運命の始まり
すみません!!
これは下書きなのですが、何か間違えて投稿されてしまいました!!
気づくのが遅くて削除しようか悩んだのですが、もう恥はすでにかいたのでこのままにします。
いずれ執筆したいとは思うのですが、どのくらい先になるかわからないです(汗)
とにかく体調と仕事が忙しいので、本当にすみません!!
もしも。
ずっとファンだった芸能人と偶然会えたらどうしますか?
相手は仕事中でもないし、近くにマネージャーらしき人も誰もいない。
あなたはその人に話かける?
話かけない?
もし話しかけるならどうしますか?
握手を求める?
一緒に写真を撮って欲しいと頼む?
それとも……?
もし私だったらずっと好きだったと気持ちを伝えるんだろうか?
想像してみてもわからない。
こればかりは本当に会ってみないとわからないことなのだろう。
そう思っていたけれど……。
私の名前は西森七海。
26歳。
職業はファッションデザイナーで服を作ること全般になる。
つまり、自分でデザインした服を作って売って生計を立ててるってこと。
小学生の時、家庭科で服を縫う楽しさを知り、自分でデザインを起こしてから作り上げるようになるまでそう時間はかからなかった。
高校から服飾専門学校に進み、大学も服飾大学に進学してずっと服を作ることばかりだったけど、卒業後すぐに服飾大学で知り合った気の合う仲間とブランド「Sirius」を設立。
今はようやっと軌道に乗り始め、何とか食べられるようにまではなった。
私は女性服デザイン担当だ。
よく首の裏のところにあるロゴ付きのネームタグって言うんだけど、ネームタグのブランド名の文字の色がそれぞれにあり、色で誰がデザインしたかわかるようになっている。
私の色は青。
七海が青のイメージということで青だったりする。
ちょっと安易だけどね。
「Sirius」のメンバーは8人構成で、それぞれ担当がある。
革細工担当の『鐘山 遼矢』は、小物から革を使う服の時も手伝ってくれる見た目はガテン系だけど、「Sirius」のリーダーであり営業責任者として動いてくれている。
帽子小物担当の『田中 佑貴』は、彼の作り出す品には計算され尽くした機能と飽きのこないデザインが美しい。
見た目はちょっとヲタというか、昔で言うアキバ系男子みたいで、そのギャップがすごい。
ネットショップ責任者で彼の部屋の一部が「Sirius」の事務所にもなっている。
男性服担当の『真野 宇月』は、彼はロック系からカジュアル、コンサバ系までありとあらゆる分野の何をデザインしても光る。
本人はあごヒゲのイケメンと勝手に自負しているサーファー系のファッションが好きなちょっと残念さん。
ネット担当で「Sirius」のホームページは彼が作っている。
もう一人の男性服担当『勝田 新』は、メガネの似合う優等生な見た目によらず活動的なファッションが好きで、彼のデザインする服の動きやすさはいったいどこから生まれるのだろうかと皆が首を捻るレベルだ。
広告担当として遼矢と一緒に「Sirius」を売り込んでいる。
男性アクセサリー担当の『寺川 大輝』は、遼矢とは逆の細身のガテン系男子。
バリバリの大阪弁で頭にタオル巻いてそのまま新宿とかでウロウロしている。
問屋担当で私と2人でよく問屋と打ち合わせをしたりしているけど、大阪人でくくるのは失礼なんだろうけど、値切るのが上手い。
女性物の小物やアクセサリー担当の『間仲 明子』は、ゆるふわガール。
背もちっちゃくて可愛くて……大阪人なんだけど、中身は大阪のおばちゃん。
見た目に騙されて泣いた男は数しれず。
営業担当なんだけど、その手腕を遺憾なく発揮してくれている。
私と同じ女性洋服担当の『風祭 凛』はとにかく美女。
めちゃくちゃ雰囲気のある美女で芸能界にスカウトされたことがあるとかないとか……。
センスも何か上品さがあって、かっこいい服ばかり生み出す。
広報担当で彼女は今じわじわと人脈を広げつつある。
8人の個性と役割分担はうまくはまり、誰ともぶつかることなく助け合って運営出来ている。
「Sirius」は店舗もなくネット販売がメインだけど評判が口コミで伝わり、少しづつ軌道に乗り始めた頃、半年前に大きな転機が訪れた。
若手新鋭集団のブランド「Sirius」。
大手ファッション雑誌の取材を受け、記事にはそう見出しから始まり、ファッションの流行に詳しい人ならそこそこ知ってもらえるようにまで一気に知名度が広まった。
それから注文も多くなり、お試しにといくつかのデザインの物はすでに工場で生産され、「Sirius」は順調に大きくなり始めている。
ここまでくるのは本当に大変だった。
メンバーのデザインや実力は信じていたけど、ブランドを立ち上げるということは容易なことじゃなくって、最初の頃はバイトしないととても食べてはいけず、少しづつ注文が入るようになってどれほど嬉しかったことか。
メンバーがそばにいてくれて、お互い助け合いながら切磋琢磨してここまでこれたんだと思う。
メールの通知音がして携帯を見れば、発注していた服のボタンが海外から発送されたという連絡だった。
予定通りに届けば何とか間に合うようでほっとする。
私は立ち上がり男性用トルソーに着せている男性用のシャツを脱がせた。
トルソーとは胴体部分のみのマネキンみたいなもので、立体裁断用のトルソーは針を刺したり裁断したりする作業がしやすくなっている。
あとは今ネームタグをつけて、到着したボタンをつければ完成だったのでもうトルソーに着せておく必要はない。
女性服担当の私が男性用のシャツを作ったのはプレゼントの為。
毎年年に一度、男性物のシャツを作り続けている。
完全にプライベートなのだけど、メンバー皆それを知っており、みんなの了承の元、シャツには青文字のネームタグをつけた。
袖には「Sirius」のブランドロゴが刺繍されている。
青文字のネームタグがついている男性服。
今まで売られたことはなく、これからも売られることはない。
だって私はたった1人の為にしか制作しないからだ。
私がデザインする男性服を持っているたった1人の男性。
それは俳優「諏訪部 紫翠」。
すっごい美形ってほどじゃないけど、19歳の時にJJ(日本大学生)ボーイコンテストで12社すべてのスカウト事務所から申し込みがあるほどの快挙を成し遂げて華々しく俳優デビュー。
好青年そうな雰囲気と整った容姿は清潔感があり、姿勢が良く身長もある細マッチョで、すらっと長く伸びた足とちっちゃく収まったお尻がスーツをキレイに見せている。
癖のある髪は柔らかそうで、長いまつげが羨ましく。
少し切れ長の瞳は知的そうに見え、うちの祖母も乙女にさせる甘いマスク。
私が唯一芸能人として好きな俳優だ。
初めて知ったのは祖母が観ていた長寿番組の刑事物「犯罪は零の時間」。
熱血刑事と冷静沈着な刑事の2人が主演で時に熱血に時に冷静に事件を解決していくストーリー。
私がファンになった諏訪部さんは8年前に新人刑事役で起用。
熱血刑事と冷静沈着刑事にこき使われる新人で爽やかなイケメン役だ。
何本かのCMにも出ていて、最近では演技上手くなって恋愛物の御曹司役とか、頭脳派の奇行な犯人役で他の刑事物にも出ている。
映画に舞台に活躍の場を広げて人気も上昇中だ。
私はその諏訪部さんの誕生日プレゼントに8年間毎年シャツを作って事務所に送っている。
「Sirius」には男性服担当のデザイナーがいて、彼のデザインする服とは少し毛色が異なっているので「Sirius」のファンの人からしたら「Sirius」のネームタグをつけてほしくないかもしれない。
でも他のメンバーは宣伝にもなるからつけてほしいと言われている。
俳優の諏訪部さんが着てくれればある意味、広告塔になるからかもしれない。
そんな計算もあるのかもしれないけど、「Sirius」の私が制作した作品というデザインなんかの保護をするためなんだと思う。
私は袖に入れた「Sirius」のロゴの下に小さな文字でShisuiと刺繍を指でそっと撫でる。
ぱっと見ではわからないくらい小さな文字。
女性服しか制作しない私が制作する証。
ひと針ひと針思いを込めて縫ったようなものだ。
2人の主演を真っ直ぐな瞳でサポートする姿。
平凡なOLに自分の気持に戸惑いながらも見守る御曹司の姿。
頭が良くて人に理解されない寂しい犯人の姿も。
私はドキドキしながらテレビに釘付けだった。
もっとお仕事が増えますように……。
そんな願いを込めて毎年シャツを縫う。
青文字のネームタグをシャツに縫い付け終わると、キレイに畳んでバッグにしまった。
ボタンは事務所に届くはずだ。
届いたらすぐにつけて包装して事務所に贈りたい。
服とかって人の好みがあるものだし、受け取ったシャツが諏訪部さんの好みじゃないかもしれないから、私はできるだけ万人受けしそうなシンプルなデザインで肌触りのいい布にこだわっている。
合わせやすく着回ししやすいもの。
それでいて何かしら遊び心の入ったデザインをたっぷり時間かけて考えた。
こんなに色々考えても私には着ているところを見ることが出来ない。
着てくれているかもしれないし、着てくれていないかもしれない。
着てるとこを見れたら一番うれしいんだけどね。
まあ、相手はそこそこ売れている俳優さんだ。
着たらどんな感じになるのか想像するくらいが関の山でしょう。
今日は事務所に頼んでいたボタンが届いたと連絡があり、私は事務所に向かっている最中だった。
土曜日の10時。
小田急線の電車の中はこれから出かけるのか、かなりの人が乗っている。
私は出入り口近くに掴まりぼうっとしていた。
ガタンと電車が大きく揺れ、体がふらっと後ろに倒れそうになる。
慌てて体制を立て直した時、ふと斜め左の出入り口ドアにより掛かる隣の男性のシャツの柄が目に入った。
ストライプぽいんだけど、ストライプじゃなくて薄い柄が密集してストライプに見える。
どこかで見たことある柄で、それがどこで見たのか思い出そうと記憶を探る。
すぐに4年前に自分が購入した事があるフランスの特殊な布だったことを思い出す。
あれ?
フランスから日本にも輸入されるようになったんだろうか?
特殊な織り方で量産化は出来ないはずなのに……。
そこまで気づいて視線をその男性の顔まで上げた時だった。
え?
え?
ええーーーーーーーっ!!
まさにクエッションマークを大量生産して混乱するばかりだ。
同じ布なのは当たり前。
だってあの布は4年前フランスから直輸入して諏訪部さんの誕生日プレゼントのシャツの布として使ったのだから。
当然目の前のシャツはあの時制作したシャツで、目の前の男性は諏訪部さんだったのだ。
心臓がばくばくとすごい速さで動き出す。
ずっと着ているところを見てみたいと思っていた。
芸能の仕事は東京が多いはずだから、電車にも乗るはず。
東京で芸能人に偶然会うなんて私も経験はある。
でもそれが自分が何年も応援している俳優と会うことが出来るなんてそんな幸運があるものなのだろうか?
嬉しさとパニックとで手が小さく震えだす。
一瞬声をかけたいと思った。
好きだと、ファンだと、応援していると伝えたい。
ずっと諏訪部さんを応援してきたのだ。
今声をかければ、少しだけお話出来るかもしれない。
中に黒のTシャツを着て、シャツは3つまでボタンが外されクロムハーツのダガーペンダントが首から下げられていた。
シャツの袖は小さく無造作に数回畳まれて、そこから同じくクロムハーツのブレスレットとごっつい指輪が良く見える。
シンプルなデザインしたのにかっこよく着こなしていて、黒い革のスタイリッシュなリュックが良く似合っていた。
実際に着ている所を見られて想像の何千倍もよく似合っている。
製作者冥利に尽きた。
4年前のシャツを今着ているということは気に入ってくれているのかな?
それとも気に入ったのはそのシャツだけ?
クロムハーツだけを身に着けているということはクロムハーツが似合うデザインのシャツなら気に入ってくれる?
ぐるぐると高速でいろんな事が頭の中に浮かぶ。
声をかけたいけどかけていいの?
これから仕事?
それともプライベート?
応援していますって一言声をかけるのはあり?
そのシャツ私が作ったんです!って言っていいの?
もう頭の中はパンク寸前。
くらくらしてしまう。
わたわたしているうちに電車は代々木上原に着いたようでドアが開く。
諏訪部さんはここでは降りないのか、携帯を見ていた。
声をかけて良いのかまだ迷っていると、ドアの閉まるお知らせ音が鳴った時、電車で座っていた大学生くらいの男の子がやべっ!と言って立ち上がって急いでドアに向う。
降りる駅に気づかなかったのだろう。
そんな微笑ましい雰囲気が車内を流れる。
でも次の瞬間、ビリっと引き裂くような大きな音が響いた。
男の子がドアから出た瞬間、立ち止まって少しこちらに振り向いている。
その男の子のリュックについていたカラビナに諏訪部さんのシャツの布の一部がついていた。
なぜ?と思って諏訪部さんを見れば、諏訪部さんの着ていたシャツは第3ボタンの辺りから大きく裂け、裂けた一部が風に揺らいでいる。
男の子も自分のせいだと気づいたのか、小さな声で『あっ……』と声をだしたけれど、怖くなったのか顔を青くしてそのまま走り去っていった。
呆然としている諏訪部さんは自分のシャツにそっと触れる。
どう見てももう着ることはできないだろう。
縫い合わせるにしても布の一部は男の子のカラナビに着いたままだ。
諏訪部さんは小さくため息をこぼす。
中にシャツを着ているようだけど、たぶん半袖だろう。
気候的に半袖ではまだ肌寒い。
私は自分の持っているかばんに視線を落とす。
中には事務所に届いているボタンをつけるだけになっているシャツが入っている。
今着ているシャツのボタンと同じサイズなはずだ。
付け替えればいい。
私はかばんの持ち手をぎゅっと握ると、意を決して顔を上げる。
手が震えて心臓がバクバクしつつも諏訪部さんの前に数歩進んだ。
「お時間10分ほど時間ありますか?」
「え?」
「次の代々木八幡で降りてください。すぐにその服なんとかします!」
「何とかって……」
諏訪部さんが不安そうに私を見ている。
私は安心させたくって精一杯微笑んで見せた。
「大丈夫です! まかせてください」
電車を降りて、私はホームのベンチに座った。
「そのシャツ脱いでください」
「脱ぐって……縫い合わせるにしても布が足りないんじゃ?」
「そうですよ。時間なくなっちゃいますからそのシャツ早くください」
私に急かされて諏訪部さんは納得行かない様子ではあったものの、素直にシャツを脱いで渡してくれた。
中は半袖Tシャツではなく、タンクトップだった。
これじゃ寒い。
私はかばんから急いで裁縫ボックスを出し、リッパーでボタンをシャツから外すと、今持っているシャツにボタンを付けていく。
「そのシャツは?」
「あ、これはあなたのなので気にしないでください」
「俺の? でも……」
ボタン付けくらい手早くつけられる。
すぐに最後のボタンを付け終わりそのシャツを諏訪部さんに渡す。
「どうぞ」
「どうぞって……シャツ代払います。いくらですか?」
困惑しつつシャツを受け取らない諏訪部さんの様子につい笑ってしまう。
いきなり見知らぬ人にシャツもらっても普通困るよね。
「このシャツは諏訪部さんのですよ。ここ見てください」
渡そうとしていたシャツのネームタグを見せる。
「Sirius?」
「この世界で青文字のネームタグの付いた男性向けのシャツは諏訪部さんの物です」
「え? は? 俺の?」
「はい」
シャツを諏訪部さんの手に押し付け、裁縫ボックスをかばんにしまう。
電車がホームに入ってくるのが見えた。
今日事務所に向かう目的はボタンを受け取る為だ。
もうそのボタンも今すぐは必要なくなってしまった。
諏訪部さんに直接プレゼントを渡せたのだから。
私はベンチから立ち上がった。
「まだ少し早いですが、お誕生日おめでとうございます。そのシャツかわいがってやってくださいね」
それだけ言うと戸惑ったまま動かない諏訪部さんをそのままに私はホームを降りる。
もう事務所に行く必要がなくなってしまったので、帰って秋物のワンピースの新作のサンプルを完成させなければならない。
今日はなんて幸運な日なんだろう。
私はドキドキした気分で自宅へと向かった。
この時の私はこの幸運がまだ始まったばかりなのだとは知らなかった。
そしてそれが辛い恋の始まりでもあることを……。