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一人童話祭  作者: 狭間
4/6

星語り 星繋ぎ 星送り(中編)

 

 必死だったせいか、星を移動するのもあっといまで気が付いたら次の目的地にいました。

 次に降り立った場所は一つの小さな島です。

 着地できる場所が他にありません。

 なぜなら……周りは青く果てしなく、そして深い海しかありませんでしたから。

 彼らは座り込みほっと一息つきました。



「危機一髪だったな……全く」

「ごめんなさい。こんな危険とは思わなくて」



 もっとも熱気に包まれていた場所に長く居た彼らとしては休憩するのには丁度いい場所でした。

 太陽の光も強めですが、さきほどの暑さと比べればろうそくの火のようなものです。



「まあ気にすんな。こうして無事だったことだしな」

「うん。そうだね。次はもっと安全だといいんだけれど」




 そう言いながらビンはあの炎の竜の最後の様子を思い浮かべていました。

 見間違えでなければさいごにあの竜は満足げに微笑んでいました。一体あれはなんだったのでしょうか?

 敵対する者にみせる表情ではありません。



 ひとまずは気にすることを止め、辺りを見渡します。

 一面は海だらけ。他に島は見えません。



「うーん……この島には反応がないみたい」

「え、じゃあどこに……もしかして」



 ビンは深そうな海を見ます。

 彼が住んでいたところにも海はあったのですが潜ったことはありません。

 というより触れてはいけない世界という様な印象を持っていました。



「まあ私の力で呼吸と視界の問題はなんとかなるよ。じゃあ行きましょうか」

「あーえっと悪い。今回は二人で言って来てくれねえか? 俺は疲れちまったし」



 島の上でグデーっと寝そべるガル。慣れない翼を大きく動かし、二人を乗せて決死で逃げたので相当体力を使ったのでしょう。

 海の方を見ようともしません。

 そんなガルを少し、可笑しそうに笑いながらビンが言いました。



「あーそういえばガルは水苦手だもんね。昔、うっかり湖に飛び込んじゃって……」

「やかましい !戻ってきたときにまた飛び上がれる体力ないと困るだろ! さっさと行ってこい!」



 ガルが怒鳴りつけました。声は強気ですが決して海の方を見ようとせず、ひたすら地面を見つめながら。

 ビンだけでもなくステラも少し笑いをこらえていましたがかろうじて普通の声で返事しました。



「うん。わかったわ。ガルさんは休んでて行こ。ビン」

「わかった。あ、ちょっと待って!」



 おなかに巻きつけていたフードを外し再び身にまといます。別に自分の力があれば寒い場所でもないのに。

 彼は寒がりなのかなとステラは思いました。

 そして杖を振るうと青い光が彼らを包みます。そしてそのまま光に導かれるように海の底に入っていきました。



 ガルはあくびをしつつひと眠りをしようかとまぶたを閉じます。

 ……今潜った彼らを追う存在に気が付くことなく。


____________________________________________________________________________________________________




 もう三十分は潜ったでしょうか。日の光も届かないほど深く深く彼らは潜っていきます。

 彼らが身にまとっている青い光のおかげで水の中でも息ができ、水の冷たさも感じることはありません。

 景色だってサンゴや色とりどりの魚が泳いでいる綺麗な海です。

 


「ステラ? 反応は?」

「わからないけど……とにかくもっと潜らないと」



 彼女の胸元にはさきほど手に入れた赤い宝玉が水の中でも薄らと光っていました。

 残りの玉もこのように光っているのでしょうか?

 ビンがそんなことを思ったその時です。



 後ろから紫色の光が突き抜けました。



「うわっ!?」

「な!? なに!?」



 光は幸い彼女たちには当たらず、そのまま通り過ぎていきました。

 咄嗟に振り替えると黒い服に包まれた存在がはるか遠くにいるようです。

 距離があるのでわかりませんが、少なくとも、この星に元々いるような生物には見えません。



「ま、まさかあの人たちが、私をうちおとした……」

「え!? ていうことは……敵!?」



 彼らから再び紫色の光が飛び出してきました。

 とっさにビンは剣を抜き、その光を弾きます。



「くぅっ!?」

「ビン!?」



 なんとか光は彼らから逸れたもののまるで鋼鉄の塊を手で叩いたかのような振動が剣から伝わりました。

 とても何度も防ぎきれるような攻撃ではありません。



「逃げましょう!」

「でも!? どうやって……?」



 咄嗟に辺りを見渡すと水のうねりのようなものが近くにあるのが見えました。

 小さな粒や海藻の欠片、小魚等がすごい速さで流されているようです。

 咄嗟にステラはビンの手を取り、その流れに飛び込むように入りました。

 後ろから光は迫ってきていましたが、突然の動きに攻撃がついていけず、うまく避けられたようです。



「うっうわあああああああああああああああああ!?」

「きゃあああああああああああああああああ!!」



 上へ下へ右へ左へ、どこへ向かっているどころか自分がどこにいるのかさえ分からないほどの速さの海流が彼らを運びます。

 紫色の光は一瞬見えたものの、こちらに迫っている気配は見えませんでした。

 彼らからの距離もどんどん離れていく気がします。

 しかし、この状況はどうしたらよいのでしょう。



「ビ、ビン!! しっかり捕まって!!」

「わ、わかった!!」



 前後不覚に揺れる中お互いの手だけがかろうじて認識できる確かな物でした。

 気を抜くと離れていきそうでしたが、それでも何度も気力を振り絞り、決して手を緩めることはありません。

 しかし、時間がたつにつれてどんどん体力は奪われていきます。

 そして、もう限界と二人が思ったその時。




「大丈夫?」



 何かにその手を掴まれ、水流から引きずり出されました。

 まだクラクラして視界が安定しません。ゆっくりと落ち着いて捕まれた手の先を二人は見ました。



「あなたたち何者? この海の人たちじゃないようだけど……」



 二人は息をのみました。

 そして捕まれた手を改めて見ます。自分たちと変わらない肌色の手。むしろ少し綺麗な白色とも言えます。

 しかし、その手の先には上半身は人間ですが、下半身は鱗に包まれ二本の足の代わりに一本の尾が生えていました。

 そして何より、その顔は見ていて恐ろしくなるほど美人です。

 そう……人魚と呼ばれる種族が彼らの目の前にいました。



「いてっ!?」



 ステラが握った指をつねります。思わず見とれてしまっていたビンがどこか面白くなかったのでしょうか。

 そんな二人を怪訝な顔で見つめていましたが、ふとステラが握っていた杖を見てはっとした表情を浮かべました。



「まさかっ!? あなたは……!」



 そうつぶやき、しばらく考え込みました。

 呆然とその様子を眺めていた二人でしたが、突然、彼女は握られた二人の手をそれぞれ両手に取り、尾を激しく動かし泳ぎだします。

 さきほどの水流に負けないほどの早さでした。



「ちょちょっと!? 一体どこに!?」

「説明は後で! 多分急いでいるんでしょ!」



 そう言いながら暗い洞窟や畑のように広がるサンゴ、小魚が列をなして泳いでいる場所を抜けていくと、やがて一つの城が見えてきました。

 中に入るとやはり周りは水なのですが、今までの場所と比べて光がさして明るく、人の声も聞こえます。

 そして奥へ奥へと進んでいきやがて人魚は止まりました。

 

 色とりどりの魚や貝、それに大理石でできたような立派な柱がいくつもならび、その中央には玉座があります。

 その玉座の周りには彼女と同じような人魚から、槍と鎧を身にまとった人魚、かしこまった服装を身にまとっている人魚などが水に浮かんでいるのにもかかわらず姿勢をかがめて敬礼の姿勢を取っています。

 そして中央には、とても美しい青い髪と綺麗な紫色の鱗の尾を持ち、頭にはティアラを身にまとった女性が彼らを見つめていました。



「女王様。お連れしました!」

「ご苦労様です。下がってください」



 女王と呼ばれた女性の美しい声を聞くと人魚は握っていた二人の手を離して、今来た道を引き返すように泳いで行ってしまいました。

 そして、声を出した女性は二人のそばをゆっくりと泳いでそばに寄りました。

 


「初めまして。わたしがこの海を統治している女王、プライアと申します」



 穏やかな姿勢ながらも二人を見つめる目を逸らすことはありません。瞳の色も紫色でじっとみていると吸い込まれそうです。



「あ、あの……」

「あなたたちが来た目的はわかっています。この星の宝玉が欲しいのですね」



 声を出そうとしたステラを遮るように女王は言います。優しさを感じさせる、しかし、どこか厳かな声でした。

 周囲の人魚たちや兵士たちもざわめいています。



「いつか来るとは思っていましたが……彼が……そうですか」

「え、え?」



 何を言っているのかわからないと言った表情のステラ。彼女でさえそうなのですからビンは余計にわかりません。

 そもそも彼はこんな立派な場所に来たことなどないので居心地がすごく悪いです。

 女王はそんな彼らの様子を気にもせず、ついてきてくださいと奥の間に案内しました。



「どうしよう?」

「とりあえず……行ってみるしかないんじゃないかな?」


 

 彼女が手に持っている杖の輝きがさっきより薄れている気がしました。あまり時間はないのかもしれません。

 ビンの言葉にステラも頷いて奥の部屋に入っていきます。

 

_______________________________________________________________________________________________



 奥の部屋は城でところどころ見かけた部屋ほど広くはありませんでした。

 それに薄暗く、何か、陰気な雰囲気を漂わせています。



「宝玉はあそこにあります」

「あそこって……ええ!?」



 二人は同時に驚きの声をあげました。確かに彼女の示した方角には海の色よりも深い蒼さを感じさせる丸い球が輝いていました。

 しかし、その玉の光を遮るように大きな何かがうごめいています。

 二人の身長ほどの足……部屋の大部分を占める巨体……。そして、金色に輝く二つの光。

 それはイカというにはあまりに恐ろしく巨大な物でした。



「これは……」

「クラーケン!? 女王様? 一体何を!?」



 おそらくこの怪物の名前を叫んだのであろうステラに対してプライア女王は言います。



「宝玉を求めし者に試練を与えよ。それが私たちに伝えられた言葉です。そして、その試練は、星守であるあなたではなく、彼に受けてもらいます」 

「そ、そんな!?」



 思わず非難の声を上げるステラ。自分のせいで、彼やその友達のオオカミが危険な目にあってしまったことに負い目を感じていたのに、今度は彼だけを危険な目に合わせてしまうことになるなんて。

 しかし、そんなステラの様子とは反対にビンは剣を抜きました。



「時間がないなら仕方ないよ。僕しかできないなら僕がやる」

「で、でも!?」



 光る眼はもうこちらをとらえています。

 宝玉を守ると言う使命を果たすつもりなのでしょう。



「時間はあまり残ってないんでしょう。僕を信じて」

「わ、わかった……気を付けてね」



 そしてステラはうなだれながら、プライアの元まで下がりました。

 視線を下に落とす彼女に女王が声をかけます。



「ごめんなさい。ですが、私も生半可な気持ちのものにあれを渡すわけにはいかないのです。あれは……」

「え……?」



 不思議そうな顔で女王を見るステラ。その視線に気づいていたのか、いなかったのか、彼女は何も答えませんでした。

 そして、浮いているビンに向かってクラーケンの足が叩きつけられます。

 剣を振るって迎え撃ちました。



「くっ!?」



 さきほどの光線ほどではありませんが強い衝撃が剣を襲います。

 さらに光線とは違い、何本もある足が彼に向かってくるのです。

 宙に浮いていたらいい的だと判断した彼は一度、地面に足を付けました。

 足は鞭となって変わらず襲い掛かってくるのですが向かってくる方向が減ったため避けやすくなりました。

 しかし、叩きつけられた地面から伝わる振動と音から、その威力のすさまじさが伺えます。



「宝玉までちょっと距離があるな……。泳いで行かないと届かないだろうし……でも、そうしたら足で狙い撃ちされちゃうし……」



 考えている間にも攻撃は続きます。体力の衰えは期待できないかもしれません。むしろビンの疲れを待っているかのような動きです。

 星の剣の相手の動きを封じる効果も相手が巨体過ぎてあまり効き目がないようです。

 その時、足の一つが洞窟の壁を叩きました。岩がいくつか崩れ落ち、クラーケンの足に降り注ぎますが化け物は気にしている様子を見せません。

 それを見てビンはハッとしました。



「よし……一か八か……」



 ビンは向かってくる足を両手に握りしめた剣で激しく叩きつけるように返しました。洞窟の壁に激突し、壁から崩れ落ちた岩が足に降り注ぎます。

 しかし、多少動きを妨げる程度で完全に足の動きを封じることはできません。

 それでも何度も何度も向かってくる足を、右から左から来る鞭のような一撃を返します。

 激しく動き回って避けられる攻撃は避けつつ、壁や床に剣が当たっても気にすることなく。



「……」



 ステラはただ祈っています。ビンが無事でいられるようにと。

 そして、その時は起きました。

 大きな唸り声をあげてクラーケンが前につまづくように倒れたのです。



「え!?」

「なぜ!? あ……」



 二人が見た先にはビンのすぐ前の足場が完全に崩れ、それにクラーケンが巻き込まれている様子でした。 

 洞窟の壁を見て、この部屋の素材は崩れやすいということに気づき、防戦一方と見せかけて彼は足を弾きつつ、床に剣を斬りつけて、道を開けさせるという性質を利用し、何度も床を斬りつけることによって崖を作り上げたのです。

 しかも、完全に姿勢を崩したクラーケンに岩が降り注ぎおちていったためうまくどけることができず、前のめりになったままもがいているだけでした。

 


「よし! 今だ!」



 彼は落ちてくる岩を避けつつ、宝玉の元まで泳いでいき、しっかりとその手に取りました。

 赤い宝玉と同じように、彼の手に収まった青い光は静かに弱く優しい光になっていきます。



「これいいですか? 女王様?」

「ええ。お見事です」



 女王は満足げに微笑み頷きます。




「ビン!」



 ずっと涙目でいたステラがこらえきれなくなったように彼に抱き着きました。

 ビンは彼女突然の行動に慌てますが、かといって引き離すこともできずただおろおろしているだけです。

 そんな二人は女王は微笑ましく見ていました。



「ありがとう……ありがとう……」

「ステラ……」



 これ以上はいけない、と彼は思い、肩に手を置いて優しく彼女を引き離すと右手に持っていた宝玉を手渡します。

 彼女はそれを大切に大事そうに胸元にしまいました。

 光が重なり、より強くなったように見えます。



「女王様ありがとうございました!僕たちは次の場所へ向かいます」

「ええ。そうしてください。大変でしょうけど、無事を祈っています。外まで私が送って差し上げますから、そのまま島で待っていてください」



 そして二人の背に手を回しそっと抱きしめました。



「どうか救ってあげてください……。全ての大切な物を」



 そうつぶやくとすぐ離れました。二人の怪訝な表情を優しそうな目で見ながら。



___________________________________________________________________________________________________




 太陽の光が降り注ぐ中、ガルは大あくびをしています。

 本来なら気持のよい気候なのかもしれませんが、寒い場所に慣れている彼にとっては少し暑く、眠るのには適しません。

 もともとの世界では見なかったような木や生物、貝殻。そして波の音などをぼんやり見ながら過ごしていました。 

 来た当初はばてていたのですがむしろ今は動きたい気分です。しかし、彼らが来てからまた疲れてしまっては意味がありません。

 なのでじっとしているしかなかったのです。



「あーあ。退屈だな。ビンのやつ。ちゃんとやれているのかな」



 本来は自分もそばにいたかったのですが、やはり海は苦手なのです。

 足手まといになるだけでしょう。


 ずっと彼を支えてあげてと言う彼の母親との約束もあったので、ためらいは大きくあったのですが。

 仮に命を失うとしても守るべき約束でしたし。



「あのステラって嬢さん、どうしてか信じられるんだよな。なんでだろ」



 そうでなかったらたとえ足手まといだったとしてもついていったでしょう。

 そんなことを考えつつまたひと眠りしようかと思ったときです。



 水しぶきが上がり、二人の影が飛び出してきました。



「うわっ!」

「きゃっ!?」

 


 影は砂浜に落ちてきて、あまり上手とは言えない着地の仕方をしたようです。

 びくっとそちらをガルが見るとぶつかったところを抑えているビンとステラの姿がありました。



「なんだお前らか。脅かすなよ」

「ごめんごめん。ちょっと勢いが強すぎたみたい」



 ほうっとため息をつきながら二人の無事をガルは心の中で安堵しました。



「で、手に入れてきたのか?」

「ええ。大丈夫」



 ようやく動ける……と気合を入れて羽を大きく動かします。

 しかし、その時になって気が付きました。



「あ、でもよ。ここ高いところないけどどうするんだよ!?」

「女王様は待っていてって言ってたけど……」




 その時、地震のような振動が走りました。

 砂浜をのんびりと歩いていたカニも慌てて。

 木に止まっていた鳥たちが一斉に飛び立ちます。

 



そして、激しい音と共に。



 彼らがいた場所は空に浮かびはじめました。

 よく見ると海が水柱を出して上に押し上げているのです。



「こ、こいつはすげえな……嬢ちゃんの力にも負けないぐらいでたらめだぜ」

「女王様……ありがとうございます」



 すぐに十分な高さとなりました。三人は再び集まった後、光に包まれて最後の星に飛び立ちます。



 はるか下の方で女王とその何人かの人魚が見送りに来ていたことまでは彼らはわかりませんでしたが。





____________________________________________________________






 次に降りったった場所は不思議なところでした。

 

 廃墟となったような誰もいない石造りの町。

 かなりの大きさを誇り、先を見通しても人工物でなさそうなところはありません。

 もっとも硬さはもうそれほどないようで、ボロボロと崩れているところがちらほらみられました。

 草木もあまり生えていません。



 空気も変わっていました。

 肌からビリビリと何かが伝わってきているようです。

 来ている服もどこかわずかに浮いているようなそんな感じがしました。



 そしてその理由の答えはすぐ出ました。


 近く激しい音とそして、光と共になにかが地面にたたきつけられたのです。




「な!? なんだ!?」



 彼らがその場所まで行ってみると地面が黒く焦げていました。

 どうやらさきほどのは、落雷のようです。

 ステラがそっと語りはじめました。



「雷の民……らしいわ。敬愛する王を失ったこの国は。なげきのあまり国民全員が雷に姿を変え、王が来るまでこの町を守っているそうよ」

「ここも危険そうだな、おい」

「でも、行くしかないよね」



 ガルの戸惑う様な声とは正反対にビンは決心とともに言いました。



「ありがとう……二人とも」

「なんだよ?嬢ちゃん。礼を言うなら母ちゃん助け出してからにしろよ」



 もうガルもためらうような声は出していません。

 そんな二人の様子に励まされながら、力強く彼女はうなずきました。



「うん!!」



 そして背中の飛び乗って進もうとしたその時です。



「そこまでだ。ステラ」



 聞きなれない声にガルが体ごと振り向きます。

 そのために、ビンもステラも声の方角を向きました。

 


「む!?」

「あなたたちは!?」



 見覚えのある姿、そう、前の星でビンたちを邪魔した黒いローブに包まれた集団がいました。

 そんなに人数は多くないようですが、ビンたちと向き直っています。

 


「なんだあいつらは?」

「前の星で僕たちを攻撃した集団だよ」

「なんだと!? じゃあ敵ってことか!」



 グルルル……と唸り威嚇します。

 そんなガルの様子に臆することなく一人がフードを取りました。

 


「……長老様!?」

「えっ!?」

「なんだとっ!?」


 

 二人にはステラが放った言葉がどういう意味を持つのかわかりませんでしたが少なくとも、知り合いだったと言うことはわかりました。

 驚いて白髪の老人の方を改めて向き直ります。

 見ると彼女と同じような星形が先端についている杖を手に持っています。どうやら同族なのでしょう。



「ステラ。わかっているだろう。お前のしていることは禁忌と呼ばれていることだ。今ならまだ軽い罰で済まされる。さあ、こっちへ来なさい」 

「で、でもお母さんが……」



 戸惑う表情を見せるステラ。その胸元には赤い光と青い光が光っています。

 ビンはじっくりと様子を見ていて、ガルは唸り声を止めません。



「わかっているのか? これ以上我らに反抗したら反逆者とみなし、そこにいるお前が選んだ人間も同罪とみなされるのだぞ」

「……!?」



 その言葉に驚愕の表情を浮かべるステラ。

 今まで助けてくれたビンとガル。

 特に危ない所を何度も助けてくれたビンに恩をあだで返す形になってしまう……そんなことは自分で許されるわけがありません。



 小さな声でぽつりと降伏を口にしようとしました。

 しかし、それよりも早く、ビンが発した小さな言葉のほうがその場に響きました。



「ガル、走っちゃえ」

「よっしゃあ行くぜ!」




 一瞬で彼らに背を向け、ガルは走りはじめました。後ろのローブの男たちに動揺が見られます。

 それ以上にステラが慌てていました。



「だ、駄目だよ! これ以上逆らっちゃったら! 一生後悔することになっちゃうかもしれないんだよ! 私は大丈夫だから!」

「ここまで巻き込んでおいて今更引っ込むっていうのはないんじゃないかい?嬢ちゃん」



 紫色の光が遅れて飛んできましたが、ガルはうまく避け続けます。



「彼女たちの動きを止めろ! 今日一日動かなくさせるだけで構わん!」



 そんな声が聞こえてきたと同時に攻撃が激しくなりました。

 ガルは廃墟家の中に一度逃げ込んだ後、窓から脱出し、相手を錯乱させます。



「で、でも!」

「お母さんに会いたいんでしょ?」



 とどろくような光線の嵐のなか、ビンの言葉がはっきりと少女の耳の中に入っていきます。

 優しく、それでいて強い彼の言葉が。



「でも、本当は禁忌だったの。星の危機ではない時に星守が自分の都合だけで動いてしまうことは。今まで黙っていてごめんなさい。ここまで、ここまで危険なことになるとは思っていなくて」



 

 ステラの目に涙がたまっていきます。後悔なんてしてはいけないのに。

 だけど、自分の行動のうかつさに。協力してくれるとコートをかけてくれた少年が言ってくれた言葉に浮かれてしまった自分に。




「私のしていることは間違っていることなのかもしれない。だとしたら……言えなくて。もういいから……私一人が罰を受けたら二人は許してもらえるはずだから……」




 その先の言葉を言うのには少しためらいがありました。だけど言おうと口を開きます。




「だから……」

「お母さんと離ればなれになる悲しさだけは僕もわかっている。他のことはわからない」



 少年の記憶がよみがえります。

 あの日の事。そしてしばらくそばにいる狼と一緒に何日も泣き続けたこと。

 それ以来、毎日変わらず、赤い星を眺め続けていること。



「それに……」



 もし、また少年が母親に会えると言うのならばどんな苦しいことがあっても会うでしょう。

 でも、それは叶わないのです。ならば、目の前の少女にその思いを託したいのです。

 そしてもう一つの理由は。




「僕はステラを信じる。ステラのしていることが誰かにとって間違いだったとしても、僕は正しいって信じてる」

「おうよ! こいつが信じるっていうなら俺も信じてやるぜ!」




 彼女の力になりたいと言う単純で強い思いでした。

 自分たちがいた世界で言うと一日もたっていないほどの時間しか彼女と過ごしていませんが。

 彼女は長く一人でいた少年にとって特別になりつつあったのです。




「とにかく最後まで付き合うから。お母さんが待っているんでしょ」

「俺らがちょっとやそっとでビビると思ってんのか? 早く最後の宝玉まで行こうぜ!」



 ここまで自分を信じてくれた仲間たちをもう戸惑わせるわけにはいきません。

 ステラも覚悟を決めました。



「うん!! ありがとう!! ビン!! ガルさん!!」



 その様子を見て、自嘲気味にビンは微笑みました。

 隠し事をしているのは自分も同じだと言うのに。


 そして杖を取り出し、方角を探ります。

 光はだいぶ弱まっていました。



「こっち!! あの塔にあるみたい!」

「よっしゃ! 行くぜ!」



 建物の屋根に飛び移った後、近道をするかのような気軽さでガルは塔に向かっていきました。

 しかし、塔に向かっていく最中、彼らのそばを再び落雷が襲い掛かります。

 黒いローブの男たちも距離をドンドン離しているのにもかかわらず、遠くから攻撃を仕掛けてきています。

 塔はまだまだ遠いです。




「っち!? 避けられるだけ避けるが、さすがにきつくなってきたな……」

「雷は任せて。なんとか逸らしてみせる」

「じゃあ僕は後ろの人たちの攻撃を弾くから」



 上から落ちてきた雷をステラが魔法で防ぎ。

 後ろから来る攻撃をビンが剣で弾き。

 二人の負担を少しでも減らすべくガルが縦横無尽に動き回り。



 建物の中。通りの壁。屋根の上など景色はめまぐるしく変わっていきます。



 やがて雷は塔に近づくにつれて少しずつおとなしくなっていき。

 後ろの黒いローブの男たちの距離はどんどん離れていき。

 ガルも失速するどころかどんどん速度を上げていきます。



 そして、ついに。



 塔へたどり着き滑り込むように中に入りました。



________________________________________________________




 塔の中はすごく単純なつくりでした。

 螺旋状の階段が頂上までずっと続いているのです。



「もたもたしているわけにはいかねえからさっさとのぼるぞ」



 もう罠や危険なことも警戒していられません。

 さっそく階段に足を踏み下ろすと、彼らの脳裏に記憶が浮かびました。

 火山、深海、雷鳴……。

 ちょうどそれぞれ宝玉がある場所の記憶です。



「な、なに? いまの?」

「わからない……?」



 どうやら三人とも同じことが起こったようです。

 ためらいながらも登っていきます。

 そしてまた自分ではない誰かの記憶が浮かんできます。



 今度は火山の記憶だけが浮かんできました。

 あちこちで噴火する火山……。何かを叫んでいる一人の存在。

 それに涙をこぼしながら答える女性……。



 次は砂浜……。水から出る一人の少年。それを見守る何人もの人魚。

 少年は声を出せないながらも笑顔で彼らに手を振ります。

 中でも一人の女性は水面に顔を付けそうなほどうつむいて悲しみをこらえていました。




 そして、この場所、さきほども見た光景。

 まだこの町が静かな夜でも活気で溢れている中。

 一人の人間が夜遅くそっと城から抜け出しました。

 黒い布きれの隙間から金色の王冠がわずかに見えました。





 いろんな場所から見送られたそれぞれの存在が塔を昇っていきます。

 やがて登り終えた後、塔の頂上には一人の女性がいました。


 その女性のもとへ三人が集まると……それぞれ宝玉となっていきます……。

 最後に記憶の中のその女性の顔が大きくうつりました。




「お母さん!!」



 思わずステラが手を伸ばしたと同時に記憶は消えました。

 その声にびっくりしたのか、二人の記憶の映像も消えたみたいです。


 無意識に足だけは動いていたのか、もう塔の頂上はすぐそこなのでしょう。天井から光がさしています。 



「なんだったんだろう……今の」

「なんつーかわからねーけど……この塔と関係があるのは確かだな」



 それに……と言いつつ、ガルが彼女の胸元にしまってある宝玉を見ます。

 最後の映像が本当ならば、これらの宝玉は元々……人であった存在から作られたものなのでしょうか?

 しかし、もう進むしか答えを知る方法はありません。

 

 何よりステラの叫びからわかるとおり……彼女の母親が関わっていることも確かなのです。

 


「行こう」



 映像はもう見えません。三人は一気に塔を走り抜けました。



____________________________________________________________



 塔の頂上まで来ました。

 天井は開いており、黒い雲に空はつつまれていて稲光が見えますが、不思議とこの塔には雷が落ちてくる気配は見えません。

 彼らは慎重におそるおそる、近づいていきましたが、何も起こる気配はないようです。


 彼らは目の前にある黄金に輝く宝玉を見ました。

 太陽の光よりも鋭く、目を閉じてもその光は眩く感じました。


 手に取ろうしたその時です。



「待つんだ! ステラ!」



 さきほどの黒ローブの集団が現れました。

 咄嗟に身構えるビンとガル。

 彼女は玉に手を伸ばしたまま彼らの方を向いています。



「君のお母さんは絶対に助ける! だが、それは今じゃない! 今じゃ駄目なんだ!」

「ああ!? どういうことだ?」



 さきほどの余裕そうな態度もなく、もう攻撃をしてくる気配はありません。

 焦り、必死で止めようとしている、そんな雰囲気は感じ取れました。



「それを言うことはできない。さあ、私を信じて。戻りなさい」



 そう言って長老は近づいて手を差し伸べようとしましたが、近くに雷が落ちる音がしました。

 その音にびっくりしたのか、思わずステラは宝玉を手に取ってしまいます。

 すると、彼らに光が包まれます。ステラが星を移動するときよりもっと大きくて強い光でした。



 同時にステラの胸元にあったはずの青と赤い光も、その光に重なるように移りました。

 そして三人の体が浮き上がります。



「いけない! 今じゃ駄目なんだ! 彼じゃ駄目なんだ! このままでは! あの星が……」



 長老の声はどんどん遠くなっていき、そして聞こえなくなりました。

 どうやら、ビン達は一つの星に向かっているみたいです。


 少年がずっと見続けていた一つの星を。



「もうあの場所へ行ったら私たちは何もできない……見守るしかないのか」



 そんなつぶやきが最後に残されて。


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