~初めての冒険者クエスト5~
「嘘だろ……それに気のせいでなけりゃこっちに向かってきてる、よな!?」
最初は薄暗かった程度の大きな影は今やどんどん暗さを増していく。
当然その影を作り出している本体は遠くから見えたときよりも断然大きく普通の冒険じゃならどうしようもない生物であった。
「こんなところでドラゴンが現れるとか……どんだけ運が悪……いやいい方なのかもしれないな……」
確かドラゴンは伝説種に入る生物、滅多に現れるものではないはずだ。と考えるハヤトは試しに戦ってみようと考える。
いざ危険に陥ったとしても本気で逃げに専念すれば確実に逃げ切れるだろうと考えた。
それに、今の自分がどのくらいやれるのか、最後に戦ったときからどれだけ成長したのか……それが知りたかった。
ハヤトが一人でこの場にいたら実行していたかもしれない。
けど、今この場にはまだ初戦闘を終えたばかりのリリアとミミルがいる。
ただ、自分のためだけに二人を危険な目に遭わせるつもりは毛頭なかった。
「そうと決まれば…リリア!ミミル!今すぐ戻ってこい!!」
二人に向き直り急いで戻ってくるように呼び掛けるが全く反応がない。
「うぅ……っ!?……」
「ぇ……ひぐっ……」
先程までコブリンを倒せて安堵し喜んでいた二人も、今はもう近くまで迫ってきている暴力的なまでの存在に本能的に恐れ全くといっていいほど動けずにいた。
ゆういつ出来たことは声にならない声を漏らすだけであった。
「グルグアァァッ!!!」
物凄い速度で向かってきてたドラゴンはハヤトの方向、ではなくリリアたちのいる方向へと、既に真上まで迫ってきていた。
「くそッ!!」
ドラゴンはそのでかい図体から生み出される高い物理エネルギーもそうだが、炎を吐いたりレーザーを放つ等、種類によって異なるブレスを放つ生物。
その上知能もかなり高く、その場にいるもっとも弱いものから狩り尽くすと言われている。
「間に合え……ッ!!」
全力疾走。それでも間に合うかどうかわからなかった。
「あ、あぁ……ご主人……」
「ご主人、様……」
目の前に迫ってくる死に生きることを諦め、最後にと自分達が慕っていて、好きな人の顔を思い浮かべ目を閉じる。
それでもまだ死にたくない思いから一筋の滴がこぼれ落ちる。
……だが、くると思っていた衝撃は何時まで経ってもミミルとリリアの二人を襲うことはなかった。
その代わりに聞こえてくる大好きな人の声。
「勝手に諦めてんじゃねえよ!」
「え……ご主人…………?」
「ご、ご主人様……」
助かると一ミリたりとも思わなかった二人にとって今の状況はとても信じられるものではなかった。
目の前でたった一人、1本の刀でドラゴンに対抗していた。
「ぐっ!……はぁ、エリシアといい、お前らといい……何でそんなすぐ生きることを諦めてんだよ。」
高いステータスをもつハヤトでも何の付与も無く、刀のみでドラゴン相手はさすがに部が悪かった。
(はぁっ……チート能力でも力負けすんのかよ……)
「なぁ、俺はお前らの主人なんだよな?」
急にそんなことを聞いてくることに首をかしげるが、それでも大好きで慕っているご主人様であるので小さくではあるが首を縦に振る。
ハヤトはそれを視界の端にうっすらとではあるが確認する。
「だったら、主人である俺の言葉をもっと信じろ。
言っただろ幸せにしてやるって……だから、こんなところで死なせてたまるかッ!!」
全身に力を込める。
ただそれだけで今の対抗関係が変わることは決してない。
「リリア!ミミル!今のうちに遠くに逃げろ!!」
「え、で、でも……!」
「ご、ご主人様をおいてなんて……」
「いいからさっさと行け!!今お前らにいられても足手まといになるだけなんだよッ!!」
声を荒げて言われた『足手まとい』……その言葉にピクッと反応する……
「……ミミルちゃん行くよっ!」
「……うん……」
リリアはハヤトの方を見て動かないミミルをガクガク震えている足を無理矢理動かして引っ張ってこの場から離れる。
「やっと行ったか……お前も何時までもしつこいんだよっ!!」
横目で二人がどこかにいってくれたことを確認して一安心する。
そして、目の前のドラゴンに向き直りキレ気味で少しずつ押し返し始める。
『攻撃増加Ⅳ』『速度増加Ⅳ』を焦らず、落ち着いて自分自身に付与する。
「とりあえず、一旦距離をとらせてもらう…ぞっ!!」
付与をしたことにより、不利だった状況が変化する。
刀を握る手に力を込める。
「ここからは一切の手加減なしだッ!!」
ドラゴンの攻撃を防いでいた刀を持ちかえる。そのまま引き抜く要領で切りつけると同時に後ろに飛び退き距離を取る。
ドラゴンは切りつけられたことで大きな口の右の辺りに切り傷を負い、まさか人間ごとき相手に傷を負うことになるとは思っていなかったため、驚きつつおもむろにその大きな口は開ける。
「何をする気だ…?」
その疑問はすぐに解決されることとなる。
「くらえ!にんげん!!」
妙に高めで幼い声が聞こえたかと思うと、次の瞬間ハヤトに向かって蒼白の炎を吐こうとしてくる。
「ちょっ!それはやべえって!?」
迫ってくる蒼白の炎をみて、瞬時に悟る。
あれはまともに受けると死ぬ……と。
(けど、これ避けると二人が逃げた方にいくよな……万が一にも危険があるかもしれないからな……なら……)
「勝てるかわからんけど、殺るしかないよな?
けど、生半可な魔術じゃ押し負けるしな……ん~……あれ試してみるか……『太陽爆発』」
炎が放たれるまでの数秒。長いとも短いともとれる時間の中でハヤトはドラゴンが吐く炎に対抗できる魔術を構築する。
魔術として構築を成功させるためには、それがどのような環境で、何と混わり反応して起こるのかを理解することが重要である。
『太陽爆発』は元いた世界では最大規模の爆発である。
ハヤトは偶然それを見て興味を持ち知識を得ていたためどうしてその現象が起きるのかをよく理解していた。
そして、それに指向性を持たせることで『魔術』として成功させる。
魔術は瞬時に膨大なエネルギーを蓄え、爆発と言う形で放たれる。
衝撃でハヤト自身も後方へと数十メートル吹き飛ばされるが、何とか倒れないようにだけ耐える。
『太陽爆発』による爆発エネルギーはドラゴンが放った蒼白の炎と衝突する一歩手前でそれすらも自らのエネルギーとして吸収し強化する。
ドラゴンはと言うと……
「え……??」
意図も簡単に破られた自分のブレスを見ておかしな声をあげるのみだった。
そしてその直後にドラゴンを絶大な衝撃が襲った。
それから爆発エネルギーが消滅したあとにハヤトはドラゴンがいるであろう場所に近づく。
近づいて行く途中で回りの状況を見て思う。
「ん、やり過ぎたなこりゃ……」
あちらこちらの樹木が消え去り、地面もそこら中がえぐれている。
「次からは強制的に供給を断って威力を下げてみるか……?」
そんなことを考えていると何処からか幼い子の鳴き声が聞こえてくる。
「もしかしてだらか巻き込まれたか!?」
ハヤトは急いでその鳴き声がする方へと駆けつける。
そしてそこにいる子を見てちょっと思考停止したのちに言葉を発する。
「お前、もしかしてさっきのドラゴン……なのか?」
居たのは翼と尻尾を生やして泣きじゃくる小さな女の子だった。




