3つの条件と暗殺
「条件を話す前に俺達の秘密を話すことになる。だから誰にも言わないことを約束して欲しい」
士燕はそう切り出すが
「君達の秘密か・・・確かに興味は有るが・・・」
ガラドは中々返事が出来なかった。「秘密を聞いたからにはどんな条件も受けろ」と言われることを恐れたからだ。士燕はガラドの態度で察知し
「安心してくれ。秘密を聞いたからって何でも受けろと何て言わねぇから。別に依頼自体無いことにしても良い。ただし、さっきも言ったが誰にも言わないでくれ。もし言ったらこの街を血の海に沈めるがな」
さらりと恐ろしい事をぶっちゃける。ガラドはエリーゼ、ロイド、ロゼの顔を見た後士燕の顔を見て
「その言葉、信じて良いんだな?」
その言葉に士燕は黙って頷く。
「分かった。なら君達の秘密とやらを教えてくれ」
ガラドは覚悟を決めて秘密を聞くことにした。
「まず俺達はこの世界の住人では無い。俺達はこの国の奴等に呼ばれて異世界から来た」
ガラド、ロゼの2人は士燕の言葉に驚きを隠せない。
「国が勇者を呼んだのは聞いていたがそれは本当なのか・・・?」
ガラドは声を震わせながら問いかけ士燕達は黙って頷く。
「そうか・・・なら何か目的があってこの街に来たのか?」
士燕は首を横に振り異世界に来てからのことを話す。
「なるほど・・・恐らくその選択肢は間違っては無いだろう。今の王は前王の弟君なのだよ。前王は獣王と魔王と仲も良く2つの国と友好関係を築いていた。だが我が国の神が殺されると同時期に前王の家族全員も殺されてしまった。現王は前王もシシガミとアラクネに殺されたと言っていたが私はそうは思えん。現王は人間至上主義な方で獣人と魔人をよく思っておらん」
「だから前王と神を自分達で殺し国民に獣人と魔族の評価を下げさせ戦争の大義名分を作ると共に人間至上主義を訴えるわけか・・・だがそんな上手くいくのか?」
ガラドの言葉を士燕が引き継ぎ疑問をぶつける
「遙か昔はこの3国は戦争ばかりしていたらしい。そのせいで貴族の中には人間至上主義者が結構いるんだ。ザフノフの家もそうだしな。幸い庶民にそんな連中はほとんどいないがな」
何処の世界に行っても人間の業は深いのかもしれない
「皆仲良くすればいいのに・・・」
「そうね・・・争って何になるのかしら」
「何処に行っても争いは無くならないのでしょうか・・・」
沙耶、琥珀、羽菜も人の業を感じているのかもしれない。
「っと。話がそれてしまったね。それじゃあ条件を聞こうか」
ガラドが話を戻す。
「その前に1つ良いか?俺の言葉を随分あっさり信じたな」
「君が嘘をついてるとは思えなくてね。こう見えても人を見る目は有るつもりだ。それは君も同じだろう?」
そう言われ何となく同意するのが癪に感じたので士燕は
「さあな・・・まあ信じてくれるならそれで良い。条件だがとりあえず3つ有る。1つ目はさっきも言ったが俺達は別の世界からこの世界に連れてこられた。だからこの世界の常識が分からない。だから教えて欲しい」
「なるほど。分かったエリーとロイドの2人に教えさせよう。他の者にやらせるよりこの2人の方が良いだろう」
「助かる。2つ目だが俺達は冒険者に成ろうと思っている。だが冒険者に成るのに俺の秘密がバレるのは避けたい」
「確かに冒険者に成るにはステータスを鑑定する必要がある。つまり鑑定無し・・・というよりは無条件で冒険者に成りたいと言うことか・・・」
「ああ、出来るか?」
「うーむ。それは難しいかもしれん。だが王都にいるギルドグランドマスター次第でどうにか出来るかもしれんが・・・取りあえずグランドマスターをこの街に呼んでみよう。それで良いか?」
「ああ、頼む。それで3つ目だが・・・」
「「「ちょっと待って!!」」」
士燕が3つ目の条件を言おうとしたら3人に止められた。
「・・・何だ?」
「士燕君、冒険者に成るって私達もなの?」
「当然だろ」
「そんなこと聞いてませんよ!!」
「そりゃあ初めて言ったからな」
「でもどうして冒険者なの?もっと安全な仕事じゃ駄目なの?」
「駄目だな。これから先の事を考えると自由に動ける冒険者が1番良さそうだ」
3人は少し考えて
「うーん・・・分かった。士燕君が言うなら私は賛成」
「私もそれで良いわ」
「士燕君には何か考えがあるのですね?なら先生も賛成します」
冒険者になることに賛同した。
「悪いな。で、3つ目だが魔法を使える冒険者を紹介して欲しい。出来れば冒険者の女性複数で」
「「士燕君・・・」」
士燕が3つ目の条件を言い終えた途端、沙耶と琥珀が声のトーンを落とし士燕に待ったをかける。
「どうして女性なのかな~?。私達がいるのに」
「もしかして私達じゃタイプじゃないから駄目なの?」
普段とは違い少しどすのきいた声に隣に座る羽菜が震えていた。
「あのなぁ、これはお前等のためだからな。お前等魔法の使い方、冒険者の事とか分からねぇだろ。だから専属教師になって貰う為だ。たたでさえ3人ともかなりの美少女なんだから男が付いたら面倒ごとが起こるわ」
士燕の言葉に皆納得した。・・・2人を除き。沙耶と琥珀は士燕に美少女と言われかなり動揺しており2人で仲良くテンパっている。そんな2人をサクッと無視して
「了解した。冒険者の方は此方で探そう。それとザフノフの件だがロイドを連れて行ってもらっても構わないか?君を信頼していない訳ではないが一応承認が欲しい」
「俺の邪魔さえしなけりゃ連れてってもいいぜ」
「ありがとう。ロイド」
「はい。宜しくお願いします士燕殿」
「ああ。じゃあ仕事を始めるか」
そう言って士燕は立ち上がり部屋を出て行こうとする。ロイドもシエンに付いていき部屋を出ようとするがガラドが後ろから
「士燕殿、ザフノフをどうするのか聞いてもいいか?」
士燕は顔だけ後ろを向き
「決まってんだろ。証拠1つ残さず暗殺するんだよ」
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時は少し戻りイカルガの近くの森で
「ザフノフ様、こんな森で何をするつもりなのですか?」
騎士の1人が馬車の中にいるザフノフに問いかける。
「決まってんだろ!!この俺に恥をかかせたあのクソ餓鬼を殺すんだよ!!ついでにあの獣人共も一緒にな!!」
ザフノフはかなり頭にきているらしくわめき散らしている。
「しかし一体どうやって・・・」
「あ゛あ゛!?んなもん夜に忍び込んで殺せばいいんだよ!!邪魔する者共もガラドも全員殺せば良い!!そのついでにエリーゼとあの女共も連れてくりゃあ一石二鳥だ!!」
「しかし上手くいくのでしょうか・・・」
「何だぁ?俺の作戦に文句あんのか?」
「いえ・・・そのようなことは・・・」
「けっ!!ならさっさと準備しとけ!!俺は飯まで寝る!!」
騎士はザフノフに返事をしため息を吐きながら他の騎士に命令を伝えに行った。
時が過ぎ日も暮れ始めた頃騎士達は夕飯の準備をしたいた。だがその時見張りの騎士が
「魔物だ!!魔物が近づいてきている!!数が多いぞ!!」
その言葉で他の騎士達も戦闘態勢に入る。そしてしばらくするとゴブリン、オーク等の魔物100匹程の魔物が姿を現した。騎士達はの数は30人程だが上手く連携を駆使して自分達の3倍近くの魔物を次々に倒していきものの20分程度で魔物を殲滅した。そして1人が馬車の中にいるザフノフに報告しに行く。
「ザフノフ様、魔物の殲滅終了しました」
だが馬車からは何の返答が無かった。不審に思い騎士が馬車の中を覗くとそこには折れた剣を頭に刺してすでに事切れているザフノフの死体が転がってた。
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ザフノフ達が魔物に襲われる1時間ほど前、士燕とロイドはザフノフ達から200メートル離れた木の上で様子をうかがつていた。そこで騎士達の会話を聞きザフノフのこれからを知った。
「本当にろくな事考えてなかったな」
「そうですね。まさかここまで愚かな方だとは思いませんでしたよ」
「ホントかよ?」
「嘘です、済みません。しかし証拠1つ残さずに本当に出来るのですか?」
「出来るは出来るが完璧にやるにはちょっと準備が必要だな。ちょっと待って貰えるか?準備してくる」
そう言って士燕は木から木に飛び移ってロイドから離れていく。ロイドは木の上で士燕を待っていた。1時間ほど待っていたが士燕が戻ってこないので不安に思い士燕を探しに行こうか悩んでいた。だがその時
「悪い。少し時間がかかった」
そう言って士燕がロイドの隣に飛び移って来た。ロイドは士燕が戻ってきたことにホッとしたがその手に持っている物に気付き
「無事だったんですね。よかった、心配しましたよ。士燕殿それは?」
「ん、これか?ゴブリンの持っていた剣だ」
士燕はゴブリンが使っているボロボロの折れた剣を持っていた。
「そんな物をどうして持っているのですか?」
「決まってるだろ。これであの豚を殺すんだよ。まあ見てろ、そろそろ始まるから」
その直後ザフノフの周りに大量の魔物が現れ始めた。
「士燕殿、これは一体?」
「これが俺のやってた準備だ」
士燕はロイドの元を離れた後近くに居る魔物の前に現れザフノフの元に誘導していた。途中魔物同士で戦いが始まったりもしたがその度に何匹か殺し自分に意識を向けさせていた。そしてザフノフ達に十分に近づかせて士燕はロイドの元に戻ったのであった。そして騎士達と魔物のが戦い始め士燕は一気に集中力を高めて折れた剣を投げた。
だがザフノフの居る馬車にではなく下に向けてだった。投げた剣は勢いよく地面に向かい進んでいく。しかし地面に刺さるかと思われた剣が『キンッ』と何かに当たり軌道を大きく変え横に進んでいった。それだけでは無く剣は次々に何かに当たり軌道を大きく変えつつ騎士の死角を突き進み最後は跳ね上がり馬車の中に吸い込まれるように入っていった。
「依頼完了。終わったぞ」
士燕はロイドにそう言うがロイドは何が起こったのかが分からなかった
「士燕殿、今のは一体?」
「REFLECTSHOT」
「リフレクトショット?」
「つまり、投げた物をバウンドさせて軌道を変える技だ。今回はそこら辺に転がってる石に当てて軌道を変えさせてもらったんだよ」
「・・・」
ロイドは何も言えなかった。自分にはほとんど見えない速度で投げられた剣でそんな絶技が出来るのかと。
それと同時に準備の意味も理解した。あの魔物達は騎士の意識を魔物に集中させるだけで無く投げた剣が石に当たったときの音を誤魔化すためであったことを。
どれだけの技量が有ればそんなことが出来るのか・・・そしてどれだけの頭脳が有ればあの短い間でこれだけの作戦を思いつくのか・・・尊敬と畏怖を混ぜた目で士燕を見ることしか出来なかった。
「ちょっと失敗したか?」
そんなことなどつゆ知らず士燕が唐突に呟いた。
「もしかして外したのですか?」
流石の士燕でも難しかったのだろうと思いロイドが話しかけるが
「いや、そうじゃ無くてロイドがこのままだと確認出来ないだろ」
そっちかよ!!と心の中でツッコミを入れるが確かにこのままだと確認が出来ないので2人して悩んでいたがザフノフの騎士達がザフノフが死んでることを騒ぎだしたので悩みが無駄になった。ロイドと士燕が互いに顔を見合わせて
「・・・帰るか」
「・・・そうですね」
そして街の門が閉まる前に急いで街に戻ることにしたのだった




