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(10)ピーチの思い


 ピーチは戦闘が いつの間にか終わったのに気付いた。

 当然ながらアカネの圧勝だ。


 この種類の このレベルの邪鬼は、この生息区域に少なくとも五百体はいた。その殆どを、アカネは ひとりで退治した。

 数匹逃げたようだ。だがアカネは 逃げるモノを追いかけてまで倒す、という選択肢は、今のところは(まだ先があるので)取っていない。


 ピーチの認識では、アカネが戦っていたレベルの邪鬼は、通常ならば、五体――邪鬼は単独で生活することは少ない、この数は下限値――に対し、少なくても 高位レベルの戦士系冒険者十名と、同じレベルの壁となる冒険者二十名のチームで戦う相手だ。できれば防御魔法師も幾人か欲しいところだ。そう、普通に これくらいは必要とするのだ。

 更に、このエリアの邪鬼は身体強化魔法を使う。素早さは さほどでもないが、風系統や水系統の斬撃魔法を使えるモノも多くいる。それを考慮すると、現在の冒険者の人数と、そのレベルでは事実上 不可能と言うことだ。

 

 それを一人で五百体以上。彼女の並外れた強さが伺えるというものだ。


 ピーチは表示された数値を見ながら、何度目かの不可解さに悩んだ。

 アカネの生命力や魔力は、驚くべき数値を示しているが、彼女の実力と合致していないのだ。彼女は、実戦において、数値より格段に高い能力を実現している。

 アカネには『レベル表示』がない。彼女が望まないから表示されていない、だけ なのかも知れない。本当に そんなことが出来るのであれば、だが。


 これはユウシャの場合ではあるが、逐次レベルアップをしないことには、それなりのメリットがある。

 一気にレベルを上げると、その差によって全ての能力が倍数で加算される、レベル差が三十を超えると その倍数は累積加算される。

 加えて特殊な属人仕様武器ユニークウェポンや特殊アイテムの入手、属人仕様技能ユニークスキル、弩級魔法の習得などもある。これも他の能力と同じ倍数と累積加算式で、レベル差が大きいほど それらの威力が上昇する仕組みになっている。

 確かに そうなのだれけど、もしこのまま前人未到の レベル差の最高値マックス九十九まで行ったら どうなるのかと想像し、ピーチは背筋をゾクリとふるわせた。


 一気にレベルアップするメリットの一つ、武器と装備の高級品への換装についてアカネに尋ねると「今ので十分」と言っていた。その時のことを思い出したピーチは、ホンノリ頬を染め、少し嬉しくなった。


 しかし、これらはアカネがレベルをワザと表示していないという前提においてである。そして、ピーチは それに対し否定的見解を持っている。表示自体が無い可能性を考えているのだ、理由は分からない。


 アカネの身体能力と知能、技能は突出している。ピーチが最初に測定した時点でさえ、魔力を除く全ての値が五万を超えていた。魔力は八万以上あった。通常ならレベル五〇か、それに近いユウシャの戦闘値になる。その時、ピーチは「この少女は化物か」と思ったものだ。

 最近ピーチは、本当に それが当たっているかも知れないと思い始めている。アカネの、現在の それらの値は、そんなモノではないのだ。そして、それでさえ『本来の実力』を示していないのだから。


「ねえ、もっと強い邪鬼はどこにいるの。この系統のは さっさと済ませたいわ」


 この言葉を聞いて、ピーチは『何てことを言うのだろう この娘は。少しは私の苦労も考えてほしい』と思った、その時。


「ピーチ。あなた、わざと弱い邪鬼の棲家を選んでない?」


 鋭い、図星だった。ピーチの選んだ この領域エリアには体力系の邪鬼しかいないのだ――ここら辺りの邪鬼が使う魔法は、他の領域にモノに比べると 種類も少ないし、威力も 並みだ――。意表を突かれた彼女は 少し焦った。


「あ、あと四種類 同じ系統の邪鬼を倒したら、この領域は終了です。

 その後は かなり強敵になりますよ。お楽しみに待っててください」ピーチは、何とか平静を取り戻し、この先のことを示した。


 そう。あと四種類倒せば、体力系は完全クリアとなる。ボーナス加算で、全能力が一気に上昇する。分配者がいないから相当な値になるだろう。


 ■■■


 体力系邪鬼を滅ぼし、続けて高速系の邪鬼も完全クリアした。ピーチが呆れるほどアッサリと。それぞれの、最後の集落(最高位の邪鬼の棲家)では、一匹も残さず、逃さず、完全に殲滅した。

 アカネの体力、知覚能力を含む、知能と技能値及び魔力の値は みんな三百万を超えた。

 ピーチの心境を表せば、「もう好きにすれば良い。アカネには常識が全く通じない」と、なる。


 確かに、アカネは そうなるように戦って来た。しかし、誰がこんな事を思い付くだろうか。仮に方法を知っても、普通は実行しないだろう。危険すぎる。


 アカネには、相手が魔法を使うのを予め知覚する能力がある――正確には、魔法行使だけではなく、相手の 全ての行動を、第六感で正確に知ることができるのだが、ピーチは知らない――。しかし避けない。魔法を受けて、それを破壊し吸収する。そして相手を上回る高速移動と如意棒を使って、体力で相手を圧倒するのだ。


 さすが……、とピーチは納得しそうになって、慌てて考えを修正した。

 確かに こうすれば知能・知覚能力、魔法能力、敏捷性を含む体力のスキルが 満遍なく上昇する。そして、レベルアップをしないから生命力、魔力は どんどん加算されていく。良いのか? これで。


「次のは どんなタイプになるのかな?」と、笑みを浮かべてアカネが言った。


 ピーチは一気に脱力したが、しかし、ちゃんと説明だけは しておかなければならない。


「魔法を使う邪鬼です。魔法は今までとは桁違いに種類が増えますし、強力になります。これまでのとは手応えが違うと思いますよ」


 今までのようには いかないはずだ。警告を込めたピーチは言葉を続ける。


「低位レベルから始めましょうか」


「魔法系か」アカネが悩ましげな顔をしている。


 聞いていない! ピーチは知っている。あれは、何か悪巧みをしているときの表情かおだ。


「中レベルからいくよ。

 ハンちゃん、お願いがあるのだけれど」

「はい」

「……」

「……」


 中レベルからとは驚いたが、アカネとハンが打ち合わせを始めてしまったので声をかける機会を失ってしまったピーチだった。

 彼女は手持ち無沙汰になって、ふと あの時のことを思い出した。




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