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第四十一話 温かなスープ

「お目覚めですか?」

 彼がドアに目を向けると、そこには柔らかな笑みを浮かべた少女が立っていた。銀色に近いブロンドの真っ直ぐな髪を垂らし、薄水色の瞳を遠慮がちに彼に向けている。清楚な気品のある容姿からして、この家の娘のようだ。

「あの……ご気分はいかがですか?」

 瞬き一つせず彼に見つめられ、彼女は戸惑いの表情を浮かべながらもう一度尋ねる。

「あっ、すまない。すっかり良くなったよ」

 彼は僅かに口元を弛めた。ここは、これまでの彼の生活とはあまりにかけ離れた場所だった。毎日、生きるか死ぬか瀬戸際の殺伐とした日々を過ごし、その日一日食べて生きていくことだけで精一杯だった。この綺麗に整えられ、花の甘い香りが漂う部屋は、彼には場違いな居場所のような気がした。

 彼の様子を見て、少女はホッとしたように微笑む。

「安心しました。随分長い間眠られたままでしたから」

「あぁっ、それよりここはどこなんだ? 俺は一体……」

 彼はふと、気を失う間際に現れた黒いマントの騎士のことを思い出す。彼に強い力で抱き起こされたような感触が甦ってきた。あの騎士がいなければ、彼は今ここにはいない。あの場所で息絶えていたかもしれない。

「彼は? 黒い騎士は?」

 命の恩人である騎士のことが気になったが、その時、良く煮込まれたスープの香りが、彼の鼻に漂ってくる。一日以上何も食べていない彼にとって、それは全てを忘れてしまいそうな程の良い香りだった。忘れていた空腹感が再び襲ってくる。香りは少女の背後から漂い、後ろにはトレーに食事を乗せた侍女が控えていた。

「どうぞ、温かいスープをお飲みになって下さい。もっと元気になられますよ」

 侍女のトレーにくぎ付けになっている彼を見て、少女はクスリと笑った。

「あ、あぁ。ありがとう」

 彼は自然と笑顔になる。こんなに優しく温かい気持ちになれたのは、何年ぶりのことだろうか。彼はほんのスープ一杯に、この上ない幸せを感じた。



 彼が温かいスープを飲み干し、一息ついた後、この屋敷がウィンスタンのストーニー家という貴族の屋敷で、少女がカティーナという十三才の娘であることを知った。

「俺は、セテ・グラウス。もうすぐ十五になる」

 彼は短く名前と年だけを伝えた。セテは幸運にも、十五の誕生日を無事に迎えることが出来そうだ。

「俺を運んできた黒い騎士は今どこにいる?」

「エリヤ・テミス様ですか? あの方は馬の様子を見に行くと言われていました。多分、お庭にいらっしゃると思います。」

 元気を取り戻したセテは、カティーナの返事を聞くが早いか、素早くベッドから起きあがり庭へと飛び出して行った。







 

続きを書きたいと思いつつ、なかなか更新が出来ませんでした…(^^;) 今回短いですが、あまり間隔を空けたくなかったもので取り敢えず書いてみました。まだまだ先は長いです。話しはそれていますが、徐々に繋がっていきます~

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