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こどものかみさま、かんなさま  作者: 龍翠
第四話 巫女、元巫女と関わる
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4-4

「神谷さん。他の巫女がどう言うかは分からないけれど、私はあなたの考え、とてもいいと思うわ。私も最初から吹っ切れて、その選択ができれば良かったのだけどね」


 それでも、と先輩が笑顔を浮かべました。


「私はかんな様の巫女であったことに、誇りを持ってる。一時でもかんな様と関われて、本当に良かったと思っているわ。できれば、もう一度、ちゃんと会って話をしたいぐらいには」


 もう叶わない願いだけど、と先輩は笑いながら、手を振って帰っていきました。

 随分とあっさりとしたお別れです。ルールの説明だけだったので、こんなものかもしれませんが。


「えっと……。帰りましょうか。かんな様」


 振り返ってそう言うと、じっとこちらを見つめてくるかんな様と目が合いました。私が首を傾げると、かんな様は何でもないと首を振ります。何も言わずに、元来た方へと歩き始めます。私も慌ててそれを追いました。


「巫女があんなことを考えていたなんて、思わなかった」


 社へと戻りながら、かんな様が口を開きます。


「そうですね。……あ、そうだ、かんな様! 私が邪魔だったのなら言ってくださいよ! 私がいない方が探し物が早く見つかるってどういうことですか!」

「あー……。うん。でも一緒にいてくれると、嬉しい、よ?」

「わーい。すっごい棒読みだー」


 なんだかものすごく気を遣われました。いいんだいいんだ、私は好きなようにやるだけだから。


「ん……。嘘じゃ、ないけど……」

「はい? 何か言いました?」

「ん。何でも無い」


 かんな様は小さく首を振ると、どうしてか急ぎ始めました。なんだかそれは、照れているような気がしますが……。さすがに気のせいでしょう。




 引き継ぎをしてからも、私はいつも通りに過ごしています。朝早くに起床して、おにぎりを用意して、学校へ。社を掃除してかんな様とおしゃべり。その毎日です。夏休みということで授業がないので、人が来ない限りはここで宿題とかもしています。分からないところはかんな様が教えてくれるので、至れり尽くせりです。

 今日も暑さに辟易しながら宿題をしていたのですが、お昼前になってかんな様が思い出したように言いました。


「さつき。今日の夕方、時間ある?」

「夕方ですか? 大丈夫ですけど……。お願い事ですか?」


 そう聞きはしましたけど、違うことは分かっています。最近ここに来てお願いをしていく子供たちのその内容は、お願い事というよりも必勝祈願に近いものです。試合に勝てますように、とかですね。当然ながらかんな様も干渉できません。

 そういったお願い事の時は、かんな様はその人の目の前で、がんばれ、と応援しています。その声が届くことはないのですが、気持ちだけでも、ということでした。


「そうじゃなくて、私の個人的な用事」


 一瞬、思考が停止しました。言い訳をさせてください。だって、個人的な用事と言われたのは初めてなんです。外出する時は大半がお願い事が関係する時で、それ以外は私が誘った時だけです。一体、何の用事なのでしょうか。


「それは、私も同行していいんですか?」

「ん。さつきにも関係することだから」


 私が関係する、かんな様の個人的な用事。思い浮かびません。ですが、一緒に行けば、自ずと分かることでしょう。大丈夫ですと私が頷くと、かんな様はありがと、と短く礼を言ってくれました。お礼を言われるようなことではないのですが。

 どこに行くのか少し気になりながら、勉強をして、かんな様と雑談をして過ごしつつ、時間を待ちます。そして夕方の三時頃になってから、かんな様がおもむろに立ち上がりました。


「ん……。そろそろ、行こう」


 手早く荷物を片付けて、私はかんな様の後に続きます。

 校門を出て、ゆっくりと道を歩いて行きます。大きな道に出て、行き交う車を眺めながら、足を止めることなく歩き続けます。目的地はやっぱりあるみたいで、その足取りが止まることはありません。

 そうしてしばらく歩き続け、やがてたどり着いたのは大きな建物でした。十階建ての建物で、敷地がとても広い施設。この町の病院。どうしてこんなところに、と考えている間に、かんな様は中へと入ってしまっています。


「面会の受付、しておいて」

「あ、はい」


 大きなホールを通って、受付に向かいます。ここの病院では、面会の時は必ず受け付けで名前を書かないといけません。名前と連絡先さえ書けば大丈夫です。

 書き終わった後はかんな様と一緒に病院の廊下を歩きます。エレベーターで、七階へ。ここまで来ると、かんな様が誰かのお見舞いに来たことは容易に察しがつきます。おそらくは、昔の巫女だろうということも。どんな人なのでしょうか。


 どこの病室か知っているのか、かんな様は迷いなく歩いて行きます。私は、少しだけ懐かしく思いながらついて行きます。まだ足が不自由だった頃、よくお世話になっていた場所です。

 やがて、廊下の突き当たりの病室にたどり着きました。個室のようで、一人の名前しか書かれていません。かんな様はその扉をしばらく見つめた後、私へと振り返ってきました。


「ここまでありがとう。あとは私一人でいい」

「一緒に行きます」


 ここで帰れ、というのはひどいと思います。ちょっとだけ不機嫌そうに言ってみると、かんな様は何度か目を瞬かせ、まあいいけど、と小さく声を漏らしました。


「じゃあ、開けて」

「はい」


 スライド式のドアをノックすると、すぐにどうぞ、という声が返ってきました。そっとドアを開けて、かんな様と一緒に中に入ります。

 白いベッドといくつかの家具があるだけの、よくある病院の個室です。ベッドの側のいすに座っているのは、お母さんと同年代ぐらいの中年の女性。こちらを見て、怪訝そうに首を傾げています。ベッドには、白髪のおばあさんが横になって、こちらに視線だけ向けていました。その目は優しげに細められています。


「えっと、どちら様?」


 女性が言って、私は言葉に詰まってしまいました。巫女です、とは言えません。私が悩んでいると、意外なところから助け船がありました。


「その子は私の客だね。すまないけど、ちょっと席を外してもらえるかい?」


 ベッドのおばあさんがそう言いました。女性は少し目を見開き、こちらを凝視してきます。なんだか、さっきまでの視線とはちょっと違って、少し怖いです。


「それじゃあ、この子が……。へえ……」


 女性は何かに納得したように何度か頷いて、それじゃあ、と席を立ちました。


「一時間ほどで戻りますね」

「あいよ。悪いね」

「いえいえ」


 短く言葉を交わして、女性はこちらへと歩いてきます。


「ごゆっくり」


 優しく微笑みながらそう言ってくれました。

 女性が退室するのを待ってから、私はベッドへと歩いて行きます。もちろん、かんな様も一緒です。ベッドの横に立つと、おばあさんは私の顔をじっと見つめてきました。


「あんた、巫女だね?」


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