第三十三話 秘密の会議
「僕もレスターが仲間に入ることは賛成だよ。二人の旅よりずっと心強い」
夜も更け、静まりかえった部屋の片隅で、グレイシャスとリオとレスターは、密かに話し合っていた。灯りを灯さない室内は、互いの姿も見えないくらい真っ暗だった。
「ジョシュアの元に行き、グレイシャスとリオのお父様の敵を討つわけですね……」
レスターは、グレイシャスから詳しい事情を聞いていた。突然の誘いに、まだ戸惑いがあるが、このまま一人故郷に帰ってしまうのも気が引ける。
「しかし、私にそんな事が出来るでしょうか? まだ、真剣さえ扱ったことがないというのに……」
「それは、私もリオも同じこと。私達が行おうとしていることは、とても危険で命の保障さえありはしない。だが、騎士になるなら、この先命の危険にさらされることはいくらでもあると思う」
グレイシャスは目を伏せる。
「私達は皆、無力だ。本物の騎士の命を奪おうとするのは、無謀な考えかもしれない。だが、私はどうしても、お父様の敵を討ちたいんだ。それには、一人でも多く共に闘う仲間が欲しい」
声を潜めながらも、グレイシャスは力強く言う。
「分かりました。私で宜しければ、あなた方の力になります」
しばらく考えた後、レスターは決心を堅めてそう言った。
「そろそろここを出た方がいいな。日が昇らないうちに港まで行って、朝一番の船に乗ることにしよう」
リオは、既に準備していた荷物を持ち上げる。窓の外は、まだ暗闇が広がっているが、じきに夜は明けてくるだろう。
「リオ、グレイシャス、私には船の乗船代は……」
レスターは言いにくそうに口ごもる。
「構わない。旅の費用は私が工面する。レスターは私達に力を貸してくれさえすれば良い」
心配顔のレスターに、グレイシャスは口元を弛めて言った。
「ありがとうございます。実は、故郷に帰る旅費さえなかったもので、また、ギリアンに借金をしなければなりませんでした」
レスターは、頭から布団を被り、うずくまるようにして眠っているギリアンの方へ視線を移す。このまま、ギリアンに黙って去って行くのは心が痛んだが、ギリアンを危険な目に遭わせることは出来ない。レスターは自分のタンスを開けると、黙々と荷物を鞄に詰め込んだ。
準備が整うと、三人は足音を忍ばせ、そっとドアまで歩いて行った。そして、ドアに手をかけようとした時、突然ベッドの布団が払いのけられ、誰かの声がした。
「どこに行くの? 黙って出て行くなんて許さないよ」
ベッドから飛び降りた彼は、駆け寄って来ると、三人の前に立ちはだかった。
「ギリアン……起きていたのかい?」
そこにはギリアンが立っていた。レスターは暗闇の中で、彼に視線を向ける。
「話しを聞いていたなら、僕らの事情は分かるだろう。そこをどいてくれ、船の時間に間に合わなくなるから」
リオは口早にそう言うと、ギリアンに詰め寄る。
「ギリアン、私達はどうしても、ここを出ていかなければならないんだ。どっちにしろ、私はもう騎士団にはいられない。黙って行こうとしたのは悪かった……」
「三人だけで行くのは許さない」
レスターは声を和らげて言ったが、ギリアンはもう一度キッパリと言い放った。彼は弱気ないつもの彼らしくなく、毅然とした態度で立っている。
「僕も一緒に行く。僕もグレイシャス達の力になるよ」
ギリアンはそう言うと、真っ直ぐに三人を見つめた。
クリスマス企画の短編も執筆出来たので、遅くなりましたが、ようやく更新出来ました! これからも短編を書きつつ更新していくことになると思います。