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元令嬢様の華麗なる戦闘記  作者: 夢猫


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彼女の結末

「まぁ、最初は本当に自分だけの為に復讐するつもりだったんだけど、シルティとかと出会って、色々考え変わってね。今じゃ私を殺したことよりも、シルティを傷付けた事の方が許せないんだよね」


「「……」」


 静かな空間だった。

 クラリナの話を聞いた面々は黙り込み、言葉を発する事が出来なかった。


「だって可笑しいじゃない!! 私が主人公(ヒロイン)なのよ! そうじゃないといけないの!!」


 自分は何も間違ってなんかいないと、姫梨は叫ぶ。

 自分が全て正しいのだと。


「お姉ちゃん……」


 唖然としたマースの声が響いた。


「ねぇ、ねぇ! マースなら分かってくれるでしょう? だってあなたを助けたのは私なのよ! 主人公(ヒロイン)は優しくなきゃ!!」


「……お姉ちゃんはヒロインだから僕を助けてくれたの?」


「そうよ! 当然じゃない!!」


「……」


 姫梨の答えにマースは顔を俯け無言になった。


「どうしたの? ねぇ、マース? 聞いてるの?」


「全く君は残酷だねぇ、姫梨さん」


「違うわ!! 私は冬原灯よ!!」


「いいや、違うよ。冬原灯は死んだんだよ。貴女が殺した。だからもう存在しないんだよ。どこの世界にもね」


「違う!! 私は生きてるわ!! 私が冬原灯なの!!」


「……そう思いたいのなら思えばいいさ。けど、君の結末は決してハッピーエンドじゃない」


「何でよっ!?」


 姫梨が叫んだ丁度その時、上空に巨大な影が差した。


「……本当に来たんだ」


 呆れた様に言ったのはシルティーナである。


「グリフォン……って事は……」


 ザワリ、と揺れたのは双翼の剣の人間だった。

 巨大な影……上半身が鷹で下半身がライオンの、“グリフォン”と呼ばれたソレに騎乗していた者がその背から飛び降り、綺麗に着地する。


「会いたかったぞ、シルティーナ」


 濃紺色の髪と同色の瞳。整ったその顔に満面の笑みを浮かべたジンが、開口一番そう言ってシルティーナを抱きしめた。


「私も会いたかったわ、ジン。けれど、いきなり“計画”に無い行動をとるのは止めてくれないかしら? 自分で立てた“計画”でしょう?」


「このくらいの事で崩れ去るような“計画”ではないから安心しろ」


「そうは言ってもね……まぁいいわ。来てしまったものは仕方ない。放して」


「相変わらず切り替えが早いな」


 楽しそうに笑うジンの腕から抜け出したシルティーナが息をつく。

 シルティーナが腕の中から居なくなった直後に素早く彼女の腰に手を回したジンは、呆けた様に自分を見つめる姫梨に気づき眉を顰めた。


「なんだ、この女はまだ居たのか」


「随分な言い草だけど、話の腰を折ったのはジン様だからね」


「それは済まなかったな。続けてくれ」


「まったく……まぁ、話はもう殆ど終わってたんだけどね」


「ジン……ジン・ルランバルト?」


「ん?」


「あ?」


 それまで呆けていた姫梨が不意にジンの名を呼ぶ。

 その声は歓喜に震えていた。


「ジンね!! やっと会えた!! あなたを待ってたのよ!!」


 満面の笑顔で姫梨はそう言った。


「ねぇ、私あなたの事知ってるわ!! ルラン王国の第二王子で、とっても優秀だけれど妾の子だから他の王子や王女達から邪険に扱われてて、自分でも誰かの役に立てるって思いたくてギルドに入ったのよね!! そこで名を上げて、段々とルラン王国の国民からも認められ始めて、国王様も目をかけてくれるようになって、でも、そんな急に手のひらを返した様な態度をとる人達を信じられなくて、ギルドの人達だって“第二王子”って肩書に遠慮してあまり打ち解けてくれないし、他の王子や王女達からは命を狙われる様になるし、どこかに逃げてしまいたいって思っているのよね!! ねぇ、そうでしょう!? 私は分かってるわ! ちゃんとあなた自身を見て、あなただけを愛する! ねぇ! こんな人達と居ないで、私と一緒にいきましょう!!」


「……」


 その場に居た全員が、あのフラクト王子でさえも、姫梨の事を得体の知れないモノを見る目で見ていた。


「誰の事だ、それは」


 そんな、妙な静けさの中、ジンの低い声が響いた。

 その顔にはありありと嫌悪が浮かんでいる。


「邪険に扱われる? 誰かの役に立つ? ギルドの奴等と打ち解けてない? 逃げてしまいたい? それが、俺だと? 馬鹿も休み休み言え」


「え?」


「おいクラリナ。こんな奴を何時までも俺の前に置いておくな。とっとと片付けろ」


「はいはい。分かってるよ」


「え……? ねぇ、待って……待ってよ! 何で!? ねぇジン!! あなたは私を選ぶでしょう!? そうじゃなきゃ可笑しいわ!!」


「気安く名を呼ぶな。可笑しいのはお前の方だ。俺にはシルティーナが居ればいい。お前など元より必要としていない」


「また……またその女っ!! 何なのよ皆して!! そんな女のどこがいいのよ!? そんな、剣を振り回して平然と人を殺す様な女のどこっ、」


 不自然に止まった言葉。先程までシルティーナの隣に居たジンが、喚き散らす姫梨のその首を片手で締め上げていた。


「どうやらここで死にたいらしい」


「ア゛ァ……ッ……」


「ジン、ダメよ」


 ギリギリと締め付けられる首に姫梨の意識が飛ぶ寸前、シルティーナがジンの腕を掴んだ。


「……」


「こんなところで殺してしまっては駄目」


「……」


「ジン」


「……分かっている」


「ッ!」


 不承不承で放された手に姫梨が激しく咳き込む。

 そんな姫梨の前にシルティーナが立った。


「大丈夫? ごめんなさいね、()()()()が迷惑をかけてしまって」


「ッ、」


 ニッコリと笑って発せられた言葉に姫梨が生理的な涙に濡れた瞳でシルティーナを睨み付けた。


「人を睨む元気があるなら大丈夫ですね」


 そう言って離れたシルティーナに代り再びクラリナが姫梨と向き合った。


「さて、君の茶番にも飽きたから、そろそろ終わらせてもいいかな? 本当は君はこの世界には居たらいけない存在だからね。一度だけ使えるとっておきの魔法をこの世界の神様に貰ってたんだ」


 クラリナが指を浅く切り、数滴の血を地面に垂らす。

 するとその血が地面に触れたその瞬間に姫梨を中心とした魔法陣が描かれて行く。


「な、何よこれ!?」


 掠れた声で姫梨が叫ぶ。


「君は君の在るべき世界に帰らないといけないんだよ。そうじゃないとこの世界は何時まで経っても平穏にはならない。君と言う異端な存在が居る事で沢山の事が捻じ曲がって、現れる筈のなかったモノ達が現れた。本来ならこの国に魔物なんて現れる筈なかったんだよ。だって向こうの世界で冬原灯(本当のヒロイン)は死んだんだから。本当ならシルティはギルドになんて入らずに王子様と結婚して、幸せに暮らしていく筈だったんだよ。なのに君が捻じ曲げた。君が全てを捻じ曲げた。君と言う存在が間違いなんだよ。だから君は帰らないといけない。それが君が捻じ曲げた全ての事に対して出来る唯一の事だから」


「ふ、ふざけないでよ!! 何よそれ!? 意味わかんない!!」


「分からなくていいよ。ただ、君は元居た世界に帰るだけ。あぁ、でも、この世界と元の世界だと時間の進む速度が違うみたいでね。こちらの一年は向こうの五十年に相当するみたい。大変だろうけど頑張ってね」


 淡々と話すクラリナ。姫梨の足元に広がった魔法陣はその輝きを徐々に増している。


「い、嫌よ!! 助けてフラクト!!」


「あ、……え?」


 突然名前を呼ばれたフラクトは現状に着いて行けずにただ呆然と成り行きを見るしかできない。


「シルティ、最後だよ。言いたい事言っちゃいな」


 そうクラリナに背を押されて前に立ったシルティーナは真っ直ぐに姫梨を見つめた。

 絶望に染まったその瞳がシルティーナを捉えて恐怖に揺れる。


「まぁ、言いたい事は沢山あるけれど……そうね、でも一言だけ言わせて貰うとすると、」


 ニッコリと、今までで一番の笑顔を浮かべたシルティーナがそこには居た。


「ざまぁみろ」


 それが桐原姫梨がその世界で最後に見た光景だった。

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