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黒鉄の騎士団  作者: かなん
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二話 裏口入学と学院の伝統

ブクマ、評価貰えると喜びます。


 『統魔院』の授業は言語、数学、歴史を一纏めにした『基盤学』、武器の取り扱いや戦術を学ぶ『戦術学』、魔法関連の『魔法学』、装備の調整などを学ぶ『魔導工学』の4つに分かれている。


 全ての授業はそれぞれ月に1回行われ、テストは結絶の節と、終始の節に行われる。


 週に一回の授業以外は基本的に自由時間で、各々が好きな事をして過ごす事を許されているのだが、『統魔院』の生徒達はその殆どが、騎士団内へのコネクション作りや、郊外での野盗退治などに赴く。


 「月に授業一回って、大丈夫なのか?」


 先日と同じ花園でエイルが尋ねると、隣に座るノエリスは端末から顔を上げる事なく言葉を返す。


 「君はガイダンスを読んでないのかね?『統魔院』は絶対的な成果主義だ。テスト結果がいかに悪かろうと、騎士団からの指名があれば、卒業資格に関係なく騎士団に入団できる」

 

 「じゃあ、テストはどうでもいい?」


 「そうでも無い。最後まで指名が無かった者は、卒業後に騎士団への配属願いを出す事になるから、その時、テスト結果が初めて重要になる。加えて言わせてもらうなら、彼らの殆どはどの派閥にも所属していない」


 「・・・一応勉強するか」


 「そうしたまえ」


 端末を取り出してテキストを開くと、花園に新たな客がやってきた。


 「や、昨日ぶりだね」


 「クロエ、どうしたの?」


 「どうしたって訳じゃ無いけど、友達と会うのに理由いる?」


 クロエはそう言ってノエリスの隣に座ると、端末を取り出す。

 

 「そういえば、コード交換してなかったよね?」

  

 ここでいうコードは、端末にある固有コードと呼ばれるもので、個人的なメッセージなどをやり取りする際に必要となるものだ。

 

 「そうだね、じゃあ、俺からコード送るよ」


 「りょうかーい」


 「居たぞ!」


 コード交換を終了すると、花園には似つかわしく無い、大声が聞こえて来る。

 声の方を見てみると、複数人の生徒達が走って来るのが見えた。


 「クロエさん、是非とも、僕らの派閥に入ってくれ!」

 「いや、クロエさんは僕らの『アルヴレギオン』に入るべきだ!」


 熱烈な派閥勧誘にクロエがうんざりしたようなため息を吐く。


 小声でノエリスに尋ねる。


 「昨日も同じような感じだったの?」


 「昨日はもっと酷かったよ。何しろ、トイレにまでついていきかねん勢いだったからな」


 「・・・それは、人としてどうなんだ?」


 暫く様子を見ていたエイルだったが、突然、手元の端末が震える。


 一体どうやったのか、助けて、と、個人メッセージを送ってきたのは目の前の少女だった。

 こうされては、流石に見ているだけというわけにもいかず、間に割って入る。


 「あのさ、クロエもまだ決めてないらしいし、一旦やめたら?」


 突然入ってきた第三者に生徒達が不躾な視線を向ける。すると、一人の生徒が口を開いた。


 「お前、あのリステリアか!」

 

 「どのリステリアかは知らないけど、エイル・リステリアであってるよ」


 少年がエイルであると分かった途端、生徒達は軽蔑の視線と共に嘲笑を浮かべる。

 先頭に立つ少年がエイルの胸元を叩く。


 「どうやら、立場を分かってないようだな?エイル・リステリア、君みたいな裏口入学生が、僕達に敵うと思っているのか?ウッド、こいつの入試成績はどれくらいだった?」


 「筆記、実技、どちらも、一割未満だ」


 ウッドと呼ばれた少年が言った瞬間、生徒達が馬鹿笑いする。

 そして、少年が強めに胸を押し、後ずさったエイルの顔に向かって唾を吐き捨てた。


 「君は学園の品格を落とす汚らわしいゴミだ」


 それを見たノエリスが走り出そうとするのを肩を掴んで止める。


 「止めてくれるな、エル!こいつは君の栄誉を貶した!」


 「俺は気にしていないよ」


 ノエリスをなだめてから、唾を手でぬぐい、少年達に向き直る。


 「さて、話がズレた。もう一度言うけど、クロエへの勧誘、やめてくれないか?迷惑してるみたいだし」


 出来れば事を荒げたく無い、エイルはそう言外に告げたつもりだったが、少年は全くそれを汲み取る気は無いようだった。


 「迷惑?いや、違うね。僕達は彼女の為を思って言ってるんだ」


 「論点がズレてるよ、今の問題点は彼女がどう思うかというところだ」


 「はっ、君には分からないだろうが、ここでの派閥争いは騎士団に入った後もずっと続く。君みたいなゴミ屑と一緒にいたら、クロエさんには悪影響にしかならない。一時の感情で、彼女が将来を棒に振らないようにしてあげてるんだ」


 それは明らかな侮蔑と挑発だったが、彼らの言葉程度で傷付き、腹を立てる程、エイルは子供では無い。


 だが、周りの二人は違うようだった。今にも飛びかかりそうなノエリスを抑えながら、拳を強く握るクロエにも注意を配る。


 「・・・君の主張は分かった。けど、もう少し、その彼女の為という行為の程度を考えて欲しいな。人と話している時にまで来るのはマナー違反じゃない?」


 出来るだけ相手を刺激しないように言葉を選ぶ。だが、相手にとってはエイルに指摘される事が我慢ならないのか、思い切り顔を顰めて、激昂した。

 

 「マナー違反?よくもまあ、そんな事をぬけぬけと言えたな!君のようなゴミ屑や、君を庇うそこのゴミ女が僕達と同じ土俵に立っているとでも・・・」


 しかし、少年が言えたのはそこまでだった。

 ノエリスを貶された瞬間、誰よりも冷静だったエイルが少年へと掴みかかったからだ。


 「ノエルを侮辱するな、そのよく回る舌を切り落とすぞ」


 「事実だろう!」


 そう言うと、少年は腰に吊るした剣を抜き、斬り払う。反射的に躱すが、エイルの左腕辺りの制服が裂け、その下のワイシャツに赤い染みが広がる。


 「ちょっと、いい加減にして!校則で教師の許可の無い『魔装』の使用はダメだって言われてるでしょ!」


 「エル、君も落ち着きたまえ。1分前に僕に言った事を忘れたのかね?僕はあの程度の侮辱、気にしないよ」


 クロエとエルが双方に注意する。

 だがーー。


 「ゴミと、それを守るゴミ箱。お似合いだねえ?愛しい彼女に傷跡を舐めてもらったらどうだい?おっと、ゴミに舐められたら、化膿・・・うわあ!!」


 弾けるように飛び出したエイルの剣が少年の制服の胸元を浅く斬り裂く。

 クロエとノエリスがエイルを取り押さえなかったら、致命傷まではいかずとも、大怪我させる程の勢いだった。

 エイルの気迫に少年が腰を抜かして尻餅をつく。


 「エイル、駄目だよ!」


 「けど!」


 「いいから!それと、貴方達は金輪際、私には近づかないで!私、友達を侮辱するような人間と仲良くなる気は無いから!」


 「く・・・後悔するよ!」


 「これ以上言うなら、私もエイルに加勢するわよ!」


 その言葉が決め手になって、生徒達が散り散りに逃げていく。

 少年達の姿が見えなくなって、ようやく冷静になったエイルが二人に頭を下げる。


 「ごめん、取り乱した」


 「全くだよ、君を抑えたせいで制服にシワがついてしまったじゃ無いか・・・アイロンしたまえ」


 「まあ、それは善処する・・・クロエも、迷惑かけた」


 「ううん、気にしないで。元はと言えば、険悪にしたくなくてはっきりしなかった私の態度が原因だったし」


 「それでも、本当にごめん。いくつかの派閥と敵対させちゃったし」


 「その事なら大丈夫だよ!これでも、私首席だからね!卒業して、普通に騎士団に入れば良いだけだし」


 「それなら良いんだけど・・・」


 二人で話していると、黙っていたもう一人の少女が「あ!」と、何かに気づいたように声を上げる。


 「どうしたん?」


 「分かってしまった、最善の策に気付いてしまったよ、私は・・・無いなら、作ってしまえば良いんだよ!」


 「何を?」


 訳が分からず、首を傾げるエイルに「察しが悪いなぁ、君は」とノエリスが嘆息し、言葉を続ける。

 

 「派閥をさ!僕達が騎士団に新たなる派閥を作るんだよ!いや、厳密には作っていくと言うべきか」


 「あ!もしかして、そういうこと?」


 新しく気づいたのはクロエだ。

 ノエリスがニヤリと彼女を見て、エイルの方に向き直る。


 「そういう事だ。つまり、僕達はどの派閥にも属さず、成績優秀者として騎士団に入る事を目的とした派閥を作る。そして、ゆくゆくは騎士団内に僕達を中心とした新たな派閥を作り出す。どうだ?ワクワクしてこないかね?」


 


 

 


 


 

 


 

 

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