(11)招喚者(神人)の再来
「お待ちどうさま」
あの神人が帰って来した時、ピーチとハンは既にアカネの従者になっていた。アカネは それを彼に知らせるつもりはないようだ。
――図書館の蔵書の全複写は、やはり間に合わなかった。しかし、検索機の複製は完了している。
「遅かったわね、待ちくたびれたわ。で、あなたって神人だったのね」
ピーチは、ドキリとした。アカネは『神人の言葉』で喋っているのだ。彼は それに気付いていないようだが。
「キューブから聞いて 図書館で確認したわ」
アカネは両手を腰に当てて 不快そうに睨みつけて問い詰めた。
「で、何で隠していたの?」ピーチは この展開に驚いた。攻めるのか、と。
「い、いえ、隠していた訳では……」
「ああ、そうだった。本と、図書館のデータ検索機を返さないとね。どうもありがとう、退屈しないで済んだわ」
アカネは 白々しくも、突然思い出したかのように話題を変えた。神人は話しのペースが掴めないようだ。
ピーチは静かに、傍観者に徹している。主導権は最初からアカネのモノだ。彼が これを転換するのは大変だろうな。などと思いながら。
神人は、返却された それらを亜空間に仕舞いながらアカネに話しかけた。
「ところで 魔法の件なのですが」
「良いモノがあったの?」
興味津々という感じ。演技? それとも本気? ピーチには分からない。たぶん 神人にも分からないだろう。
「えと、光、影、熱、冷、地、水、風、火、金、木、雷 の属性魔法と無属性魔法があります。選んでください」
アカネは少し考えた様子を見せて告げた。
「じゃ、火・地・水・風と無属性にするわ」
ああ、ピーチは思い出した。これは村で聞いたという話しだ、無属性については知らなかったが。驚きた。彼女はアカネが既に 魔法の種類を分析していたのだ。
「……五種類ですか。分かりました」
神人は、アカネが複数選ぶとは思わなかったのだ。
ピーチはアカネに逆らうことのできない彼のことを、少し気の毒に思った。
「じゃ、火・地・水・風・無属性の魔法を貰えるのね」
神人は、肩を落として言った。
「では、火・地・水・風・無属性の魔法を伝授致します」
「うん。ありがとう」
え。それだけ? 魔法の授受って そんなモノなの。と、ピーチが あっけにとられたのを 誰も責めるないだろう。
神人が ホッと気を抜いて帰ろうとした時、アカネが呼び止めた。
「ねえ、宿題は どうしたの」
わずかな沈黙。
「忘れたの? 旧神と邪神の関係よ」
アカネの詰問に神人は竦みあがっている。
「あ、あれは……」彼は俯いて、冷や汗を流しながら小声で答えた。「私の権限を越えたモノでして……」
ピーチは、見ていて可哀相になってきた。だが、これはチャンスでもある。
「貴方では、調べることも出来ないってこと?」アカネは全く容赦しない。「仕方ないわね。もういいわ」アカネは首を横に振って、もう帰って良いことを神人に示した。
ピーチは唖然とした。
そして先刻の光景、やり取りを思い出して愕然とした。今のは一体何? 相手は仮にも神族のエリートなのに。あんな態度で良かったの? やっぱりアカネは怪物だ。ったと再確認する彼女だった。
悄然として神人が帰ろうとした。
その時、ピーチは アカネに指示されていた通り、神人の記憶を改竄した。
アカネに関する記憶の抹消と、代替記憶の挿入。そう、特に変わりない、今まで通りの要領で『召喚した者』に対処したことにしたのだ。心の折れた男の記憶を弄るのは造作もなかった。
そして、アカネは 更にとんでもないことをした。
「ピーチには水と風の魔法を、ハンちゃんに、火と地の魔法を付与するね」
これは『伝授の儀』。ピーチは、アカネが、さっき 神人が使った魔法を解析していたことを知った。そして、知ったばかりの魔法を即刻使えるなんて とんでもないヒトだ、と改めてアカネの規格外の程を認識した。
そして受け取った魔法を確認して更に驚いた。既に『素の魔法』に修正してあった。
ハンは、元々水と風の魔法が使える。如意棒が水、風神ハヌマーンが風の属性を持っているからだ。加えて、ピーチは火と地の魔法が 元々使える。
これで、ピーチもハンも 全ての魔法が使えるようになった。