィは少し面食らったようだが、すぐに笑顔を取り繕って答える。
「それはもちろん、大罪人・ハーシュが起こした内乱ですわ、殿下。彼女より重い罪など、あるはずもございませんもの。」
それに続くは、リリシィの取り巻き令嬢たち。
「ええ!」
「リリシィ様の仰る通りですわ。」
シェラトリスは冷ややかな気持ちでそれを聞いていた。
「うん。確かにそうだね。」
笑って話すアスカルト。しかし次の瞬間、冷たい目を見せた。
「でもね、私はこうも思うんだよ。罪のない者を嘲り危害を加える者は、大罪人ハーシュと同等に愚かだとね。」
「なっ…。」
「去れ。そのような愚か者に注意されるような者は、この学園にいない。」
「で、殿下…。」
硬直する令嬢たちの中、悪あがきをするのは……怒りに身を震わせるリリシィだ。
「い、いくら何でも〈白ノ魔女〉と一緒にするなんて…!それに、シェラトリス様のご実家は悪い噂のある一族ではございませんか!そんなお家が宰相を務めるなんて―――」
「聞こえなかったか、ラトクルフ嬢。私は”去れ”と言った。」
容赦のない言葉がリリシィの発言を遮った。
「失礼します…。」
リリシィは悔し気に唇を嚙みながら会釈をして立ち去った。他の令嬢も震えながら一礼してそそくさと後に続いた。
アスカルトは皆が去ったのを見届けると、シェラトリスに駆け寄った。
「―――大丈夫か、“シェラトリス”。」
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毎週日曜日15:00更新予定です。「魔女の敵」と同時進行ですが、どちらを投稿するかは自分の進捗具合によります。すみません。