表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/52

第二十二話 夕暮れのデュエロ

 赤く染まった西の空を、鳥の群がゆっくりと飛んでいく。太陽は西の彼方に沈みかけ、もうじき夜の闇が辺りを覆い始める。

 愛馬を馬小屋に繋いだオリビエは、真っ白なマントを翻しながら、騎士団の建物へと入って行った。今日も一日騎士団を離れ、キルテアの街を遊び歩いた。街の若い娘達は、彼が来るのを楽しみに待っている。彼にとってはそれが日課であり、咎める者は誰もいなかった。だが、今日はいつもとは違う。

「グレイシャス・フィリス……」

 オリビエは軽く舌打ちし、いまいましそうにその名を呟く。広場でグレイシャスに出会ってから、彼の気分はむしゃくしゃしていた。

「彼奴も今日からここの団員か」

 これから毎日グレイシャスと顔を合わせるかと思うと、余計に気分が悪くなってくる。オリビエはグレイシャスのことを考えながら、広い廊下を歩いて行く。もうじき夕飯の時間になり、団員達は自由時間のはずだ。いつもなら団員達が館中に溢れ、騒がしくなっている。だが、今日は広い廊下に誰一人としていない。館は水を打ったように静まりかえっていた。

 不思議に思いながら、オリビエが自分の部屋に戻ろうと廊下の角を曲がった時、急いで走って来るエリアスに出くわした。

「あぁ! オリビエ! やっと帰って来たかい」

 エリアスは息を弾ませながら、彼に笑顔を向けた。

「何事だ? みんなはどこへ行った?」

「決闘だよ! 君も今すぐ闘技場に行った方が良い。騎士団始まって以来の、見応えある決闘が行われているんだ」

「決闘……? 一体誰と誰の?」

「ローランとグレイシャスさ」

「グレイシャス……!」

 オリビエはポカンと口を開けたまま、エリアスを見つめ返す。彼にとって、今は一番耳にしたくない名前だった。

「そう、君もさっき広場で彼に会っただろ。あのグレイシャスさ」

「……何故、彼奴がローランと決闘なんか?」

「この騎士団に入団するためさ。彼らは正式な紹介状を持って来なかったらしい」

「けど、わざわざ決闘などしなくても……」

「そうだよな。僕も彼らに言ったんだけどね。ローランに話しをつければ簡単に入団出来ると」

 エリアスは口を曲げて含み笑いする。

「グレイシャスは不正を許せない質らしい。と、言うより、僕にしてみれば、単に融通の利かない石頭にしか見えないけれど」

「フン、馬鹿な奴だ。だいたいローランにかなうわけはないじゃないか」

「あ、君もそう思うかい? 勝つのはローランだと」

 吐き捨てるように言うオリビエに、エリアスは身を乗り出して尋ねる。

「当たり前だ」

「と言うことは、君もローランに賭けるんだね」

 エリアスは意味ありげにオリビエを見つめて微笑むと、逆さに持った羽根飾りのついた帽子を彼に差し出す。その中には既にたくさんのコインが入っていた。

「掛け金はいくらでも」

「馬鹿馬鹿しい賭けだ。だいたいグレイシャスに賭ける奴などいるのか?」

 オリビエは帽子の中に銀貨一枚放り込んだ。

「僕とリオはグレイシャスに。あぁ、レスターもグレイシャスが勝つと言ってたな。ま、彼は賭け事はしないけどね」

 エリアスは大事そうに帽子を抱え、ニコリと微笑んだ。

「さ、早く行こう。決闘はもう始まっているよ」




 広い闘技場に大勢の騎士団の団員達が集まっている。みんな固唾を呑みながら、新入りの少年騎士とローランのまわりを取り囲み、二人の試合を見守っていた。華奢で小さなグレイシャスと大柄で逞しいローラン。力ではどう見ても、グレイシャスに勝ち目はない。

 激しくぶつかり合う棍棒の音が、静まりかえった闘技場内に響き渡る。二人はさっきから何度も何度も棍棒を打ち合わせているが、グレイシャスは防戦一方だった。ローランが振り下ろす棍棒を受けとめるのが精一杯だ。彼女は肩で息をしながら、歯を食いしばってローランの棍棒を交わす。今にも棒が折れてしまいそうだった。

──負けるわけにはいかない……絶対。絶対勝たなければ!

 グレイシャスは身をかわし、辛うじてローランの棍棒から逃れた。

──お父様のためにも……。

 グレイシャスは体勢を整えて、ローランと向き合う。

──私は、勝つ!

 真っ直ぐにローランを見据え、グレイシャスは力の限り棍棒を振り下ろした。









ようやく決闘デュエロまできました!

お話はまだまだ続きます…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ