勇者達の行い
「ああ、3日前までこの街に勇者共が来ていたんだ」
ルークの言葉に士燕は
「勇者・・・だと?」
「ああ、どうやらこの街のダンジョンが目的だったらしいが。
って、どうした?難しい顔して?」
「いや、何でも無い。
そんなことより勇者共の話を聞かせてくれないか?」
士燕として勇者達が何処で何をしようが興味も無いし関係も無いが、沙耶、琥珀、羽菜の3人は気になるだろう。そして何よりあの3人が居る状況で誰かに聞くとなるとまた面倒くさいことになりそうなので今聞くことにした。
「うーん。俺も直接会ったわけじゃ無いから詳しくはないぞ。それでも良いか?」
士燕は頷き、それを見てルークが話し始めた。
「勇者共がこの街に来たのは2週間ほど前だ。
街の入り口近くに王国の騎士団を連れて転移魔法で現れたんだ。
アイツらいきなりギルドに向かって『明日から僕達がダンジョンを使わせて貰う。君達はダンジョンに立ち入り禁止だ!!』とか言ったらしくてな、そんなこと言われても冒険者達には関係ないことだ。かなりの言い争いになったらしい。
まあ、最終的には騎士達が『従わなければ捉える』って言いだして、流石に捕まりたくないから皆しふしぶ従ったらしい」
ここまで聞き士燕は溜息をつきながら呆れていた。
だが呆れるにはまだ早かったようで
「それだけじゃ無いわ。
その後ギルマスと話をしたらしいのだけど、冒険者を使ってある2人組を探せって言ったらしいわ。
ただでさえ勝手にダンジョンに規制をかけてるのに今度はこれでしょう。流石にギルマスも怒って『巫山戯るな、んな命令聞けるか!!』って拒否したらしいの。そしたら勇者達も『俺達は勇者だぞ!それなのに命令が聞けないのか!』って、逆ギレしてギルマスに斬りかかったそうよ。
ただギルマスも元Sランク冒険者だけあって致命傷は避けたみたい。まあそれでも大怪我だったみたいだけどね。」
そう聞いて士燕は呆れるどころでは無い。
(アイツら何してんだ・・・この短期間で堕ちすぎだろ・・・。
この街でアイツらの同郷と知られたらかなりヤバくなりそうだな
あの3人にはしっかりと釘刺しとくか)
「それで、その勇者共は何処に向かったんだ?来ていたって事はもうこの街には居ないんだろ?」
「ええ、この街で馬車を借りて西の方に行ったみたい。
そしてそれが私達が街を出る理由なの。」
「?。どういう事だ?」
勇者の向かった方角と2人が街を出る理由に何の共通があるのか分からず聞き返す士燕。
「士燕君。西に何があるか分かる?」
「西・・・確か獣人国との国境・・・。
・・・ああ!そういう事か
勇者共が国境に向かう理由なんて攻め込むためしかない。つまり近いうち戦争が起こる・・・か」
「ええ。恐らくね。
戦争が始まる前に私達は魔人国に向かうことにしたの。魔人国も安全とは言えなくなるかもしれないけど。
士燕君も今後の事を考えて私達と一緒に行く?」
「誘いは嬉しいが俺はレベル上げにこの街に来たんだ。悪いな」
士燕の断りの言葉に2人は
「そっか。無理はしないようにね」
「それじゃあ俺達はそろそろ行くぞ。
士燕とはまた何処かで会いそうな気がするな。
そん時は一緒に冒険でもやろうぜ!」
手を振りながら2人はギルドを出て行く。士燕は2人を見送って、教えてもらった買い取りカウンターに向かうのだった。
ギルドで買い取りを終え、士燕は宿に戻っていた。
そして借りている部屋のドアをノックして開ける。
「「「お帰りなさい、士燕君」」」
「お帰り、士燕」
4人は笑顔で士燕を迎え入れる。
「ああ、少しは休めたか?」
「ええ、1人で行かせてごめんなさい」
琥珀が答え沙耶と羽菜も士燕に謝る。
「気にするな。俺が1人で良いって言ったんだ。
そんなことより話しておきたいことがある。ギルドで勇者共の話を聞いたんだが、かなりヤバいことをやったみたいだ」
士燕はギルドできいた勇者の事を4人に話す。
沙耶達3人は勇者達がこの街に来ていたと聞いて驚きと皆の無事を知り喜んでいた。だがギルドでのイザコザを話すと頭を抱えたり、溜息を吐いたり、何も言えなくなったりし、全員が呆れかえっていた。
さらにこの街のギルマスを斬りつけた件を話すと勇者と全く関係ないローズは憤り3人はかなりのショックを受けた。
その様子を見ながら士燕は
「いいか?この街で奴等と同郷と知られたら確実に面倒になる。絶対にバレないように気をつけてくれ。
特に沙耶と羽菜。2人共嘘もポーカーフェイスも下手なんだ。マジで注意してくれ」
4人は士燕に頷き返す。
「それで士燕君。皆さんはその後どうしたんですか!?もしかしてまだこの街に!?それとも・・・」
羽菜が捲し立てるように士燕に問いかける。
「落ち着け、今からその事も話すから。だからちょっと離れてくれ」
「え?」
士燕に言われて羽菜は気づく。
別行動する生徒達が心配で士燕にもの凄く迫っている今の自分に。
「す、すすすいません!!」
顔を赤く染め急いで士燕から離れる。
羽菜は教師なのに生徒である士燕に迫ったこと、冷静さを無くしたことを恥ずかしく思って顔を赤く染めてしまったが、沙耶、琥珀、ローズはそんな羽菜をじっと見ながらヒソヒソ話し始めた。
「良いから落ち着け!おい、そこの3人も俺の話を聞け!」
士燕の言葉に3人は話をやめ、羽菜も何とか話を聞く体制を取る。
「まったく・・・アイツらは3日前に馬車でこの街を出て西に向かったらし い。
恐らく国境に向かったと思うが・・・もう獣人国に行ったのか、転移魔法で城に戻ったのか、詳しくは分からない。
今すぐ国境に向かうか、ダンジョンでレベル上げをするか。お前達はどうしたい?」
士燕の問いにローズは3人に任せる。沙耶、琥珀は
「私はダンジョンでレベル上げするよ。
今行っても皆がいるとは限らないし」
「私もそうするわ。
私達のレベルとステータスじゃ、先に行ってもキツいと思うわ」
羽菜は2人の答えを聞いて
「そう・・・ですね、私もそうします。
今は情報が少なすぎます。闇雲に動いても仕方ありません」
「分かった。それなら予定通り、明日はゆっくり休んで明後日からダンジョンに向かうぞ。
取りあえず、この街に着くまでに武器と戦い関しては必要な技術はくれてやった。後は実際の戦いでそれを己の物に出来るかどうかだが・・・。
それはお前等次第だ。頑張りな」
士燕の言葉に4人は頷きやる気を見せる。
士燕はそんな4人を見ながら立ち上がり部屋を出ようとする。4人はそれに気づき
「士燕君、何処に行くのですか?」
「ん?風呂」
風呂と聞いて全員が、立ち上がり士燕の後に付いていく。
「えへへ~、どんなお風呂か楽しみだね~」
「そうね。士燕君そろそろ私達に手を出しても良いのよ?」
「な、何を言ってるんですか!そんなの先生が許しません!」
「そうだぞ琥珀!今日士燕の背中を流すのは私の番だからな!士燕が手を出すとしたら私に決まっているだろう」
「誰にも出さねぇよ!てか通路で変なこと叫ぶな」
そんなことを喋りながら風呂に向かう5人。
士燕は宣言通り誰にも手を出さず沙耶、琥珀、ローズの3人は不満げに士燕に詰め寄るが士燕はサクッと無視する。
暫く3人は不満を垂れていたが士燕が頭をポムポムすると一瞬で顔を綻ばせ機嫌を良くした。
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一方、士燕と分かれたティナとルークは
「それにしてもティナが誰かを誘うなんて珍しかったな。
何があったんだ?」
「う~ん、何があったわけじゃないんだけど。
何て言うか・・・士燕君は普通じゃ無いような気がして」
ティナが曖昧な答える。
「つまり、女の勘ってやつか?」
「まぁ、そんな感じ。
そう言うルークも、士燕君に一緒にクエストしようなんて珍しいじゃない。SSランクになってから誰も誘ったこと無いのに。どうしたのよ?」
ティナの言葉に今度はルークが唸り
「あ~、何でだろう・・・
俺も分からん!!強いて言うなら俺も勘だ!!」
と、笑いながら答える。
それを見てティナは呆れながらも
「まったく、ルークは何時も考えなしなんだから。
まあ良いわ。それより早く行きましょう」
笑顔でそう言いながら魔人国に向けてルークと歩いて行く。
何時か士燕と会えることを楽しみにしながら




