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第四話 白百合と隼

 その夜、イグネイシャの屋敷では、主人の帰還と新しき家族を祝って、盛大に宴が開かれた。ブライドを始め、イグネイシャの友人達が次々と集まり賑わった。シャンデリアの輝く大きな広間での華やかな宴。真っ白なテーブルクロスの上に並べられた数々の豪華な料理を前に、リオは目を丸くしていた。その数は、今までにリオが食べてきた料理の数より多い気さえする。

 見事な料理にも目を奪われるが、正装したグレイシアの姿の方が、リオの目には眩しく映っていた。豊かな金色の髪を垂らし、百合の花模様をあしらった白いドレスを着ている。男の子のように元気に駆け回っていたグレイシアとはうって変わり、その姿は清楚な美少女そのものだった。

「どうしました、リオ?」

 ナイフを持ったまま手を止めていたリオに、グレイシアの母メリーネが問う。グレイシアと同じ金色の髪をしたメリーネは、口元に上品な笑みを浮かべている。リオの斜め前に座っている彼女も、娘同様に美しい婦人だった。

「今宵は、あなたのための宴です。遠慮なく召し上がってくださいね」

「あっ、はい」

 リオは頬を染め、慌ててナイフで肉を切り始める。

「リオ、ナイフを使う時は、ガチャガチャ音を立てちゃダメだよ」

 肉を切るのに苦労しているリオを見て、正面に座っているグレイシアがすかさず口を挟んだ。

「リオったら、テーブルマナーも知らないんだね」

「グレイシア、人の事より、あなたの言葉づかいもなっていませんよ。そろそろ女性らしい言葉を使うようになさい」

 清楚な美少女の姿でも、グレイシアは相変わらず少年のような言葉を使う。母親にたしなめられて肩をすくめるグレイシアを見て、リオは笑みを浮かべた。

「百合の模様のドレス、とっても綺麗だね」

 グレイシアもメリーネも揃って百合の花柄のドレスを着ていた。

「白百合の花は家紋なんだ。私の剣にも百合の花の紋章が刻まれてるよ」

 言葉づかいを直そうともせず、グレイシアは得意げに言った。

「君、自分の剣を持っているの?」

 リオは驚いてグレイシアを見つめ返す。剣には触ったことさえなかった。

「もちろん! 剣術の腕前なら誰にも負けないよ。リオも騎士になるつもりなら、剣術の稽古しないとね」

「あなたは女の子なのだから、剣術など必要ないのですよ」

「お母様、そんなことないです。女だって強くならないと。戦争はいつ起こるか分からないんですから」

 グレイシアは軽く唇を噛むと、イグネイシャと語り合っているブライドの方に目を向けた。

「ブライド様! お願いがあります!」

 突然、グレイシアは大声を出し、一同は驚いて彼女に注目した。メリーネは眉をひそめてたしなめようとしたが、その前にブライドが口を開いた。

「何かね? グレイシア」

 彼は優しげな笑みをグレイシアに向ける。

「後で私に剣術の稽古をつけて下さい。私はもっともっと剣術が上手くなりたいんです」

「グレイシアは今でも充分良い腕前をしていると思うが……」

「この子はお前の騎士団に入りたいと思っているのだよ」

 イグネイシャは軽く笑って、飲みかけのワインを飲み干した。

「勉強よりも社交ダンスよりも、剣を振り回すことが好きだからな」

「だが、あいにく私の騎士団は男子しか入団出来ないのだがね。もっともグレイシアは他の少年達よりも良い腕前をしているようにもみえるが」

 ブライドは声を立てて笑った。

「私も男の子なら良かったのに……」

 グレイシアは口を尖らせて俯く。

「今夜はグレイシアもドレスを着た美しい淑女。私も酔いが回ってきて剣をさばくことは出来そうもないよ。だが、明日の朝なら少し時間があるから、稽古をつけてやっても良い」

「ありがとうございます!」

 グレイシアは顔を上げ、ブライドに元気よく感謝を述べる。

「どうか、お手柔らかに頼むよ」

 笑いながらそう言うブライドに、グレイシアは明るい笑顔を向けた。そして、満足気に、目の前の料理を頬張り始める。

「リオは良いな。男の子だから騎士団に入れる」

「騎士団って?」

「騎士団さえ知らないの? ブライド様は『勇隼ゆうしゅん騎士団』という少年騎士団の団長様なんだ」

「勇隼騎士団? ってどういう意味?」

 グレイシアは呆れたように、肩をすくめる。

「よ〜く覚えといて。ブライト様の家紋ははやぶさなんだ。それで、勇ましい隼のようなイメージ を少年騎士団につけたの」

「ふ〜ん、そうなんだ」

「少年騎士団は学校と同じだよ。勉強と剣術を学びながら、学校で寄宿生活をするんだ」

 グレイシアはモグモグと口を動かしながら、軽くため息をつく。

「私も入団したいなぁ……」

「学校か、僕も行ってみたい。『隼』って格好いいよね。でも、僕は『白百合の花』も綺麗で好きだな」

 最後の言葉はグレイシアに気付かれないように呟き、リオは黙々と料理を頬張るグレイシアを見て微笑んだ。










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