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第四十七話 新たな情報

「イグネイシャ様は、ヴェスタに帰還される途中刺客に襲われて亡くなられた。話しでは、イグネイシャ様は一人で休憩されていた時、物盗りの男に突然刺されたらしい。騒ぎを聞きつけ従者が直ぐに駆けつけ、男は何も盗らずその場を逃げ去ったが、間もなく不審者として捕らえられ、イグネイシャ様を刺した事を認めたため、直ちに首をはねられたそうだ」

 食事の席で、ウーリはイグネイシャの事件について簡単に説明した。

「ただし、これは後から伝えられた表面的な話だ」

 ウーリは一呼吸おいて、グラスの水を口にした。

「首をはねられた男が本当にイグネイシャ様を襲ったかどうかも疑わしい」

「お父様の従者達は、皆、刺客の顔を見なかったと言っていました……本物の刺客を探し出す手がかりは何もないのですね」

 グレイシャスは声を落とし、ナイフとフォークをテーブルに置いた。

「いや、顔を見た者はいなかったようだが、後に詳しく聞いてみると、馬で逃げていく刺客の後ろ姿を目にした者がいたそうだ」

「本当ですか!?」

 グレイシャスは顔を上げて、ウーリを見つめる。

「その者は、どんな様子だったのですか?」

「かなり距離があり、一瞬しか目にしなかったそうだが、刺客は黒馬にまたがり黒っぽいマントを羽織っていたそうだ」

「黒馬、黒いマント……」

 グレイシャスは眉をひそめる。その言葉が、心のどこかに引っかかった。何かは分からないが、心の奥からもやもやとした塊が浮かび上がってくるような、不快な気分に襲われた。

「まぁ、黒馬に乗り黒いマントを身につけている騎士はいくらでもいる。たいした情報にはならないがな。それより、私は最近、新たな情報を得ることが出来た」

 ウーリは姿勢を正し、食事の席についている少年達を見渡した。

「今まで密かに色々な方面から情報を集めていたのだが、今回、私が襲われたことによって、その情報の信憑性が明らかになったよ」

 グレイシャス達は、固唾を呑んでウーリに注目する。

「首をはねられた刺客の男だが、彼のことを知っているという人物を探し出すことが出来た。彼は今、最北の地、ホロスに身を潜めているらしい」

「ホロスに!?」

 黙ってウーリの話を聞いていたレスターは、思わず声を上げてギリアンと顔を見合わせた。ホロスは、レスターとギリアンの故郷ウィンスタンの北隣りの街。夏でもあまり気温の上がらない寒々とした荒野の広がる地域だ。

「ホロスは、私とギリアンの故郷、ウィンスタンに近い街です」

 ウーリはレスターに目を向ける。

「そうか、それは何かと都合が良い。とにかく、その者に一刻も早く会い、話を聞く必要がある。もし、私が襲われていなければ、とっくにホロスに向かっていたのだが……」

「私達がホロスに行き、その男を探し出します。何か重要な手がかりがつかめるはずです」

 グレイシャスは真剣な眼差しで言った。

「ホロスの街は遠い。出来れば、私も共に行った方が安全だが、グズグズしているとまた邪魔が入りそうだ。真の刺客も既にこの情報を手に入れているはずだからな……その者の命さえ危ない。彼が生きているうちに、何としても話を聞かなければならない」

「ウーリ様、大丈夫です。私達六人で力を合わせれば、必ずホロスで男を探し出し、真相を聞き出します」

「そう言ってもらえると心強い。さっそく君達の馬を用意し、旅の支度を整えることにしよう。私の代わりにジョシュアに行ってもらうことにするよ。彼は君達より年上で旅慣れている。彼がいれば安心だ」




 シェリーは日の暮れたクランガンの街を、とぼとぼと歩いていた。両親に宣言し、勢いに任せて家を飛び出しクランガンまで来たが、未だグレイシャス達と会えないでいた。クランガンの主な宿屋を片っ端から探し歩いたが、どこにもグレイシャスの姿はなかった。

「あぁ、せめて行き先を聞いておけば良かった……クランガンは広すぎるわ」

 シェリーはため息をつき、棒のようになった両足をさする。

 表通りに面した宿屋はほとんど調べ、彼女は重い足を引きずるようにして、裏通りへと進んで行った。表通りとは雰囲気がガラリと変わり、そこはほろ酔い加減の男達が行き来し、通りのあちこちに派手な衣装を身にまとった化粧の濃い女達が立っていた。彼女達の側を通ると、むせるような香水の匂いが漂ってくる。

「何見てんのさ。ここはあんたみたいなガキの来るところじゃないよ」

 シェリーが思わず咳き込みそうになると、女の一人が彼女を睨み付けた。

「ガキじゃないわ。私はもう大人よ」

「生意気言うんじゃないよ。早く出てお行き。ママの元に帰るんだね」

 別の女も羽の扇子を揺らせながら鼻で笑った。

「私は大切な人の待つ宿屋を探しているの、放っておいて 」

 そう言い、シェリーが女達の間を通り抜けて行こうとした時、彼女は突然強い力で片腕を掴まれた。

「何すんのよ!」

 振り向くと、若い二人の男がにやけた顔をして立っていた。

「お嬢ちゃん、その大切な人とやらを、俺達が一緒に探してやろう。宿屋まで案内してやる」

「手を放して!」

 シェリーは手を振りほどこうとするが、男はしっかりと腕を掴んで放さなかった。

「そんな小娘放っておきなよ。それより、あたしと遊んで行かないかい?」

「たまには、年増女より、汚れを知らない娘の相手をするのも良い」

 男は、まとわりついてくる女をかわし、シェリーを引き寄せる。

「朝までじっくり可愛がってやるよ」

 男はもう片方の手で、シェリーの髪を撫でる。シェリーは男の顔に唾を吐きかけ、身をよじった。

「放してったら!」

 とんでもない通りに足を踏み入れてしまった、と彼女は今更ながら思う。グレイシャスを探し出すどころか、今は自分の身が危険にさらされている。

「あまり大人を甘くみるなよ」

 男はシェリーを睨み付け、一層強い力で彼女の腕をねじり上げた。

──助けて!

 その鋭い痛みに初めて恐怖を感じ、シェリーは心の中で叫んだ。彼女を知る者は誰もいない。叫んでも誰も助けに来てはくれない。自分の考えのなさと甘さを痛感したシェリーは、声を出すことも出来ず身を固くして目を瞑った。














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