7. The 27 club
支土のタバコの煙が宙を舞う。
俺は支土を必死で説得しようとした。
いくら友達が死んだといえども、爆破なんて馬鹿げた計画だ。
そんなことしてもジョーちゃんは帰ってこない。
ジョーちゃんはそんなことを望んでいない。
ジョーちゃんは、ジョーちゃんは...
とにかくとにかくとにかく!
俺は知らないうちに熱弁していた。
が、支土は「もう遅い」の一言で片付けた。
「それにお前、ずーっと眠れていないんだろ?」支土が俺に笑って言った。
「お前のせいで今日も眠れてない」俺はすかさず答えた。
支土が笑った。ニヤニヤして大笑いした。声をあげて笑った。
「...どうしてお前、それを知っているんだ?」俺は急に怖くなった。
「大丈夫、ぐっすり眠れるようになるぜ」支土は優しく笑った。が、何故か少し寂しそうにも見えた。
怖くなって、俺は考えるのをやめていた。
思考が追いつかない。
「いこうか」
また支土のバイクの後ろで揺られていた。
怖いけれども、支土にしっかりとしがみ付いていた。
俺の心の中に支土の爆破計画を認める気持ちがないわけじゃなかった。小数点以下の気持ちはあった。
確かにジョーちゃんは死んでしまったのだ。
やり返してやりたい。
それでも...
なんだか少し眠くなってきた。何故か落ち着く。
zzz...
知らないうちに俺は眠っていた。
「着いたぜ」支土に起こされる。
我ながらよくバイクから落ちなかったもんだ。
ここはどこだろう?もうどうでもいいや。
とにかく目の前には小さい銀行の支店があった。
支土がバイクのサイドバックから紙袋を取り出した。
何やらゴソゴソしている。
俺に準備はできたから後は見えない所に置けと言った。
なんで俺が置くんだろう?
でももう引き返せない。多分ここで逃げたら支土に殺されてしまうだろう。
俺は銀行の柱にうまく隠れるようにその紙袋を置いた。
誰も気づかない。
とてもスッキリした気持ちになっていた。
全部ぶっ壊れちまえ。
いつのまにか俺はやっちまえと思っていた。
すると突然、支土が柱に抱きついた。
しかもウワンウワン泣いてやがる。
完全にイかれてやがる。
俺は声をかけられなかった。
しかも何故かとても眠くて眠くて...
あまりにも狂ったことがありすぎて疲れ果てたのか...?
...
目が覚めたら俺は支土を抱きしめていた。
ああ、とーっても落ち着く。暖かいや。
温もりを感じる。
ああ、この男は、誰が、どうやって、どんな物語の中で作ったんだ?
どんな思いで作ったんだろう...
親はまだ生きているのか?まだ健康なのか?
どんな育ちで...どんな会社で働き...どんな家族がいて....
あれ?支土がいない?
...支土って誰だっけ?
俺は一人で、泣いて、うずくまっていた。
でも何故か、心が、ホッとしていた。
俺は、逆に、今まで、ずっと、夢を見ていたのか?
ぐっすりと、眠っていたのか?
いや、でも乗り捨てられたバイクがある
そういえば俺はバイクの免許を持っている
ギターも弾く
ソロギターを弾く
白毛のおっさんと喧嘩した記憶もある
ジョーちゃんが死んだってのを聞いてから記憶があやふやだ...
紙袋...カタログが入ってる...
それにしても、ここはどこなんだ?
ああ、ジョーちゃんの生まれた街だ。
とりあえずぶらつこう。
家にポツポツと明かりがついている。
暖かい光だ。それを見ていると何故か穏やかな気持ちになっていた。
風も暖かい。
喉が乾いたな。今すぐ暖かい何かを飲みたい。
コンビニが目に入る。
コーヒーとタバコを買う。
外に出て、タバコに火をつける。
煙の行方に目をやる。
ああ。星が綺麗だ。
とっても星が綺麗。
タバコを吸い終わる。
残っていたコーヒーをゆっくりと飲む。
相変わらず星が綺麗だ。
星が綺麗だ。
綺麗だ。
ジョーちゃんの柱に俺がなれていたらなあ