一ノ陣 無気力なる女神
初めまして、まつたけと申します!
英語の勉強をしている時にふと思いついたお話です。キャラは出来る限り調べてから書きますが、性格や能力などは筆者側の独断と偏見となります事をお許しください。
ニュートン、キュリー夫人、ヒトラー、坂本龍馬、教科書には偉人、犯罪者問わず様々な人物が掲載される。
生まれた場所も、歩んで来た時代も、成し遂げた偉業もまるで違う彼等が総じて顔を合わせる機会などあるハズも無い。
しかし、死した彼等はある者の手により招集され、一同に会する事となった。
彼等は突如として見に起こった事に動揺を隠せないでいた。
何の前触れも無く、彼等はこのだだっ広い空間に突如として召喚されたのだ。
死した身、形を持たぬ魂として。
その狼狽する魂達を見やり、白いドレスを着た少女リィーンは満足そうにニヤリと口角を上げ、両手を目一杯広げ声を張り上げる。
「その名を世界に轟かせた者達よ聞くがいい!貴方達ほどの才をあの様な陳腐な世界で終わらせてしまった無能なあの世界の神に、私は苛立ちを隠せない!そこでだ!私は女神として貴方達に第2の人生を提供しよう!」
高らかに宣言された自称女神の言葉は一瞬にして偉人達の注目を集めた。
ある者は好奇の視線で、ある者は何を下らぬ事をと冷めた視線で、そしてある者は自身の崇める神を貶めた少女を射殺さんばかりの視線で睨みつけていた。
しかし、彼らは既に朽ちた身、魂だけの存在だ。
何が言いたいのかと言うと、彼らの今の姿は皆等しく青白い篝火となってしまっている。
幾らその目で女神を睨みつけた所で女神には何の害も及ぼさない。
そのため、女神は全く意に介さず言葉を続ける。
「ただし、生誕の地は貴方達のいた地球では無い、言わば異世界。私が管理する世界だ。当然だ。あんな世界に戻った所で貴方達は既に死した身。死した魂が出来る事など何も無い。かと言って、魔法があり、魔物がいる世界に貴方達を放り込んだ所ですぐに死んでしまっては面白みが無い。そこで私から貴方達へ【恩恵】を授けよう。内容は個人によって違うため、また後程説明するが・・・ふむ。どうやら、既に興味が失せた輩がおいでの様だ」
淡々と語っていた女神だったが、ふと意識を周囲へと飛ばすと、荒唐無稽に何をと言った様子で話を聞かぬ者が少なくない数いた。
この女神が彼ら歴史的人物を異世界へと送ろうとする理由は面白そうだから。ただそれだけの理由だ。
その女神からしてみれば、自身の言に耳を貸さず界渡りの意思も持たない者などいた所で面白くも何とも無い。
「話を聞く意思の無い者などこの場には不要。これは私の単なる暇潰し。貴方達数十名がいなくなった所で何ら支障は無い」
パチンッ!と指を鳴らし、誰にも聞こえない声でそう呟くと、先程まで話を聞いていなかった者の魂は跡形も無く消え去った。
「ふむ。まあ、これだけいれば良いか。取り敢えず、残った貴方達を一旦生前の姿へと戻そう。そちらの方が今後何かと都合が良いからな」
再度パチンッ!と指を鳴らすと、残っていた篝火達が次々に人の形を取っていき、最後にはこの場の全ての魂が人の姿へと変化していた。
これに驚いたのは魂達の方で、次から次へと突如現れた人型に臨戦態勢を取る者までいた。
実は、魂達に許されていたのは女神の言葉を聞くことと、女神の姿を見ることの2つのみで、周りが魂ばかりだという事も、魂が幾つか消えたということも認知出来ていなかった。
「む・・・声も出せる様になっておるのか・・・」
自身の首を右手で擦りながら、周囲に意識を飛ばすのは第六天魔王【織田信長】である。
信長は最初、自身が火事で焼け死んだため、肺が焼けて声が出ないのだろうと考えていたのだが、人型が現れた始めた頃から身体が自由に動くようになり、声まで出るようになったことで認識を改めた。
「殿っ!?良くぞご無事で!拙者誠に嬉しく存じまする!」
見知った顔、聞き慣れた声でこちらに駆け付けて来たのは自身が最も頼りにしていた家臣【明智光秀】である。
「愚か者が・・・。あの女子が申しておったであろう。儂らは既に死した身じゃと。儂も、そしてお主も本能寺での火災により死したと言う事じゃ」
「ぐっ・・・。やはり、助からなんだか。拙者も死に物狂いで馳せ参じたのですが、力及ばず・・・不甲斐ない・・・!」
教科書がいつも正しいとは限らない。その時代に生きていた者などいないのだから、いくら歴史的価値のある物証が出て来ようが、それは推測の域を出ないのだ。
真実、明智光秀は信長に謀反など起こしていないのだし、寧ろ火に囲まれる信長を助けようと信長の寝室へと駆け戻ったのだから。
しかし、信長の救助は叶わず、自らもその火災に呑まれ死去。死人に口なしと言わんばかりに光秀は信長に仇なした者として無実の罪を着せられた。
もっとも、その事を光秀が知るのはもう少し先の話なのだが・・・。
「もう良い。それより、お主と出会えたのは僥倖であった。光秀よ、其方はあの女子が宣う事をどう取る?」
「荒唐無稽と斬り捨てるのは容易。しかし、それでは拙者と殿が会話出来ておる説明が付きませぬ」
それに・・・と光秀は周りを見回し、再度信長へと視点を合わせた。
光秀は頭の回転が早く、信長もそれを見込み光秀を参謀的な位置に置いていており、先程の様に意見を求める事もよくある光景であった。
「ここにおる者の多くはどうやら異国の者の様子。にも関わらず、拙者らはあ奴らの言葉が解るようでございます」
もちろん、光秀や信長はバイリンガルやトリリンガルでは無い。
少なくとも、ポルトガル語は話せるのだが、バイリンガルなどは自国語を含まないため、強いて言うならユニリンガルである。
「何か特別な力が作用しておると見るのが自然かと・・・」
「ふむ。やはりあの女子の言を頭から否定しなかったのは正解であったか。なれば、その異世界とやらで果たせなかった天下統一を果たすのもまた一興か・・・」
「その際はこの光秀、是非にお側に置いて頂けるよう切に望みまする」
顎に手をやり、独り言のように呟く信長の言葉を耳聰く聞き取った光秀は信長の方へと頭を下げ、連れて行ってくれと打診する。
それに信長は当たり前だと言わんばかりに快活に微笑んだ。
「お喋りの時間はお終いだ。これより、貴方達には【キャラクターメイキング】を行ってもらう」
「「???」」
信長と光秀は女神の聞き慣れぬその言葉に首を傾げる。
それだけでは無い。辺りの歴史的人物達皆揃って疑問符を浮かべていた。
「分からないか?先程も申した通り、貴方達は死した身。今の姿は生前の姿を写したものに過ぎない、ただの仮初。その姿で界渡りをしよう物なら存在を維持出来なくなり、消滅する。そうならないように、貴方達には自身の身体を作ってもらう」
女神が指を1つ鳴らすと、各個人の前に半透明のタッチパネルの様な物が現れる。
そのパネルには一番上に【転移】【転生】の2つの選択肢があり、その下には【記憶】【顔】【体型】【年齢】【種族】【髪色】【目の色】など非常に細かくパーツごとに分けられていた。そして、一番したには【恩恵】と書かれており、選択は不可能となっていた。
「まずは【転移】か【転生】かを選んでくれ。【転移】は選んだ姿をそのままに界渡りをしてもらう事になる。反対に【転生】は選んだ姿に将来成長するようになる。転生の場合は選択肢に家系が追加され、ある程度それに適した家系に組み入れられるが、設定した顔の遺伝子情報が合致しなければ家系か顔のどちらかが望み通りに行かない場合がある。転生するメリットとしては、身分が証明されることと、魔法を使う際に必要となる魔力が最も伸びる幼少期にその訓練が出来る事だ。相応の訓練を積めばかなりの使い手になることが確約されている」
女神の口から流れ出るマシンガントークに軽く眩暈を覚えそうになる信長と光秀であったが、どうやら同時進行で女神の方から脳に直接説明を刷り込んでくれている様で2人だけ取り残されることは無かった。
「次に【記憶】だ。これは生前の記憶を持ったまま界渡りするか、記憶を捨て界渡りするのかに起因する。これはまあ、生前に受けた辛い思い出などを忘れたい人に対する私なりの優しさだな」
何が優しさか、と信長は思う。それならば、その辛い思い出だけを抽出して消せば良いだけで全て消してしまう事など無いではないかとも。
しかし、実際はそう上手くは出来ておらず、そういった消し方をしてしまうと、何かの拍子に記憶を取り戻してしまったり、記憶の辻褄が合わなくなり結果として全ての記憶を忘れてたしまったりと言う弊害が存在する。それならば、端から全て消してしまった方が後腐れも無く・・・何より女神が楽できる。
まあ、主に最後の部分が強いのだが・・・。
「そして【顔】【体型】【年齢】【種族】【髪色】【目の色】は次の貴方達の姿をそっくりそのまま表しており、よく考えなければならない。何せ今後一生その身体と付き合って行くのだからな」
これは酷く皆頭を抱えた。当然だ。1度決定してしまうと、もう取り返しが着かない。
あの信長でさえ、難しい顔をしてパネルと睨めっこをしている始末である。
因みに、性別が無いではないかと聞かれそうであるため答えておこう。性別は体型に統合され、性別を女に設定するのならば、胸を選んで大きくしたり、全体的に丸みを帯びさせたりすれば良い。逆に肩幅を広くしたり、股にナニを付けてみたりすればそれは男となる。
「最後に【恩恵】は先程も言った様にギフトと読み、それぞれこの教科書と言う物を基に与えさせてもらっている」
面々がパネルに釘付けになっている中、女神は構わず言葉を続ける。
その手には歴史の教科書を始めとし、理科や国語、倫理まであり、それは英語で書かれていたり、フランス語で書かれていたりと実に様々で、この事から全世界の教科書を網羅しているのだろうと言うことが分かる代物であった。
「まあ、1人1人に説明するのも面倒だし、取り敢えず個別に与えたギフトの説明を送っておくよ」
今まで黒くなっており全く反応の無かった【恩恵】の欄が光を放ち、それが収まるのと同時に括弧付けされた文字とその下には説明文と思われる文章が添付されていた。
「それでは、諸君!せいぜい悩み給え!出来上がり次第私に見せよ!出来た者から次の段階に移らせてもらう!」
まるで学校の先生の様な言葉を吐き、いつの間にか掛けていた眼鏡の真ん中を中指でくいっと押し上げる女神。
それはそこそこ様になっていたのだが、直後取り出したソファに寝転がり、スナック菓子を頬張り始めた事により、これが女神か・・・とそれなりに神を信じていた者達は一様に項垂れたのだった。