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一人童話祭  作者: 狭間
3/6

星語り 星繋ぎ 星送り(前編)

王道ファンタジー物を目指して、あくまでめざして書いたものです。

どこまでも吸い込まれそうなほど深い深い闇を持つ夜。その闇に負けない輝きを持つ星。

 それは色々な場所で夜に包まれる世界を照らしています。

 強い光。弱い光。時々流れる光もありますね。


 

 森、川、谷、砂漠……そして。

 その光は雪と氷に包まれた冷たく白い大地も照らします。

 黒い空と黒い海、光る星に照らされ輝く白い大地や氷山。まるでこの場所だけ昼と夜を真っ二つに世界が分けてしまったようです。 



 その大地を一人の少年が立っていました。

 厚着のコートを着て毛皮のフードをすっぽり被っています。子供にはつらいはずの気候なのに少年のまなざしは一点を見つめ続けています。

 その視線の先には赤い光を発する星がありました。白く光る星がちりばめられている中、赤く、強く、輝く星は明らかに目立っています。

 彼の目はその光を視線からはなそうとしません。



「ビン! まだこんなところにいたのか!」



 四つの足音が聞こえたかと思うと彼のそばに駆け寄ってくる存在がいました。

 氷山の輝きをそのまま映したかのような白い毛並み。鍛えられた立派な脚。強さを感じさせながらもその目はどこかやさしさを感じさせる。。

 そんな友達の訪れを星から目を逸らした少年は笑顔で迎えます。



「ふふふ。ごめん。ガル。ちょっとまた見たくなったらそのままずっと……」

「全く……。もう少しで村の連中がここまで来るところだったぞ」



 尻尾を振り回しながら白銀の狼は少年をたしなめます。



「あの人が亡くなってからもう何年がたったっけな?」

「もう十年かぁ。ガルとこうして過ごすようになるまで長かったね」



 ガルと呼ばれた狼も少年が見ていた星をみつめています。

 二人にとって大切だった、とある人の言葉を胸に。



 たとえこの大地からいなくなっても。

 あなたたちがどこにいても。

 私は空の星になって、光になってあなたたちを見守っています。



 それが彼女の遺した言葉でした。

 そしてその遺された言葉とほぼ同じ時期にあの赤い星が現れたのです。

 それ以来ビンはその星を見るのがなんとなく習慣になっていました。



「さあ、そろそろ行くぞ。村の連中が待ってる」

「うん」


 

 ガルの呼び声に答えて、星に背を向けた、その時です。

 白い雪原に自分たちの影がはっきりとうつりました。まるで、一瞬だけ夜から昼に変わったかのように。思わずビンとガルは振り返ります。

 村人が来たのかとも思いましたが、彼らの持つ光が比べ物にならないほど強い光でした。

 空を見上げると、一つの星が軌跡を描いています。



「うわー! 流れ星だ! 珍しいね! ガル!」

「ちょっと待て! 何か様子が変だ!?」



 そうです。その星は軌跡を描いて動いているのですが、流れ星のように消えることがありません。まるで飛行機雲のように軌跡を延々と描いているのです。

 そして、二人はさらに気が付いたことがありました。光がどんどん大きくなっているのです。



「ま、まさか!? こっちへ来ているの!?」

「ば、馬鹿言うんじゃねえよ!? 星が落ちるなんて聞いたことあるか!?」


 

 しかし、まばゆい光はどんどん大きくなっていきます。ガルは背を向けて、ビンは腕を目に当てて光を妨げないといられないほどでした。

 そして、その光は二人の頭の上を通り越してちょうど少し離れた先にある氷山に向かうようです。

 光はしばらく強く輝いていましたが、やがて夜の闇に少しずつ飲まれるかのように弱くなっていきます。



「たく……! なんだったんだ」

「わからないけど、ただごとじゃあなさそうだね」



 ビンは氷山の方を見ました。だいぶよわくなっていましたが、頂上のあたりにまだ少しだけ一部分が光っています。



「行ってみよう! ガル!」

「お、おい!? でもそろそろ行かねえと……」

「すぐだから! ね?」


 

 ガルは制止しましたが、ビンの目を見て止めるのは無理だと悟りました。昔から好奇心旺盛で興味を持ったことは自分が真剣に止めても聞かないのです。

 時々、真剣に止めても聞きませんけど。

 まあ、危ないこともなさそうだし少しだけならとガルは仕方なく了承しました。

 背中にビンが乗ります。



「じゃあ行くぜ!」

「お願い!」



 そして、雪原を一つの白い影が風となり駆け抜けました。



________________________________________________



 人間の足では何時間も苦労して登らなければならない氷山も狼ならばそんなに時間はかかりません。

 ましてやのぼり慣れた山ならなおさらです。 

 あっというまに落ちた光のあたりへたどりつきました。



「見て、ガル! あそこ!」



 背中の上からビンが指差します。ガルにはその指先は見えませんでしたがどの場所の事かはわかりました。

 光はまだ消えておらず、さらにその光を発していたのはビンと同じくらいの年齢の少女が倒れていたからです。

 金色の髪に茶色い服……。よくわかりませんが、少なくとも普段雪山にいるような恰好ではありません。

 ガルの足はその娘の前に止まり、ピンは背中から飛び降りました。



「女の子……なのかな? 村の娘じゃないよね?」

「服装から見て違うだろ。この場所で普段こんな格好してたら2時間でかちこちになるぞ」



 女の子は気絶しているようでした。そのほかに辺りを見渡しても白と青の氷しかありません。

 それに光の元は彼女から発していました。

 最初からわかっていても信じがたいことですが、どうやらさきほどの流れ星は彼女そのもののようです。  

 二人がどうしようかと悩んでいると小さく唸るような声が聞こえました。



「う……うん?」

「あ、君! 大丈夫!?」



 ビンが声をかけると少女はゆっくりと目を開けました。髪の色をそのまま映したかのような金色の瞳です。

 やはり、普通の少女ではなさそうです。しかし、その目と髪はどこかで見たような気がしました。



「ここは……わたし……おちて?」

「そうだよ。君は突然この氷山に落ちてきたんだ」



 少女はゆっくりと体を起こしましたが、体が寒さを思い出したかのように震えはじめています。

 慣れない人間にはこの氷山の冷たさはとても耐えられるものではありません。

 ビンは自分の毛皮のガウンをスッポリと少女にかけてあげました。フードに隠れていた銀色の髪が揺れます。彼女はだいぶ暖かくなったのか震えが小さくなりました。

 ガルはため息をつくと、ビンのそばに寄りくるまり、毛皮の代わりになります。



「あ、ありがとう……」

「どういたしまして。それで君はどうしたの?」



 その時、少女はハッとした表情をしました

 包まれたガウンが彼女から落ちそうになるほど強く立ち上がります。

 そしてどこに持っていたのか何か棒のような杖のようなものを取り出すと振りました

 しかし、その行為には何も意味がなく、彼女の表情は戸惑いに変わります。




「……!? ここじゃ足りないの……?」

「ど……どうしたの?」

「おい! せっかくビンが助けてやったんだ! 事情ぐらい説明しやがれ!」



 ビンが声をかけましたがそれよりも大きくガルルと唸り声をあげて、少女を怒鳴りました。

 少女はさらにびくっとした表情になり少し目に雫がたまりました。

 少女を見てビンはガルをたしなめます。



「ガル~? 女の子泣かしたらダメってお母さんに言われたでしょ~?」

「い、いやだってこいつが……いや、すまねえ。嬢ちゃん」

「う、ううん。こちらこそ……」



 お互いが謝りあい、少女は再び座り込みました。

 気まずさを漂わす空気の中、ビンが少女に言いました。



「こうして会ったのも何かの縁だし、困ったことがあるなら言ってみて。力になれるかもしれないよ」

「お、おいビン!?」



 大丈夫だから。とガルに目で訴えます。

 仕方なく黙っていることにしました。



「ありがとう」



 少女は静かにお礼を言いました。

 そしてオズオズと話し始めます。



「私の名前はステラ。星守ホシモリの一族なの」

「ホシ……モリ?」



 聞きなれない言葉にビンはガルを見ますがガルも知らないらしく首を横に振ります。

 


「星守は星の化身。星を見守る一族。星が危機に陥った時、それを可能な限りとめるの」

「星って……あの夜空に光っている星?」



 当たり前の事ですが、信じられないといった調子でビンはステラと名乗った少女に尋ねます。

 少女はうなずきました。



「それに星はあの夜空のものだけじゃない。このいま私たちが立っている場所も星なの」

「え!?」

「き、きいたことねえぞ!? そんなの!?」



 ビンも驚いたのですが、ガルも思わず少女に近づくばかりの勢いで動いたのでくるまっていたビンも巻き込まれ体勢を崩してしまいます。その様子にステラは少し戸惑いました。

 彼らの慌てぶりに落ち着くのに時間がかかりましたが、ふたたび話し始めます。



「本来、私たちが星守として力を発揮していいのは本来星の危機だけ。でも、少し前の事だったわ。声が聞こえてきたの」

「声? 誰の?」

「私の……お母さんの」



 その言葉にビンとガルは息をのみました。

 彼らにとってはその言葉は決して軽いものではなかったのです。



「私のお母さんは小さいころいなくなってずっとどこに行ったかわからなかったの。だけど少し前から声が聞こえてきたの」



 それはこんな声だったと言う。

 


 私はある星にいます。

 もし、貴方が私を助けられるのならば、三つの星の宝玉を集めてきてください。

 ただし機会はあなたの持つ杖が輝きを失うまでです。

 


 そんな声がどこからかわかりませんがステラの頭の中に聞こえたそうです。



「つまり、時間でいえばちょうど今晩だけということ」

 


 彼らにとっては聞きなれない言葉ばかりで少し頭が話に追いつくのに時間がかかりましたが一つだけわかったことがありました。

 少女は母親のために今こうして動いていると。



「声を聞いたらすぐ出ていったんだけど、途中で何かにぶつかってそのままこの星まで落ちてきちゃったみたい。落ちるときは私の力でなんとか衝撃を和らげたんだけど、また上がるにはここからじゃ足りなくて……」

「なんていうか……大変だったんだな。しかし、動くときはなにかにぶつからないようにしろよ」

「違うの!」



 ガルの呆れたような声に少女はかぶりを振って否定します。涙をこらえている声でした。その勢いに、ガルは少し狼狽えます。



「私はちゃんと前を見てた! 危なくないように最初の星に向かっていたのに、突然目の前から何かが飛んできて……。何かが私の邪魔をしようとしているみたいなの。私はただ、お母さんを助けたいだけなのに……」



 そして、空を見上げました。一瞬ビンに見えたその目は涙がたまっており、それを隠すかのように毛皮のコートを握りしめ、強く頭におしつけるように引っ張りました。

 ガルはビンに目で訴えました。

 どうする?と。



「ステラ。僕たちも何か手伝えないかな?」

「え?」



 その声に彼女は少年の方を振り向きます。彼は手を差し伸べました。



「ほしもり? とかそういうことはよくわからないけど、お母さんのことを助けたいって気持ちならわかるんだ。なんだか放っておけなくて。まあ僕じゃ頼りないかもしれないけど、ほら、ガルもいるし」

「え!? 俺も行くこと決まっているの!?」



 いつの間にかにビンから離れて後ろの方にいた狼が驚きの声を上げます。その声には返事を返さずそのまま続けます。



「どうかな?」

「あ、ありがとう! あなたたちが手伝ってくれるならきっと助けられる!」

「だから俺も行くの決まっているのかよ!」



 差し出された手を少女はしっかりとつかみました。細く綺麗な手はそれよりほんの少しだけ大きな手に包まれました。

 少女な涙を目に少し溜めたままですが、その顔は笑顔に変わります。

 手に込められた意志を感じながらビンは思いました。

 


 その表情がまるで星の輝きみたいだなと。



「だから俺の意志は!?」

「行ってくれないの?」

「い、いや行くしかないけどよ……」



 結局、ビンのお願いには逆らえないガルなのです。だから彼もガルには聞かなかったのですが。



「あ、まだ名前言ってなかったね。僕はビン」

「俺はガルだ。面倒事するなら早めに頼むぜ」

「うん! よろしくね! ビン! ガルさん!」



 二人の握られた手に一本の足が加わりました。




________________________________________________________________________________________________




「それで僕はどうしたらいいの?」

「多分、またさっき私を邪魔したやつらがまた来ると思うの。だから」



 少女はそういうと杖を振ります。すると少年の手に光があつまります。



「な、なに?」


 集まった光は徐々に輝きを増していき、そしてその輝きが爆発したかのように最高に達すると。

 


 気が付けば少年の右手にはひとふりの剣が握られていました。

 刃は金色、柄は銀色でつくられていて、びっくりするほど軽いものでした。

 左手には鞘が握られています。これは夜の空を映したかのような黒色です。



「星の剣。星守が力を貸すと決めた人しか使えない剣なの。生きている物は斬るとしばらく動けなくさせる力があって生きてないものを斬ると、この剣を避けるかのように動くから、危なくなったら使ってね」

「す、すごい剣だね……」



 改めて、少年は剣を見つめました。剣など今まで持ったことはないのですが、それでもすごく手になじんでいる。そんな気がします。

 ひとまず、ベルトにくくりつけておくことにしました。



「それで、あなたにはこれ!」

「これって……!? うおっ!?」



 ガルの銀色に輝く毛並みを上回る光が彼の背中を包みます。思わずビンは目を閉じました。

 そしておそるおそる開けてみると……。



「な、なんじゃこりゃああ!!?」



 ガルの背中にはまるで白鳥のように白い翼がくっついていました。

 ただのかざりではなく、慌てている彼にあわせてバサバサと動いています。どうやら本当に背中にくっついてしまったようでした。



「な、なんだ、この鳥みたいな翼は! ってうお! 動かしたら体が……」

「それも力を貸すと決めた生き物しかあげられないの」



 少しだけガルの体が浮き上がりましたが羽ばたくのを止めるとすぐに地上に足がつきました。

 しかし、勇ましさを感じるガルに白鳥のような優雅な白い翼は少し似会わなくてビンはばれない様に少しだけ笑ってしまいます。

 ……こちらをうらみがましそうにガルが見ているので多分ばれてますが。



「それでね。まず最初にあの星に向かわなければいけないんだけど、ここからじゃ高さがちょっと足りないの」

「え?でも、この山より高い山はないよ」



 そんなに高い山でもないのですが、このあたりじゃ一番高い山なのです。他の山を探すにも今夜中に見つけるのはほぼ不可能でしょう。



「うん、だから、ガルさん!」

「あ、なんだ!?」



 今の短い時間のうちにだいぶ慣れたのか翼をパタパタと緩やかに動かしながらこちらに向かってきます。

 羽が少しだけ地面に落ちていますが、すぐ消えてしまいました。これも彼女の力なのでしょうか?



「この氷山から翼で空に飛びだして! そうすればあとは私の力で行けるから」

「いきなり危なそうだな!おちたらどうするんだよ!」



 言葉に驚いて更に強く翼を動かします。もう完全に体の一部でした。



「大丈夫! 翼があるからおちても平気! 私も助けるから!」

「っち! 仕方ねえな、嬢ちゃん、ビン。乗りな!」



 そして二人を背中に乗せたガルは翼を広げ、走る体勢に構えました。



「準備はいいか!」

「大丈夫!」

「さあ! 行きましょう!」



 そして、ガルは一声唸ると、山頂から崖へ一気に走り出し、そのまま飛び出します。

 


「行くぜーーーー!!」



 翼を広げ大きく羽ばたくと最初は少しずつ、次第にどんどん速度を増し、空へと上がっていきました。

 そしてビンの後ろに座っていたステラが杖を取り出して振るうと、彼らの体を光が覆い始めます。

 そのまま光の球体になった彼らは星のひとつへ飛んでいきました。



_____________________________________________________________________________________




 

 一つの星をめがけた光はそのままその星の大地に降り立ちました。

 たどり着いたところは熱を持った赤い大地でつねになにか空気がゆらゆらと動いているようです。

 過酷ない大地なのか草木は生えておらず、岩や丘などしかありません。

 ビンは自分の体から何かが流れているのを感じます。それは汗と呼ばれている物なのですが、冷たい場所にずっといた彼にとっては初めての感覚です。

 一応、ステラの力で熱さは最大限に抑えられているのですが、それでも彼らにとってはなかなか耐え難い場所なのでしょう。



「うーん。ちょっと苦しいかな……」

「無理すんなよ。ビン。いざとなったら俺の背中にでも乗っとけ」

「……ガルも辛そうなくせに」



 厚く、白い毛皮で覆われたガルもやはり暑そうにしていました。慣れない場所というのもあるのですが。それに辺りを立ち込めている卵が腐敗したような匂い……。

 鼻のいいガルには少し厳しいのでしょう。

 一方、ステラは杖を握りしめて自分の額に当て、目を閉じて念じているようでしたが、やがて納得が行ったかのようにうなずきました。



「うーん。宝玉はどうやらあの山の中にあるみたい」

「わかるの?」

「うん。探したいものとかは一応ね」



 ふーんとビンは感心しました。彼も割とよく物をなくすので、その能力があったらいいのにと感心しました。

 まあガルの鼻があるからいいかなとも思いましたが、彼に見つけてもらうたびに怒られるので。

 自分にかぶさっていた金色の髪を揺らしながら毛皮のコートをステラがとり、ビンに手渡しました。



「コートありがとう。こんな形で返すことになっちゃってごめんね」

「いいよ。しばらくおなかのあたりで縛っておくから」



 そう言ってビンは袖の部分をおなかに巻きつけ、自分のおなかのあたりで結んで固定させました。

 とても大事なものなのですが流石にこの熱さでは着るわけにはいきません。ずっと離さなかったものなのですが。



「じゃあ進もうか」

「ええ」

「おう」



 そして三人はステラが示した山に向かっていきました。

 山のそばまで来ると洞窟があり、どうやらその中に目指すべきものがあるみたいです。

 ふと周りを見渡すともう一つこの火山と似たような山がありました。



「あっちにも火山あるけど、あっちにはないの?」

「うーん。反応はこっちだから多分関係ないと思うのだけれど」



 自分の杖が探し物に関して間違ったことはないのですが、それでも間違えているかもしれない?と思うほど二つの山は瓜二つでした。

 とりあえず杖を信じて山の横穴に入っていきます。



 洞窟に入ると多少は太陽の光が届かなくなるためか、熱さが薄れました。中はあまり広くなく、狭い道が続きます。

 それでもあまり長くこの場所にはいたくないと思いましたが。 



 中は相当入り組んでいてアリの巣のように複雑ですが、ステラが星の杖をまるでアンテナのように振りかざしここは右、次は左と進んでいきます。

 そしてしばらくまっすぐと進むと大きな岩が道をふさいでいました。

 他に道はありません。引き返すしかないかなとビンは思いましたがステラが言います。



「あの剣を試してみて」



 そういえば、さっきから剣を手に持ったままでした。鞘から剣を引き抜き、握りしめます。少しだけ、手についていた水が熱で蒸発していくのを感じました。

 



 そのまま縦に一回振り下ろすと



 道をふさいでいた岩は真っ二つに別れました。



「す、すげぇ剣だな。それ!」



 ガルが感嘆しますが同時にビンが体勢を崩してしゃがみこんでしまいました。



「お、おいビン!?」

「だ、大丈夫?なんか痛い所でもあった?」

「う、ううん。ちょっと剣を握ったらドキドキして……周りの暑さもあるし。こんなに熱を感じたのは久しぶりだったから」


 

 そう言って起き上がります。その言葉にステラは不思議そうな顔でビンを見ました。

 ガルは心配そうにビンに近づきます。



「あの氷山とか雪原だとやっぱり暖かい所なんてなかったの?」

「ほとんど寒い所だけど、町の人たちが火をともしたり、太陽の光を集めたりするから暖かいところもあるよ」



 そんな話をしていると、今度は目の前に大きな扉がありました。三人で頑張って開けようとしますが、扉はビクともしません。

 今度は頑張って倒れない様にしよう。そう思いながら少年は剣を構えました。




___________________________________________




 

 扉の先の部屋に入るとすさまじい威圧感を感じました。

 それに、しばらく控えていた暑さがこの場所に来ると再び盛り返してきているようです。



 石造りの祭壇。中央に階段が高く高く伸びており、そしてその先には太陽のような強く、そして鋭い光が見えました。

 この部屋に影という存在すら許さないほど輝き、その光がこの部屋の熱気を作っているようです。



「あ、あれ!」



 ステラが駆け出し、階段を上ります。ビンやガルも慌ててついていきました。

 やはり上に近づいていくたびに熱はどんどん強まります。

 ステラの力がなければ倒れてしまっていたかもしれません。



 息をつきながらもようやく祭壇の頂上に来ました。

 遠くではあんなに輝いていたのに二人が近くまで来ると直視できるぐらいの輝きに収まっていました。

 赤く、丸い、そして、綺麗な色をした水晶……台の上に厳かに置かれています。

 これがおそらく目指すべきものなのでしょう。



「じゃあこれを」

「ちょっと待った!」



 ステラが伸ばした手をガルが止めます。

 二人とも宝玉に近づいていましたが彼の方を振り返りました。



「仲間から聞いたことがあるんだが、この手の祭壇っていうのはたいていなにかを祭っているかあるいは何かを封印しているんだ。ここが祭壇ってことはそいつは何かを封じてるってことじゃねえのか? もうちょいよく調べてもからでも……」



 しかし、ガルの言葉にステラが反論しました。



「そうかもしれない。でも調べている暇はないわ。一刻も早く集めないと」



 そして、彼の返事を待たずに彼女は水晶を手に取りました。

 何も起きないようです。彼らは一安心し、帰りはゆっくりと休憩も含めて歩いて帰ろうと。

 


 階段を降りきり、部屋を出ようとしたころでしょうか。

 その時です。大きいなにかが少しずつ、しかし、大きく動く音がしました。

 同時に部屋の熱気が爆発したかのように急上昇していきます。  




「な、何が起きているんだ?」

「見て! あそこ!」




 もう宝玉はとったはずなのに祭壇の頂上が赤く輝いています。

 いえ、宝玉の輝きではありません。それよりもさらに熱い、熱い、力の塊です。

 


 そしてついに轟音があたりをとどろく音がしたかと思うと祭壇から炎が噴き出しました。

 それもただの炎ではなく、同時に溶岩が先ほど降りてきた覆い尽くすほど溢れてきます。

 もうこの部屋にはいられません。



「逃げろ!」



 ガルのその言葉も待たずに彼らは部屋から抜け出しました。

 炎と溶岩が作り出した岩が背後に降り注ぐような音も聞こえます。

 狭い道に入り、岩は来なくなりましたが、溶岩と炎が確実に彼らに迫ってきていました。



「ど、どうしよう!?」

「とにかく逃げるしかない!!」



 二人は駆け出しましたが、溶岩の方がわずかに早く、確実に距離を縮められていました。

 ガルは足が速いので少し先を言ってましたが、二人を心配してたびたび後ろを振り向きます。


 ビンは少し息が上がっていましたが、背後に感じる熱が走るのを止めると強くなるのを感じて、足を止めることはできません。

 


 っとその時です。



「あ!?」



 目に見えないほど小さなくぼみにステラが足を取られ、つまづいて体勢を崩してしまいました。

 少しだけ高い場所があり、溶岩の動きが一瞬止まりました。炎はまだ、迫ってきていないようです。

 ステラに駆け寄りつつ声をかけながらビンは星の剣を再び抜きます。



「大丈夫!?」 



 ぎりぎりまで迫ってきた溶岩。それを止めるために、ビンが天井に星の剣を振るいました。

 


「えい!!」


 

 一筋の光が走るように岩を切り裂きます。

 剣筋の道を開けるべく動いた岩がおちてきて、溶岩をせき止めました。

 溶岩がちょっとこちらに染み出していますが時間稼ぎになるでしょう。

 転んだステラの手を取り、起こします。彼女の頬はちょっとだけ紅潮していました。



「ありがとう……ビン!」

「よくやった!」



 一瞬のすきを突き、ビンはステラの手を引いて二人はガルのそばに走りました。



「乗れ! このままじゃ追いつかれちまう! お前らを乗せても俺の方が早い!」

「うん!」

「お願い!」



 ためらう暇もなくビンはステラの手をひいてまず前に乗せてその後彼自身が後ろに乗りました。

 ガルが駆け出します。一気に溶岩との距離は離れましたが、それでも洞窟全体は来た時よりもはるかに暑くなっていました。まるで火山が宝を取られたことを怒っているみたいです。

 分かれ道に来ましたが、ガルはためらいなく、ステラと同じように右、左と進んでいきます。



「道はわかるの!? ガル!?」

「外の匂いはなんとなくわかる! 硫黄のにおいが多少混じっているが、俺なら大丈夫だ!」


 

 ガルもまた全力でこの道は右、左と瞬時に判断して駆け抜けていきます。

 後ろに刺すような感覚を再び覚えました。どうやら三人を飲み込もうとしている捕食者が迫ってきているようです。

 圧倒的な熱を、飲み込まれるたら跡形もなく溶けそうな力を持ちながら。



「ステラ! 何とかならない!?」

「さ、さすがにこんなに大きな力は対抗できないよ!」



 どうやらガルに頑張ってもらうしかないようです。

 彼もだいぶ息が上がっていました。暑い場所なのでなおさら体力の消費が激しいのでしょう。

 しかし、光が見えてきました。出口でしょうか。



「よっしゃああ!!」

「やったね! ガル!!」



 彼らはその光に飛び込みました。

 


 しかし、ほっとしたのもつかの間、その先は溶岩の川でした。

 そのまま彼らはその川めがけて落ちていきます。




「うわああああああ!!」

「きゃあああああああああ!!」

「マジかよおおおおお!!」



 

 万事休す、絶体絶命、と思われましたが。

 三回、堅いものにぶつかる音がしました。

 たまたま運が良かったのか川に流れていた岩に着地したようです。


 

「悪い……硫黄のにおいが強すぎて最後の分かれ道がわからんかったみたいだ」

「うう……どうしよう」



 さきほどよりも強い熱にビンは今にも倒れそうな感覚を覚えましたが、緊張感で何とか持ちこたえていました。

 ガルはそばで倒れこみました。この状況を抜け出すのに飛ぶのも少し厳しいようです。 

 どうしよう……と二人は流されながら考えました・


 

 その時です。先ほど出た穴から炎が吹き出し、何度も壁にぶつかり、その姿が徐々に変わっていきます。

 やがて、大きく、凶暴な龍の形をなして彼らに迫ってきました。



「くっ!?」



 少し体を震わせながら、ビンは剣を引き抜き、竜の頭斬りつけます。



 咆哮をあげ、一瞬ひるみますが、それでも竜はまだ彼らを喰らい尽くそうとなんどもその頭を、その牙を彼らに振りかざします。

 そのたびにビンは何度も何度も炎を斬りつけます。



 一方でステラは、壁にぶつかって投げ出されることがないように、乗っている岩を動かし、竜から離れるように動かしていました。

 ガルはその場に座り込み、休んでいました。



 実体のない炎、星の力を持った剣でなければ戦うことすら叶わなかったでしょう。

 つたない動きながらも確実に竜を斬り続け、最後の一振りが頭に当たった時、炎の龍は大きく嘶きました。


 そして。



「え!?」



 ビンのほうを見たかと思うと一瞬微笑んだように見えました。気のせいだったかもしれませんけど。

 そしてそのまま力尽きたかのようにその場からを形を崩し、溶岩の川に沈んでいきました。

 ほっと一息をついたその時です。



 溶岩のしぶきが上がりました。



「きゃあ!」


 

 ステラが悲鳴を上げます。

 何度も何度も溶岩が柱を作ろうとするかのようにうねり上がります。


 そして、何かが真下から来る感覚を三人は覚えました。

 次の瞬間、持ちあげられるような感覚を覚えました。足場ごと、溶岩が彼らを上に押し出したようです。



「こ、これは……!?」



 そして上を見ると星空が見えました。ここから外に出られそうです。

 二人は慌ててガルの背中に乗りました。ガルもその場で構えます。



 噴火のように溶岩は彼らが乗っている足場を外に、そして空に突き上げました。




「よし! いまだよ!!」

「おうよ!」



 ガルは背中の翼を大きく動かし、岩が一番高く上がった時に岩を蹴り、空に上がりました。

 熱気からどんどん解放されているような感覚を覚え、そしてステラが少しだけ震えている手を上げると彼らはまた光に包まれ次の場所めがけて飛び出します。



 彼らの乗っていた岩は役目を果たしたとばかりに溶岩の川に落ちていきました。







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