13話 災厄の一角
転生した異世界で自由気ままに生きていく
~チートじゃない?才能です!~
2章 王都動乱
13話 災厄の一角
帝がティンクに案内され店の奥に消えて行く。
「面白そうだから儂らも観に行くか。3人はどうする?」
ローンがフェン達に声を掛ける。
「そうだな儂は観に行く。主人がやるならどうなるか気になる」
「それなら自分も行く〜」
「まぁ。ご主人がやる事なら面白そうだしねー」
フェン達も行く事に決まった様だ。ローンがフェン達を案内すべく先導する。ガンツも一緒だ。
ローン達が店の奥にある工房に向かう途中、ガンツがローンに話かけた。
「なぁ、親父」
「何だ?」
「あのミカドって冒険者何なんだ?」
「何がだ?」
「いや。冒険者に成り立てって言ってたじゃねぇか。なのに金貨7枚を悩むそぶりも無く軽く出したろ?何処かの貴族かと思ってな」
「何者なのかは儂も知らん。ただ言える事は絶対に貴族では無い」
「何で言い切れるんだ?護衛が居ないからか?」
「それも有るが奴自身がかなりの腕だ」
「それなら他にだって強い奴くらい居るだろ?それこそ自分が強いからって護衛を付けない貴族は幾らでも居んだろ?」
「そう言うレベルじゃない。儂は訓練場でミカドがその3人と戦うのを観たがあれは別格だ」
「元Aランクの冒険者である親父がそこまで言うかい」
「お前にも分かりやすく言うなら・・・そうだな。竜王と戦う方がましか」
「・・・嘘だろ。だって・・・」
「あぁ、そうだな。儂が何度も訊かせたからな」
ローンは昔、Aランクの冒険者だった。冒険者時代のローンは自分で素材を集め、最高の武具を作ると言う目的で冒険者をやっていた。その際に現冒険者ギルドのギルドマスター、アーツと組んで冒険をしていた。
当時のローン達は下位竜や飛竜は何度か討伐をしていたが、上位の竜種には歯が立たなかった為、素材を手にする事はなかった。
そしてある日2人は、王都トレランシアから歩いて5日程離れた場所に飛竜の群れが現れたと聞き討伐する為に向かった。2人は半日程掛け飛竜の群れを討伐した。荷馬車に飛竜を乗せられるだけ乗せた2人は帰りに災厄に出くわした。この世界で最強の一角を担う八大竜王の内の一頭、毒竜王ヒドラに・・・。
ローンとアーツは一目見て悟った。アレは敵対してはいけない相手だと。いや、そもそも相手はコチラを敵とすら認識していないだろうと・・・。2人の思惑は当たった。毒竜王ヒドラは腹が減っていたのか2人の討伐した飛竜と牽引していた馬を狙い襲って来た。
ローンとアーツの2人は荷馬車を捨て飛び降りた。毒竜王ヒドラは荷馬車を奪うと馬と飛竜を食べ始めた。2人は毒竜王ヒドラが馬と飛竜を食べている間に一目散に駆け出した。
逃げる為・・・。いや、生き延びる為に。
2人は無我夢中で走った。体力などはとうに尽きている。だが止まる訳には行かない。後ろを振り返り、確認する勇気などは無い。止まったら最後だと本能が告げている。
・・・どれだけ走っただろうか?
2人は気付けば王都トレランシアの城壁が見える所まで来ていた。2人はお互いの顔を見ると力が抜けたのかその場にへたり込んでしまった。
「・・・逃げられたのか?」
「何とか生き延びたな」
「アレが八大竜王か・・・」
「流石は世界最強の一角だな。戦う以前の問題だ」
「本当にな。咄嗟の事とは言え、良く動けたと自分を褒めてやりてぇぜ!」
「まったくだ!」
「とは言え飛竜の素材は惜しかったなぁ」
「なぁ。アレだけありゃ暫くは療養出来たんだがな!」
「お前の言う療養ってどうせ酒をたらふく飲む事だろ?」
「そうとも言うな!」
「「アッハッハッハ!」」
ローンとアーツは生き延びた事に喜び、軽口を叩き合った。災厄に気付く事なく。
「ほぅ。こんな所に国が有ったのか」
「「!?」」
ローンとアーツは背後からの声に驚き後ろを振り返った。そこには森の木よりも高い位置に蛇の様な頭が出ており、コチラを見ていた。毒竜王ヒドラの頭の1つだ。
「な、な!?」
「な、何で!?」
「ん?人間とドワーフ如きの脚で我等から逃げ切れると思っていたのか?」
毒竜王ヒドラがそう言うと更に8つの頭が出てきた。
「どうするの?」
「襲うのか?」
「やるに決まってんだろ!」
「だけど飛竜食べたばっかだぞ?」
「確かに腹も空いてないな」
「そうだよー。面倒くさいよー」
「我も反対だ。手間が掛かる」
「腹が減ったらまた来れば良いだろ?」
毒竜王ヒドラの頭は1つ1つに意思がある様で別々の事を喋っている。
「それでこの2人はどうするの?」
「「!?」」
毒竜王ヒドラの頭の1つがローンとアーツの2人が恐れていた事を口にした。それもそうだろう。毒竜王ヒドラがわざわざ2人を追って来る事には何の意味も無いのだから。なのに追って来たと言う事は何か理由があると言い事だ。2人は既に満身創痍の状態だ。走って逃げる事など出来ない。
今まで走って来れたのは命の危機で緊張状態だったからだ。だが今は逃げ切れたと言う安心感から緊張の糸が切れてしまっている。
故にこの場から逃げ出す以前に動く事すら出来ないでいる。
「食っちまえば良いだろ!」
「さっきも言ったが腹は膨れているぞ?」
「じゃあどうするの?」
「ふむ。そうだな・・・」
最初に喋った頭が数秒考えている。ローンとアーツにはこの数秒が途轍もなく長く感じた。何せこの一言によって自分達の命運が決まるのだ。すると考え込んでいた頭はニヤリと笑うと告げた。
「決めた。見逃す事にする」
「「!?」」
この一言に一番驚いたのはローンとアーツの2人だ。何せ助かると言う事なのだから。だが他の頭は理解できない様だ。
「あぁ!?何でだよ!」
「見逃すと後々面倒では無いか?」
「腹に余裕が無いのは分かるが・・・」
「プチッて潰して終わりでいいじゃん?」
「えー。それは足が汚れるよー」
「雑魚は群れるのが得意だぞ?」
「群れられると片付けが面倒だ」
「どちらでも良いから早くしろ!」
他の頭がそれぞれ喋り出すが、最初の頭が理由を話し始めた。
「まぁ、聞け。この2人は見逃すのがあの国を見逃すとは言わん。
だがやるのは今では無い。その内だ。それまでこの2人にはいつ来るか分からぬ恐怖を与えようではないか!この国を見捨て逃げ出すも良し!国に伝え迎撃態勢を整えるも良し!
だが国に伝えた所で我等がいつ頃来るのか分からんのだぞ?迎撃態勢を維持し続けるのは到底無理な話だ。そうなると此奴らわ嘘ぶいたと言われ、守ろうとした国に爪弾きにされるだろう」
「だがそれなら国を見捨てて逃げれば良いのではないか?」
「それが出来ないのが人間と言う愚かな生き物よ!災厄と言われる我等が来ると知っていながらも知り合いを見捨てる事が出来ず、かと言って国に伝え体勢を整える事も出来ぬな!
さぁ、貴様らはどうするのだ!貴様らの足掻く様を想像しながら待ってやろう!ハーッハッハッハッ!」
そう言うと毒竜王ヒドラは踵を返し、ローンとアーツの前から姿を消した。その場に残されたローンとアーツは立ち上がると王都の城壁を目指し歩き始めた。
「・・・ローンどうする?国に伝えて信用して貰えるか?」
「・・・無理だろうな」
「なら国を見捨てて逃げるか?」
「それは・・・」
「無理だよなぁ」
「「・・・」」
2人は重い足取りで今後の事を話し合いながら歩いているが沈黙が2人を包み込む。沈黙を破ったのはローンだ。
「・・・アーツよ」
「何だ?」
「儂は決めたぞ。冒険者は引退する」
「な!?」
「そして災厄に備える為、武具屋を開いて装備を整える!災厄がいつ来ても良い様にな」
「・・・そうか。良し!なら俺は冒険者を育てる為、ギルドマスターになってやる!それで冒険者を育て上げて国の戦力を整える!」
「ならやる事は決まった!」
「だな!」
「だがこの事は儂等だけの秘密だ」
「あぁ。言っても誰も信じねぇってのも有るが、どうしようもないからな。ただみんなを混乱させるだけだ。最悪、国に対して暴動が起きかねん」
「だから儂等は準備を整え、その時に備える」
そして現在2人は冒険者ギルドのギルドマスターと武具店の店長となり、この国の戦力を整える為に人知れず奮闘している。
(アレから20年か・・・。この国も昔より戦力は上がってはいるが、毒竜王ヒドラを倒すには到底足りない。ミカドが強くても1人じゃな。勇者が滞在してる時なら可能性が有るが・・・)
ローンやアーツは冒険者時代の話をする時、良くこの話をする。
但し毒竜王ヒドラがいつかこの国を攻めてくると言う話では無く、毒竜王ヒドラに遭遇した事があるとだけ伝えている。
かつてローンとアーツが言っていたが真実を告げたところで誰も信じないと思ったからだ。
「ここが工房です」
ローンが昔を思い返している間に工房についた様だ。
ティンクが扉を開け、帝を中へ誘う。部屋の中を見た帝は驚いた。工房が思っていたよりも小さい部屋だからだ。広さは16畳程だろうか。部屋の左右に大きさは違うがテーブルが置いてあり、右側のテーブルには色々な工具が置かれ、奥の棚には魔石や液体の入った容器が所狭しと並んでいる。
左側のテーブルは右側の物よりも小さく、上には大きな魔法陣が1つあり、帝から見て魔法陣の上下の位置に小さな魔法陣が1つずつある。そして部屋に入った直ぐ左右の壁にはさまざまな装備品が並んでいた。
「右側が刻印を行う作業場で左側が付与を行う作業場です。壁に並んでいる装備品は僕と兄さんが刻印と付与をする為の物ですよ。それとあの扉の先が父さんが鍛治を行う作業場です」
そう言いティンクが指差したのはこの部屋の左側にある扉だ。
「鍛治を行う部屋は危ない物が多いので普段はお見せ出来ませんが、鍛治の見学なら出来ますよ」
「良いのか?鍛治は見れないと思っていたんだが?」
「作業の体験となると危ないので出来ませんが、見るだけ見学なら問題ないですよ。たまに見学したいと言う方も来られますし」
「なら刻印と付与が終わったら見学させてもらっても良いか?」
「そちらは父さん次第なので僕からは何とも・・・」
そう言いティンクは帝の後ろに居るローンに視線を向ける。
「鍛治の見学か?構わんぞ。窯炉の火はまだ落としてないし、今日の分の仕事は終わったからな」
「そうか。なら是非とも頼む!」
「本当にお前も変わった奴だな。冒険者で鍛治を見学したい奴なんて少数だぞ?」
「知っておいて損はないだろ?」
「それはそうだが・・・。まぁ、いい。準備をしておくからそっちが終わったら来てくれ」
「分かった」
「・・・いや待て。気が変わった、先にこっちの見学をさせる」
「ん?俺は別にどっちが先でも構わないが」
「ならこっちが先だ。ついて来い」
そう言いローンは扉を開けると先へ行ってしまう。取り敢えず帝達はローンの後を追って扉を潜る。
「おぉ、凄いな!」
鍛治の作業場へ入った帝は驚いた。部屋の大きさは隣の工房の3倍は有るだろう。部屋の大きさもそうだがこの部屋の壁には魔獣の素材や大小様々な鉱石が並んでおり、奥には窯炉が3つ並んでいる。窯炉の側には乱雑に置かれた鉄製の武器や防具が置いてあり、その隣には鉄のインゴットが積まれている。
ローンは乱雑に置かれた武器と防具を適当に選ぶと、近くの窯炉に放り込んだ。武器と防具が溶け出すのを確認したら、鉄のインゴットを幾つか取り、隣の窯炉に同じ様に放り込んだ。
インゴットの様子を見ながらローンが帝に声を掛ける。
「体験するのはナイフ作りだ。ナイフなら魔獣の解体に使えるから、どんな武器を使う奴だろうと関係が無いからな」
「確かに」
「冒険者に成り立てなら余程の事が無い限りは、鉄製のナイフで充分だからな」
ローンはナイフを作る理由を帝に説明しながら、道具の準備をしながら窯炉の様子を見ている。
「そろそろ良いか。口で説明しても分かりづらいだろうから、取り敢えずは儂のマネをしてみろ」
ローンはそう言うと道具を手に取ると帝に同じ物を手渡す。
(ん?アレ?見学の筈が体験になってないか?)
「まず、熱したインゴットを窯炉から取り出す。次に鉄床に乗せたら冷めない内に叩いて伸ばす」
「あ、あぁ」
帝は疑問に思ったがローンに言われた様にマネして行く。
カンッ。カンッ。カンッ。カンッ。
工房内にはローンと帝の鉄を打つ音が響く。2人の作業を見ながらティンクが小声でガンツに話し掛ける。
「兄さん。見学のはずなのに何でミカドさんまで鍛治をしているの?」
「俺が知るか。親父に聞け」
「作業中の父さんに声掛けられる筈ないでしょう?」
「なら黙って見てろ。親父には何か考えが有るんだろ?」
いつの間にか見学から体験に変わっているが、誰も文句を言う者はこの場には居ない。ガンツもティンクも父親であるローンには逆らわない。一緒にいるフェン、ヨルン、ペイルも帝が文句を言わないので気にしていない。
「叩いて伸ばしたら、窯炉に入れ再び熱する。充分に熱したら取り出し、鉄床の先端の尖った部分に当てながら叩いて縦に折り曲げる。これを2回やったら今度は横に折り曲げる。これを3回程繰り返すぞ。時間が掛かるから覚悟しろよ」
そう言うとローンは黙り込んだ。帝も言われた通りにする。
カンッ。カンッ。カンッ。カンッ。
工房内は再び2人が鉄を打つ音だけが響き渡る。
どれだけ経っただろうか。帝はローンに声を掛けられて手を止めた。
「・・・カド・・・ミカド!もう良いぞ!」
「!?。すまない気が付かなかった」
「いやぁ。凄ぇ集中力だな。体験した奴は何人かは見たが、ここまで集中した奴は初めて見たぞ!こっちが声を掛けなきゃ止めない勢いだったぞ」
「同じ作業を黙々と行うのがついつい楽しくなってしまってな。俺は一度集中してしまうと周りが見えなくなってしまいんだ。昔からの悪い癖だ」
「良い事じゃねぇか。集中力が続かない奴だって居るんだ、それに比べたら断然マシだ」
「そう言ってくれると助かる」
「それじゃあ作業に戻るぞ。片側を叩き薄くしながらナイフの形に近づけるんだ。数回繰り返し冷ましたら研ぎ上げる」
ローンは作業を再開する。帝もローンの手元を見ながらマネをする。
「良しこんなもんだろ」
ローンが帝に声を掛けて作業を止める。帝も作業を止めると手元には刃の部分が20cm程のナイフの形をした鉄の塊があった。
「刃の部分を研ぐ前に握りを作るぞ」
そう言いローンは叩き上げた鉄を持って最初に武器と防具を入れた窯炉に向かった。中にはドロドロに溶け切った鉄がある。窯炉の前には溝が彫られた鋳型があった。ローンが叩き上げた鉄を鋳型に嵌めると、持ち手の部分に溝が来る様に調整されている様だ。
ローンは鋳型を固定すると溶けた鉄を溝に流し込む。溶けた鉄は溝に沿って形を成して行く。流し込んだ鉄が冷めるのを待つ間にローンは壁に掛けてある魔獣の素材の元に行くと、皮を選び手に持って来た。
「鉄が冷めるのを待つ間にこの皮で鞘を作るぞ。刃の長さより大きめに裁断し形を整えておくんだ。微調整は鉄が冷めてから行う」
ローンが持って来た皮を切り始めた。ナイフのサイズは帝もローンも同じ為、皮のサイズも同じだ。
「持ち手はどうするんだ?」
「持ち手の所は使用者の手に合わせて調整した後にこの布を巻く」
帝の質問に作業しながらローンは答える。
2人が作業を終えるとローンは鋳型の様子を見に行く。鉄は冷めた様でローンは鋳型の固定を外すと、手に持って戻って来た。
「これの刃に皮を当てて形を整える。その後に刃の部分を研ぐ、最後に持ち手の部分を使用者の手に合わせながら、ヤスリで削りって調整で完成だ」
再び2人は無言になり作業をこなして行く。
「完成だな」
ローンが完成を告げる。ローンと帝の目の前には同じ見た目のナイフがあった。帝は目の前のナイフを見て達成感に満ちていた。ローンは帝の作ったナイフを手に持つと、鞘から抜き刃を確かめ、鞘に戻しテーブルに戻す。
「・・・上出来だ。いや、上出来過ぎるな。ミカドよ、鍛治は本当に初めてか?」
「初めてだが?おかしいのか?」
「お前の作ったナイフ。・・・これは売り物にしてもおかしく無い代物だ。他の奴が見ても素人が作ったとは思わんだろう」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
「世辞じゃ無いぞ。冒険者をやらせるのが勿体無いくらいだ!出来るなら儂の弟子として雇いたい位だ」
「それは有り難いが・・・」
「分かっている。無理なんだろ」
「すまないな。冒険者に成りたくてこの街に来たからな」
「この出来ならお前さんが作った武具で、仲間のを揃えてやるのも良いかもな」
「それも良いが他の作り方なんか知らないぞ?」
「そん時はまた店に来い!儂が一から他の作り方を教えてやる!」
「良いのか?そうなったらこの店で買い物しなくなるぞ?」
「その時は授業料として金を貰うだけだ!」
「確かにそれなら納得だ」
「それに内には刻印と付与が出来る奴が居るからな。それで十分に金を取るさ!」
そう言いローンはガンツとティンクを見て、盛大に笑った。




