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カーテン裏の彼女

 翌日、クロを伴ったシルティーナは眠い、ダルい、面倒臭い、行きたくない、とベッドでゴロゴロ駄々をこねるアルハルトを引き摺って登城した。


「あー、面倒臭い。メンバーなんざ俺とシルティとクロの3人で充分だろう。他なんざ足手まといだ」


「そうは言ってもこの国にも一応体裁というものがあるからね。同行者の一人や二人はしょうがないよ」


「その一人や二人が面倒臭いんだろうが。昨日無駄にお前を睨んでた王子様と、軽くヘタレ臭のする次男坊君だろ。そしてあの、何だか一番面倒臭い性格してそうな聖女様。……なぁ、旅の途中でちょっと誤って一人くらい欠けても問題ないよな?」


「そうだな。問題無かろう」


「ヘタレ臭のする次男坊って……まぁ、依頼は"聖女様の護衛"だからね。同行者の方々には頑張って自衛して貰えばいいんじゃない? ただし、此方から手をかけるのはダメだからね」


「「………………」」


「ダメ、だからね?」


「……あぁ」


「……了解した」


 不承不承で頷いたアルハルトとクロイツに苦笑してシルティーナは案内された部屋の扉を開く。入った部屋の中には既に二人の先客が居た。


「ふん、やっと来たか。俺を待たせるとはいい度胸だな」


「……誰だ?」


「なっ!?」


 三人が入室して直ぐに声をかけて来たのは、二人掛けソファの中央に一人で腰かけている金髪に青の瞳が映える美青年。その美青年がクロイツの一言に唖然と口を開いている。


「クロ……ふっ、クロイツ、失礼よ。ふふ。彼は一応、この国の、フフ、王子様なんだから」


「シルティ、肩を震わせながら更には"一応"が付いているフォローにもなっていない言葉は"失礼"にはならんのか?」


「ふふ。だって、見てよクロ。あの顔。自分は有名だって勝手に思い込んでるのよ。"誰だ"なんて訊ねられた事も無いのでしょうね。間抜け面。ふふ」


「貴様ッ!! この俺を愚弄するか!?」


 立ち上がると同時に抜かれた剣にシルティーナがピタリと笑いを止めた。


「失礼。まさか一国の王子が挨拶もなくいきなり先程の様な言葉を投げて寄越されるとは思いもしなかったもので。少々混乱致しました」


「混乱だと……? 白々しい!!」


「フラクト王子!!」


 さらりと言ってのけたシルティーナに声を荒げて詰め寄ろうとした彼の前に部屋に居たもう一人の人物、テドラが割り込む。


「自重下さい、フラクト王子。彼等の協力が無ければこの国は滅びてしまうのです」


「テドラ……この女の肩を持つのか? 2年前、コイツが何をしたか知っているだろう!?」


「……貴方様は何も分かっておられない」


「なに?」


「王子、今のこの国をよく見て下さい。国は荒れ、国民達は疲弊し、国政は滞り、騎士も貴族も国を支えるべき者達すらその役目を放棄しつつある、今のこの国を見て下さい。今のこの国の現状は、2年前の俺達の過ち故なのです」


「何を言っている? それは、この女が……」


「王子、シルティーナ様がアカリを虐めたという証拠は何も……何一つ、出てこなかったではないですか。飲み物をかけられたという夜会にはシルティーナ様は参加すらしていなかったと分かったではないですか。シルティーナ様が国を出られて直ぐにその任を解かれた財務大臣は、使い込まれた国税の殆どが"アカリ絡み"だと言ったではないですか。それをギリギリで遣り繰り出来ていたのはシルティーナ様が居たからだと言ったではないですか。どうして何一つお聞きいれ下さらないのですか?」


「黙れっ!! お前こそこの女に何を吹き込まれた!? コイツはアカリを泣かせ、傷付け、だがそれに謝罪しなかった様な者だぞ!?」


「やってもいない事に謝罪などする筈がありません。王子、どうかお聞きいれください。我々は間違えてしまったのです」


「黙れっ!!」


「ッ!?」


 振り上げられた剣がテドラへと向かう。テドラが自身の剣を抜くより早く彼に届かんと迫った剣が不意に吹いた下からの突風で上へと高くはね上げられ、フラクトの手から放れた。


「なっ!?」


「身内のいざこざは他所でやって下さい。私達とて暇では無いのです。面倒な用は早急に済ませたい。共に行く方達の紹介が無いのなら帰らせて頂きますが?」


「何をッ!?」


 剣をはね上げた風の魔法を発動した本人であろうシルティーナの言葉に噛みつかんばかりに声を上げたフラクト。その背後に音も無く回ったアルハルトが容赦なく彼の首裏に手刀を入れる。ドサリ、と倒れたフラクトは丸っと無視してアルハルトはテドラへと視線を向けた。


「これで我が儘坊っちゃんは暫く大人しいだろう。それで?お前とこの坊っちゃんだけが同行者か?」


「ぇ?あ、いや、あと一人居る」


 目の前で起こった余りの出来事についていけてないテドラが、それでも律儀に答える。


「ソイツはまだ来ないのか?」


「いや、実は最初っからこの部屋に居るんだが……」


「は?」


 やっと少しは現状に追い付けたテドラが部屋の一番奥側の窓を指差した。その指を辿って皆が窓に注目したその時、窓の横に纏められているカーテンが小さく揺れた。暫く注目していれば、揺れたカーテンの後ろからヒョコリ、と顔が覗く。


「………!!」


「……あれか?」


「あれだ」


 皆が自分の方を見ていると気付いたその人物は再びカーテンの後ろへと引っ込んでしまう。


「彼女はこの国一番の魔法使いで名をミリアーネ・フルクトルと言います。浄化の旅の同行者の一人です」


 当のミリアーネはと言うと、ヒョコリと覗いては慌てて引っ込むという動作を数回繰り返した後、蚊の鳴く様な声で一言。


「ミ、ミリアーネと申します。よろしくお願いしまます……」


「……噛んだわね」


 シルティーナにツッコまれ、再びカーテンの後ろへと引っ込んでしまったミリアーネに一同は苦笑したのだった。

沢山の感想とブクマありがとうございます!!

気づいたら何か凄い事になっててビックリしました。

感想の中で何件か主人公の『』が読みにくいとあったので、この章より主人公の言葉も「」にしました。

どうも、別サイトの名残が出てしまったようですみません( ´△`)

これより前の章に関しましては、また時間がある時にボチボチ直していきます。

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