士燕VS???
「ありがとう。ねえ、また今度戦ってくれる?今度は決闘じゃなくて模擬戦で」
ローズの言葉の直後、2人の背後から1本づつ槍が襲いかかる。
士燕はローズの腕を取り自分に引き寄せ抱き抱える、お姫様抱っこで。そして抱き抱えたまま横に大きく飛んで槍を避ける。
ローズはいきなり抱きかかえられたことに驚き暴れようとするが、士燕の顔を見て大人しくなる。士燕の顔は厳しくその顔には下心を全く感じないからだ。ローズは何故と思い士燕が見ている方を向く。すると先程まで士燕とローズが居た場所に鬼の角の2人が槍を突き出した状態で立っていた。
もし士燕が助けていなければローズは下手をすれば死んでいただろう。ローズもそう思い当たり再度士燕の方を向く。そして士燕の顔を見て今の現状を思い出す・・・。そうローズは今、士燕にお姫様抱っこをされてる状態だった。
ローズは冒険者に成る前は普通の女の子だった。本なども読みその中で白馬に乗った王子様に助けられお姫様抱っこされるヒロインに憧れていた。だが冒険者となり、父親から「男冒険者に碌な奴は居ないから気をつけろ」と言われ、実力をメキメキと伸ばし、男冒険者から女性を守っていく内に、ヒロインと言うより王子様のように成ってしまいその為その憧れをすっかり忘れてしまっていた。
士燕は白馬にも乗ってないし王子様でも無い。だがローズより遙かに強く危ない所をお姫様抱っこで助けてくれた。これだけでその憧れを思い出すには十分だったらしく、ローズは顔を真っ赤に染め硬直してしまった。
士燕はそんなローズを見て
(男嫌いなのに抱っこされれば怒るのも当然か)
と、全く見当違いの事を思っており鬼の角の反対方向を向きローズを優しく下ろす。下ろし終えると鬼の角を睨みつけ
「で、テメェ等。一体何のつもりだ?」
士燕の言葉に
「おーおーおー。見せつけてくれやがって、このクソ餓鬼が!!気に入らねぇんだよテメェ!!さっきはまぐれで避けられただけだ!!俺を馬鹿にしたことを今度こそ後悔させてやるよ!!」
「テメェもだ、ルージュ!!テメェ等女は俺等に黙って腰振ってりゃ良いんだよ!!何時も俺と兄貴の邪魔をしやがって!!」
2人は身勝手な言葉を吐き士燕とローズを睨みつける。それに対し士燕が喋る前に
「テメェ等そんな下らねぇ理由で2人に不意打ちしたのか!?」
ギルドマスターは2人を睨みながら怒鳴りつけ、周りの冒険者達も2人に罵詈雑言を浴びせる。だが
「俺等に楯突くんじゃねぇ!!うるせぇんだよ!!どいつもこいつもぶっ殺してやらぁ!!」
「今までの俺等と同じだと思うな!!俺と兄貴はダンジョンに挑みこのマジックアイテムの槍を手に入れたんだ!!テメェ等全員殺すぐれぇ訳ないぜ!!」
そして鬼の角は槍を構え周りを挑発する。その挑発に冒険者達は今にも飛び掛かろうとするが、それを士燕が腕を上げ制した。そして
「おっさん。コイツら殺しても良いか?」
士燕の言葉にギルドマスターは
「俺も殺してやりたいがそれは止めてくれ。その代わり半殺し・・・いや、死ぬ一歩手前までなら構わない」
ギルドマスターも自分の娘を不意打ちで殺されかけかなり怒っているようだ。
1人で戦おうとする士燕に
「士燕私も戦うぞ!!コイツらは最低の屑だが実力は確かだ!!1人より2人で戦った方が良い!!」
ローズが共闘を持ちかけるが
「俺1人で十分だ。お前も下がってろ」
「けど・・・!!」
士燕は断るがローズもなかなか引こうとはしない。
「良いから下がってろ」
士燕はローズの頭をポンと叩きながら再度促す。ローズは叩かれた部分を両手で押さえ「分かったわ。士燕・・・気をつけてね」顔を赤く染めながらエールを送り下がっていった。
士燕は周りの冒険者に向けて
「お前等!!俺が対槍戦と槍の手本を見せてやる!!しっかり見とけよ!!」
周りの冒険者は歓声を上げ士燕の動きを見逃さないように集中する。
鬼の角は士燕の余裕とも取れる言葉に怒りを覚え士燕が武器を取る前に襲いかかる。兄貴と呼ばれていた男の槍には穂先から切れ味のある風が吹き荒れている。士燕は宝物庫から何時でも武器を取り出せし腰に刀を差しているが武器を取り出さず避けもしない。迫ってくる2本の槍の柄を素手で掴み止める。
その光景に周りは唖然とするが
「良いか?ただ突きを放つだけだとこの様に簡単に止められる。とどめを刺すつもりで突きを放つならフェイントや相手のバランスを崩してから放て」
士燕の言葉に全員が「どこが簡単なんなだよ!!」とツッコミを入れるが士燕にとっては簡単なのでスルーする。
鬼の角は素手で捕まれた事に驚愕するが押し切ろうとして力を込めるが槍はびくともしない。そんな2人に対し士燕は
「どうしたカス共。ご自慢の風を生み出す槍も形無しだな。テメェも力が1割上がってんだろ?そんなもんか?」
「鑑定眼持ちか!?クソが!!離しやがれ!!」
「いいぜ。ほら」
「「うお!!」」
いくら押してもびくともしない槍を逆に引いたとたん士燕は槍を放した。思いっきり引いたタイミングで離されたため2人はバランスを崩し尻餅をついてしまう。そしてその間に士燕は宝物庫から槍を取り出し構えを取る。
「今度は俺から行くぜ。死なない程度に少し遊んでやるよ」
士燕は片方に突っ込み突きを放つ。相手はそれを避けようと横にずれるが
「がっ!!」
避けた槍が軌道を変え脇腹を少し切り裂く。士燕は避け始めたタイミングで槍を持つ後ろ手を動かし軌道を変えた。そして槍を素早く戻しもう片方が放ってきた突きを槍を回転させ柄の部分で弾き飛ばす。重い一撃で弾き飛ばされ体制が整えられない相手に素早く4連突を放つ。それを両肩、両足に受け跪く相手の腹に石突きの部分をぶち込む。それを受けた相手は吹っ飛んでいいった。
「テメェ・・・よくも俺の弟分を!!」
最初に腹を切られた方が士燕に連続で突きを放つが士燕はそれを簡単に避けていく。
「お前、学習しねぇのか?ただ突きを放つだけじゃ駄目だって言ったろうが」
「黙れぇえええ!!うぉおおお!!」
男は我武者羅に槍を放つが士燕にはかすりもしない。男は肩で息を吐きだし始め突きを放つのを止め一歩後に下がる。その隙を逃さず士燕は槍で袈裟斬りを放つ。
突きではなく斬だったことに意表を突かれ回避が遅れる。何とか上半身を後に反らすが避けきれず左肩から浅く斬られる。さらに下がろうとするが士燕は斬りつけた勢いのまま体を回転させ左手を離し逆袈裟斬りでさらに斬りかかる。左手を離し右手1本で斬りかかったため切っ先が伸び男は避けきれずに腹から右肩まで深く斬られてしまう。
「がぁあああ!」
男は斬られ大声を上げるが
「うるせえ」
士燕は石突きの部分で男の顎を穿ち気絶させる。そしてもう1人の方を向く。男は何とか立ち上がりやっと槍を構えている状態だった。
士燕は男に特攻する。男は何とか士燕に向け突きを放つが士燕は槍の下を潜り込み槍を避ける。その低い体制のまま柄の部分で足を払い男を転ばせる。そして倒れた男の顔に槍を突き付け
「終わりだ」
と終わりの宣言する。
男は何も言わない・・・否、言わないのでは無く何も言えない。2人で挑んだにもかかわらず圧倒された士燕の強さと槍捌きに、最早心が折れていた。
そんな男をつまらなそうに見ていた士燕は槍を宝物庫に仕舞い沙耶達の居る方に歩き始める。たがその後から
「クソが!!覚えてろ、いつかテメェを殺す!!ぶっ殺してやる!!」
男は士燕に向かってわめき散らし始めた。士燕は歩みを止め男の方を振り返る。士燕が振り返った事により男は体を震わすが
「次は絶対に殺す!!覚悟しとけ!!」
と虚勢を張るが
「お前達に次など無い」
ギルドマスターが男に宣言する。
「な!!どうゆうことだ!!」
「どうもこうもない。罪の無い者を殺す、又は殺そうとしたんだ。これはギルド規則に反する。冒険者なら皆知ってることだ」
男はギルドマスターの言葉に顔を苦悶の色を浮かべるが
「ならそいつはどうなんだ!?俺と兄貴はそいつに殺されかけてんだぞ!!」
「先にお前達が違反を犯したんだ。お前達はもう冒険者じゃない、ただの犯罪者だ。それに言ったはずだ。死ぬ一歩手前までならやって良いと」
男は黙りギルドマスターを睨みつける。しかしその程度でビビるはずも無く
「おい、奴隷商に連絡を取れ。お前達は地下の牢にコイツらをぶち込んどけ」
ギルドマスターの言葉にギルド職員は素早く動いていく。職員が男を取り押さえるが男は諦めきれないのか弱々しく暴れいる。そんな男に士燕は近づいていく。それを見て男は暴れるのを止め士燕を睨みつける。だか、その顔には恐怖の色が垣間見える。士燕は男の目の前に立ち止まり
「俺を殺るなんてテメェ等じゃ無理だ。それでも俺を殺るって言うならいつかじゃなくて今やろうぜ。もし俺にかすり傷1つでも付けられたらテメェ等を逃がす手伝いをしてやるよ」
周りは士燕の言葉に驚きの顔をするがそれを無視して士燕は続ける。
「たが!!もしかすり傷1つでも付けられなけりゃあ・・・そうだなぁ、テメェ等のその両目を貰うか」
男は驚きの顔から一気に恐怖を浮かべて
「な、何でそうなんだよ!!俺の両目を奪ってテメェに何の得がある!?」
「得?んなもんねぇよ。テメェ等は犯罪者なんだろ?それを逃がしてやるって言ってんだ、それ相応のリスクは負ってもらわないと面白くない、それだけだ。さぁ、どうすんだ?さっさと決めろよ」
男は士燕の言葉に黙り考える。仮に傷1つ付けたとしても士燕が約束を守る保証は無い。何より士燕に傷1つ付けるビジョンが浮かばない。そんな男に対して
「おいおい、さっさと決めろや。それとも・・・今その目を抉らねぇと決めらんねぇのか?」
士燕は脅しをかける。そしてこの言葉で男は項垂れ大人しくなり気絶した男と共にギルド職員に牢に運ばれていった。
それを黙って見ていたギルドマスターに士燕が
「終わったし俺等はもう帰るぜ」
「あ、ああ・・・。しかし坊主、お前も無茶するな。最後のは流石に焦ったぞ。もしアレが要件を飲んだらどうするつもりだったんだ?」
「それは無いな。あいつは俺を前に心が折れていた。まあ、仮に飲んだとしてもぶっとばして目を抉って終わりだな」
「そ、そうか」
士燕の言葉に頬を引きつらせる。
「もう行くぞ。じゃあな」
士燕は3人の元に向かい訓練場を後にした。
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その日の夜ギルドマスターはギルドの自室で書類を確認していた。しばらく書類と睨み合っているとドアがノックされ頭を上げる。
「パパ、私よ。入っても良い?」
「ローズか?入ってこい」
ドアが空きローズが入りソファーに座る。それを見てギルドマスターも席を立ち対面のソファーに座り
「どうした?こんな遅くに」
「パパ、単刀直入に聞くわ。士燕は何者なの?」
士燕の名前が出て来たことに「やはりその事か」と呟き
「領主から坊主達に魔法を使える冒険者に師事して欲しいと依頼を出されたんだ。詳しいことは聞いても教えてくれなかった」
「それなのに依頼を許可したの?」
ローズは少し驚いた。自分の父親は多少脳筋だが間違ったことはしない。なのに領主からの依頼とはいえ詳しいことは教えてもらってないのに依頼を受けたからだ。
「領主からの依頼だからな・・・断りずらいのもあるが、あの領主なら人を見る目は確かだ。故に問題ないと判断した」
ローズはギルドマスターの言葉に納得する。
(確かにこの街の領主は人を見る目は確かだ。それに士燕も・・・)
士燕の事を思い出すがお姫様抱っこまで思い出してしまい顔を赤く染める。
(そそそそ、そうだった!!わ、私は士燕にお姫様抱っこを!!士燕は私を助けようとした、それだけのはずだ!!なのに何でこんな顔が熱くなるんだ!?で、でももしかしたら士燕は私のことを・・・。って何を考えてるんだ!!私は男なんて・・・でもあの時の士燕は少し、ううん。凄く格好よかった・・・。って違う違う!!ううっ・・・何で士燕の事を考えると落ち着かないのだ・・・。けど嫌な感じはしない。むしろ嬉しい感じだ。なら私は・・・きっと士燕の事を・・・)
ローズが顔を赤くし百面相をしてる様を内心笑いながら
「ローズ、聞きたい事はソレだけか?」
ギルドマスターの言葉にローズは
(この気持ちが本当なのか分からない。けど悩んでいたところで何か分かるわけでも無い!!なら!!)
「パパ、相談があるの!!私は・・・」
そしてローズとギルドマスターの話は続いていく。しばらくし話し合いが終わりローズは部屋を出て行く。1人部屋に残ったギルドマスターは先程のローズとの話し合いを思い出し1人楽しそうに笑みを浮かべるのだった。




