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第四十話 荒野の果て

 季節は既に春を迎えていたが、北国の春はまだまだ遠い。空はどんよりと曇り、今朝はちらほらと雪も舞っていた。辺りは見渡す限り荒野が広がり、人の気配は全くない。

 この、あまりに寂しい寒空の下、一人の青年が足を引きずるようにして歩いていた。青年と呼ぶにはまだ幼さの残る顔立ちをした、背だけがひょろりと伸びた痩せた騎士。彼の身なりは一応騎士の格好をしているが、服は薄汚れ腰に提げた剣も粗末な物だった。

──ちっ体中が痛む。なんとしても今日中にウィンスタンに到着しなければ……。

 彼は、果てしなく続く荒野を絶望的な眼差しで見つめた。目的地までの道のりは、まだ長い。彼は今朝、最北の地、ホロスから逃げるように旅立ったばかりだ。飲まず食わず、何時間もひたすら歩いた。しかし、目の前に広がるのは、荒れ果てた原野ばかりだった。

──くたばるにはまだ早すぎる。俺も元は貴族……このままのたれ死ぬ訳には……。

 彼は気力のみで、必死に歩き続けるが、既に足の感覚はなくなり、周りの景色も霞みはじめていた。弱りきった彼を、刺すように冷たい風が襲いかかる。彼はよろけながら、後ろを振り返る。もう誰も追っては来ない。宿屋で盗みがばれて、数人の男に殴りかかられた。剣を振りかざす間もなく、彼は宿屋の男達にボコボコにされ、ようやく逃げ延びたのだった。

──剣を取り出せたとしても、使い物にならなかったかもな。

 彼は腰の剣に目をやり、自嘲気味に笑った。剣さばきは、ほんの幼い頃習っただけだ。彼が騎士になる前に、戦により彼の家は取りつぶされた。父母もとうの昔に亡くなっていた。

──もう一度、剣が使えたら……。

 再び、強い風が彼を襲う。今度は風の力に負け、彼の身体はグラリと揺れると、そのまま地面に倒れこんだ。容赦なく吹きすさぶ冷たい風。倒れたまま瞼を開けると、暗い空からは、また雪が舞い降りてきた。体中の感覚が次第になくなっていく。彼は弱々しく息を吐きながら、焦点の定まらぬ瞳で、大地を眺めた。

 これが、目に映る最後の風景になるかもしれない。なんと寂しく色のない風景だろうか。彼がそのままゆっくりと瞼を下ろしかけた時、殺風景な寂れた景色の隅に黒い何かが映った。身を伏せている凍り付きそうな大地に振動が走り、何かが彼に近づいて来る。

 敵か? 味方か? 最後の力を振り絞り、顔を上げてその方を見る。蹄の音、馬の小さないななき。黒いマントが、彼の頭上にハラリとおりてきた。

「まだ子供じゃないか。こんな所で眠ってしまうと、永遠に目覚めることは出来ないぞ」

──黒い騎士……どうやら敵じゃなさそうだ。まだ運に見放されてなかったようだ。

 声を出す力も残っていなかった少年は、微かに口元を弛めるとそのまま気を失った。



 次に彼が目を覚ました時、世界は一変していた。

 暖かな温もり、柔らかな肌触り、仄かに香る甘く優しい香り。暗く荒んだ世界から天国へ舞い上がったかのようだった。一瞬、本当に天国に来てしまったかと思ったくらいだ。しかし、彼はまだ生きている。暖炉で燃える赤々とした炎を見て、頬にその熱を感じた時、彼は実感した。

「ここは、どこだ……?」

 柔らかなベッドから身を起こし、辺りを見回した。ベッドの側には白く小さな花束が飾られ、甘い香りを放っている。白いレースのカーテンのかかった窓の向こうからは、薄日が差していた。彼には時間の感覚もなかったが、身体の痛みと疲れはなくなり、頭はスッキリとしていた。

 品のある小ぎれいな部屋からみて、貴族の家であることに間違いはなかった。気を失う前に目にしたあの騎士はどこに行ったのだろうか? 彼がキョロキョロと部屋を見回していると、部屋のドアがゆっくりと開けられた。 








また、場面がガラリと切り替わりましたが、全て後で繋がっていきます。ちょっと行き詰まると、場面をかえてみると良いですね~(新たな発見)。また、新しく登場人物が現れました。彼と、あと一人で主な人物は出そろうかなぁ……? と思います。

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