3. Since We Met
支土リョウは優しく俺に微笑みかけてきた。
まるで別人のように丸くなっていた。
俺の知っている支土リョウは荒っぽく、人に微笑みかけるような人間ではなかったはず。
「久しぶり、元気にしてたか?まだ楽器続けてたんだな」
俺は当たり障りのない挨拶をした。
「なんだかんだね」
支土リョウは笑った。
俺たちはすっかり話し込んでいた。
得体の知れぬ嫌悪感は消えていた。
もう店の客は俺しかいない。
「久しぶりに合わせてみないか?」
支土リョウは俺にセッションを申し込んできた。
「ずっと弾いてないからさあ 遠慮しとくよ」
「なんとなくでいいからさ、せっかく会ったんだから」
「じゃあちょっと...」
渋々、俺は承諾した。
マスターに備品のギターを借りる。
年季の入ったGibsonのフルアコだ。
そいつをオールドのFenderにぶちこむ。
チューニングを合わせ、軽くコードを鳴らす。
FEELING GOOD
暖かくて優しい音は俺をやる気にさせた。
昔に戻った気持ちになっていた。
「wish upon a starどうかな...?」
俺が支土リョウに言うと笑顔でアイツは頷いた。
イントロのフレーズを弾く。
そして、テーマに突入した。
アイツの強烈なベースが優しく腹をえぐる。
なんなんだ?
とても数年振りとは思えない。
アドリブに入る。
俺はコードトーンを織り交ぜたフレーズを気持ちを込めて弾く。
それに応えて優しくて強烈なベースラインが叩き込まれる。
静かだけれども狂ったベースソロが空間を支配する。
気づけばテーマに戻っていた。
俺は完全に世界に入り込んでいた。
絶頂。エクスタシー。恍惚感。
久しぶりに会った気がしなかった。
俺の全てを知っているような、そんなベースをアイツは弾いた。
昔にバンドを一緒にやっていたから、というレベルではなかった。
セッションを終えて、俺は軽く挨拶をして帰路に着いた。
「楽しかったよ、またな」
また交流を持ちたい、という気持ちが湧いていた。
それと同時に嫌悪感も湧いていた。あまりにもピッタリすぎた。
2つの感情が複雑に入り混じっていた。
結果として、俺は連絡先を交換しなかった。
交換してはいけない、という直感が俺を支配したのだ。
そして、その日を境に、俺はまた眠れなくなっていた。
眠れない。
眠れなくなっていたのだ。






