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歴史の続き〜偉人達の異世界譚〜  作者: まつたけ
偉人達よ偉人たれ
2/2

ニノ陣 降り立つ武将

短くするか、長くするかで悩んだ末長くなりました!

【天下布武】

 天下統一を目標とした信長が掲げた印。

 武力による統制では無く、七徳の武を信条とした信長に肖り、効果は一定範囲内の暴力行為の禁止(自身と家臣は例外とする)。

【焼き討ち】

 比叡山焼き討ちの史実より発現した能力。攻撃に炎を付与し、延焼効果を高める(任意発動)。


 信長は自身のパネルに表示される恩恵を見てこれは何の冗談かと眉を顰める。

 一定範囲の暴力行為の禁止?攻撃に炎を付与?

 信長には書いてあることが理解出来なかった。


「女神とやら、ここに書かれておることは一体どう言うことか?」


 隣にいる光秀もその表示を見たらしく、疑問と驚愕が合わさった非常に滑稽な顔で女神へと問い掛けていた。

 しかし、どうも様子がおかしい。

 疑問は分かる。現に信長も眉を顰め、光秀の意見に同調するように女神へと視線を向けているのだから。

 だが、何処に驚愕することがあったのだろうか?

 その信長の疑問は光秀の次の言葉で理解することとなる。


「拙者は殿に謀反を起こした覚えなぞござらん!」


【謀反】

 信長に反旗を翻し、自害に追いやったとされることから発現した能力。影を斬り付ける事により本体にダメージを与える【影斬り】や影に潜り短距離的な瞬間移動を行ったりする【影移動】を使えるようになる。

【時は今天が下り知る五月哉】

 明智光秀が詠んだ連歌より発現した能力。主君に有利に事が運ぶように月に5回まで現実を改変することが出来る。


 これが光秀のパネルに表示されていた恩恵であった。

 事実光秀は信長を助けに駆け戻り共に本能寺で焼け死んだのだ。この様なことを書かれる謂れなど全く無い。


「私に聞かれてもなぁ〜。現代の日本人が勝手にそう解釈して、教科書に載せたんだから仕方あるまい?それと因みにだが、教科書には貴方が信長を殺害した後、豊臣秀吉に信長の仇討ちされ命を落としたとなっている様だぞ?」


 スナックを食べながら日本史の教科書を読む女神は面倒臭そうに光秀へと教科書に書かれる事を伝える。

 その酷く歪められた歴史に光秀は膝から崩れ、一体何故と壊れたように何度も呟く。

 信長もさすがに哀れに思ったのか光秀に近寄り、儂は真実を知っておると慰みに掛かった。


「殿ぉ・・・。取り乱してしまい申し訳ありませぬ。殿のご慈悲感謝致しまする」


 信長第一である光秀はそれだけのことで絶望の淵から生還し、信長共々キャラクターメイキングへと勤しむ。

 信長は取り敢えず性別を男に設定し、若く且つ侮られぬよう年齢を20へとする。


「殿、年齢の方はどう致しましょうか?」

「儂は若く20としておいたぞ」


 何のための質問か光秀は信長の年齢設定を尋ねる。

 それに光秀は、主君より目上では・・・と1人ブツブツと呟き、年齢設定を17へと合わせていた。

 信長は光秀に何か良くない気のような物を感じ少し身を引くが、すぐにいつもの事かと設定を再開する。

 そうこうしている間にも手っ取り早く初期設定を終わらせた者は女神の下へと行き、少し手続きをした後、異世界へと旅立って行く。

 だが、信長達はその様な者達は目もくれず一心不乱に顔に趣向を凝らしていた。

 目と髪色は黒で確定。髪は長く頭の後ろの方で結びちょんまげっぽく。しかし、それはちょんまげと言うよりはどちらかと言うとポニーテールであり、嘗ての威厳の様な物を露ほども感じぬ仕上がりとなっていた。

 しかも信長は、自身の体格を生前に肖り少し華奢にしてしまったため女に見られてもおかしく無い出で立ちとなっていた。


「完成だ!うむ、なかなか凛々しい男子(おのこ)ではないか!」

「こちらも仕上がりましたぞ!では、参るしましょうか」


 ちょうど光秀も仕上がったらしく、2人連れ立って女神の下へと歩いて行く。

 尚未だ2人は生前の姿のため、互いのキャラクターの仕上りを認知していない。


「完成したメイキング画像を提出するが良い。不備が無いか確認した後次の作業へ移行してもらう」


 寝転がったまま右手をこちらに突き出し、はよ寄越せと言わんばかりに指を曲げ伸ばしする女神。

 その態度が癪に障った2人だが、ここで癇癪を起こしても得が無いと心得ているのか攻撃を繰り出す様な真似はしなかった。


「どちらも不備無しと。じゃあ次だ。とは言ってもこれで最後なのだが、決めてもらうのは転移場所と装備、服装だ。貴方達はどちらも武人という事もあり、武器の方は生前使っていた刀に少し色をつけて送らせてもらうつもりだ。確認してくれ」


 女神が手を振ると、信長達のパネルに新しい項目【転移場所】と【武装】が出現する。

 転移場所には国名、街名、村名と事細かに分けられ名前の下には短く説明も書かれていた。

 武装の欄には既に武器がセットされており、武器の名前と武器の説明が書かれていた。


圧切長谷部(へしきりはせべ)金霰鮫青漆きんあられさめあおうるし打刀(うちがたな)(こしらえ)

 総長三尺一寸一分(約92cm)にも及ぶ刀で紅い柄巻と下緒が特徴。鞘は黒く無骨でありながら何処か恐ろしげな雰囲気を纏う。(はばき)には黒い五つ木瓜が両面に付いている。女神の加護が付与されており、折れることは無い。


宗三左文字(そうざさもんじ)

 長さ二尺二寸一分(69cm)の刀。黒の柄巻と金の鍔が特徴。信長が気に入り磨きに磨いたため、切れ味は折り紙付き。鞘は同じく黒くであり、鞘には紅い筆で松が描かれている。女神の加護が付与されており、折れることは無い。


 これが信長の武器。

 どちらも信長が愛用していた刀に相違無い。

 しかし、信長は別に二刀流という訳では無い。

 これは信長が長い刀と短い刀とで分けて立ち回っていたため、この長短二振りの刀が寄与されたのだ。


備前近景(びぜんちかかげ)

 生前明智光秀が愛用していた刀。

 長さは二尺二寸五分(68cm)で、黒い鞘に金の桔梗の紋様があしらわれている。斬り裂くことに特化した武器であり、その身は女神の加護が付与されており、斬れ味が劣化することは無く、折れない。


 そしてこれが光秀の武器。

 光秀は信長ほど武の方に才能があった訳では無いため刀は一振り。

 しかし、その分斬れ味が強化されており、その刀身は鉄程度であれば容易く斬り裂く。


「「・・・・・・。」」


 パネルの説明と女神の説明を同時に聞いた2人は自身の武器の恐ろしさに慄く。

 実際に物語のように日本刀で百人斬りを行った場合、ものの数人で人間の脂やからが付着し使い物にならなくなる。しかし、この刀達ならばそれを成し遂げてしまう可能性がある。

 色々と女神を問い詰めてやりたい気分になった2人だが、女神がとっとと決めろと言わんばかりの表情でこちらを見ていたため、その言葉を飲み込んだ。


「とっとと決めてくれ。後がつっかえてるんだ」


 言った。どうやら相当ゴタゴタしている2人が目障りだったらしい。

 甚だ不服だが、2人は手早く決めるため、光秀は殿の御心のままにと全権信長に押し付け、自身は傍観に徹した。

 信長はそんな都合の良い光秀に信じられない者を見る様な表情でガン見し、一番最初に書かれていた始まりの街【アルギエバ】に決め、女神に語り掛けた。


「この街で良い。儂らは共に行動するため、同じ場所に送ってくれぬか」

「分かった。まあ、せいぜい楽しんで来い。出来れば私を退屈させてくれないでもらえると助かる」

「ふむ。では、頭に留めて置くとしようか。儂も下らぬ人生を送る気など毛頭無いからな」

「じゃあ、女神の加護があらんことを〜」


 女神は毎度の如く指を鳴らす。

 すると、信長と光秀の頭上から白い光が差し込み、2人の姿を足元からゆっくりと消して行き、最後には跡形も無く消え去った。

 消える間際に信長はこの様な神の加護など要らぬと心底そう思ったが、こんな者でも一応は神。貰える物は貰っとけの精神でそれを全く有難がらず受け取る事にしたのであった。


 ◇◆◇


 いきなり街中に転移するとなると様々な弊害が生じる。やれ不法入国だの、やれ敵国の間者だのとまあ本当に様々である。

 そのため、咄嗟にその事に思い至った光秀の助言によりアルギエバより少し離れた街道へと降り立った信長と光秀。

 よくよく考えると2人は服装の選択をしておらず、このままでは素っ裸か!?と思われたが、そこは女神よ優しさか気まぐれか2人とも可も無く不可も無いごく一般的な街人の服装をしていた。

 ここで初めて互いの作成した姿を見ることになったのだが・・・。


「・・・・・・。」

「殿〜そんなに見つめないで下され〜」

「・・・・・・。」


 見るなと言う方が無理である。

 先程話していた頃の声よりも幾分か高くなり、両手で頬を抱える光秀を見て信長は軽い頭痛を覚える。

 見た目は黒い瞳に長い黒髪、ここまでは信長と変わらない。しかしだ。クリッとした瞳、長い睫毛、健康的な赤みを湛えたプリッとした唇。顔は非常に整っており、顔を赤らめているこの表情を見れば男なぞイチコロだろうと事が容易に想像出来る。少し目を落とせば、狭い肩幅にすらっとした手足、胸の所には僅かであるがしっかりと主張する物がある。


「1つ聞こう光秀。お主は何故(なにゆえ)女へと姿を変えたのだ?」

「こちらの姿の方が殿に気を掛けて貰えそうではありませぬか〜」


 実に短絡的で下心丸出しの理由であった。

 我が家臣ながら非常情けない思いの信長である。

 はぁっと溜息を付く信長を尻目に光秀はこれからどうするかと考え始める。

 そして、1つの結論に到達し、信長に意見を伝える。


「殿、これからの事ですが・・・」

「お主切り替え早いな!?儂はまだお主にその様な趣味があった事に驚きを隠せんのだぞ!?」

「慣れてくだされ。拙者はこの身朽ちるまで殿のお側に居るつもりでございます。いつまでも気にされては拙者の方も居辛うございますので・・・」

「主にお主のせいだからな!まあ良い。して、お主は先程何と言おうとしておったのだ」


 自分の事を棚に上げた発言に光秀ってこんな奴だっけと一瞬本気で過去の光秀を思い出し始めた信長だが、なってしまったのは致し方無しと光秀に先程言いかけていた事の続きを促す。


「はっ!拙者が愚考致しますに、この先の街、・・・アルギエバと申しましたか、そこには恐らく税という物が存在すると思われます。しかしながら、我等は今一文無し。つまり、街に入る事が出来ない恐れがございます」


 あの不親切な女神は転移する者の誰にも金を渡していなかった。

 そのため、聡い者は街の外に転移し、何らかの金策を行い街に入る。しかし、その事まで頭の回らぬ者は店先なりで金が必要な事を思い知る。だが、何分関所を通らず街に入っているため、下手に出ようとすれば不法滞在がバレ即御用となる。

 さてさて、この2人は幸いその様な事が無かったが、無から有を生み出す金策の方法などまるで心当たりが無い。いや、ある事はあるのだが、あの天下の信長が野盗紛いの行為など死んでも御免であったため、即その考えを除外する。


「そこで、拙者の現実改変とやらを使ってみようかと思う次第でございます」


 現実改変。光秀の恩恵【時は今天下り知る五月哉】の効果で月に5回のみ主君──即ち信長──に有利になる様に事実を捻じ曲げる能力である。

 つまりは・・・金に困っている信長のために金欠という事実を捻じ曲げ、金を手に入れてしまおうという事である。


「反則じゃね?・・・ごほん!一番手っ取り早い手段となるとそれしかあるまいか・・・」


 などと訳ありそうに言ってはいるが、実際はただ考えるのが面倒だっただけである。

 主の了承を得た光秀は何故か元から使い方を知っていたかの様に能力を展開し、言葉を紡ぐ。


「我、主君に仕えし武人なり。主君の望みに生き、主君の望みのみに力を奮う。我が主君の要求を聞きし言霊よ、須く彼の者織田信長の願いを叶えたまえ!【現実改変・貧者が為の天恵】」


 魔法陣などの派手な演出も無く、ただただ普通に言葉を紡ぐ光秀。

 詠唱が終わった瞬間、その模様を黙って見守っていた信長の脳内にあるメッセージが届く。


 《【現実改変・貧者が為の天恵】が発動されました。明智光秀の主君、織田信長様の望みをお聞かせ下さい。》


 それは光秀の恩恵が無事発動したという報告と、実際に現実改変を行う際に必要な最後のピース主の要求を尋ねる文章であった。

 それに信長は街に入るための金が欲しいと端的に答えると、承認されましたと再度メッセージが届く。

 それを皮切りに何処からか武装した如何にも盗賊と言った風体の男達が6人姿を表す。

 男達の装備は血に汚れ、腰にはジャラジャラと音を立てる何かが入っているであろう巾着を身に付けていた。


「お?さすがお頭ですぜ。商人を襲ったその足でこんなイケてる女2人を拾うだなんて〜」

「急に行き先を変えて何処に行くのかと思ったらぁ。これが盗賊のカンって奴ですかい?」


 何か致命的な勘違いをしているが、この場にいる女は光秀1人である。

 中性的な顔立ちをしているが信長は断じて男である。


「おい。お主らは頭だけで無く目まで悪いのか?」

「ああ?何だよ姉ちゃん。言葉遣いがなってねぇぞ?そうだなぁ?ご主人様とでも呼んでみろや」

「ギャハハハハ!良いぜぇ、威勢の良い女は嫌いじゃない。そんな女の啼く声は堪んねぇからなぁ〜」


 主を侮辱された光秀は殺気を多分に含んだ視線で睨みつけるが、見た目に迫力が無い分、男達に堪えた様子は見られない。それどころか、下卑た笑みを浮かべ躙り寄って来る始末である。


「なあ、光秀よ」

「はっ!何でございましょうか?」

「これが儂の望み、現実改変の効果と受け取って相違無いか?見た所奴等の腰巾着に入っている物、あれがこの世界の金なのではないか?」


 信長の要求は街に入るための金。手段、方法は指定していない。そこでたまたま近くに居合わせた野盗がその条件を満たしていたため、意思に関係無くこの場に招き入れられたのだ。


「なるほど。手段、方法は別としてしっかりと殿の要求は果たされたという事ですね?」

「左様。せっかく、光秀が作った機会だ。それを活用せぬ術はあるまい?」

「てめぇら!俺らそっちの好き勝手話してんじゃねぇぞ!」

「安心せい、話は済んだ」


 勝手に話始めた信長達に痺れを切らした取り巻きの1人が声を荒げ、信長達の注意を自分達へと向かせる。

 それを獰猛な笑みでもって返した信長と光秀は各々の武器、圧切長谷部と近景を抜き正眼に構える。


「ギャハハハハ!何だよそれ!そんな薄っぺらいので俺らと殺り合おうってか?」


 どうやらこの野盗共は刀という武器を見たことが無いらしく、自らの剣も抜こうとはせず、ただただ腹を抱えて笑っていた。

 しかし、それ以上その野盗は言葉を発すること無く、首と胴体が離れどしゃっと音を立て崩れ落ちた。


「何だ!?お前ら何しやがっ・・・え?」


 声を上げた野盗は全て言い切る事無く、自身の腹から感じる冷たい嫌な感覚が生じ、視線を下に落とす。

 そこには先程まで対面にいたハズの光秀が持つ近景が刺さっており、自身の影からその持ち主光秀が出て来る所が目に映った。

 今の時刻、太陽は野盗共の背中側にあり、影は当然光秀側へと伸びていた。

 つまり、1人目の影の首を【影斬り】で切断し、そのまま自身の影に潜り2人目の影へ【影移動】で移動。その影から近景を突き出し、野盗の腹を貫いたというのが事の次第である。


「敵が刀抜いておると言うのに貴様等は腰に挿しておるそれも抜かずにどう言うつもりだ?」

「がっ・・・てめぇ・・・!」


 光秀は野盗の腹に刺した近景を無造作に引き抜く。

 虫の息ながらも息がある野盗は血を垂らしながらも後方へと命からがら後ずさる。

 それをゴミでも見るかの様な目で見た光秀は1人目と同じ様に影の首を斬り落とす。


「野郎ども!気を付けろ!この女、妙な術を使うぞ!魔法の使えるやつはあの女を牽制しろ!その間に俺は後ろの女を仕留める!」

「「「へい!」」」

「儂は女では無いのだがな・・・」


 野盗達は頭の指示に従い、光秀を妨げるべく各々得意な魔法を放つ。

 しかし、魔法が得意な者は残った3人の内の2人のみで最後の1人は帯刀していた直剣を抜き、光秀へと突撃する。


「ファイアーボール!」

「クレイショット!」


 突撃した野盗の後方から放たれた火の玉と土の塊を見ること無くそれを絶妙なタイミングで野盗は回避し、再度光秀へと突撃する。


「これがリィーン殿の言っておった魔法とやらか。しかし・・・・・・こんなものなのか?」


 飛来する魔法はどちらも脅威足り得ない。

 そもそも、何故1人につき1つの玉しか飛んで来ないのか謎だ。こんな物で足止め出来る者などいるのかどうか怪しいぐらいだ。


「はぁ・・・」


 光秀は何がしたいのかまるで分からない野盗共を見て、そっと溜息を漏らすのであった。



「よくも俺の下っ端共を殺してくれたな。てめぇもずっと見てねぇで戦闘に参加したらどうだ?」

「参加する気が無ければ刀など抜かぬであろう?そもそも、刀を侮り構えぬままに斬り捨てられたのは貴様等の落ち度であろうに」


 一方、大剣を抜き放ち信長と対峙した頭は戦闘を光秀に任せきりの信長を非戦闘員だと断定し、侮りの表情を見せる。


「けっ!そんな薄っぺらい剣で油断を誘う狡い戦法取ってる奴のセリフとは思えねぇな!」


 完全に不意打ちだった。

 何かを言おうとしている信長へと、180cmはあるであろう頭の身長より大きな大剣をまるで軽さを感じていないかの様に持ち上げ、自重を込めて叩き込んだのだ。

 潰した。頭はそう確信し、口元を緩める。


「その様に力任せの攻撃、儂に当たる訳なかろう?何より、戦闘中に不意打ちが成功すると考えるその精神がいけ好かん!」


 半身をずらす事で頭の剣戟を避けた信長は燃え盛る刀、圧切長谷部を振るい頭の胴体を焼き斬る。胸部辺りで横一文字に斬られた頭はゆっくりと倒れて行き、胸より上は後ろに胸より下は前方にその身を落とした。


「口ほどにも無いな。さて、いくら程持っておるか・・・価値が分からんから何とも言えぬが・・・」


 頭の腰に付いていた巾着を奪い去り、中身を確認する。

 中には銀色のメダルが12枚、褐色のメダルが20枚入っていた。

 ふと、光秀の方を見ると向かって来ていた魔法を影に潜り回避、後ろに控えていた男達の内の1人の影から現れ首を落とす。異変に気付いたもう1人の男も同様に殺害。自分以外の全員が殺されたと理解した最後の1人は己の不利を悟り、尻尾を巻いて逃げ出して行った。


「もう良い光秀。ご苦労であった。戦を得意とせぬお主がここまで動けるとは予想外であったわ」

「お褒めに与り光栄にございまする。殿、戦利品でございますお納め下さい」


 そう言い、光秀は野盗共が身に付けていた全員分の巾着を信長へと差し出す。

 合計として銀色のメダルが14枚、褐色のメダルが31枚となった。


「足りると思うか?」

「相場が分からぬため何とも・・・」

「動くな!!貴様等、そこで何をしている!」


 ガチャガチャと音を立て、全身金属製の鎧に身を包んだ男達が10数人単位で現れ、信長達を取り囲む。

 彼等は商人の馬車が襲われたとの知らせが入り駆け付けたアルギエバ常駐の衛兵であった。

 商人は既に亡くなっており、商品も壊滅状態で金目の物は全て奪い去られた後であった。

 そこで彼等は野盗共がまだ近くにいるかもと捜索を開始、そして運悪くこの惨殺事件に遭遇した次第である。


「何と聞かれても・・・のぅ?」

「野盗の退治・・・でございましょうか?」

「怪しい奴等め!詳しい話は詰所で聞かせてもらう!おい、連れて行け!」


 何処からどう見ても怪しい2人に衛兵達は警戒度を高め躙り寄る。

 これはまた被害者が増えるか?と思われたが、何故か大人しく連行される2人。


「此奴等あの街務めの兵隊か何かではないか?」

「恐らくそうかと・・・」

「ならば、このまま大人しく着いていき、誤解を解く。そして難癖を付けて税を軽減、乃至は免除。これしかあるまい?」


 あるまい?ってそんな事は無いとは思うが、それをツッコむ者は残念ながら存在しない。光秀は信長の前では完全なイエスマンと化してしまうのだ。


「流石殿でございます。では交渉役は拙者にお任せ下さい。必ずや殿の望む結果をご覧に入れてましょう」


 ここに詰所へと連行されているのにも関わらず、ニヤニヤと悪魔の笑みを浮かべた男女が完成した瞬間であった。

恩恵には何種類かあり、その中に強力が故に詠唱を必要とする恩恵がいくつかあります。光秀のはそのタイプです。

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