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魔法の世界と巡る者 4

作者: 白詰草

『……「巡る者」とは、自己の魔法を高めるために様々な体験をしようと世界中を旅する魔法使いのことである。全ての魔法使いは「巡る者」になる権利があり、全ての住民は彼らを受け入れる義務がある。』

――世界魔法条約第Ⅲ条より引用。


生きる理由を探し、巡る者となった少女、氷見野 歩葉の物語。

 固い地面の上を歩く。柔らかい土の上に慣れていたため、それより安定しているはずなのに、なんだか余計に疲れるようだ。

 いつものように風の魔法で飛べば良いと言うかもしれないが、

「やっぱり、高い」

 建物は高いし、そこらじゅうに太い線が張り巡らされていて、思うように飛べず、降りて歩いている。見上げるようにしても、建物の頂点は見えない。青く広がっているはずの空は、それに四角く切り取られている。暖かいはずの気温も、視界に入る薄暗い灰色のせいで、なんだか肌寒い。

 何人か歩いていて、寝泊り出来るところでも訊こうとしたののだが、誰もが早足でかけて行くから話しかけられず。とりあえず街の中心まで行ってみようと歩いていくと、そのうち円形の大きな建物にたどり着いた。上にというか、広さがあるようだ。ここが役所みたいなものってことで良いのだろうか。

 押さなくても勝手に開いた扉を驚きながら抜ける。無機質な白い空間を眺めていると、女性が現れた。歩葉より少し年上だろうか。白衣を着ていて、肩までの髪を片側にまとめていた。彼女は歩葉の姿を見て、少し目を細めると言った。

「きみ、ここの人間?」

「……いえ、私巡る者で」

「ふうん。ああ確か、条約に義務が書かれていたっけか……うん、素質ありそう。ねぇ、行き先決まってないなら、うちに付き合ってくれない?」

「良いですけど」

「じゃぁこっちに……いや、そろそろか」

「え?」

「こっちの話。それよりさぁ、敬語使わないでくれる?」

「年上には気を使うべきだと思っているのですが」

「それは大事だけどねぇ、」

 何かを言おうとしたのだろうが、たくさんある扉のうちのひとつがスライドして開き、女性と同じ白衣を着た男性が出てきた。

「栗原先生、資料用意出来ました」

「ありがとう、ワタシの机の上に置いて」

「了解しました」

 そろそろ、というのは彼が来ることだったのだろうか。

「自己紹介がまだだったわね。うちは栗原(くりはら) 音佳(おとか)。ここの研究チームのリーダーをやってる」

 私も名をなのると、「ふーん、ひみのちゃんね。まあよろしく」と言われ握手を求められる。握った手は私より冷たかった。

「うちが上の立場だからってみんなかしこまっちゃってねぇ。そういうのは仕事だけにしたいのよ」

「今は、仕事じゃないんですか」

「君へ話しかけているのは単なる好奇心で、趣味よ」

「……わかった」

「うん、じゃあついてきて」

 白い背中の後ろについて行く。また扉を抜けた先は廊下だった。天井には白くて細長い灯り。眩しいのに冷たくて、ときどきチカチカと点滅している。これは魔法ではなくて、

「驚いた? この街はね、魔法と科学が共存しているのよ。色々なものに頼っておけば、どれかがなくなっても立て直しやすいからってね」

「魔法は、なくなるの」

「さぁ? うちにはそんな大きな事わからないな。魔法の仕組みはわかってる?」

「はい」

「だから敬語やめて。見たとこ中学卒業で巡る者になった感じ、ならこの内容は知ってるか。魔法は想像力によってなりたっている。人が想像することをやめたら、魔法はなくなるでしょうねぇ」

「研究していることも、科学に関すること?」

「そうね、うちのチームは主に人工知能の開発をしてる」

 聞きなれない単語に首をかしげると、その人は苦笑した。

「人工知能っていうのは、読んで字の如く、人の手で頭脳を創る、ってところかな。果ては人を創ろうと。という研究をここではしているのよ」

「どうして、人をつくろうとするの」

「まあ色々と理由はあるだろうけど、この研究は軍事目的だからね。戦争のため、かな」

「戦争で、勝つため?」

「そうなるねぇ。うちはただ、強いものをつくりたいだけなのに」

 少し振り向いて、笑顔で話していた彼女だったが、その最後の言葉で前を向いたから言ったときの表情はわからなかった。

「で頼みたいのは、その人工知能との戦闘だ」

 前を向いたのは、部屋にたどりついたからだったようだ。扉が開いて現れた部屋は、上下左右真っ白で、ガラスで隔てられた隣の部屋には機械が並んでいるのが見えた。そしてこちらの部屋には見たことのない物があった。

「ロボット開発チームと共同で作った、対魔法人工知能搭載の戦闘ロボットさ!」

 形は縦に長い箱から手足が出てきたような、白いもの。自分の村にいたままなら、見ることのなかったような存在。

「やってくれればしばらくの生活は補助するし、きみの探していることも手伝うわよ」

「どうしてそれを」

「何事にも、把握する力っていうのは必要なのよ」

 試させて、と小さく呟かれ、少しの好奇心が首をあげた。

「で、やってくれる?」

 首肯で答えた。


「了承もとれたことだし、と」

 隣の部屋にガラスの扉を移動した彼女は、機械を操作した。

「今防御特化に設定したから、きみに危害を加えることはないけどね、あれは壊しても構わないよ」

「良いんですか」

「うん、あれ試作機だから」

 あっけらかんと言う彼女。

 歩葉は息を吐くと、ロボットに向き合った。

 相手の動きを見てから攻撃を始めるというパターンでいつも戦闘しているため、自分から動くというのは、慣れない動きである。

 話を聞く限り、機械というのは精密なもののようだから、少し壊してしまえばうごかなくなるはず。

「甘い」

「風の刃」

 音佳が何かを呟いたが、空を切るように腕を振り、物質をも切断する鋭い風を起こす。が、

「なっ、」

 ロボットは胴体を開き、中から何かが出てきた。前に見た風で回るという風車を小さくしたみたいな。風はそれにあたり、くくると回した。何が起こったのか分からずにいると、

「このロボットは様々な魔法に対応している。今出てきたのはモーター。回転するとロボットの活動エネルギーである電力がたまる」

 と言う声を聞きながら、息を整え、叫ぶ。

「電気のことなら、理解してますよっ!」

 エレクトリックマジック……電気の魔法を繰り出す。だがこれも相手に当たった感覚はしたのに、全くダメージを負っていないらしい目の前のロボット。

「へぇ、いろいろ魔法使えるのね。でも電気は吸収出来る」

 もうここまでくるとどんな魔法も効かないのだろうと思えてくる。実際色々な魔法に対応しているというのだから駄目だろうが、反応を見るためにこちらも使ってみる。

「色彩異常」

 残りの魔法、カラーマジックを発動するも、もともと立っていただけのロボットに、不審な動きは見られない。

「人と同じような感覚器官を機械は持たない。だから感覚異常は効かないよ」

 人間だったらよろめきでもするのだが、その言葉通り効いていないのだろう。予想はしていたけど実際に今まで使えていたものが手応えないと精神的にくるものがある。

 想定よりも大きい威力の風や雷を起こす、というのは現実的ではない。最高レベルまで出しても耐性ありそうだし、魔力の少ない自分ではそこまで出すことは出来ない。

 では他の方法は、と考えるもどれも効かなそうで。


――弱点が無い……!?


 細かな風を起こしつつも、効いていないのを見て。無表情だった歩葉はニヤリと笑った。

「どうしてそんな、楽しそうに」


「カラーマジック」

 白い床に魔法陣を描く。橙色の光を放つそれは、空気の温度をあげるもの。雪の降る町で習得した、温度変化と風魔法の応用。上昇気流を起こし、台風に近い現象を作り出す。

 風魔法で直接大きい風は作れなくても、誘発することはできる。

 ロボットを中心に渦をまいていた風は、重そうなロボットを持ち上げた。


「そこまで」

 誰かの声が響いて、歩葉は魔法陣を消した。

 音佳はふわりと風を起こし、落ちてきたロボットをそっと着地させた。彼女も風魔法が使えるのだろうか。

「あーあ、派手に壊したね。まぁまだ直せる方か」

 ロボットを隅々まで観察している音佳を見ていると、自動でゆっくり開くはずの扉が勢いよく開いた。

「栗原先生! 許可なく実験室使うなんて」

 先ほどの資料を持ってきていた男性が扉の向こうにいた。わりと無残なロボットを目にして固まっている。

「お、丁度良いところに。ここの後始末頼みます君の技量なら直せるはずだからねじゃあ!」

「ま、待ってください~!」

 背中を押されるようにしてその部屋を後にした。

「押しつけちゃってよかったの」

「いーのいーの。彼頼れる子だから」

 話をしながら案内されたのは、建物の近くの公園。入ってきたときには見えなかったから、反対側なのだろう。

「わぁ……」

 と思っていたのも束の間。景色に見とれて、感嘆の声をあげていた。

「きれいでしょ、違う地域出身なら見たこと無いかなと思ってねぇ。これは桜っていう樹木で、今の暖かい時期にしか咲かない花をつける」

「きれい」

「でしょ」

 まるで自分のもののように自慢する音佳に、子供みたいだなと思う。まあ座ってよと言われベンチに二人で座る。

「ほんときみ面白いね。似た種類の魔法を複数持つ魔法使いには会ったことあるけど、こうも系統の違う魔法を使いこなすなんて。どうして取得したの?」

「それ、必要な情報?」

「必要よ、そういう魔法使いが戦場にいたら、対策が出来るでしょう。にしても、どうして高い能力持っているのに巡る者なんか、ううん、きみらを悪く言いたいわけじゃないんだ。ただもったいないなって」

「探しているものが、あるから」

「あぁ、それが理由なんだ。契約だしね、聞くけど、それは?」

 人心掌握が得意とはいえ、そこまで細かいことは分からないのだろうな、と思って、

「生きる理由」

 と答えた。

「へえ、それはとても壮大だね」

 子供のくせに、と笑わない大人もいて、安心した。

「音佳さんは?」

「ひみのちゃんさ、聞いてばかりじゃない?」

「こどもの疑問を解決してくれるのがおとなでしょう?」

「無口で大人びてるのに、こういうときだけ子供を出してくるなんてねぇ……まぁいいや。言ったかな、強いものを創りたいんだ。そのためにはここのロボット開発が一番近いかなって思ったから、ここにいる」

「それが、成しとげられなかったら?」

「死ぬまで分からないでしょ。死ぬ間際に出来るかもしれないし、出来るまでうちは死なない」

「私には、そんなのない」

「それを探しているんじゃないの?」

「そうかも、しれない」

「じゃあそれでいいじゃない。んーほんともったいないな、きみの能力なら学んでから職に就くっていう道もあっただろうに。勉強、面白いでしょ?」

「嫌いでは、ないかな」

「うんうん、きみさえ良ければさ、その理由っていうの、ここで探さない?」

「スカウトってことでいいの」

「そうだね」

「まだ、色々なものをみたいから」

「そっか、だめか。じゃあもし答えを見つけたら、ぜひ考えてみて」

“桜”の花びらが舞う中で、そうやって手を握られた。


                   To be continued.


こんにちは。白詰草です。

今回は、灰色の街でも強く生きる女性の話。

描写には苦労しました。何が難しいって、現世の一般人の感覚と、歩葉をはじめこの世界の住人の感覚は違うのに、違う世界、違う時代の話をかくことはむずかしいなと。

(当時の後書きより一部引用)


現在TRPGで「栗原音佳」をモデルにしたキャラクターを使っているので、彼女を初めて出した作品を掲載しました。そのうち日の目を見ると思います。口調などだいぶ変更していますが、根幹とか雰囲気は変えてなかったはず。

全5話(番外編を含むと6話)のシリーズでしたが、他の回はそのうち加筆して出したいと思います。

それでは。ありがとうございました。

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