プロローグ
人はここをデスゲームだと、そう呼んだ。
人はここを願いを叶える場所だと、そう呼んだ。
人はここをもう一つの現実だと、そう呼んだ。
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「あー、学校行ってたら今頃女の子とキャッキャウフフしてたんだろーなー!!」
「うるせー!手ー動かせー!!」
「さーせーん!!」
妙に愉快な返答とともに、大量の土が入った一輪車を押すのは中肉中背の青年だった。
青年の名前は平野誠。同姓同名を探そうと思えば同じ都道府県内で見つかりそうな、平々凡々とした名前だ。
誠は今工事現場のアルバイト中だ。
今はもう4年もここのアルバイトを続け、現場の人たちとの関係は良好ものとなっている。
そのために軽口を叩いてもとやかく言われることはない。
もう日は落ち、先のセリフから5往復したあたりで今日の仕事は終わりになる。
「なんでここ通学路が見えるんですか。学校生活を送っていない僕への当てつけですか」
「んなこと考えて現場選ぶわけねぇだろ」
「ま、そーですよねー。あ、ニケツ!あれ違反っすよ!とっちめてやりましょうよ!」
「とっちめたら間違いなくお前のほうが悪者扱いだぞ。嫉妬してねぇで事務所戻るぞ、誠」
「っちぇ~。面白くねー」
そう仕事終わりの談笑をしながら、ある者は首を鳴らし、ある者は肩を回しと各々の筋肉をほぐしながら事務所へと向かった。
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「たでーまー」
「「おかえりー!!」」
緩い帰宅の挨拶と共に帰ってきた言葉は、誠とは対照的に、はつらつとしたものだった。
迎える言葉は一つではなく複数見受けられ、おなかの鳴るも聞こえた。
「母さんと父さんの帰りはまだか。おーけーおーけー今作る。手伝ってくれる人ー」
「「はーい!!」」
「んじゃあ、お兄ちゃん疲れてるから補助だけするから作ってくれー」
「兄ちゃんのが食べたい!!」
「兄ちゃんがんばれー」
「週末…明日仕事ないから明日本気出す。だから、な」
「やったー!」
「がんばるー!」
疲労を隠し切れず、ため息交じりに子供たちと話す。
この子供たちはみな誠の弟や妹で、誠も合わせると平野家は5人兄弟である。
そんな子たちと夕飯を作り、食べ終えると母親が帰ってきた。
「あ、おけーりー」
「ん、ただいま」
「ご飯は?」
「作ってある?」
「父さんのも母さんのもあるよ」
「ありがと。それで今日お父さん夜勤までずれ込んじゃったから、朝まで帰って来ないって」
「マジすかマジですか。んじゃあご飯の残りは冷蔵庫だなぁ。食えるなら食っちゃってもいいよ」
「そんなに食べられないよ」
二人の間で力のない笑いがこだました。
誠の母親、平野美沙は誠の作った夕飯を取りにキッチンへ。誠自身は兄弟姉妹5人共通の部屋へと向かい、「内職じゃー!」と意気込みを叫んだ。
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「素晴らしい朝が来た!希望の朝だ!!」
翌日、意気揚々と自分を覆っている薄い布をはがし、起き上がった平野誠。
掛け持ちでアルバイトをしている誠にとって休日はとても貴重なもの。起床時に気分上々になってもなんら不思議はない。
現在時刻は9時。バイトマスターMAKOTOにしては遅い起床である。
今日は日曜日で弟妹らはすでに外に出て遊んでいる。夜勤だった誠の父親、平野博之は両親部屋で眠っているようだ。
(俺が今日休みって一週間くらい前から言ってたし、たぶん父さんも母さんもポスト見てないだろうな。母さんに至ってはまだ寝てるだろうし)
平野家は広告をとっているために両親と誠がことあるごとにポストを覗いている。
如何に安い物(食材然り、家具然り)を取り入れるかに関わってくれるので、もはやポストの中身は平野家の生命線とも言える。
「(開錠!!)」
テンションが上がってはいるが、近所迷惑も考えて小声でポストを開ける誠。
その中に見慣れない封筒が置かれていた。
(見て確認してカレンダー書いたら昼寝するんじゃ!)と目を星にしてポストの中身を確認した誠は、一瞬で真顔になる。
「なんだこれ…?このソフトってあのフルダイブ用ようのやつか。俺ハードないんだけど…。ん?『貴方の大切なもの、守りませんか』…?俺の大切なもの…家族。え、このソフトで家族が守れるって言うのか?」