表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/52

第五十話 旅の始まり

 翌日の早朝。グレイシャス達は、ウーリが用意した馬に乗り、最北の地ホロスへと向かい旅立った。用意された馬は七頭だが、旅人の数は合計八名。

「一体どういうことだい? 君は薬を飲ませる相手を間違えたのか?」

 リオの馬と並び、馬を進めながらジョシュアは聞く。彼は、眠ったままのエリアスを抱きかかえるようにして、手綱を引いている。油断して力を弛めれば、エリアスは馬からずり落ちてしまいそうだ。

「予定が狂ってしまって……ごめんなさい」

 シェリーの代わりに眠り薬を飲んでしまったエリアスは、当然、朝になってもグッスリと死んだように眠っていた。皆で彼を抱きかかえるようにして運び、なんとか馬にくくりつけて出発した。何も知らず気持ちよさそうに寝息を立てているエリアスを、リオは恨めしそうに眺めた。

「あのを連れてきたのが間違いだったな」

 エリアスという重い荷物を抱えながら、ジョシュアは前を進むシェリーに目を向ける。馬には何度か乗ったことがあるらしい彼女は、上手く馬を操っている。憧れのグレイシャスと馬を並べて、目を輝かせながらしきりに話し掛けていた。

「まるで、楽しい旅の始まりのようだ」

 ジョシュアは旅立つ前に、グレイシャスが少女であることをウーリから聞かされた。少年だと思いこんでいたグレイシャスが少女だと分かり驚き、それと同時に、ウーリの代わりに彼女を守り切れるかどうか不安を感じた。ジョシュアも年長とはいえ、まだ十五才の少年だ。グレイシャスが剣の達人であるとしても、彼女は若い娘、何かあれば守らなければならない。その上に、剣など扱ったこともない世間知らずの娘も加わってしまい、彼の憂慮は倍増した。

「このまま、この旅が楽しいままで終わればいいが……」

 ジョシュアは二人の少女を後ろから眺めながら、誰に言うでもなく呟いた。『敵を討つ』旅が、楽しいまま終わるはずはないが、せめて今はそう思いたかった。



 一方、グレイシャスは、さっきからぴったりと横に並び、絶え間なく話し掛けてくるシェリーに困り果てていた。シェリーはもちろん、グレイシャスが少年だと信じ切っている。彼女から送られてくる熱い眼差しとお喋りに、どう対応して良いか分からない。彼女の話にのって会話をすれば、女だと分かってしまいそうだ。グレイシャスは、益々無口になっていく。

「グレイシャス様は、あまりご自分のことを話されないんですね」

 彼女の複雑な心境などまるで分からないシェリーは、物静かなグレイシャスがより一層魅力的に見えているようだ。

「話すことがほとんどないのです」

 グレイシャスは苦笑しながら目を伏せる。

「謙虚なところも素敵です。本当に偉大な人物は、いばったり自分のことを自慢したりしないものですよね。でも、もう少し私達が親しくなってくれば、私にだけはグレイシャス様のこと話してくださいね。私、もっともっとグレイシャス様のこと知りたいんです」

 シェリーは顔を染めながら語る。

「あぁ、そうですね」

 グレイシャスは曖昧に微笑み、後ろに視線をやる。後方にはリオとジョシュアの乗った馬が続いている。

「シェリー、少し失礼します」

 彼女はそう言うと、馬の歩を弛め、後ろに続くリオが来るのを待った。

「一体、良い考えとはどんな考えだったんだ?」

 横に並んだリオを、グレイシャスは軽く睨む。

「彼女は同行しないはずじゃなかったのか?」

「ごめん、手違いがあって計画が失敗したんだ」

 グレイシャスにも責められ、リオはため息をつきながら肩を落とした。その様子を見ながら、側でジョシュアが笑っていた。

「エリアスが薬を飲むとは思ってなかったから」

「もしシェリーが危険な目にあったりしたら……」

「そうならないよう十分気をつけるよ。けど、僕は」

 リオはチラッとグレイシャスを見て、前を行くシェリーを見た。

「女の子がもう一人いたら、君も気分的に楽になるかもしれないと思うよ。話し相手になるしね」

「私は、彼女の話は苦手だ。それに、ここに女の子は一人しかいない」

 リオはもう一度グレイシャスに睨まれ、肩をすくめた。

 それからしばらく順調に馬を進めて行ったグレイシャス達は、昼過ぎに街道沿いの宿場町で一度休憩を取ることになった。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ