~グランドガイアの姫君~
「……何故姫様のような御方がこのような場所に。」
彼女の正体が分かった今、先ほどまでと同様にタメ口で話してしまうほど礼儀がないわけではない。
「それは数日前、御城から抜け出したことから始まりますわね……」
少し前までは今にも死にそうな位衰弱しきっていたはず…なのに、そんなこと無かったかのように目を瞑り流暢に語り始めようとする。
「ち、ちょっと待ってくれ……あんたさっきまで死にそうな感じしてたよな??何でもうそんなに元気そうなんだよ。」
あまりの変容ぶりに口調がタメ口に戻ってしまった。
「あぁ、それは私の固有能力によるものですわ。」
何の躊躇もなくあっさりと種明かしをする。
「いや、聞いたのは俺だが、そんな簡単に教えていいものなのか??」
「いいのではないかしら?
それに、貴方方は私の命の恩人です。そんな方達に嘘なんてつけるはずがありませんわ。」
何故そのようなことを?と言わんばかりに首を傾ける。
「はぁ……そりゃまぁ、そうかもしれんが……だとしてもだ。第一俺達があんたの命を救った本人かどうかなんて分からんだろ。」
一つため息をつくと、違う可能性もあることを伝える。
「それは…考えていませんでしたわ……。
人が全然違いましたので、私に治癒魔法を掛けてくれた御方のお仲間か何か、そう思っておりましたわ。」
失念しておりましたわ……と見た感じだけはやらかしたと言わんばかりに額に手を当てていたが、彼女の声色からはその様な感情は読み取れなかった。
むしろ、そんなこと問題ではないと言われているような気さえした。
「んま、あんたに治癒魔法をかけた人の仲間で間違いはないがな。
つうか、分かっててあんなわざとらしい言い方しただろ?」
「あら?そんなことはありませんわよ?
事実、貴方達が私を助けてくれたのだとしか思っていなかったですもの。」
何を言っていらっしゃるのかしら?と小さく呟く。
「…ルナリス、そんな会話よりもっと話す事があると思うんだけど、そこんとこどう思うかな?」
そんな中、二人の会話を半歩後ろから静かに聞いていた萌衣が口を開く。
「あら、会話するくらいいいじゃない。」
ルナリスは、ハヤトの方を向けていた顔を萌衣の方へと向けた。
「会話は構わないよ。けど、せめて時と場所くらいは考えようよ。
今、ルナリスは仮にもお城を抜け出してきてるんだよね?だったら今ごろグランドガイアは大騒ぎになっているんじゃないのかい?」
「そんなこと知らないわ!
勝手に大騒ぎしていればいいのよっ!!あんなわからず屋の御父様が統治している国で暮らすなんて死んでも嫌だわ!」
萌衣がグランドガイアのことを口に出すと、それに対してルナリスが子供のように否定する。
「はぁ…また、王様と揉めたのか……。」
ルナリスの口ぶりに萌衣は『またか……』と頭を抱えた。
「ちょ、話の途中で悪いんだが……萌衣さんとあんたって関わりがあったのか?」
二人の会話に割ってはいるように、少し戸惑い気味のハヤトが気になってたことを口にする。
「あ、そう言えばまだ言っていなかったね。
ルナリスとは結構前からの知り合いでね、たまにこっそり遊びいったりしてはこうやって話したりしているんだよ。」
「ええ、そうよ。
きっかけは確か……私が盗賊に拐われたのを萌衣が助けた時だったわね。」
うんうんと何度か頷きながら、『懐かしいわね……』とルナリスが
ぼやく。
「それって今と同じ状況じゃねぇかよ。
どうせそのときも抜け出して捕まったとかそんな落ちなんだろ?」
「あら、よく分かったわね?」
感心したかのようにハヤトを見つめる。
「よく分かったわね、じゃないだろ…何でそう城から逃げだしてんだよ……。
お陰様でこうして巻き込まれてるんだぞ。」
「だって、それもこれもあの頭でっかちの御父様が悪いのですわ!!
勝手に私の婚約者を決めようとするんですもの!!
それと、先ほどからあんたあんたと呼んでるようですけど、私にはルナリス・アルティーニと立派な名前がございますの。
……アルティーニは余計なのですけど……。」
最後だけは聞こえないようにボソッと口からこぼすように。
「悪かったなルナリス。
にしても、そりゃまた大層な話だな。
ちゃんと嫌だって伝えたのか?」
「えぇ、取り止めにしてくれないなら此所を出ていくわ。って決意表明したわ。
なのに、御父様ったら受け入れてくるなかったのよ!!だからこうやって抜け出してきたのですわ。」
そうしてバッと立ち上がると手を拳にして、
「父上の頭でっかちのわかずやですわー!!」
と叫び始めた。
「おい、時間も時間だ。それにルナリス以外にも近くに人が居るんだ。
あまりうるさくするとご迷惑だろ。」
「あ…申し訳ありませんですわ……。」
ハヤトに叱られたことでしゅん…としてしまった。
「分かればいいんだ。
…なぁ、俺達これからグランドガイアに向かうんだがルナリスはどうする。」
ここでいつまでもうだうだ話し込むわけにはいかないので、本題を切り出した。
「貴方達、グランドガイアに用がおありなのかしら?」
「あぁ、そうだ。
ちょっと人捜しをしていてな。
んで、グランドガイアに居る可能性が一番高いから向かっているんだ。」
「あら、そうだったのね……良かったら私にも手伝わせてもらえるかしら?」
「いや…ルナリスは姫様なんだろ?流石にそんな立場の人に手伝わせるわけには……」
「私は助けていただいた事に対して恩返しがしたいのですわ。だから、譲る気はありませんわ。」
「まぁ、いいんじゃないかな?ルナリスが手伝ってくれるなら鬼に金棒だよ。
それに、ルナリスがこうやって自ら手伝おうとしてくれるのはとっても珍しいことだしね。
……多分、さっさと帰って王様に会いたいだけだろうけどね。あんな風にいってたけど、実はお父さんっ子だってことを知ってるのはここだけの話……。」
耳元でヒソヒソと萌衣が話してくるが、その声はすべてルナリスにも聞こえるようにわざとらしく少し張って話している。
「ちょっと萌衣!?余計なこと吹き込んでませんわよね!?」
やはり会話の一部が聞こえていたらしく、顔を真っ赤に染めたルナリスが萌衣へと近寄っては肩をつかみ前後に揺らし始めた。
「はは~、どうだったっけなぁ……??」
「とぼけないでくださいまし!?」
少しの間行われていた萌衣とルナリスのじゃれあいをハヤトはしばらく眺め続けていた。




