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14話 世界樹と守護者

転生した異世界で自由気ままに生きていく

~チートじゃない?才能です!~

1章 異世界の始まり


14話 世界樹と守護者


 帝は夜の森の中、木々を避けながら走っていた。

 森に入り〈探索者∞〉を使い二角ウサギを早々に見つけ、〈観測者∞〉で位置を確認しながら、距離を詰めて行く。


 二角ウサギは昨日遭遇した群れとは違う群れのようで、こちらの方が群れの規模が大きい。全部で20匹くらいいる。


 二角ウサギを視界に捉えた帝は、群れの中で弱いオス9匹に狙いを定め、走る速度を上げ接近すると〈嗅覚〉〈身代わり〉〈突撃〉〈逃走術〉の4つの恩恵を〈恩恵剥奪〉により次々と奪って行く。更に〈強欲な剥奪者〉を使い、恩恵を奪った9匹を対象にステータスも根こそぎ奪う。帝の襲撃に遅れて気づいた二角ウサギの群れは、襲われた9匹の二角ウサギを見捨てて即座に逃げ出した。

 帝は逃げ出した群れを無視して、HPが0になり死んでいる二角ウサギを〈倉庫∞〉にしまって行く。帝が9匹を狙った理由は単に9匹から恩恵を奪う事で奪った恩恵が進化するからだ。


「とりあえずこのくらいで良いか?戻っても良いが、早すぎるか?どうせなら戦利品がもう少し欲しいか?」


 帝が二角ウサギを倒したのは森の中に入ってから30分も経っていない。その為、戻ったらアイナとティナに何か言われると思っているのだ。


「どうせならもっと奥に行ってみるか。魔獣に遭遇すれば新しい恩恵が手に入るかも知れないし」


 帝はこう言っているが出会った魔獣は少ないので知らない魔獣に遭遇すれば新しい恩恵が手に入る確率は高い。その為、内心では新しい恩恵が手に入ると確信している。


「それじゃ、奥に向かうとするか!」


 そう言うと森の奥に向かって走りはじめた。未知の恩恵に心を弾ませながら。


 帝が走り始めて1時間ほど経った。その間に5種類の魔獣と遭遇した。遭遇する度にHPを1だけ残し、奪える恩恵とステータスを全て奪う。そしてトドメを刺すと経験値を稼ぎ死体を〈倉庫∞〉にしまう。この動作をひたすらに繰り返しながら奥へ奥へと進んで行く。


ジャイアントバットLv22 10匹

HP 342 MP 211 ATK 311 DEF 168 AGI 412 MAG 309

〈聴覚Lv31〉〈超音波Lv31〉〈吸血Lv27〉〈吸魔Lv27〉

〈暗視Lv68〉〈混乱耐性Lv22〉〈混乱攻撃Lv21〉


アサシンスパイダーLv36 5匹

HP 411 MP 299 ATK 347 DEF 221 AGI 498 MAG 131

〈粘着糸Lv51〉〈硬糸Lv34〉〈暗視Lv31〉〈毒攻撃Lv41〉

〈潜伏Lv38〉


バインドスネークLv31 10匹

HP 325 MP 402 ATK 311 DEF 220 AGI 408 MAG 231

〈暗視Lv24〉〈視覚Lv24〉〈麻痺攻撃Lv41〉

〈魔力察知Lv31〉〈熱源察知Lv29〉〈拘束Lv39〉


ハイドラットLv27 15匹

HP 247 MP 324 ATK 278 DEF 181 AGI 404 MAG 231

〈潜伏Lv39〉〈聴覚Lv29〉〈麻痺耐性Lv19〉

〈混乱耐性Lv19〉〈毒攻撃Lv35〉〈逃走術Lv51〉


フォレストクロウLv39 10匹

HP 381 MP 511 ATK 338 DEF 301 AGI 375 MAG 457

〈暗視Lv34〉〈思考加速Lv26〉〈敵感知Lv31〉

〈魔力察知Lv41〉〈精神回復Lv21〉〈剛爪Lv31〉

〈魔力制御Lv11〉〈風魔法Lv29〉


 帝が遭遇した魔獣はいきなり襲って来た為、容赦無く帝の糧になった。


「遭遇した魔獣は対して強くなかったが、群れてたから恩恵とステータスはありがたいな!」


 帝はこう言っているが遭遇した魔獣達は基本的に群れているので容易く単身で倒せる相手ではない。帝が異常なだけなのだ。


「もう少し奥まで行ったら戻るか!」

 そう言うとフォレストクロウを〈倉庫∞〉にしまい、再び森の奥に進み始めた。

 帝は知らない。帝が今いる森の位置は、一般的に森の第2森層と呼ばれている事を・・・。


 帝のいる森はユーナの話した神話通り、世界樹の周りの広大な森なのだ。森は第5森層までありその先に世界樹はある。

 しかし世界樹は創生神の結界により見えない様になっている。この結界は世界樹を見えなくする他に全ての生き物が近付かない様にする能力がある。そして各世界樹には守護する者が存在する。守護者たちは結界を超えて来た者を倒す為、創世神により力を与えられている。その為、守護者たちは各種族の勇者でさえ勝てない程の強大な強さを持っている。


 帝が森に入ってから2時間が経った。帝は森の第4森層と第5森層の間にいる。ここまで来るのにどんなに速くても半日はかかる。前提として魔獣と遭遇しなければだ。いくら夜は魔獣との遭遇が減るとは言え、この森で魔獣と遭遇しないなんて事は絶対にあり得ない。その為、通常は合間合間に休息しながら進む為、5日くらいはかかる。それを帝はたったの2時間で到達した。


「・・・流石に奥まで来ると森の雰囲気が違うな。なんて言うか・・・殺伐?とした雰囲気がする気がするな」


 魔獣は弱肉強食の為、弱者は強者の糧になる。その為、弱者は強者から逃げる力を強者は弱者を狩る力を振るう。その為、森の中には殺伐とした空気が昼夜問わずに流れている。

 帝は何となくその空気を感じたのだ。


「流石に奥まで来すぎたか?でもこの辺なら強そうな魔獣もいるだろうし、適当に狩ったら戻るか・・・」


 そう言い周囲を見渡しながら歩き始める。すると前方の木々の奥から戦闘音が微かに聞こえてくる。帝は念のため〈気配遮断〉を発動し、静かに近づいて行く。〈気配遮断〉は〈潜伏〉が進化した恩恵だ。


 徐々に戦闘音が大きくなっていく。帝は木陰から音の正体を確認する。

 音の正体は3匹の魔獣同士の戦闘だった。1匹はゴリラに似た体長2m程の魔獣だ。全身が白い体毛に覆われており1m程の長い尻尾があり、尻尾の先が蛇になっている。更に通常の腕の他に肩辺りと脇辺りから左右1本ずつの腕が生えており、合計6本の腕がある。

 2匹目は体長3m程のグリフォンだ。しかしゲームや漫画に出てくる帝が知ってるグリフォンとは違う。何故なら鷲に似た頭が3つありクチバシには牙が生えている。更に尻尾に辺る部位にはコブラの様な蛇が付いている。羽は鳥の様だが左右に2枚ずつ合計4枚ある。

 3匹目は体長2m程のカマキリに似た魔獣だ。こちらも帝が知っているカマキリとは違う。鎌状の前脚の上に斧状の前脚が左右にある。腹部、人間で言うお尻に辺る部位にはクモの様な腹部が付いている。


「・・・強そうな魔獣たちだ。ステータスも結構高そうだし、良い恩恵を持ってそうだ」


 帝は良い獲物を見つけた感じで軽く言うが、本来なら3匹の魔獣たちは高ランクの冒険者が10人程で1匹を相手にする魔獣だ。具体的には最低でもAランクの冒険者だ。


「とりあえず確認といくか」そう言い〈神眼〉を発動し3匹の魔獣の能力を確認する。


ゼクスアルムコングLv82

HP 9829 MP 4521 ATK 10981 DEF 8139

AGI 9799 MAG 7674

〈砲哮〉〈剛毛Lv88〉〈鎧毛Lv87〉〈格闘王〉

〈強力Lv93〉〈打撃強化Lv90〉〈剛爪Lv82〉〈強腕Lv89〉

〈闘気Lv90〉〈同時思考Lv71〉〈感覚Lv96〉

〈魔力察知Lv76〉〈剛牙Lv77〉〈手刀〉〈足刀〉

〈飛撃Lv41〉


トライヘッドグリフォンLv85

HP 8465 MP 9831 ATK 7116 DEF 8839

AGI 9587 MAG 9083

〈剛羽Lv86〉〈剛爪Lv89〉〈剛毛Lv88〉〈飛行術Lv90〉

〈水魔法Lv75〉〈雷魔法Lv75〉〈風魔法Lv79〉

〈火魔法Lv71〉〈土魔法Lv70〉〈魔法強化Lv81〉

〈同時思考Lv97〉〈精神超回復〉〈魔法同時発動〉

〈詠唱破棄〉〈魔力消費軽減Lv89〉〈加速Lv82〉

〈強脚Lv47〉〈飛行Lv51〉〈飛脚Lv31〉〈視力強化Lv41〉

〈飛行速度強化Lv28〉〈遠距離飛行〉〈風圧耐性Lv39〉

〈暑さ耐性Lv21〉〈寒さ耐性Lv21〉〈音速飛行Lv19〉

〈高度飛行Lv30〉〈第3の視点〉



クルーエルマンティスLv83

HP 7969 MP 5561 ATK 8919 DEF 9510

AGI 9617 MAG 8691

〈狩猟王〉〈切断王〉〈剛爪Lv81〉〈粘着糸Lv71〉

〈鎧殻Lv79〉〈風魔法Lv72〉〈斬撃超強化〉〈潜伏Lv68〉

〈超視覚〉〈闘爪Lv79〉〈魔力制御Lv69〉

〈魔力察知Lv66〉〈双鎌Lv33〉〈双斧Lv32〉〈飛撃Lv51〉


(・・・読み通りだ!Lvもステータスも高いし、知らない恩恵も多数ある!このLvなら経験値もかなり入るんじゃないのか?)


 帝は3匹の魔獣の能力を確認するとあまりの強さに気持ちが昂ってしまう。そして少しだけ落胆してしまった。


(まぁ。所持している恩恵もそりゃあるよな。それに爪、羽、毛に関係する恩恵は俺には無いから関係ないしな・・・。とりあえずそれ以外を奪うか)


 帝が木陰から出ようとするとオウルが話し掛けてきた。


オウル:お待ち下さい、マスター。爪、羽、毛などの魔獣関係の恩恵は〈魔力制御〉の進化恩恵である〈魔力操作〉によってなら、効果があります。


(どう言う事だ?)


オウル:〈魔力操作〉によって生み出された爪や羽は〈魔法強化〉の恩恵で強化が出来ます。恩恵で強化が出来るのなら、作り出した部位にも恩恵の効果を期待する事が出来ると思われます。ただ試した者はいないので試してみないとわかりませんが・・・。


(試さないと分からないか・・・。まぁ、駄目ならカリスに付与すれば良いか!ん?この場合は付与じゃなくて譲渡か?〈恩恵付与〉じゃ駄目か?・・・その時は〈恩恵譲渡〉を創り出せば良いか?というか遭遇した魔獣達の恩恵いくつか見逃したぞ!)


 オウルの話を聞いた帝は奪える物を奪う為、木陰から出て姿を現した。ちなみに現在の帝のステータスはこうなっている。


皇王 帝 Lv62

職業 なし 種族 人間 (転生者)

HP 27612 MP 23702 ATK 42081 DEF 17646

AGI 29437 MAG 21059 LUK 7368


 3匹の魔獣に遭遇するまでに色々な魔獣からステータスを奪い、倒した為ステータスもLvも上がっている。ステータスに関しては奪っている為、同レベルの中でも異常な数値になっている。


 帝が木陰から出ると3匹の魔獣は戦闘を止め、帝の方を見た。そしてそれぞれが帝に対して威嚇の咆哮を上げた。

 帝は気にせず3匹の魔獣に近づいて行く、すると魔獣達は帝に対して攻撃を始めた。トライヘッドグリフォンが3つの頭から風、雷、水の魔法をそれぞれ放ち、ゼクスアルムコング、クルーエルマンティスの2匹が左右から帝に接近してくる。帝は何もせず魔法をその身に受ける。魔法は帝に直撃し、盛大に煙をあげる。煙を掻き分けた2匹の魔獣が左右から帝に多彩な連撃を繰り出す。帝はダメージが無い為に何もせずただ立って、〈神眼〉により3匹の魔獣のステータスが無くなるのを見ながら待っている。ステータスは確実に減っていくが減りが少し遅い様に感じる。


(オウル。ステータスの減りが少し遅くないか?恩恵は問題なく奪えてるみたいだが・・・。恩恵も奪うのに少し時間が掛かってる気がするが?)


オウル:3匹のLvがマスターのLvを超えている為だと思われます。


(そう言えばLvが高い相手からは、奪う速度が落ちる。効率が悪くなると言ってたな。じゃあ、丁度良いから実験してみるか)


 帝はそう言うと〈強欲な剥奪者〉を対象に〈能力強化∞〉を発動させる。〈身体強化∞〉の要領で10倍を指定してみた。〈能力強化∞〉は自身の恩恵の効果を強化する、それだけだ。帝はそう思っている。〈神眼〉の様に軽くみている。

 だが実際は恩恵を強化する。たった、それだけの事がどれだけ脅威なのか、この世界に来たばかりの帝には想像も出来ない。

 そして帝の恩恵、強化された〈強欲な剥奪者〉が3匹の魔獣の命を一瞬で奪った。3匹の魔獣は力無くその場に倒れこんだ。


「ん?あれ?死んだ?マジか!経験値が!?」


 3匹の魔獣は帝が強化された〈強欲な剥奪者〉を調整する間も無く、一瞬で全てを奪われた。


「失敗したな・・・。10倍なら調整出来ると思ったんだが、10倍は強すぎたか?まぁ、過ぎた事はしょうがない。次は失敗しないように気を付けよう」


 帝はそう言うと死体となった3匹の魔獣を〈倉庫∞〉にしまう。


「戦果としては十分すぎるが、この先にはまだ強いのが居るんだよな?じゃあ、行くしかないよな!」


 そして帝は更に森の奥へと向かって行った。


「・・・何か変だな?」


 現在、帝は立ち止まっている。30分程走り続けて森の奥まで来た帝は森の様子がおかしな事に気がついた。3匹の魔獣に遭遇してから此処に来るまで一度も魔獣に遭遇していないのだ。

〈探索者∞〉を発動し近くの魔獣を探すが、一番近くの魔獣は前方にはおらず後方もしくは左右のどちらかだ。後方に関しては来た道から離れた場所におり、左右に関しては後方以上に離れている。前方はいるにはいるが左右以上に離れており、来た道を戻り森を出る方が速いくらいの距離だ。


「どうなってんだ?この先に何かあるのか?気になるし行くだけ行ってみるか?」

 そう言い再び走り出した帝は見えない壁にぶつかった。


「ととっ。何だ?何かあるのか?」

 帝が手を前に出して確認すると見えない壁の様な物に触れた。


「壁か?見えないが・・・壁だよな?」

 見えない壁を触ったり叩いたりして確認をする。見えないが確かに壁の様な物が目の前には存在している。押してみても壁は動かず、壁より先に行く事が出来ない。


「ん〜。この先に何かありそうだが・・・。どうすれば良いんだ?」帝が見えない壁に頭を悩ませる。


オウル:マスター。〈魔法無効〉を試してみてはどうですか?見えない壁が魔法による物なら、効果あると思いますが?


「〈魔法無効〉か確かに魔法なら効果があるか」

 そう言うと〈魔法無効〉を発動し、見えない壁に向かって手を出してみると・・・。手は何にも触れなかった。


「成功なのか?発動してれば通れるのか?」

 帝は〈魔法無効〉を発動したまま歩き出す。そして壁?を透り抜けると其処は昼間の様に明るい森の中だった。帝は少し歩くと後ろを確認する。すると先程は見えなかった壁が見える様になっていた。


「・・・ガラスじゃないよな?」

 壁はガラスの様に反対側を見通す事が出来る程に透明だ。だが反対側に居た時は壁自体がまず見えなかった。その為、帝は疑問に思った。


オウル:恐らく結界の類だと思われます。結界であれば外側から壁の確認が出来なかった説明がつきます。


「結界か・・・。見えない結界?あれ?ユーナが話してた気が・・・」帝がそこまで言った時、話しかけられた。


「人間が此処まで来るなんてな。いつ以来だ?」

 大気が震え、地の底から聞こえるかのような低い声が辺りに響く。


「何処だ?何処から聞こえる?」

 帝は声の主を探して、見渡すが周りには誰もいない。


「人間よ何処を見ている?上だ」

 その言葉を聞き、帝は上を向いた。そして驚きのあまり、固まってしまった。


 帝の視線の先には巨大な狼の頭があった。

 その大きさは見えている部分のサイズ、つまり頭だけで幅10mくらいあるように見える。帝が驚き固まっていると巨狼が喋り出した。


「人間よ。その位置では首が疲れ話し辛い、まず此方まで来い」

 そう言うと巨狼は移動した。


 帝は言われるがまま、巨狼の後をついて行く。後をついて行くうちに帝は冷静になり、オウルに質問を始めた。


(オウル。アレは魔獣なのか?此処はユーナの話してた世界樹のある森なのか?そもそも夜なのになんで此処は昼間の様に明るいんだ?)


オウル:1つ目の質問ですが、魔獣ではありません。神獣です。2つ目の質問ですがマスターの言う通り、世界樹の森です。3つ目の質問ですが結界の中なので結界の効果なのかそれ以外の要因なのかは分かりません。


(神獣?神獣って事は神の使いとかか?世界樹の森って言うのはユーナが話してた神話に出てきた森の事だよな?)


オウル:神獣はその認識で間違いないです。ただ正確には神でも創世神の使いです。


(創世神の使いだと!)


「この辺で良いだろう」

 帝がオウルと会話をしながら歩いていると巨狼が喋り、歩みを止めた。そして犬で言う伏せの状態で帝の方に向き直した。 帝はオウルとの会話に気を配っていた為、気付かなかったがいつのまにか森を抜けて拓けた場所に出ていた。


 その場所は広くどこまでも広く、見渡す限り草原が広がっている。ただ1つの異常を除いて・・・。その異常とは巨狼の背後に巨大な壁がある事だ。その壁は巨狼を前にしても全体が見えないくらいに巨大だ。帝が壁を見上げるが頂上が全く見えずどうなっているのか分からない。見ていて分かった事は壁は垂直には違いないが所々膨らんでいる。まるで巨木の幹の様に・・・。


(ここが世界樹の森で結界の内側と言う事は・・・。アレは壁ではなく世界樹か・・・)

 帝が壁の正体が世界樹だと思い至った時、巨狼が話し始めた。


「さて人間よ。質問だ。まず此処が何処か分かっているのか?」

「世界樹の森だろ?いや、正確には世界樹の根本か?」

「ふむ。分かってはいるのか。では、次の質問だ。此処へは何が目的で来た?」

「目的か・・・」


(どうするか。目的も何も適当に進んでたら偶然たどり着いただけだしな・・・。正直に言った方が良いのか?)

 帝がどうするか考えていると・・・。


「どうした人間よ。結界を超える程の力を持っているのだから目的があるのだろう?それとも言えない様な事なのか?」

「そうだな。嘘をついてもしょうがないから正直に言うが目的は特に無い。そもそも世界樹が本当にあるとは思ってなかった。強い魔獣を探してたら結界が張ってあるのに気付いたから何かあるのかと思って此処に来ただけだ。あえて言うなら興味か?」

「興味か・・・」

 そう言うと巨狼の目が僅かに光った様に帝には見えた。


「・・・嘘では無い様だな。それで人間よどうする?此処には我以外には何も居らんぞ?引き返すか?まぁ、お前の言う強い魔獣なら我がいるが、人間如きがまともに戦えるとは思えんぞ?それでも戦うと言うなら我は構わないがどうする?」

「その前にいくつか質問をしたいが良いか?」

「構わない。言ってみろ」

「まず、俺が嘘をついていないと何故断言できる?」

「簡単な事だ。我には〈真偽の魔眼〉と言う恩恵がある。この恩恵は相手が嘘を付いているかどうかが分かる効果がある」

「〈真偽の魔眼〉かそう言う恩恵があるのか成る程な。次の質問だ。お前は自分を魔獣と言ったが神話では「各世界樹には創世神が配置した守護者がいる」と伝えられているが、守護者では無く魔獣の扱いなのか?」

「お前の言う通り、我は魔獣では無い。分かりやすく魔獣と言っただけだ。正確に言うなら神獣だ。そして神獣とは創世神様によって、世界樹の守護を任された守護者たちの事だ」

「世界樹の守護者、神獣・・・か」

 帝はユーナの話した神話と巨狼の話しを照らし合わせ、各世界樹にはそれぞれ守護者と呼ばれる神獣がいると言う真偽を確認した。


「質問は終わりか?で人間よどうする?戦うか?それとも諦めて引き返すか?」

「・・・次の質問だ。お前は「此処には我以外には何も居らん」と言ったな?」

「それがどうした?」

「・・・お前の姿を見る限りで俺の記憶が正しければ、お前は・・・神獣フェンリルじゃないのか?」

 帝は巨狼と話しをしている内に、目の前の巨狼がマンガ等に出て来る神獣フェンリルに似ている事に気がついた。そして帝はその思いを口にしてみた。


「がぁーはっはっはっ!」

 すると巨狼は突然笑い出した。


「そうか。そう言えばまだ名乗っていなかったな。お前の言う通りだ。我が名はフェンリル。神獣フェンリルだ!」


(やっぱりか・・・。そうなると俺の記憶違いでなければだが、厄介な事になりそうだな・・・)


「それで人間よ。我の正体が神獣フェンリルと知ってどうする?大人しく引き返すか?それとも・・・」

「その前に最後の質問だ」

 帝が神獣フェンリルの言葉を遮り、言葉を続けた。


「・・・お前の正体がフェンリルだと言うなら、お前には弟のヨルムンガンド、妹のヘルがいるはずだ。ヨルムンガンドはともかくヘルは単体で戦える程の力があるとは思えない・・・。そうなるとお前かヨルムンガンドのどちらかと一緒と考えるのが妥当だ。そして俺の予想通りの能力、恩恵をヘルが持っているとすれば、ヨルムンガンドでは無く、お前と一緒にいるはずだ。・・・違うか?」

「・・・」

 帝の最後の質問に対して、神獣フェンリルは何も答えないでいる。そして起き上がると静かに口を開いた。怒気を含んだ声で・・・。


「・・・何故ヨルムンガンドとヘルの事を知っている?奴等は守護者と創世神様しか知らぬ筈だ!貴様それをどこで知った!」

 神獣フェンリルの怒気を含んだ声が大気を震わし、大地をも揺らす。結界の張られたこの空間全体が揺れている様に帝には感じられた。いや、実際に空間全体が揺れている。それでも帝は目の前にいるフェンリルを見据えている。

 そしてフェンリルと帝が睨み合っていると・・・。


「バレてるみたいだし、もう良いよね?」

 上空から陽気な声が聞こえて来た。


 帝が声のした方を見ると、そこには女の子が浮いている。顔立ちは整っており、見た目の年齢は帝と同じ位の女の子だ。髪は薄い紫色でツインテールになっている。服は紫色を主色として所々に黒色が入り、服の袖やスカートの裾にフリルが付いている。見た感じゴスロリ衣装のメイドに見えた帝だが彼女の手にしている武器を見てこの娘がヘルだと確信する。彼女が手にしている武器は帝の身長を超える程の大きな鎌だ。まるで死神の持つ大鎌だ。

 ヘルはフェンリルの隣に降り立つと帝に話しかける。


「君が「予想通りなら」って言った私の恩恵て何かな?是非とも教えて欲しいな?」右肩に担いだ大鎌を持ち直して聞いてくる。

「・・・2つある。これはあくまで予想であり俺が知っている神話通りと言うのが前提だが・・・。1つは自身が透明化する恩恵、もしくは他者を透明化する恩恵。もう1つは死者を蘇らす恩恵だ。いや、蘇らすと言うより操ると言った方が正しいか」

 帝は知っている神話から予想した、ヘルの恩恵を素直に話した。


「ふ〜ん。そうなんだ・・・。確かに私は君の予想通りの恩恵を2つ持ってるよ?それで君は何で私が戦う力が無いと思ったのかな?」

 そう言うヘルからは殺気が放たれているのを感じ取った帝だが、殺気を無視して飄々と答える。


「戦う力が無いとは言ってないが?俺は「単体で戦える程の力があるとは思えない」と言った筈だが?」

帝の返答を聞いたヘルは怒りを露わにし怒気を含んだ声を発っする。


「それが!その余裕の態度が!私に戦う力が無いと言っているんだよ!」

 ヘルの怒声はフェンリル同様に空間全体を揺らす程だった。


「まぁ、落ち着けヘル。先程怒りを露わにした我もお前の事は言えんが人間如きに精神を乱されていては、奴の思うつぼだ」

 フェンリルが落ち着く様に言うと怒りのあまり肩で息をしていたヘルは息を整え始めた。


「ふぅ。確かに人間如きの言う事に怒ってたらキリが無いものね。それで君は私達を相手にどうするつもりかな?逃げる?戦う?」

「逃げる理由も戦う理由も無いが・・・。」

 そう言いながら帝は考え、思った事を口にする。


「確認したいのだが・・・。お前達の言う創世神の名前は何と言う?」

「・・・どう言う意味だ?」

「・・・どう言う意味?」

 フェンリルとヘルは帝の言った意味が分からずに問い返した。


「世界樹の守護者は創世神から任されたと言った、なら創世神に会った筈だろ?その時に自分は創世神だとそして名乗ったんじゃないのか?」

 帝の返答にフェンリルが口を開いた。


「・・・創世神様の名を聞いてどうする?」

「ただ気になっただけだ。神話で伝えられている名前が本当の名前なのか、それとも偽名なのかとな・・・」


 帝は創世神の名前どころか直接会っている為、偽物かどうかが分かる。帝は偽物であれば何の目的で創世神を名乗っているのかを探し出して問いただすと言う目標を持つと考えている。


「神話でどの様な名が伝えられているのかは知らんが、我らに守護者を任された創世神様の名はリューグナー様だ」

「・・・リューグナーか、分かった」

 帝がそう言った時、足元が急に暗くなった。咄嗟に頭上を見上げた帝は何かが頭上から降って来ているのを見た。それは口であった。そしてそれは帝の頭上から勢いよく地面に激突し土埃を巻き上げた。

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