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第四十八話 意外な再会

 シェリーが男達に連れて来られた場所は、客達でごったがえした古びた居酒屋だった。狭い店内に酒の匂いが充満し、酔った客達の騒々しい声が響いている。

「まずは腹ごしらえと酒だな」

「お前にも奢ってやろう」

 男はそう言い、シェリーを突き飛ばすように乱暴に椅子に座らせた。

──こんなはずじゃない! 私はグレイシャス様を探しに来たのよ!

 シェリーは俯いたまま、心で叫び続ける。さっきからずっと涙が止まらず、頬をつたって流れ落ちていた。

──このままじゃ、私、こいつらに売り飛ばされて、さっきの娼婦みたいになってしまうんだわ! あぁ、こんなことになるなら、クランガンになんか来るんじゃなかった! 父さん、母さん!

 シェリーは両手で顔を覆い泣き崩れる。

「いつまでも泣いてないで、酒でも飲みな」

 一人の男がシェリーの肩を抱きよせ、酒の入ったグラスを差し出した。

「やめてったら!」

 シェリーは声をふりしぼり、男の腕から逃れようともがくが、力では到底かなわなかった。いよいよ窮地に追い込まれたかと思った時、

「すまない! 彼女は酒が飲めないんだ」

 俯いていたシェリーの頭上で誰かの声がした。

「こんな所に迷い込んでいるとはな……さ、帰るよ」

 シェリーはグイッと腕を引っ張られた。

「誰だ、お前は!?」

「彼女の婚約者さ」

「何ふざけてやがる。お前もこの娘もまだガキじゃないか」

 男は馬鹿にしたように、せせら笑った。

「年より若く見えるだけさ。ガキじゃないよ」

 顔を覆って泣いていたシェリーは、ようやく恐る恐る顔を上げた。

「あっ……」

 声をかけてきた人物と目が合うと、彼女は小さく驚きの声をあげた。

 ジョシュアだ。船上で出会い、店で肖像画を描いてもらった少年。奇跡的にジョシュアに会えたということは、探し求めていたグレイシャスにも会えるということだ。絶望の淵に追いやられていたシェリーに希望の光が見えてきた。

 ジョシュアは小さくシェリーに目配せする。

「待ちな。俺達はこの娘が気に入った。婚約者がいようがいまいが、今夜は俺達に付き合ってもらう」

 その時、ちょうどもう一人の男が戻って来て、出ていこうとするジョシュアの前に立ちはだかった。

「まいったな、結婚前に婚約者にそんな事をされては困る」

 ジョシュアは大げさにため息をつくと、おもむろに懐に手を入れると、テーブルの上に金貨を一枚投げた。

「面倒な事は避けたいんだ。これで手を打ってくれないか」

 テーブルの上に投げ出された金貨を見て、男達もシェリーも目を丸くする。金貨を目にしたことなど、シェリーは一度もなかった。金貨が一枚あれば、軽く家が一軒建てられる。

「……なんだ。そう言うことなら早く言ってくれりゃ」

 食い入るように金貨を見ていた男は、慌てて金貨を拾い上げた。

「悪い事をしたな」

 男は急に態度を変え、ジョシュアに笑顔を向けてきた。

「二人ともこんな物騒な所は早く出ていって、仲良く帰りな」

「そうするよ」

 ジョシュアはシェリーの手を引いて立ち上がらせると、足早に店を出ていく。後ろで二人の男が金貨をめぐって揉める声がしたが、ふり返らず真っ直ぐに歩き続けた。




「一体、どういうことだい? 何で、こんな所に君がいるんだ?」

 店から遠く離れ、一息ついたところでジョシュアはシェリーに尋ねる。かなり急ぎ足で逃げて来たため息切れがした。

「驚いたのは私もよ。まさか、あんな店にあなたがいるなんて」

「けど、そのお陰で君は助かっただろ」

「ええ、そうね……」

 シェリーはさっきのおぞましい出来事を思い出し、身震いする。

「どうもありがとう。金貨で助けてくれるなんて……でも、私、金貨一枚を返すことなんて出来ないわ」

「返す必要はないさ」

 ジョシュアは声を立てて笑う。

「あの金貨は銅貨一枚の値打ちさえないからね」

「えっ? あれはニセモノだったの? もし、ばれたら……」

「だから、大急ぎで逃げて来たのさ。まぁ、明日の朝まではばれないと思うけどね」

「そう……」

 シェリーは改めて自分たちが危ない橋を渡ろうとしていた事に気付き、ぞっとする。

「あなたはあんな物騒な場所によく行くの? 偽金なんか持って……」

「好んで行く訳じゃないけどね。ああいう所の方が色々な情報が入ってくるんだよ。お陰で、重要な情報も手に入れることができた」

「ふーん」

 シェリーは一呼吸置くと、ジョシュアを見つめなおした。

「私、ずっとグレイシャス様を探していたの。あなたはあの方がどこにいらっしゃるか知っているわよね」

「ああ、これから彼らがいるウーリの屋敷に行こうと思っていたところさ」

「私も連れて行って。グレイシャス様に大事なお話があるの」

「了解。婚約者を無事に送り届けることは、大事な役目だからね」

 ジョシュアはクスッと笑い、シェリーに手を差し伸べる。

「あれは、お芝居でしょ。早く案内してよ」

 シェリーはジョシュアの手を無視し、先に歩き始める。









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