~討伐クエスト開始~
「さてと……ドラゴンだろうと関係ねぇ、こんなクエストさっさと終わらせてやる。」
萌衣から話を聞いて、クエストの討伐対象が潜んでいる大方の場所を教えてもらったハヤトは誰よりも早くそこへと到着していた。
あらかじめこの討伐クエストでは依頼を受諾した冒険者でそれぞれの配置が決まっていたりするのだが、そんなことどうでもいいと言わんばかりにハヤトはそれすら無視してここまで来ていた。
「ここで間違えてはないよな??」
回りを見渡す。
ちょっと大きめの岩があちらこちらに見られる以外特に大したものがない大地があるのみで。
「うーん……少し散策でもしてみるか。」
腰かけていた岩場から立ち上がると、一番高いであろう岩場に一っとびで飛び乗る。
「なかなか景色が良いなここ。」
推定百数十メートルの高さから辺りを見渡すと、やはり回りには岩ばかりしかなく。
ゆういつ前方の遠くの方に森のような場所が見えるくらいで。
「けど、萌衣さんが言ってたドラゴンの姿なんて見え……っ!?」
見えないな。と腰を下ろそうとした瞬間に悪寒が走る。
ハヤトは間に身を任せてその場から最速で駆け抜け、岩場から距離をとる。
距離をとったのとほぼ同時に先程まで立っていた岩場が粉々に砕け散る。
「おいおい……こんなでかいのどっから現れたんだよ!?」
粉々に砕け散った岩場から寸前のところで逃げること後で来たハヤトはその方向を見る。
そして、急に悪寒がした理由と岩を粉々に砕け散らせた張本人の姿を見て驚愕する。
そこにいたのは全身を漆黒の色に染め上げ、瞳を赤く輝かさせる巨大なドラコンがたたずんでいた。
「そりゃ、緊急討伐クエストが発令されるわけだ……それに……」
先程までは倒す気満々でいたハヤトも、討伐対象の全貌を見ただけで戦意が削がれていた。
ドラゴンの風貌だけでなく、間近の距離で放たれる威圧にも気圧されているのもまた事実だった。
「くっそ…これ相手に俺は一人で勝てるのか??」
思わず口に出して自らに問いかけていた。
「だが、シア達を連れてこなかったのは正解だったな……。」
その通りで、シアたちも一緒に同行していたら恐らく最低一人か二人は命を落としていたかもしれない。
いくらチート級のステータスをもっているハヤトと言えど、もとは高校生であり、今目の前にいる強さが未知過ぎるドラゴンを相手に全員を守り抜く余裕を持つことは不可能に近いと言える。
「それに今の俺は……あの街を……この世界を救うために動く訳じゃないんだ……。」
ハヤトは心のなかで決心する。
街を、この世界を救うために来たかもしれないが、それでも今は違う理由で討伐することを成し遂げてやると。
その"理由"ですら成すことが出来ないなら、この世界を救うことなんて不可能だから。
「そうだ俺は……」
少しずつ、呼吸を整え、硬直を解く。
……色々と考えているうちに、全身を駆け巡っていた悪寒や恐怖心はとっくに消え去っていた。
「"勝てるかどうか分からない"なんて理由で負けるわけにはいけないんだ……何がなんても絶対に勝ちをもぎ取ってやる……っ!?」
真横をなにかが通り過ぎる。
それは、待っていることにしびれを切らしたドラゴンの口から放たれた黒い炎だった。
「くっそ……やってやるっ……!!」
また芽生えてきそうになる恐怖心を、自分の頬を殴り、カツをいれることでそれを消し去る。
「…負けていい道理何てない……。
過去に守れなかったものを、今は守り通すために……絶対に……ここなら全力でやっても大丈夫だろ……」
口ではそういいつつも、念には念をいれて結界を張る。
「これで思う存分やれるな……」
漆黒のドラゴンは今にも遅い来るような勢いでこちらを睨んでいる。
「さぁ、お手並み拝見といきますか……どりゃっ!!」
たった一蹴り地面を蹴りあげるだけでドラゴンが滞空している推定百数十メートルの高さまで飛び上がると、勢いに任せてかかと蹴りを繰り出す。
が、当然のようにそれは防がれ、お返しと言わんばかりに長い鋭利な爪でハヤトを切り裂かんとする。
「おっと!?あっぶねぇなっ!?」
制御が効きにくい空中でも、体を捻り動かす要領で爪が当たる軌道から間一髪で逃れる。
「グアァァアァォ!!」
今ので仕留められると思っていたのだろう。
分かりやすく怒りの咆哮をあげる。
「くそ……なんだよあの鱗は、固すぎるだろうが。」
正直なところ蹴りや殴り等生ぬるい手段ではあの鱗を突破することはできないだろうな……蹴りを一発いれての正直な感想だった。
「グルガアァァ!!」
咆哮をあげたかと思うと、ハヤトめがけてその大きな口を開けて噛み砕こうと迫ってくる。
「ど、どうする……っ!?」
先程はなんとか捻ることで起動を変えて避けることはできたが、流石に続けては不可能である。
どうすれば良いのか考えていると、急に頭の中がスッキリしていく。
そして、今の自分がどんな魔術を使えて、どうしたら一番効果的なのかが頭のなかに何処からか流れ込んでくるような……そんな現象によって鮮明に思い浮かぶ。
ハヤトはこの現象に覚えがあった。
こちらの世界に来て、どうしたら良いのかわからなくなったときに頭のなかに術が思い浮かぶ感覚。
まるで小さな子供が親に質問をしたら、優しく答えを教えてくれるような……そんな感覚だった。
別の言い方をすれば、自分のなかに自分ではない"何か"が潜んでいるような……そんな感覚でもあった。
そして前に、こんな感覚になったときと同様に自然と口からある言葉が紡がれる。
「『聖なる光よ、汝を立ちはだかる邪物を、汝の先を切り開くために滅せよ。』」
それは古代に使われ続けられてきた、全ての有象無象を生み出す根源である原霊に直接魔力を媒介として語りかけることにより、より協力な魔法を唱えるための方法。
以前にハヤトは古代魔法を使ったことはあるのだが、今使った魔法はそのときに使ったものとは比べ物にならないほど強力なものである。
……直後ハヤトを中心とする半径数百キロの距離に渡って数秒間の間全体が眩しすぎるほどの光で白一色に染まる。
光が収束する頃には、目の前まで迫ってきていたはずの漆黒のドラゴンの姿はなかった。
その代わりに、漆黒のドラゴンが居たであろう空中には、ブルーアイズに全身が真っ白い鱗に包まれた、実に綺麗なドラゴンがいた。




