第一話 goodbye,my world.
ある夏の日の午後。
蝉の音とジメジメとした熱風が僕の顔に打ち付ける。
交差点の信号機を待つ間、額から頬にかけて、たらりと流れ落ちる汗が鬱陶しく、手で拭う。
汗がぐっしょりとシャツに染み込んで気持ち悪い。
服の襟を手でさり気なく下げながら、少しでも風を送り込めるようにハタハタと扇いだ。
目線を所在なく動かしていると、悲鳴が周りから上がり始める。
ん? 車のクラクションの音が目線の先から聞こえても来る。
僕は嫌な予感がして反射的に反対側を振り向くと、そこには居眠り運転して蛇行してくる車がこちらに突っ込んでくる。
車が目に映り込んだ、次の瞬間、凄まじい衝撃が体を伝わり、そのまま勢いよく、ふっ飛ばされた。
「オイ、大丈夫か。意識をしっかり持て。」
「キャーッ。」「おい誰か救急車呼べ!」
人がふっ飛ばされる光景を見てパニックをおこして騒ぐ人や悲鳴。こちらを助けようと車を呼ぶ声、意識が遠のき始め体も動けなくなる。周りの騒ぎを遠くで聞こえ始める。
ついには意識を失ってしまった。
次に目が覚めたそこは、病院のベットの上。寝かされた状態で天井を見上げていた。
僕に処理できる情報はそれだけ。あと他のことは頭にモヤ霞がかったようで音も景色もうまく認識できない。
こちらを見下ろすように医者が覗き込んで経過観察書に書き込んでいく。
医者は、集まっている家族に話しているが僕にはわからない。
話を聞いて泣き崩れてしまう母。それを涙を堪えようとして失敗し、それにも構わず声を震わせながら母の事をはげす父。
弟や妹が信じられないといった面持ちでただ呆然としている。
それを僕自身では正しく認識できないまま、ただ目を開けているだけなのに疲れて重くなっていく目蓋を閉じた。
暗い、寒い、つま先から冷気が体中に回っていく。意識が消えていく。それがなんとも気持ちが良かった。
そして、、、ボクは、、、命を・お・と・し・た。