~ドラゴンの娘~
「お前、本当にさっきのドラゴンで間違いないんだよな……?」
ハヤトは目の前にいる小さな少女にもう一度問いかける。
「ひぅっ……な、なのです!」
ビクッと体を震わせて言葉を返す。
「……あのな、流石にそこまでビビられると傷つくんだが?」
「ご、ごめんなのです!!殺さないでくださいなのですっ!!」
「……それは、殺してくださいって言ってるのと捉えてもいいんだな?」
「そ、そうじゃないなのです!?」
「ははっ!!」
首を猛スピードで横に振る少女を見て思わず吹き出してしまう。
「わ、笑われたなのです??」
「あぁ、すまんすまん。反応が面白くてな?
それと、さっきまでと話し方が全く違うな?」
「そ、それは、ドラゴンの姿の時は偉そうにしなさいってお父さんが言ってたからなのです!
今の話し方の方が地?なのです?」
少女は、こてん。と首をかしげる。
「俺に聞くなよ……んで、一様聞くがまだ戦うのか?」
何となく結果は見えているが念のため相手の気持ちを聞く。
「戦うわけないなのです!!勝てるわけないなのです!!降参なのです!」
よほどハヤトと戦うことが嫌みたいで早口気味で次々と言葉を並べる。
「そうか。ならもう戦いはしないから安心しろ。」
危害を加える気のない生物を殺す気は元々ハヤトにはなかった。
それが例え少し前まで本気で殺しに来ていたとしても。
「ほ、ほんとなのです!?」
「あぁ、本当だ。」
「ほんとうのほんとうなのです!!?」
「しつこい。」
ぱすっと少女の頭部に軽く手刀を落とす。
「あぅっ!ご、ごめんなのです……」
「分ければいい。
そういやお前の名前をまだ聞いてなかったな。」
「私の名前なのです?」
「そうだ。」
「私は竜人族のカティア・ルースなのです!」
「カティアだな。俺は神咲ハヤトだ。」
「カンザキハヤトさんなのです!」
にこっと笑って自分の名前を呼んでくるカティアに笑い返す。
「それと、今から傷を治すからじっとしてろよ。」
「そこまでしてくれなくていいなのです。竜人族はこのくらいの怪我には強いなのです!!」
えっへん!と腰に手を当て胸を張る少女にハヤトは
「さっきまで痛がって泣いてただろうが。」
「うぅっ……そ、そんなことないなのです!?」
図星をつかれて挙動不審になって泣きそうになっているのを見て、悪戯心が姿を現し……
「まぁ、痛くないって言うんなら治さなくてもいいよな?」
「あぅっ……」
「いいんだよな??」
「ご、ごめんなのです!!本当は痛いなのです……治してくださいなのです~!」
泣きそうだったのが今はすでに涙がこぼれていて、そのまま勢いよく抱きついてくるカティアにとっさの反応で受け止める。
「おっと!……急に抱きついてくるな。」
「あわわ、その…つい、なのです……」
カティアは、何故かぱっと少し名残惜しそうに離れる。
「まあいい。
何処が痛いか教えろ?って言うか、ほとんど無傷そうに見えるんだが……?」
「そんなことないなのです。ここ見てくださいなのです、翼が欠けてるのです。すっごくいたいなのです……」
背中に生えた翼を見せてくる。
それは、一部が傷付き、欠けて無くなっている。
「翼ってドラゴンにとってはかなり重要なパーツなんだよな?」
「はいなのです。ちょっと傷ついたり、欠けたりするだけで飛ぶのが遅くなったりするなのです。
だから、簡単に傷つかないよう体とどこよりも丈夫なのです。」
「そのわりには翼以外は傷ついてないように見えるんだが?」
「えっとそれは、咄嗟に翼で守ったからなのです。」
『こんな風になのです』と左右の翼で自分の身を守るように覆い尽くす。
すぐに翼を背中に戻すが、やはり傷ついているのと痛みからだろうか動きが鈍くあった。
「そうだったんだな。痛い思いさせて悪かったな。」
そっと優しく頭を撫でる。
「ふぁ……なのです♪」
さっきまで泣いていたはずの顔は、今は『にへへ♪』ととてもにやけている。
「すぐに治してやりたいんだが、そのためにはその翼の構造を理解しないといけないんだよな……」
「構造なのです?」
「あぁ、じゃないとまともに治せないんだよな。」
魔術はそれをよく理解することで、よりよい効果を得ることができる。
それは全てに共通する。例えば、火属性の魔術を使用するときは『何を糧にして燃えるのか』『どの物質を調整すればより火力の高い火が生まれるのか』が重要になってくる。
そして、ハヤトが今から使う聖魔術(治癒魔術)で重要なことは、『治す対象の構造を理解する』ことにある。
理解をすることができれば、しないときよりも強い治癒効果と回復速度を得ることができるからだ。
「と言っても、ある程度は見当がついてるんだけどな。」
「そうなのです?」
「あとは、直接触って魔力の流れを読むだけなんだが。」
「さ、触るなのです!?」
「ん?触ると何かまずいのか?」
「え、えっとなのです……さ、触っても大丈夫なのです!」
「そうか?なら触るぞ?」
少し顔を赤く染めるカティアに疑問を浮かべつつも、傷を治癒するために翼を触ることを再度確認する。
「は、はいなのです!//」
痛くないようにと、優しくカティアの翼に触れる。
「んっ///」
触った直後にカティアの体がビクッと反応して、口から甘い声が漏れる。
「おい、動かれると魔力の流れが読めないだろうが。」
「だ、だって、翼は魔力が流れるから他のところより敏感だから我慢できないなのです~!///」
「やっぱりか。だが、治すためだ我慢してろ。」
「ふえぇ……わ、わかったなのです……」
再度翼に触れる、ぷるぷると震えるものの先程よりは動いていないため魔力の流れを読むことはできた。
そして、『構造』『魔力の流れ』を頭のなかでイメージして、翼の形を構築する。
「さ、治すぞ。『完全再生』」
そう口ずさむ。
すると、ハヤトが触れているカティアの翼が光を帯びる。
「ふあぁ、なんか暖かいなのです~♪」
光が少しずつ収縮していき、ついに消えたときには傷付いていた翼はきれいに元通りの形を取り戻している。
「ほら、見てみろ。綺麗に治ったぞ。」
「ふぁ、ホントなのです!!♪」
自分の翼の傷や欠けていたところが綺麗に治っているのを確認して喜んでいる。
「だ、旦那様、ありがとうなのです♪////」
恥ずかしそうにお礼をいってくるカティアにハヤトは笑顔を返すが、その時のカティアの台詞が引っ掛かる。
「……は?旦那様??」
「はい♪旦那様なのです♪」
にぱっとまぶしい笑顔を浮かべる。
「ちょ、ちょっと待て……俺はカティアの旦那になった覚えはないんだが?」
「えっとなのです、私のところの竜人族の掟では、異性に自分の翼か尻尾を触らせることは、しょうがい?をともにすることだってお父さんが言ってたのです!」
カティアの話を聞いたハヤトはこめかみに手を当て、ため息を付く。
「なんでそれを先に言わないんだ……」
「てっきり知ってるものかと思ったてたなのです……怒ってるなのです……?」
「いや、怒ってはないが……どうしたもんかとな。
カティアは治癒するために触っただけのことで、そんな大事なことを決めて良いのか?と言うより、俺なんかで良いのか?」
ハヤトは、友人関係を一度持ったら大切にする方で、相手から離れていかない限り自分から離れていくことはなかった。
そんな性格だからこそ、もとの世界では校内でも、校外でも知っている人たちからは人気があった。
それでも、それはあくまでも友人関係や近所付き合いに限るもので、恋愛関係に発展することも抱くことなどは一切なかった。
だがそれもこちらの世界に来て、エリシアに会い、リネスに会い、考え方が変わっていった。
好きになると言うこと。LIKEではなくLOVEに近い方の好きであることの気持ちの大切さ…少しずつではあるが理解し始めていた。
本当に少しずつではあるが……
そのため、そんな簡単に決めて良いものなのか。とハヤトは思っていた。
「最初は怖かったなのです。けど、旦那様は本当はとっても優しい人だって感じたなのです♪
きっと、旦那様ほど優しい方なんてそうそう居ないなのです!
お父さんが、『一度良いなと思ったやつは逃すな』って言ってたなのです。」
「それって……」
「ひとめぼれ……なのです??」
「いや、俺に聞くなよ。……もし、俺がカティアの旦那になるのを断ったらどうなるんだ?」
「…大人しく私の古郷に帰るなのです。」
「そんな簡単に帰るのか?『一度良いなと思ったやつは逃すな』ってお父さんから言われたんじゃないのか?」
「言われたなのです。けど、その人のいやがることをしたくはないのです!」
堂々と言い切るカティアに、『ほぉ……』と感心する。
(カティアなりにちゃんと考えてるんだな……なら、俺がそれにどうこう言う資格はないな。)
「だから、旦那様がいやなら帰るなの……です?」
だから、とうつむいて言葉を続ける少女にハヤトは手をさしのべる。
「ほら、行くぞ。」
さしのべられた手を見て疑問を浮かべるが少女にそう声をかける。
「えっと……なのです?」
「…その、今すぐカティアの旦那になってやる。とは言えない。
けど、一緒に過ごしていればいずれ答えが見つかるだろ?焦らずにゆっくりと考えて、見つけていけばいい。
だから、それまでは好きなだけ一緒にいて、好きに過ごしていけば良いって俺は思う。
カティアがそれでも良いって言うなら、俺はその気持ちを否定したりはしない。」
ぎこちないなくはあったが、その優しい笑顔にカティアは……
「ついていくなのです!!一緒にいるなのです♪」
またも勢いよくハヤトに抱きつくのであった。




