最強+可愛いの証明法
えーと今回はもう先にお題を言っちゃいますと……。
魔王レナ、最強、可愛いでした。(魔王レナ様より)
ちなみに魔王レナというキャラクターは魔王レナ様の作品にチラホラ出ているキャラクターです。(代表作は繋がりのファンタジア、他短編)
一応本人とは別のキャラクターとのことですが。
そこそこ難産でしたが色々吹っ切れて書きました。
よっていつもに加えて悪ノリ成分多めです。
まあ童話と言われれば首をかしげる内容ですが良かったら見てください。
あ、私のそっくりさんがでますけど気になさらず。
昔も今も変わらず、世界が戦いにあふれようと平和に過ごしていようとそれらから離れたところにある建物の中で一人の人間がなにやら作業をしていました。
「フフフ……フヘヘへ」
彼の周りには緑の煙を立てるフラスコや、赤い煙を出しながらぐつぐつ沸騰している液体が入っているなべや、紫色の固まっている固体などあります。明らかに危険そうなものですが大体は砂糖や塩など人間が食べられるものが原料でおそらく大丈夫なはずです多分。
彼は悪霊です。名前はまだありません。というか考えてません。悪霊をなのっている割にへたれで怖いものが苦手。人を呪ってもせいぜい一時間ぐらいギャグが滑るようになるぐらいしかできず、しかも一カ月に一回ぐらいしか使えません。なのでたまに誰かにちょっかいを出したくなった場合は薬に頼る場合が多いのですがこれまたくだらないものばかり作ります。
今日作ったものもどうどうと掲げますが……。
「さあできました!喉の奥と耳の奥と背中の奥という手が届かないところがかゆくなる薬!さっそくこれを……」
そうつぶやいた彼の言葉を打ち消すかのようにドタバタという音が聞こえてきたかと思うと、扉を開けて一人の少女が駆けこんできました。海色の長い髪、空色の目、とにかく青い水着っぽい服を着ています。ちなみに開けた衝撃でドアの前においてあったフラスコが一本割れました。
「アクリョウ殿―!!」
「どわあ!?」
彼女の声に驚き、掲げていた薬の瓶をうっかりひっくり返してしまい、そのまま彼の口の中に入ってしまいました。
その途端に彼の目がチカチカと信号のように光ったかと思うともだえ苦しみ始めました。
「げほっ!?かゆい!?まごのて?喉薬!?いや耳かき!?もうこの際お湯でもいいから何かかくものーー!!」
「どうしたのだ?アクリョウ殿?」
目の前にいる少女はこれでも魔王様らしいのですが、恐ろしく気軽に彼のところに遊びに来ます。そしてたいていなんらかの無理の難題を持ってくるのです。そして今回もやはり例外ではありませんでした。
「そんな遊んでないで、吾輩の話を聞いてほしいのだ!」
「げっほげっほ……。はい、なんでございましょうか?」
全身をかきむしり、腕が三本あったらいいのにと思いながらも来客の話を聞こうとします。なんだかんだで数少ない客人は大切にしなければなりません。アクリョウなので友達がいないのです。
「どうやったらケーキとラーメンを合わせたらおいしくできるか教えてほしいのだ!」
「……はい?」
悪霊は思わず聞き返します。
「吾輩が最強でかわいくあるためにはどうしても必要なのだ!頼む、ケーキとラーメンを混ぜたらおいしくなる方法を教えてほしいのだ!」
「……」
完全に思考がフリーズしていました。自分は錬金術師でも物体の法則を捻じ曲げる神様でもありません。ただの薬つくりとお笑いが趣味の悪霊です。それより今日の夕飯は何にしましょうか?昨晩作ったカレーが残っているのでカレーです。
あっさり決まってしまいました。現実逃避失敗です。
「聞こえているのかー!アクリョウ殿―」
「はいはい。聞こえてます。魔王様」
とりあえず耳かきと孫の手を探しながらなぜそんな昔から馬鹿の発想と言われるようなことを言い出したのか話を聞くことにしました。
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悪霊である彼が彼女に出会ったのはほんの少し前の事。なんとなくふらふら~と研究室の外を歩いていて鳥を見ていて、あーあんな風に空が飛べたらなーと思っているとうっかり川があることに気づかずそのまま流れてしまいました。
それ以来彼は人を呪って悪霊に……いえ、違います。もともと悪霊でした。別におぼれたりもしません。
ふと気が付くと頬をつんつんとつつかれていました。そばにいる人を見るとうっかり海水場にまで流されてしまったのかと思いましたがそれが彼女の普段着らしく、彼の普段いる家よりそこまで遠くまで流されていませんでした。
そのたまたま散歩しているときに彼を見つけたのが魔王レナでした。もっとも見た目ただの少女である彼女を魔王と信じるまでだいぶ時間がかかりましたが。おちた理由などを話すと、
「自分もそんなことがあるのだー!!」
と言って意気投合しました
そして、助けてもらったお礼としてとりあえず住んでいるところを教えて、(そのまま一緒に帰ると誘拐と誤解されそうになるので)その場は済んだのですが……。
彼女は誰にも言えないような困ったことになるとここに来るようになりました。
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話を今に戻します。
とりあえず耳かきと孫の手だけ見つかったのでそれでかきむしりながら、お茶とお菓子を適当に出すという、来客を歓迎しているのか馬鹿にしているのかわからない状態になりながらもじっくり話を聞くことにしました。
「で、どうしてそんな話になったのですか?」
「実はのー」
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それは数分前の事。
魔王様がとある町を歩いていると、子供に話しかけられました。子供は好奇心の塊なので色々な意味で普通とは違う魔王様に興味を持ったのでしょう。
「お姉さんはだーれー?」
魔王様は答えました。
「吾輩は可愛くて最強の魔王レナ様なのだ!」
と。
子供はきょとんとした顔をしました。まだかわいいと言う言葉も最強ということもよくわからないのです。
魔王様は困りました。いくら子供とはいえ、自分のことを理解してもらえないのは威厳にかかわります。あるかどうかは別にして。
しかし、最強ということを証明するために、ちょっと強い力を見せたりしたらどうなるのでしょうか?親が飛んできてPTAなどに訴えられたりしかねません。最近はただでさえモンスターペアレントが多いのです。あくまでも言葉で何とかうまく伝えなければなりません。敵に回すと怖いのです。
そこで魔王様は手近な例を出すことにしました。
「少年よ。ケーキは好きかな?」
「うん。好きー!」
「ラーメンは好きかな?」
「うん。大好きー!!」
そこで魔王様は高笑いをしながら、叫びました。
「吾輩はケーキが可愛いとしてラーメンが最強だとするとケーキとラーメンを兼ね備えた存在であると言うことだ!これで吾輩のすごさが分かったであろう!ふははははははは!!」
しかし、子供は怪訝な顔。
「えーでもケーキとラーメン一緒に食べてもおいしくないよー。じゃあ魔王様はとりあえずおいしくない存在ってこと?」
他の国の魔王なら不敬罪にでも当たりそうですが言われてはっとした魔王様はそのまま黙ってしまいました。何も言葉を返せません。まるで最強の矛と盾を売っていた商人がどっちが強いかと言われた時みたいです。だまってしまった魔王様に興味をなくしたのか、子供はそのまま行ってしまいました。
そして、意識をしばらくして取り戻した魔王様はとりあえず走りました。
解決策を求めて。
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「ということなのだ」
「ということって……」
基本的に平和志向の魔王様ですが、他にもっとやり様があったのではないかと悪霊は思わずにはいられません。耳かきと孫の手を動かしながら。
「大体なんで、ケーキを可愛いと、ラーメンを最強と例えたんですか。もっとライオンみたいに強いとか兎みたいにかわいいとかでいいじゃないですか」
「いやだって……最近若い女子とかの間でケーキが可愛いとか、最強ラーメンとかそういう話題が広がっているから……」
魔王様は妙なところで流行に敏感です。
「それにいつも一緒にいるミーシャさんに聞けば……」
「馬鹿なこと言うな!で終わったのだ……」
聞きつつも内心そうだろうなと悪霊は思ってました。大概ミーシャという彼女の一番の親友が忙しかったり、あまりにくだらなすぎて付き合ってくれない場合は魔王様はこっちに来るのです。
仮にも魔王様なのにいいのかなーとその彼女に聞いたこともありましたが、魔王様は人々と仲よく遊ぶのが趣味らしく、とくに構わないそうです。
「というわけでアクリョウ殿。この問題を解決する薬を作るのだ!」
「無茶言わないでください」
そんな味覚障害を起こす薬なんて悪霊としての質以上に薬剤師としてもへっぽこの彼に作れるわけがありません。というより食い物の恨みは恐ろしいと言うように、仮に作って子供に飲ませたりしたら間違いなくPTA通り越して裁判沙汰です。
「な、なにもその子供に飲ませるわけではないのだ!ただ飲み水になる源泉から薬を流してケーキとラーメンは一緒に食べるものという常識を……」
「裁判沙汰通り越してテロ行動!?結果的に子供も飲んじゃいますよ!?」
基本的に人が良い魔王様ですが、このあたりぶっとんだ行動をするあたり最凶という呼び名が微妙についているのかもしれません。しかし、悪霊も悪霊という呼び名の通り少しひねくれているうえに悪ノリが若干好きなのです。
したがってこういう提案をしました。
「もっと平和的に行きましょう。平和的に」
「平和的とは?」
「まず作ればいいんです。ケーキとラーメンをあわせておいしいものを」
「おー名案なのだ」
というわけで薬づくりを一度中断し、耳かきと孫の手を放り出しながら準備することにしました。もう耳も背中も真っ赤です。
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「アクリョウ殿―買ってきたのだー!」
「お疲れ様です。こちらも用意できました」
ひとまずは色々なインスタントラーメン。そして、近場にあるケーキ屋さんでいくつか適当なケーキを買ってきました。正直、これから行われる悪魔的な実験の犠牲者となるので、軽く合掌です。悪霊ですけど。
「じゃあまずは塩ラーメンといちごのショートから……」
「うむ!楽しみなのだ!」
そして塩ラーメンを作り、イチゴのショートケーキをそのまま突っ込んでみました。甘い匂いと塩辛いにおいが混ざり、白い液体が出来ました。匂いはなんとなく上品のような気がしますが、どう考えても食べてはいけないものとどこか二人の脳裏で警報をうちならしました。
「さ、魔王様、どうぞ召し上がれ」
「い、いや、ここは作ったアクリョウ殿から食べるのが筋というものだと思うのだ!アクリョウ殿こそどうぞなのだ!」
「いやー、さっき薬飲んだばかりでおなかいっぱいで」
「あれっぽちの薬でおなか一杯になるわけないのだ!だったら吾輩もさっき川で魚を食べたのだ!」
「嘘つかないでください!ミーシャさんが言ってましたよ。魚釣りに行ったけど釣れなくて。ようやく一匹釣れたけど、可哀そうになってリリースしたって!」
「むむむ……」
「むむむ……」
じゃんけんでこの悪魔の食べ物をどちらが食べるかを決めました。
結果。
「ぐわわわ!!なんなのだ!なんなのだ!!これは!グニュってしたものからなんかしょっぱいものが出てきて、甘い物の次にのどにべったりつくようななにかがでてきて、麺にわけのわからないものがボソボソとついているのだ!!」
「あ、魔王様、もうけっこうです。そのぐらいにしないと……」
「た、食べ物を粗末にしては……しては……」
「魔王様―!?」
その後。
ケーキとラーメンを頑張って二つに分けて近所のアリさんにあげることにしました。大喜びで巣に運んでいます。食中毒にならないことを祈っています。
「よし、じゃあ次はこの担担麺とモンブランで試してみるのだ」
「いや、もうやめたほうが……」
「いや、今度こそアクリョウ殿にも食べてもらうのだ!」
「趣旨変わってないですか!?」
結論。
魔界の池に蛇が泳いでいるようなものが出来ました。もちろんどちらがたべるかはジャンケンです。
そして、じゃんけんの結果。
「うぎゃああああ!!辛い上になんか苦い!?ていうか苦しい?何このかたいの!?いや栗ですか?口の中にうにょうにょとした何かがーていうかやっぱり辛いのがさっきのかゆいところに……うえ……」
「アクリョウ殿!吐いたら駄目なのだー!!食べ物を粗末にしたらいけないのだ!!」
「こんなことしている時点でもう粗末にしているようなもの、うっぷ……」
「アクリョウ殿―!!しっかりするのだー!!」
……2回目となりますが、その後。
さきほどとは別のお宅のアリさんにあげることにしました。近隣の生態系が崩れないことを祈っております。
その後もいろいろ試しましたが……。
「む!わかったぞ!ケーキにラーメンをかけてみるのだ!」
「おお逆転の発想!名案です!では、このチーズケーキと味噌ラーメンを……」
そのたびに二人の口の傷と近所のアリさんのごちそうは増えていき……。
「むむむ、ならばガトーショコラとちゃんぽんでどうなのだ!」
「おお、渋い所つきますね!」
そんな感じのことを繰り返したところ・・・・…
「ちっとも……うまくいかないなー」
「そう……ですねー」
二人の口の中はもう混乱状態です。とりあえず、渋いお茶で口をリセットすることにしましたが、猛暑日の水筒のようにどんどんお茶が浪費されていきます。
お茶でおなかが満たされてしまい、しばらく口に入りそうにありません。
「ネットで検索してみるのはどうでしょう?」
「それだ!!」
というわけで検索してみました。けっこう色々な種類があります。見た目はラーメンだけどケーキのもの。さきほど彼らが作った魔界の特産物を表現したようなものではなくちゃんとしたものでした。
しかし魔王様は不満そうです。
「なんというかこれはラーメン似せているケーキではないか。それだと吾輩はかわいいだけしか残らないことになってしまう!」
「いや、まあ」
内心もうそれだけでもいいじゃないかと思った悪霊でしたが黙っていることにしました。
その後もいろいろ検索しましたが。
「あ、このケーキおいしそうだなー」
「そうですね!次はこれを……あ、もうお金ないんだった」
もうお金はありません。アクリョウはいろいろ貧乏なので取り寄せることもできません。かといって魔王様もお金があるわけでもありません。いやあるにはあるのですがミーシャが管理しているので難しいとのこと。
「あーこの鳥さん可愛いなー」
「いやこっちの犬の方がいいと思いますよ」
もはや完全に本題から脱線して二人でネットサーフィンしております。
「なにをいうのだ!このつぶらな瞳!キュートな翼!まさに吾輩を表したかのようなかわいらしい鳥ではないか!」
「そんなこと言ったらこちら犬の方なんかまるで強くて勇ましくて最強という名にふさわしいではないですか!」
最強と可愛いを合わせたものを探すはずが最強と可愛いがここに対立してしまいました。
犬猫派ならぬ犬鳥派の対決が今ここに幕を開けようとしたところ。
「あ、やっぱりここにいた!レナ!!」
「あ、ミーシャ!」
「あ、こんばんは」
オレンジ色の瞳とオレンジ色の髪。オレンジ色のドレスをまとった少女が現れました。パソコンの前で遊んでいるかのようにしか見えない二人を鋭い目で見ています。
そしてその目はインスタントラーメンの袋とケーキの皿に目が入るとさらに吊り上げられました。
魔王に近づいて、頬を思いっきり引っ張ります。まるで餅のように伸びます。
「いひゃひゃひゃ!ひひゃいのだ!!ミーヒャ!!」
「あんた間食はほどほどにしなさい!っていつも言っているでしょ!何このケーキとラーメンの量!夕飯が食べられなくなったらどうするの!」
「ひひゃうひひゃう!ほれにはわけぎゃ!」
「訳?」
「えーと実は」
残った彼が事情を説明しました。子供の事。ケーキとラーメンの事。そして今いる犬と鳥どちらかが可愛いか話し合っていること。
話し終わった後二人は正座を命じられました。
「で、ミーシャはどちらが可愛いと思う?こっちの鳥なんか」
「ミーシャさんもこっちの犬が可愛いと思ってますよね!?」
「黙りなさい」
そう言いながらきっぱり言いました。先ほどの問題に対する答えをキッパリと言い放ちました。
「ラーメンとケーキ……別々に食べておいしいでいいんじゃないの?」
「あ」
「あ」
そうです。何も組み合わせなくても大概の子供はラーメンだけ食べるかケーキだけ食べるかあるいはラーメンとケーキ両方食べるかと言われたら、まあ両方食べる方を選ぶでしょう。ですから、最初から、混ぜるのでなく、二つ食べたらおいしいで良かったのです。
そんな単純なことに二人とも今気づいたのでした。
「おおー!ありがとなミーシャ!つまり吾輩はラーメンのように最強においしく、ケーキのようにかわいらしくおいしい!それでいいのだ!」
「ちょちょっと待ちなさい!魔王!その言い方はおかしいわよ!」
「よし、さっきの子供の元へ行くのだー!!アクリョウ殿、楽しかったぞ!ではまたなー!」
「話聞きなさいってば!レナ!!」
二人は出て言った後、悪霊はようやく一息つけたと安心しました。まあお金は消費しましたが、問題が解決したのならそれで何より。それになんだかんだで楽しかったしまあいいかと。
しかし、この後、魔王レナ様は説明不足でとりあえず”魔王レナはおいしい”ということだけが周りに伝わってしまい、ミーシャがむらがる子供を追い払ったりとか。
あの後、ケーキとラーメンの融合によってつくられた魔界の食べ物によって悪霊の家の近くの動物が巨大化し、騒ぎになったとかありましたが。
それはまた別のお話です。
読んでいただいてありがとうございました。
……童話かどうかは怪しいのですが、お題をいただいたところが童話祭りなのでここに掲載させていただきます。
最後に一言。
食べ物を粗末にしてはいけません。
粗末にしないからと言ってありにあげてもいけません。