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第三十七話 居酒屋の肖像画

 海から神々しく差してくる朝日をまともに受け、眩しそうに手をかざして、居酒屋の前に立っている一人の少女。彼女は薄目を開け、店に近づいてくる少年騎士達を見つめている。

──さっそく朝一番のお客が来たわ。えーと、一、二、三……六人も。今日も忙しくなりそうね。

 少女は軽く息を吐く。店にとってはありがたいことなのだが、朝から晩まで働き続けることを思うと気が滅入ってくる。

──それにしても、みんな随分若い。まだ、子供じゃない。チップをはずんでくれそうもないわね。

 少女は一通り少年達を吟味する。

──まぁ、でも、海の荒くれ男達よりは良いか。みんな育ちが良さそうだし、騎士の卵みたいね。そこそこ容姿端麗、可愛いし。

 少年達が居酒屋の直ぐ前までたどり着くと、少女は満面の笑みを顔に浮かべた。

「いらっしゃいませ!」

 目一杯の愛想笑いで扉を開け、若いお客達を招き入れようとする。

「おはよう。もう店の準備は出来た?」

 少女の笑顔につられ、笑顔でエリアスが問う。

「はい! お好きな席に座って、何でもご注文下さい」

 オリビエは、チラリと少女に目をやると軽く口元を弛め、エリアスと肩を並べて店に入る。

「おはようございます」

 続いてレスターとギリアンが、少女に軽く頭を下げて店に入って来る。少女はずっと笑みを絶やさない。そして、最後にリオとグレイシャスが続く。その時、海から一陣の風が巻き起こり、グレイシャスの羽織った白いマントが風を含み、ふわりとめくれる。マントは少女の顔を直撃し、少女は思わずよろけた。

「あっ、申し訳ありません! 大丈夫ですか?」

 グレイシャスは直ぐにマントをただし、少女の顔を覗き込む。

「あ、大丈夫です……」

 少女は目をこすりながら、顔を上げてグレイシャスを見る。

「良かった」

 海から降りそそぐ強い光り。光りを背に受けて緩やかな笑顔を浮かべるグレイシャス。少女は、その美しい凛とした顔から目が離せなくなる。

──何て綺麗な顔なの? まるで教会に描かれた天使のよう……ううん、天使よりももっとずっと綺麗。

 今まで数知れない大勢の客達を見てきたが、こんなにも完璧な容姿を兼ね備えた人物を目にしたことはなかった。

「どうかしましたか……?」

「えっ?」

「私の顔に何か?」

 じっと自分を見つめる少女に気づき、グレイシャスは顔に手をやる。

「いえっ……! その、つい見とれちゃって、いえ、何でもないです!」

 少女は頬を染め、何度も首を横に振る。

「あっ、あの、どうぞ中へ!」

 ようやくそれだけ言うと、少女は大きく頭を下げる。慌てた少女の様子を見て、リオはクスリと笑う。

「可愛いね。どうやら、彼女はグレイシャスを気に入ったみたいだ。いつものことだけど」

 少女に聞こえないよう、リオはグレイシャスに耳打ちする。

「行くぞ、リオ」

 グレイシャスは軽く咳払いすると、店の中へと入って行った。




 少年達は、まだ誰もいない店の一番奥の大きなテーブルについた。窓からは港の風景と広い海が見渡せる。港には人々が行き交う姿が見え、静かだった港も賑わい始めてきた。

「フーッ、やっとくつろげるな」

 椅子に座ったエリアスは大きく伸びをする。

「狭い船中じゃ、ちっともくつろげなかった」

「船なんてもうこりごりだ。全く、生きた心地がしなかったな」

 オリビエは肩をすくめる。

「あれ? あの絵って、彼女じゃないかい?」

 店の壁を眺めていたリオは、ふと壁に飾ってある一枚の肖像画に目を留める。それは簡単なデッサン画だが、丁寧に少女の姿が描かれてあった。

「あぁ、本当だ。この店で働いている彼女だね。生き生きしていて、とても良い絵だな」

 エリアスも絵を眺め感心する。

「何だか、この絵って、どこかで見たことがあるような……」

 じっと絵を見つめながら、ギリアンは頭を傾げる。

「有名な絵描きの絵だろうか?」

 レスターも少女の絵に見入る。


「ご注文はお決まりですか?」

 彼らが皆、壁の肖像画を眺めていると、さっきの少女が小走りにやってきた。皆は一斉に少女に注目する。

「あの」

 皆の視線を一気に浴びた少女は、戸惑いの表情を浮かべる。

「この絵のモデルは、君だよね?」

「あ」

 エリアスに問われ、少女はようやく気付いたように、壁の肖像画に目をやった。

「私、この絵好きじゃないんです!」

 戸惑いの表情の消えた彼女は、不満げな顔で口を尖らせた。











読んで下さってありがとうございます!

企画小説の執筆がありますので、次回更新は少し遅れます~

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