4話
◇◇◇◇◇◇
「君が娘を助けてくれた人かね」
う、うむ。凄いプレッシャーだ。誰か助けて。
◇◇◇◇◇◇
領主館に着いた後、馬車とリオナさん以外の騎士が入っていった。
事情説明の為なのだとか、暫くすると呼びに来るので待っているようにと言われた。リオナさんはただ単に付き合ってくれているだけだ。
大体30分くらい待たされただろうか。メイドが呼びに来た。ここでリオナさんとは別れてメイドについて行く。
ついて行くこと約数分、俺は今1つの扉の前に立っている。道は結構単純だった。こういう偉い人のいる場所って防犯で到達するまで結構入り組んでたりするもんだと思っていたのだが。日本の城だってそうだし、最近のものだとテレビ局なんかは一つの階段で1番上まで登ることは出来ないと聞いた事があったのだが。
まあ、高々3階建ての領主館の階段を分ける必要があるのかと問われると確実に無いだろうし、日本と大きく異なる点が武装した騎士が常駐している事だろうね。
「メイドのアイシャです。レイ様をお連れ致しました」
扉をノックしてそう言った。レイ様なんて言われた事ないしむず痒い。
「入ってくれ」
入室許可頂きました!こういうやり取り貴族っぽくていいよね。実際貴族なんだけど。
メイドが扉を開いてくれたので中が見えた。中にはソファに腰掛けた初老くらいのダンディなおじさん(恐らく領主)とその両隣に立つ燕尾服を来た60歳位の執事(確定)と
鎧を来た護衛騎士(確定)の3人がいた。
「座ってくれ」
と、領主(仮)に正面を指されて言われたので机を挟んで真向かいの場所に座る。するとすかさず執事の方がお茶を出してくれた。恐らく紅茶だと思われるがこの世界での名前は知らない。
「君が娘を助けてくれた人かね」
う、うむ。凄いプレッシャーだ。誰か助けて。
「ええ、そうです」
なんと言えば良いのだろうか、ベテランの風格?カリスマ性?或いは一定以上の地位にいる人の威厳だろうか、そんなものがある。
「私はダールグレン伯爵家当主のブラント・ダールグレンだ」
「私はレイです」
間違いなく目の前にいるこの人間は俺より弱いと断言出来るが何故か気圧されるものがある。
「事の詳細は先に来たものから聞いている。武器も持っていない田舎から出てきたばかりの青年に救われたと聞いた時は驚いた。ともすれば自分の命が危うくなる状況で加勢をしてくれた君には称賛を贈りたい。そして娘を救ってくれた事に感謝を。礼として白金貨2枚を渡したい。本来であれば金を礼にはしたく無かったのだがね、無一文だと聞いて金にさせて貰ったよ。他に何か欲しいものがあれば言ってくれ、出来る限りの事はさせて貰うよ」
「いえ、欲しいものは今の所特にありませんので、代わりと言ってはなんですが少し聞きたいことがあるのですが構いませんか?」
「ふむ、答える事が出来る範囲のものは全て偽りなく応えよう?」
「ありがとうございます。では1つ目に、金を礼にはしたくないと言ってたのはどういう意味なのです?」
「貴族としての体面と私の心境の問題だな。自分の娘を救ってくれた恩人に対して価値の定まっている金を渡してしまうと私にとっての娘の価値は渡した金額と同等である、或いはその程度しか出せない程に我が伯爵家は財政難であると言っている事と同じ事になる。そんな事は貴族の当主としても親としても到底許容出来る事では無いからだ」
「ふむ、では金以外で礼をした場合はどうなのです?」
「当たり前だが物品は見る人によって価値が異なる。物品であれば命を救ってくれた者の恩に報いる為に、その者の望むものを与えた。という事になるのだ。その場合は此方もそれなりに手間や金をかける事になるので貴族としての体面も私の心境も保たれるのだよ」
「では私も、何か求めていた方が良かったですか?」
「まあそういう事になるな、金を渡した時に他に何か無いかと聞いただろう。金に関しては無一文だと聞いたのでな、少し渡しただけで本命は追加の方だったのだ。よもや断られるとは思わなかったが、今こうして情報を渡している事で最低限貴族としての体面は守られている。私個人の感情としては複雑なものだがな」
「はは、まあ情報は時と場合によってはどんな金品よりも価値を持つ事がありますからね」
「その若さで情報の大切さを知るか。中々有能だな君は」
「親が元冒険者だったものですから」
大嘘だが。冒険者の存在は確認しているから行けるだろう。
「なるほど、常に自分の命をベットして金と名誉を手にしている彼らなら情報の大切さを1番弁えているだろうな。それを口酸っぱく教えられていたという訳か」
「ええまあ、そんな所です。それともう1つ、白金貨の価値が分からないのですよ。金貨まででしたら知ってはいるのですが」
「金貨が1000枚で白金貨1枚分になるな」
なるほど、大体銅貨=100円、銀貨=1000円、金貨=1万円だから、白金貨=1000万円か。持ち歩くの怖いな。
「それ程ですか、おいそれと持ち歩けないな」
「ギルドに加入してないのか?」
「ええ、この街に来て早々に呼ばれたものですから。これが終わり次第行く事にしていたのですがそれがどうかしたので?」
「どのギルドであれ金を預ける事が出来る。大金を持ち歩くのは危険だからな」
「なるほど、確かにそれはそうだ」
「冒険者ギルドに行くのだろう?貴族でも無い人間が白金貨を持っているなど怪しさの塊でしか無い。紹介状を書いてやろう。しばし待て」
紹介状を書くと言った瞬間に執事が羽根ペンとインクと紙を出した。有能かよ。
「なぜ冒険者ギルドに行くと分かったので?」
「盗賊の件だ。投擲した石が全て急所である頭に当たった事。殺傷能力の低い石を投擲して人を殺せる威力を出せる膂力。命を奪う事が出来ること。親が冒険者であった事もあるな。力があるだけなら鍛冶師の可能性も否定できんが急所に当てる技術は戦闘能力を有している事の証であるし、命を奪う事が出来なければ冒険者などやっていけないし、冒険者の親に憧れて冒険者を目指す事など珍しい事でもない」
「なるほど、紹介状まで頂けるのは金の問題の他に目論見がある様に思えるのですがなぜです?」
「それは君の勘違いだ。・・・と言いたい所だが先程君の問に答えるという報酬を出してしまった以上隠すことはできんな。君みたいな貴族でない若者が白金貨など持って行って見ろ、必ずいざこざが起きる。それに嫌気を刺して他の街に行かれると困る。君の戦力が高い事は知っているからな、戦力はいくらあっても良い。むしろ非常時に足りないなんて事にはしたくないからな。・・・よし出来た。これを見せればギルドと揉める事は無いだろう」
「下心を聞いてしまった今素直に喜べないがとりあえず面倒臭い事は避けたいからありがたい。それではやらなければいけないことも多いから帰ることにします」
「ああ、頑張ってくれ。・・・それと、ギルドと揉める事は無いだろうが冒険者との揉め事はあるだろう。まあ金があろうと無かろうと新人冒険者には起きる事だ。穏便にな、殺しはするなよ。恩人が1日にして罪人など外聞が悪過ぎるからな」
「ああ、せいぜい頑張るとするよ」
微笑しながら言われたので、俺も笑いながら言い返す。彼なりのジョークなのだろう。