ダンジョン・5層
ダンジョンに入り士燕達は5階層を歩いていた。
本来は1階層づつしっかりと歩いて捜索しようとしたが浅い階層は人が多く、ダンジョン入口で有ったみたいに4人に声をかけてくる者が多く中々進めなかった。仕方なく士燕が殺気を飛ばして声をかけていた者達を動けなくしその間に次の階層への階段を見つけ降りていった。
「はぁ、やっと静かになったか・・・」
士燕がうんざりしながら呟き
「そうね・・・。
まだ何もしてないのに疲れたわ・・・」
「うん・・・。
ローズちゃんの男嫌いになる気持ちが分かったよ・・・」
「そうですね・・・
この世界の男の人はちょっと非道すぎます・・・」
琥珀、沙耶、羽菜もうんざりしながら呟く。
「ああ。男の貴族や冒険者は女のことを道具としか思ってない奴ばかりだ。男なんて頭の悪い猿以下だ。
あっ!だ、だが士燕は違うぞ!!士燕は厳しいけど優しいし、男女関係なく隔たり無く接してくれるし、それに格好いい・・・って違う違う!!あっと、えっと、つまり・・・」
「分かったからとりあえず落ち着こうな」
ぶっちゃけ何も分かってないがこのままだと何時までもテンパっていそうなので頭をポムポムしながら落ち着くように促す。
だがローズは士燕に頭をポムポムされ落ち着くどころか
「あわ!あわわ!あわわわ!!」
と顔を真っ赤にしさらにテンパり始めてしまった。
その様子に士燕は
「頭を撫でられるのは嫌だったか?悪いな」
と、手を離そうとしたが、ローズが慌てて士燕の手を掴み自分の頭の上に置き
「だ、大丈夫だ。
さっきはちょ、ちょっとビックリしただから」
「そうなのか?」
「う、うん・・・。だから気にしないでほしい・・・と言うかもっと撫でてもらいたい・・・。
・・・駄目か?」
ローズは顔を真っ赤にしたまま上目遣いで士燕を見る。もし相手が士燕では無く別の男なら今のローズを見た瞬間落ちていただろう。だが相手は士燕だ。多少ドキッ・・・とする事も無く平常だった。
それでも頭を撫でるのを拒否る理由も無いのでローズの希望通り頭を撫でるのを再開した。頭を再び撫でられてローズは気持ち良さそうに顔を破顔させされるがままだった。
「さて・・・それじゃあ始めるか」
頭を撫でるのを止め士燕がそう切り出す。
そして殺気を飛ばして魔物の居場所を探ろうとしたが、両隣から無言の圧力がかかる。
「「・・・」」
圧力の正体は沙耶と琥珀だ。
2人はローズが追加の撫で撫でを受けてから士燕に圧力をかけている。
当然士燕も気付いているし、圧力をかける理由も分かっている。2人は士燕に撫でられると嬉しいのである。つまりこの無言の圧力は『私達も撫でて欲しいな~』ということだ。
士燕はこの圧力をサクッと無視して殺気を飛ばし魔物を探す。
『『じ~』』
モンスターを探す。
『『じ~』』
モンスターを・・・
『『じ~』』
「・・・頑張って魔物倒したら撫でてやる」
あまりにも執拗く見られ集中し辛いため士燕が折れ提案する。
その提案は安直だが効果は抜群だった。
「やるよ!!琥珀ちゃん!!」
「勿論よ!!沙耶、全力でやるわよ!!」
拳を握り締めながらやる気に満ちあふれていた。
そんな様子を少し呆れ気味に見ていたが袖の部分が引っ張られる。その方を向いてみるとローズが服をつまみ
「士燕、私は?私にも撫でてくれるか?」
ローズの言葉に頬をヒクつかせ
「まぁ・・・頑張ったらな」
「よし!!羽菜、私達も全力で頑張るぞ!!」
「え?え?何で私なんですか!?
私関係ないですよ!!」
ローズに巻き込まれた哀れな羽菜、そして撫で撫でのためにやる気みなぎる沙耶、琥珀、ローズの3人を見ながら士燕は本気で
(大丈夫か?)
と心配になるのだった・・・。
士燕が魔物を探しながら他の冒険者に会わないように注意しつつ5階層を歩いていた。まだ朝の早い時間帯であるため1、2階層ならともかく5階層には、そこまでの冒険者は居なかった。
今は10体程の気配を感じ取りその方角に向かっている。ある程度近づくとローズも魔物の気配を感じ取り始め、さらに近づくと魔物の方も士燕達の気配を感じ取ったらしく魔物の方からも近づいてきた。
「!士燕」
「分かってる。
沙耶、琥珀、羽菜、これから戦闘になる。
数は10体。俺が9体殺る、3人はローズと一緒に1体殺れ」
ローズの呼び声に士燕は返事をして3人に指示を出す。
「士燕、私が3人に付くのは良いが1体は少なくないか?
1体だけじゃすぐ終わってしまうぞ。もっと倒すぞ!撫でられるために!!」
ローズが士燕に要求するが
「ローズには悪いが3人のサポートに徹してくれないか?」
「サポート?」
「ああ、今回アイツらだけで戦わせるとアイツら死ぬな。今まで戦ってきたゴブリンなんかより結構強い気配がするんだ。
それにアイツらに戦闘に慣れて欲しいんだよ。
だからローズがアイツらの指揮をとりながらサポートしてやってくれ。
それに俺も色々試したいことがあるんだ」
「う~ん・・・。分かった、やってみる」
ローズは士燕の頼みを承諾して戦いが始まる前に3人に指示を出していく。
指示を出し終わってすぐ、目の前から魔物が姿を現した。
その魔物を見てローズは嫌そうな顔をする。
そして士燕達は
「豚だな」
「豚だね」
「豚ね」
「豚ですね」
4人の目に映ったのは豚だった。たが、ただの豚では無く豚の顔をした魔物、オークだった。
オーク達は士燕を除く4人を見て興奮状態になり、ローズはますます嫌そうな顔をして
「沙耶、琥珀、羽菜・・・気をつけろ。
コイツらはオーク。一言で言えば変態だ」
「「「「変態?」」」」
「ああ。コイツらは性欲が尋常じゃ無い。
女、雌なら人だろうが動物だろうと何でも襲いかかるんだ。たまに男にも襲いかかる奴も居るぞ」
ローズの言葉に士燕達も嫌そうな顔をする。
沙耶、琥珀、羽菜は嫌な顔をしながら士燕に
「士燕く~ん、どうしてもアレと戦わなくちゃダメ~?」
「私もアレとは戦いたくないわ」
「ううぅ。先生も出来れば遠慮したいです」
ローズの説明で戦う前から戦う気概が無くなっていた。
士燕もやる気がゴリゴリ削られているので気持ちは分かっているが、心を鬼にして
「気持ちは分かるがとりあえず1体だけで良いから戦ってくれ。
ローズが居るから大丈夫だって。
・・・大丈夫だよな?ローズ」
「そんなに強い魔物じゃないから大丈夫だ。この程度、私1人でも勝てる。
ただ単に視界にすら入れたくない程気持ち悪いってだけだから・・・」
「そうか・・・。
なっ!ローズも大丈夫って言ってんだし、とりあえず戦ってみろ。
何か有ればすぐ助けてやるから」
「ホント?助けてくれる?」
「本当だ。だから・・・な!」
「うん。分かった、戦ってみる。
何かあったら本当に助けてね!!私達が犯される前に!!」
沙耶の言葉に、琥珀と羽菜も全力で祈願する。
士燕としてもそんなシーン見たくも無いので
「任せろ!」
と、力強く答えてオーク達の方に向かって走って行く。
そして1体だけ4人の方に蹴り飛ばして、士燕は自分の分の9体と向き合った。
そしてオークを目の前に沙耶、琥珀、羽菜は
「琥珀は、前衛!!けして後に抜かれないように!!
沙耶と羽菜は後衛!!羽菜は魔法でどんどん攻撃して!!沙耶も攻撃!!ただし琥珀がダメージを受けたら直ぐに回復よ!!」
ローズの指示のもと陣形を整える。
そして琥珀がオークに斬りかかる。・・・が急所には届かずオークは持っている棍棒で琥珀に殴りかかる。
琥珀は持っている刀で受け止めるがオークとの力の差は大きく後に吹き飛ばされる。とっさにローズが琥珀を受け止め、その間に羽菜が魔法でオークに魔法を放つ。沙耶もその間に回復魔法で琥珀を回復させる。
琥珀は怪我らしい怪我をしたわけでは無いので直ぐ起き上がる。
「琥珀ちゃん!!大丈夫!?」
「ええ。大丈夫よ」
そう言って沙耶と羽菜の前に出ようとする。
「こっちは終わったぞ」
沙耶と琥珀が一斉に後ろを向くと士燕が立っていた。
「士燕君!?終わったって・・・」
「そのまんま。それよりどうする。
まだ戦うか?それとも止めるか?」
士燕にそう言われ琥珀は士燕が見ている方を見る。
視線の先には羽菜が魔法を放ち、琥珀の代わりに前衛でオークを足し止めしているローズがいた。
士燕の言うとうり止めればそのままローズがとどめを刺すだろう。
だが、琥珀は自分達は無理矢理付いてきた身だ。ここで止めると″士燕に付いていく資格など無い″と自分に言い聞かせ、
「ううん。大丈夫、まだやれるわ」
と答え前に出る。
ここで止めたとしても士燕は琥珀を見限る気は全く無かった。
勿論、琥珀がそんなことを思っていることも知らない。だか目で見て分かるほど今の琥珀は冷静を無くしている。
だが気迫はしっかりと持っている。だから士燕もその気迫に答える。
「琥珀、さっきの攻防で分かっているはずだ。
この豚とお前じゃ力の差が大きい事を。お前の力じゃ急所まで届かないことも。
なら、どうすれば良いか?冷静に考えれば分かるだろう」
士燕の方を向き目をパチクリさせる。だがそれも一瞬で直ぐに魔物の方を向く。そして1回深呼吸をしてオークに向かって走り出す。
ローズは琥珀が向かってくるのに気付き、何時でも動けるようにしながら琥珀に道を譲る。
オークは琥珀が前に出てきたので再度棍棒で琥珀に殴りかかる。
琥珀は冷静にその攻撃を見ていた。
(私の力じゃ受け止められない、それに攻撃しても急所まで刃物が届かない。
なら!相手の攻撃を避けてのカウンターで体力を奪っていく!それしか無い!)
そして琥珀は、オークの攻撃を横に避けてカウンターの一撃を入れようと刀を振るった。オークの体力を奪っていくために。
だがそれは良い意味で裏切られた。
『ズバッ!!』
「えっ!?」
琥珀が素っ頓狂な声をあげる。
そして琥珀に切られたオークは、刃で急所をしっかりと切り裂きゆっくりと倒れていった。
オークが倒れていく様子を見ながら士燕は琥珀に
「・・・一撃で殺してっけど最初の斬撃、手加減したわけじゃ無いよな?」
「も、勿論よ!あの時も全力でやってたわ!」
「だよな・・・」
士燕と琥珀は頭に?を浮かべる。沙耶は琥珀に抱きつき褒めちぎる。羽菜は琥珀に怪我が無いか不安そうにオロオロしている。
ローズは思い当たる節があり士燕に
「ねえ士燕。
ちょっと皆のレベルとステータス鑑定してみて」
ローズに言われ士燕は首を捻り
(そういえばイカルガ出てから見てなかったな)
と思いつつ鑑定眼でレベルとステータスを見てみると
「は?」
今度は士燕が素っ頓狂な声をあげる。
鑑定眼に移ったステータスは、士燕の想像以上の数値だった。




