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(8)旅立ち前に


 アカネの同行者、長老だった 少女の姿をしたモノが質問した。


「あれは 放っておくのですか」


 もう何度目かの質問だ。だが、アカネは その都度ちゃんと答えている。

 目線の先、樹々の隙間から見えるのは、肉食の恐竜人ディノサピエンスの群れに襲われている馬車。その中には 複数の人影がある。


「良いのよ。あれは自業自得、自然淘汰かな、だから私は手出しをしないわ。助ける理由もないしね」


 その答えに対し、毎度ながら 不思議そうに首を傾げる少女は、アカネより頭ひとつ分小さな体格である。その腰あたりまである 緩やかにカールした金髪がゆれる。


「何か問題でもあるの?」


 長老の、少女の仕草に アカネが問うと、「あなたは ホモ人種サピエンスの味方だと思っていました」と返した。

 とんだ勘違いである。


 アカナは苦笑して、自身の立ち位置を説明した。


「私は、基本的に この世界の自然には干渉しないことにしているの。今のところは、だけどね。

 例えば、さっきの馬車は『恐竜人に襲われるのを覚悟して』彼等のテリトリーである この付近を通った。知らずに通ったのなら、不注意の極みだわ。それこそ襲われても当然のことでしょ。

 この世界にあるモノ、旧神・邪神についても同じスタンスよ。基本的に放置しておくことにしているわ。それに、ホモ人種には 何等かの天敵が必要だからかな。

 まあ、私に干渉しなければ、という条件付きだけどね。

 ただし、『中位以上の邪鬼』と『召喚された者』は別。これらは殲滅するわ。だって、この世界にとって不要な上に、有害なのだもの」


 その答えを聞いて、低位の邪鬼を残す理由――ホモ人種の天敵――も知ったのだが、少女には更なる疑問が浮かんだ。


「では、なぜ私たちは 放置ではなく保護するのですか」


 アカネは少し考えて、言葉を選んで答えた。


「そうね……、私が あなた達、長老を保護するのは、あなた達が傍観者だからよ。もし、私の邪魔をするような気配を見せたら処分するから、覚悟しててよね」


 少女、長老は しっかり頷いて、了解を示した。


「私たちに隠遁を勧めたのは、ヒトには私たちの知識が不要だと判断されたからですね」


「そうよ。それに、実を言えば、私自身が あなた達に興味があるからよ」


 そう、アカネは長老という存在に、とても興味を持っている。なぜなら、彼等は両陣営の『良心』だったからである。

 彼女が確認した長老たちの立ち位置は こうだ。


 彼等は、そもそも この世界への侵略に反対していた。

 それが叶わないと知って、この世界の住人との共存を訴えた。それは ある程度成功したように見えたが、彼等の望むモノとは かけ離れた有様ありさまになった。

 そして、同族である 旧神と邪神の対立は避けるように進言した。魔法粒子の開発にも、並行世界から ヒトを召喚するのにも反対した。

 それらが原因で、彼等の殆どが廃棄されることになったのだ。

 今は十体しか残っていないらしいが、元は両陣営を合わせると五千体以上いたそうだ。彼等が残存していることを知っているのは、今はアカネだけである。


「アカネは、私の正体を一目で見抜いたようですが、何故ですか」


「さあ、どうしてだろう。私にも分からないわ。

 何だか 放っておけないのよね、あなた達のような存在を。だって、妙に可愛らしいじゃない」


 アカネの性格は固定した。外観年齢の人格に である。なぜなら、外観に合わせたことも当然であるが、当初 顕現していた彼女では戦えないからだ。殺人に忌避感を持たない今のアカネが選ばれるのは必然であった。

 しかし、全て(四人分)の記憶を把握している訳ではない。だが感情は 混ざった状態で ひとつに統一されつつある。なぜか人工知能(AI)を搭載した機械人形オートマタに愛着を持ってしまうのも その一端なのだが、本人には まだまだ自覚がないようである。


 ■■■


 彼女等が向かう 長老達の隠遁地に選んだ場所は、この世界で最も高い山。そこに登山を開始してから もう十五日になる。

 標高ならば そろそろ一万メートルになるあたりだ。こんな所、横隔膜式肺呼吸型の生物には そもそも生存不可能な環境だ。酸素の量も気温も極端に下がっている。

 当然、神人達でも ここまでは来ることが出来ない。

 しかし、アカネは何ともないようだ。寒さも問題ないし、普通に呼吸もできている。実は、この一部はピーチの手柄なのだが、殆どは本人の体質の変化によるものである。だが、この件についても彼女には自覚が全くない。


「あなたは一体 何者なのでしょうか。ホモ人種の筈ですよね」そう、どのようなヒトの種類であろうと この環境で生きて居られる筈がないのだ。


 少女の あまりにも的確な質問に、アカネも同意した。


「そうね。……本当に、何なんでしょうね、私って」


 アカネは、地表から二万メートルを超えた頃から周囲の気配が変わってきているのに気付いていた。

 大気以外の不純物が徐々に増えてきているのだ。


「これは、ナノマシン、……より小さいね。魔法の素?」


「よく お分かりですね。そうです、それを素材として四大の魔法を造り出すのです。

 私たち長老には直接感知する能力はありませんが、それが 神達が造り、この世界にバラ撒いた『魔法の基本粒子』です。範囲固定の自動増殖式なので もう止められません。

 限定空間、大気中なら地表から約三千メートルまでですね、その範囲内での最高粒子数が決まっていますので、余剰分が この付近、地表から二万メートルを超えたあたりからこごってきているのです。

 そうだ、アカネ。 あなたが まとめて吸収してくださると助かるのですが」


「いや、それはマズいでしょう。多過ぎよ」


「旧神・邪神と対峙するのに、多過ぎることは ないと思いますが」


「うん、そうだね。……善処することにするわ」


 しかし、アカネの それは、もう手遅れであった。

 ピーチと アカネの如意棒であるハンは、彼女を介して素材に分解された魔法の基本粒子を大量に吸収している。アカネ自身と、もう一本の如意棒――アカネは制限解除後 放置しているので気付いていない――にも、個体としての限定空間と その存在に付随する亜空間に『魔法の基本粒子』が そのまま蓄積されつつある。

 この付近から先、更に 高地に向かうほど、大気中の粒子濃度が上がる。そして それに同調し、効率を上げながら、彼女達に それは吸収されていくのである。


 ■■■


 アカネと少女の姿をした同伴者は、間もなく隠遁場所に到着する。

 ここは山の頂上付近、地表から およそ五万八千メートルの位置にある小さな台地だ。他の長老達も そろそろ揃い始めている。


 アカネは その場所に三日間逗留した。


 彼女が去った後の十日ほどで、九人の長老が揃った。


 あと一人は、もう ここには来ない。何者かに壊されてしまったようだ。相手の確認も出来ず、一瞬でブラックアウトしたのだ。

 長老達は それに対して何も対策しない事に決めた。

 壊れてしまったのなら問題はない。捕まって この場所を知られなければ良いのである。まあ、知られたところで ここに来るのは不可能なのだけれど。

 この場合なら、アカネの決めたルールに抵触するような事態ではないので、特に問題はないと判断したのだ。


 しかし、それは誤りであった。その長老を壊した(、、、)相手の力量を読み違えたのだ。それらは長老達が思っていたよりも遥かに高いソレを持っていたのだ。


 そして、呼吸をしない、つまり大気の成分に頓着しない彼等は、『魔法の基本粒子』が、無くなっていることに全く気付かなかった。なぜなら それは、魔法を使うことのない長老達にとって、そもそも計測することすら必要としない対象だったからだ。


 それはアカネと その仲間だけが原因ではない。地表の方で『魔法の基本粒子』の量が急激に減少し、この地に残っていたモノの全てを消費してしまったのだ。


 長老達以外から見たら であるが、これは異常事態である。





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