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第十八話 入団の条件

 オリビエと別れたグレイシャス達は、キルテアの中心街を抜け、騎士団のある小高い丘への道を進んで行った。進むに連れ中心街の賑やかさとはうって変わり、人通りは少なく静けさが増していく。木々の生い茂った丘から聞こえてくるのは、風のざわめきと鳥たちの歌声だけだった。

「恐ろしく静かな所だと思わないかい? 僕やオリビエが抜け出したくなる気持ちも分かるだろ?」

 道を進みながら、エリアスは言った。

「修行をするには最適の場所だ。邪念も入らず集中出来る」

 同意を求めるエリアスに、グレイシャスは素っ気なく答えた。

「そうかい? 僕には陰気くさく見えるんだけどね。まるで囚われの身の囚人みたいな気分になるよ」

「あ、建物が見えてきた。あの煉瓦造りの建物が騎士団かい?」

 前方を見上げてリオは言った。リオの視線の先には、煉瓦の建物の一部が見えた。その古めかしく大きな建物は、丘の頂上に位置し丘全体を支配しているかのように、堂々とそびえ立っていた。

「そうそう、あの暗い建物を目にするたびに、僕の気分は滅入っていくばかりさ」

「立派な建物じゃないか。ブライド様の立てられたあの場所で修行が出来るなんて光栄だ」

 ため息をついているエリアスに、グレイシャスは目を輝かせて言った。

「実際に君も生活してみれば、あそこがどんな所か理解出来るよ。ところで、君達はご両親と一緒じゃないけど、紹介状はちゃんと持って来たかい?」

「紹介状……?」

「……その顔つきだと、どうやら持ってないみたいだな」

 目を丸くしているリオ見て、エリアスはフッと笑った。

「紹介状が必要なのか?」

 グレイシャスは後ろを振り向き、エリアスに問う。『勇隼騎士団』に行きさえすれば、簡単に入団出来るものだと、グレイシャスは考えていた。

「君達は親に内緒で入団しに来た訳だ」

「紹介状がないと入団出来ないのかい?」

 エリアスと並んで馬を進めながら、リオは心配そうに聞いた。

「そりゃそうさ。誰でも入団出来るって訳じゃない。どこの生まれでどこの家系なのか、騎士団は知る必要がある。身分検査の他にも、入団する時は簡単な剣術の試験がある」

「……」

 グレイシャスは軽く息を吐くと、馬を止めた。ブライドに相談すれば、リオなら問題なく入団出来るだろう。だが、女のグレイシャスの入団を、ブライドが認めるはずはない。

「どうする? 入団は諦めるかい?」

「……いや、ここまで来て諦める訳には……」

 グレイシャスは唇を噛みしめる。

「紹介状がなくても入団させてもらえないだろうか? 剣術の試験なら、グレイシャスは簡単に合格出来ると思う」

「まあね、真剣を使えるくらいの腕前だからな」

 エリアスはオリビエに剣を突きつけたグレイシャスを思い出して笑った。

「それより、簡単に入団出来る良い方法を僕は知っているんだ」

「本当か?」

「君達は運が良いよ。今日は堅物のアーガスが留守で、ローランしかいない」

「アーガス、ローラン?」

 聞き慣れぬ名前に、グレイシャスは問い返す。

「ブライド様の代わりに、騎士団の副団長を任されている二人だよ」

「それで、どうすれ良いんだ?」

「簡単に言えば、賄賂だ」

「賄賂?」

「君達は身分も良さそうだし、どうってことはないだろう。ローランは優秀な騎士だけど、たぐいまれなる酒好きで、酒には目がないんだ。特に極上のワインでも振る舞えば、彼は何でも簡単に言うことを聞いてくれるさ。紹介状なんて何枚でも調達してくれる」

「……」

「オリビエの目に余る行動が何の咎めもなく許されるのは、ローランのお陰だと言ってもいいさ。何たって彼はほとんど毎日のように、彼にワインを寄贈しているからね」

 後ろで声を立てて笑うエリアスに、グレイシャスは眉をひそめる。曲がったことが嫌いなグレイシャスにとっては、吐き気がする取引だ。だが、今更ここで入団を諦め、故郷に帰る訳にはいかない。

「グレイシャス、どうする?」

 黙りこんでいる彼女に、リオは聞いた。

「彼に頼んでみる?」

 グレイシャスは大きく息を吐くと、軽く馬の腹を蹴った。

「私は賄賂など送らない」

「え?」

「とにかく、その男に会って話しをしてみる」

 彼女は真っ直ぐ前を向き、馬を進めた。









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