この女、冷徹にして最狂
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アオメside
「きろ…アオメ、起きろっ!」
名前を呼ぶ声で、眠りから覚めた私のぼやけてる視界にはオレンジ色の淡い光が見えた。
「おはよう、ございます…」
身体を起こした頃には視界は開け、ステラさんがロウソクを持っていることが分かった。
「早く着替えろ、仕事だぞ」
そう言って彼は部屋を出て行った。
私はベッドから立ち上がり着替えようとした途端、腰に激痛が走る。
ステラさんが激しくするからだ…
はぁぁぁぁ、と特大のため息をつきながら私はまた男装して燕尾服を着る。
こういう時に痛みに耐性があるって便利だな、と思う。
眠い目をこすりながら廊下に出ると、すでにみんなは出ていて私待ちだったようだ。
「おはよう、アオメ!」
朝から超絶元気なクレナさんに比べ、低血圧だと話す少々機嫌の悪いメルロさん。
やっぱこの人たちキャラ濃いな…
なんて思い、笑っているとステラさんが私用のロウソクを渡してきた。
「朝の仕事は屋敷に異常がないかの点検、朝食の準備、洗濯、マスターを起こすだ。空いてる時間を見つけて朝食を取るぞ」
時間は限られてるからと言い、私とステラさん。そしてクレナさんとメルロさんに分かれて仕事をする。
屋敷の点検から始めた私達の間に会話はない。
女だとバレてなんだかとても気まずいのだ。
「おい、そこの壁紙破れてるぞ」
頭上から声がしたので見上げると、ステラさんがこちらを見ていた。
相変わらずの無表情は、昨日のことは現実だったのかと疑ってしまう。
「ステラさんのせいで傷つきました」
「お前が黙ってるからだろ、不可抗力だ」
「そこじゃなくて、その後ですよ!」
しゃがんでいた私にかぶさるようにして立つステラさんの足をぐっと押す。
「やめろ、転ぶだろ」
そう言ってるステラさんを置いて、私は少し歩いたところの壁を点検する。
「…悪かった。すまん」
私がステラさんの方を見ると、深々と頭を下げていた。
「少しからかいたくなった…悪かった///」
首をぽりぽりと掻きながら顔を上げたステラさんの顔は真っ赤だ。
なんだか完璧でクールなステラさんの弱みを握ったようでとても嬉しい。
「これから絶対しないっていうなら許してあげます。…ついでにその壁紙の補修も」
「分かった、約束する」
素直なステラさんもなかなかいいな…
なんて思っていたら、にやけてきたので顔を引き締める。
あそこまで謝ってくれたので、私もそれについてうじうじするのはやめた。
どうせ初めてじゃなかったし…
「今日の午後からは次の犯罪の計画を全員で練るから、仕事は午前までだ」
仕事の途中でいつも通りに戻ったステラさんがそう言ってきた。
その言葉に私は返事をして仕事を素早く片付ける。
物覚えは早い方なので初めて行う仕事にも私は着々と慣れていった。
屋敷の点検が終わった頃には7時になったのでマスターの部屋へ向かう。
真っ暗な部屋の中を家具に当たらないようスマートな動きでステラさんは進む。
「マスター、おはようございます」
一声かけてから部屋のカーテンを開けると、部屋に朝日が差し込んだ。
すぐに起きたマスターの着替えを私が行ってる合間に、ステラさんは花瓶の水を入れ替えていた。
昨夜と同じようにダイニングまではステラさんの少し後ろをマスターが歩く。
更に少し後ろを私は歩く。
前から敵が来た時にと後ろから敵が来た時に対応できるように、と言っていた。
「今日はアオメがマスターをエスコートしろ」
突然そう言われたので少し焦ったが、昨日見たステラさんの行動とスペルタールで学んだ知識でエスコートする。
チラっとステラさんを見れば満足そうに微笑んでいたので大丈夫そうだ。
マスターが食事をし終わったので私は彼を自室まで運び、仕事を終わる。
「完璧でしたよ、アオメさん。さすがですね」
「ありがとうございます、頑張りましたっ!」
ダイニングに戻ればみんなが笑顔で迎えてくれた。
「執事の仕事はもう完璧なんじゃない!?」
「クレナはいつまで経ってもできないがな」
なんて会話しながら私達は食事を取るためにキッチンの中に入る。
広いキッチンの中にいたのは3人の男性だった。
「お前がアオメか?シェロ マロニールだ。ここの料理長をしている。よろしく」
「アオメです、よろしくお願いしますっ!」
「私の弟ですよ、歳は18です」
そう言うメルロさんとシェロさんはたしかに顔がそっくりで、違うのは短髪か長髪かだ。
残りの2人とも自己紹介を済ませた後、
絶品の朝食を頂く。
「毎日、こんな食事だなんてここに雇われて良かったぁ~!」
前まではろくに食事をしていなかったので、その美味しさが身に染みた。
その後もみんなで仕事を片付けて午前中を終えた。
私がまだ行ったことのない所に連れてこられ、部屋に入る。
真ん中に細長いテーブル、その周りに椅子が並べてあった。
テーブルの横にあたる椅子に私達は座る。
それから少し待つとシェロさんをはじめとする従業員の方たちも来た。
「では、これより計画するにあたり、メルロからの説明だ」
ステラさんがそう言うと、メルロさんは私たちに髪を配り話し始めた。
今回は『テルターノ家』の主の暗殺だけが目的のようだ。
「…なので今回は暗殺部隊である私達が実行します。…っと、自己紹介を忘れてましたね。アオメさん、お願いします」
髪を見てたら、いきなりそう言われたので私は慌てて椅子から立ち上がる。
「昨日からここで雇われました、アオメと言います。よろしくお願いします」
私がそう言うと、周りの人たちには「あのアオメかっ!?」と驚かれてしまった。
「話戻すぞ、メルロ続けろ」
どうやらステラさんがまとめ役のようで、まさに鶴の一声だった。
「それでですね、この屋敷にはガードマンが100人くらいいると言われています。
屋敷の地図を見ても分かる通りとても広いですし、主の部屋が分かりません。
部屋探しからなのでかなりの長期戦になりますよ」
地図を見ると、この屋敷と変わらないくらいの広さだ。
「じゃあ手分けして探すしかないんじゃな~い?」
とクレナさんは言うが、100人に見つからないよう部屋探すのも難しいと思う。
「となれば、探しつつ見つかれば殺すですかね?」
みんなで頭を捻らせ、必死に考える。
「アオメ、お前いつも単独だったろ?
前のお前だったらどうする?」
不意にステラさんに振られたので、みんなの視線が私に集まる。
「そうですね…まず99人殺して、残りの1人に主の部屋まで案内してもらってから殺します」
私がそう言うと、シーンと部屋に沈黙が広がった。
私がみんなの顔をみて、慌てているとステラさん達が噴き出す。
「顔に似合わず、非道なことを言いますね?」
「確かにお前は死神だな、まさかのみな殺しか?」
その問いに私は「もちろん」と答えるとさらに笑われた。
「だが100対4だぞ?勝算は?」
「100対1でも負ける気がしないので大丈夫だと思いますよ」
ガードマンの名前を見る限り、有名な名か1つもない。
少し格闘技ができるか、銃が扱えるくらいなのだろう。
「僕それに乗ったぁ~!てか、それがいいですっ!」
クレナさんの声が後押しとなり、今回の作戦は「皆殺し作戦」に決まったのだった。
計画会議を終えた私達は1度部屋に戻るために廊下を歩く。
このあとは屋敷に備わってる訓練場で体を動かす予定だ。
「皆殺しとか時間かかるし、面倒くさいけどなんでそれがいいと思ったの?」
そう聞いてきたのはクレナさんだ。
「特に理由はありませんよ?ただそれが今までのやり方だったってだけで」
「なかなかシビアな世界ですね?
それではまた後ほど」
私達は自室に戻ったあと、資料を部屋に置いてから訓練場へ移動した。
「燕尾服で動くの大変そうだな…」
「でも武器は隠しやすいぞ?」
そう言うステラさんの燕尾服には短刀やナイフ、銃まで収まっていた。
「まずはアオメの得意分野を探すか。
ちなみにメルロは遠距離、クレナは接近戦を得意としてる」
遠距離だと弓や銃で、接近戦なら剣とかだろう。
「じゃあ最初僕が相手ねっ!短剣で勝負だ!」
クレナさんか提案してきたのは、前のようなdead or alive のような試合ではなくて安心した。
相手の体を傷つけ、流血させたほうが勝ちだ。
「じゃあ、始めるぞ。5分な?
よーい、始めっ!!」
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ステラside
「アオメさんはやっぱり黒に染まってますよね?」
クレナとアオメが戦ってる最中、不意にメルロが言ってきた。
「殺すことになんの躊躇もない、むしろ殺すことが正しい治療のように」
今だって一歩間違ったら大怪我する可能性のある戦いをアオメは楽しそうに笑っている。
スペルタール卒業ということもあって、
アオメがかなりの優勢だ。
クレナもよく戦い中は笑いを浮かべるやつだが、今は眉間にしわを寄せている。
「そういう俺らも真っ黒だろ?」
さすがに皆殺しまでは考えなかったけど、という言葉は飲み込む。
そう考えた時、アオメがクレナから距離を取る。
何が起きるのかと、様子を見ているとクレナの目の下に赤い線が現れた。
「クレナ、目の下切られてるぞ」
俺がそう言うと、気づいてなかったようで血に触れて初めて気づいていた。
「痛みがなかったから気づかなかったよっ、さすがアオメっ!」
戦いが終わると2人とも手を取り合って、お互いを賞賛している。
気づかれないうちに痛みもなく傷をつけ、死を迎えさせる。
死神だけがなせる業だな…。
「アオメ、次はこっちだ」
はしゃいでいたアオメを呼び、狙撃銃を持たす。
「ルータスでNo.1の狙撃手はメルロだ。
確実なのは1.5キロメートル圏内」
「あ、ルータスっていうのはルーコイド・ターキス・カンパニーの略ね!」
メルロも自分の愛銃を持って100メートル先の的を狙う。
残念ながら室内だと1.5キロメートルも距離が取れないから仕方がない。
クヒュンッ、という風を着る音がしたあと、メルロはこちらを見てきた。
どうやら真ん中に当たったようだ。
続いてアオメが銃をくるくる回したあと、体を横に向けて構えて撃った。
その動作、1秒もかかっていない。
メルロでさえ、狙う時間は5秒ほどかかっていた。
「アオメの構えって変わってるね~、普通は狙撃銃って両手なのに片手で撃ってる!」
そこにもびっくりだが、弾は的を射ていた。
「狙撃も接近も出来るなんて…さすがですね!」
メルロも思わず拍手をしている。
「お前はどっちも行けるな…俺と同じだ」
そう言うとアオメはくしゃっと笑って「それは光栄です」と言っていた。
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アオメside
クレナさんとメルロさんと張り合ったあと、私は自分に合った武器を探す。
接近時に使う短剣は選んだが、銃があまりしっくりこないのだ。
「家にある愛銃が特注だったからかな?」
他の人より私は手が小さいので、ここにある銃では太すぎて持ちづらいのだ。
「なら一旦、取りに戻るしかないか。
もうすぐで材料の仕入れ必要だったからな」
「えっ、外出ていいんですか?」
「2人以上で行くことを条件に、仕事に支障をきたさない程度なら許されている」
意外と自由なんだな、と思いつつ私は愛銃を取りに行けることを喜ぶ。
「おでかけするの!?暗殺以外で外に出るのは1ヶ月ぶりだ~!」
クレナさんが話を聞いていたようでこちらにやってくる。
「あ、クレナさん!ちょっとしゃがんでくださいっ!」
私はポケットから絆創膏を取り出して、
背の高い彼の目の下に貼る。
できるだけ浅く切っておいたが、ばい菌が入ってしまったら大変だ。
「はい、いいですよ!痛くないといいんですけど……」
目の下に貼らなければならなかったのですっごく顔が近かった。
やっぱすっごい美形だよな、2次元だ…
「ありがとう、アオメッ!」
そう言って私に抱きついてきた。
「とりあえず明日、外に出よう。
マスターに許可を取ってくる」
ステラさんはそう言って訓練場を出て行った。
私たちもかなり体を動かせたので、晩御飯前にお風呂に入ることとなった。
汗かいちゃったから早くウィッグ取りたい…
私は自室に入るなり、ポイッとウィッグを脱ぎすぐにお風呂に入った。
そのあとはウィッグも洗い、ドライヤーで乾かしておいた。
「明日家に戻ったらカツラと眼帯の予備持ってこなきゃだな…」
そう考えながら私は廊下へ出た。
「あ、シェロさん!」
そこに丁度シェロさんが歩いてきた。
「おう、アオメ。ごはんの支度出来てるから早く来い。冷めるぞ?」
そう言われたので私は他の人の扉を叩く。
「ステラさーん、ごはん出来ましたよ!」
すると濡れた髪をしたステラさんが出てきて、「今行く」と答えた。
クレナさんは私が呼ぶとすぐに出てきて、また抱きついてきた。
「メルロさん、ごはん出来ましたよ!」
そう呼ぶと扉が開き、下半身にタオルを巻いただけのメルロさんが出てきた。
「分かりました、すぐ行きますね…」
「……あ、はい///」
私は慌てて下を向いてから返事をした。
メルロさん私よりも細くない!?
肌白くない!?女の人みたいだ…
なんて考えていたらみんな揃ったので、私達はお昼ごはんを食べた部屋に向かった。
「コルトにテルターノ家の屋敷で行われるイベント、住人の外出予定を調べてきてもらった」
2回目の会議が始まり、また紙が配られた。
コルトさんは情報収集部隊のリーダーで、スパイ的な存在だ。
テルターノ家は近々結婚式を屋敷で行うようで、今はその準備に忙しいみたいだ。
てことは行商が屋敷を出入りしてるか…
「アオメ、皆殺しの計画を立てたのはお前だ。お前ならいつを狙う?」
「準備ができるのであれば、行商人の振りをして屋敷内に入れるので結婚式前にやりますね。
でも手っ取り早くやるのであれば結婚式を狙い、客の振りして狙います」
「結婚式を狙うとなれば、客を含めて軽く人数は500を超えるが?」
「無抵抗の一般人を人数に含める必要はないと思います。どうせすぐ殺せますし」
「新しい生活を迎える新郎新婦も殺すのですか?」
「差別は嫌いなので分け隔てなく殺します」
そう答えながら用意されてた食事と水を口に運ぶ。
「メルロさーん??なんでまた毒入ってるんですか?」
そんな私には恒例のオチが待っていた。