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第二十四話 新しき住まい

「ここが、グレイシャスとリオの部屋です。六人部屋で、オリビエ、エリアス、ギリアンそして、私もここの部屋になります」

 ランプを手にしたレスターは、グレイシャスとリオに笑顔を向けると、部屋の扉を開けた。夕食が終わった後、取り巻く騎士団の団員達を振り切るようにして、グレイシャスとリオはレスターに部屋まで案内してもらった。

 決闘でローランに勝ったグレイシャスは、今や騎士団の英雄だ。グレイシャスの名は一日にして騎士団中に知れ渡った。団員達の中でグレイシャスの名を知らない者は、誰一人としていないだろう。

「ありがとう」

 グレイシャスは荷物を持ち、部屋に入った。

「窓際の一番奥と真ん中のベッドがあいてます」

 壁際と窓際に三つずつ向かい合ってベッドが並んでいた。ベッドの横には床頭台と小さなタンスが置かれていた。グレイシャスは一番奥のベッドに向かおうとする。

「私も必ずグレイシャスが勝つと信じていました。素晴らしい試合でしたね」

「ありがとう……」

 グレイシャスは軽く微笑む。

「では、ごゆっくり。私はもう少し広間にいます。良ければ後で来て下さい。あなた方ともっと話しがしたいです」

「今日はもう寝るよ。酷く疲れたから……」

 グレイシャスはレスターに背を向けたまま答えると、そのままベッドの方へ歩いて行った。

「そうですか。それでは、お休みなさい」

 レスターは一礼して部屋を出ていった。ランプの灯りの消えた部屋は、途端に暗くなる。リオは真ん中の床頭台に置かれているランプに灯りを灯した。その間、グレイシャスは服を着たまま倒れ込むように、ベッドに身を投げた。ヴェスタからの旅の疲れと決闘の疲れが一気に押し寄せてくる。一日のうちに様々な事が起こり、グレイシャスは心身共に疲れ果てていた。

「グレイシャス、大丈夫?」

 ベッドに横たわり身動きしないグレイシャスを、リオは心配気に見つめる。

「平気だ……一晩寝れば回復する」

 グレイシャスはゆっくり寝返りを打つと、眠たげな目をリオに向ける。

「リオ……私に何か隠し事をしていないか?」

「隠し事……?」

 リオはベッドに腰を下ろし、口元を弛める。

「一体何のこと?」

「私はまだ納得出来ない。ローランは私にわざと負けたような気がする……」

「そうじゃないよ。君も言ってただろ、偶然ローランの目に日の光が入ったって。あのままじゃグレイシャスは負けたかもしれないけど、太陽が君に見方してくれたんだ。君は運が良かったんだよ」

「本当にそうなのか……?」

 グレイシャスは欠伸をかみ殺し、どうにか目を開けるが直ぐに激しい睡魔に襲われる。

「本当に……」

「それより、これからのことが心配だな。今のところ誰一人君のことを女だとは思っていないけど、ここにいるのは君以外全員男だ。いつ本当のことが分かるか──」

 いつの間にか、グレイシャスの瞼は閉じられ、静かな寝息が聞こえてきた。リオはその寝顔を見下ろしながら、フッと笑った。

「心配しているのは僕だけか」

 リオは立ち上がると、グレイシャスにそっと掛け布団をかけた。

「けど……グレイシャス、グレイシアは汚れを知らない純真な貴族育ちだから、僕が守ってやらないと……」

 天使のような寝顔で安らかに眠っているグレイシャスを見つめながら、リオは呟いた。





 団員達はとうに眠りについたその日の夜更け、ローランと同じく騎士団の副団長を務めているアーガスが騎士団に帰って来た。

「優雅なものだな。一人で月を見ながらの晩酌かね?」

 ソファに深く腰掛け、窓の外を眺めながらワインを飲んでいたローランに、アーガスは声をかける。

「今日は上等なワインが手に入ってね。今ちょうど味見をしていたところさ。実に良い味だ。君も味わってみるかい?」

「いや、結構。それより、ジョシュアはとうとう見つからなかったそうじゃないか。また一人団員が減ってしまったな」

 アーガスは軽くため息をつく。

「彼は行ってしまったが、今日は新しく二人も団員が入団したよ」

 ローランはそう言って微笑むと、机の引き出しの中から二枚の紹介状を取りだした。それは、グレイシャスが決闘で勝った代わりにローランが作った紹介状だった。

「グレイシャス・フィリス、リオ・フィリス」

 アーガスは紹介状に目をやり名前を読み上げる。

「彼らは、少しはものになりそうかね?」

「二人とも良い騎士になる素質がある。特に、グレイシャスの剣術の腕前はたいしたものだった」

 ローランはフッと笑う。

「実に優雅で美しい剣さばきだった。今までに見たことのない美しい少年騎士だよ」

 彼はそう言うと、グラスに入った残りのワインを一気に飲み干した。










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