明かされる真実
「だってあなたが“私”を殺したんだもの」
その言葉を聞いた瞬間、アカリの顔に絶望が広がった。
「ま、待て、いったいどういう……」
「あー、王子様は黙ってような。心配しなくても、クラリナが全部説明してくれるからよ」
そう言ったアルハルトの言葉通り、クラリナは更に言葉を続ける。
「ねぇ、どう? 楽しかった? 人の名前語って生きるのは?」
「あ、あぁ……」
「そりゃ楽しいよねぇ? 本来、“私”が来る筈だったこの世界に来て、本来“私”が生きる筈だった毎日を“私”に成り代わって生きるんだもの。楽しいに決まってる。ねぇ、そうでしょう? “桐原
姫梨”さん?」
「あ……いや……いやァァァァ!! 違う!! 違う違う違う違うっ!! 私が“冬原灯”よっ!! 私が“主人公”よっ!! 私が選ばれたの!!」
狂った様にそう叫んだアカリ……否、桐原姫梨と言われた彼女は縛られて立てない体で、それでもクラリナから距離を取ろうと必死で這いずり逃げる。
「まったく、そんなに怯えなくてもいいじゃない……傷つくなぁ。そうだ、状況が分かってない人もいるだろうから昔話でもしようか?」
逃げる姫梨を笑顔で追い詰めたクラリナが名案とでも言いたげに声を上げた。
ーーーーー
ーーー
ー
アカリは本当の名を“桐原姫梨”と言った。
元の世界に居た時、彼女は普通の高校生だった。
けれどある日気付いたのだ。否、“思い出した”のだ。
“冬原灯”と名乗る少女に出会ったその時に。
『この世界はゲームの世界である』と言う事を……
普通の女子高生が異世界召喚に巻き込まれる乙女ゲーム。その名前は忘れてしまったけれど、とても人気だったのは覚えている。
自分が今居るこの世界は、その乙女ゲームの主人公が異世界に行く前に居た世界であると姫梨は理解していた。
だって姫梨は、この世界が“乙女ゲーム”として存在している世界を知っているのだから。
自分は“乙女ゲームの世界”に転生したのだ。
こんなに喜ばしい事は無い。
だって姫梨はその乙女ゲームが大好きだったのだ。
召喚された異世界で聖女として悪役令嬢を糾弾し、攻略対象の美形な男性陣落とす。
人気があったので直ぐに第二弾が発売され、それでは聖女として国中を旅して浄化をし、その旅に同行するギルドの人達を攻略する。
主人公になったのだと思った。だって前世の記憶があるのだ。この世界がゲームの世界だと知っているのだ。自分が主人公で間違いないと思った。
けれど違ったのだ。自分は主人公では無かった。
だって主人公の名前は“冬原灯”と言ったから。
自分の目の前で笑っている彼女こそ、このゲームの主人公だったのだ。
それに気づいた瞬間、姫梨の世界は真っ黒に染まったのだ。
自分は知っているのに。覚えているのに。
なのになぜ、何も知らない目の前のこんな女が自分が望んだ世界に行けるというのか。
そんなの不公平ではないか。
あの世界に相応しいのは、あの世界の事を知っている自分である筈なのに。
あの世界の彼等に相応しいのは、彼等を幸せにできるのはきっと自分である筈なのに。
そう思い続けた結果、姫梨は一つの結論に至ったのだ。
『私が彼女に成ればいい』
それは正しく狂気の沙汰だった。
それでも姫梨は自分が正しいと信じて疑わなかったのだ。
だから邪魔な彼女を消す事にした。
彼女が異世界に召喚される日は分かっていた。だからその前に消したのだ。
階段から突き落として亡き者にしたのだ。
そうして彼女に成り代わってやって来たこの世界で名前を“フユハラ・アカリ”と名乗った。
少しでも自分が本当の主人公に成れるように。
ーーーーー
ーーー
ー
クラリナ・ハミューリーには前世の記憶があった。
と言うよりは、前世の姿も記憶もそのままに今の世界に来て“クラリナ・ハミューリー”に成ったのだ。
前世のクラリナは名を“冬原灯”と言った。
どこにでも居る普通の女子高生だった。
そんな彼女の日常が突然、強制的に終わりを迎えたのだ。
その時の光景をクラリナは良く覚えていた。
背中を押される感覚と浮遊感。目の前に迫り来る床と、強い衝撃。
朦朧とする意識の中で、友達だと思っていた“桐原姫梨”が階段の上で笑っていた。
次に目を開けたそこは真っ白い空間だった。
白いと言う事以外が何も分からない空間に突然光り輝く球体が現れて言うのだ。
『あなたはまだ死ぬ運命ではない者です』と。
その時クラリナは悟った。
『あぁ、ゲームとか小説とかでよくあるあれですね』と。
その後の球体がしてくれた話を要約すると、実はクラリナ、まだまだ死ぬ運命ではなかったのに何の手違いか早々に死んでしまい、あまりにも予想外の事に死んだ後の魂の行き場所が未だ用意されていないのだと。
そこでクラリナはふと疑問に思ったのだ。
そう言えば死ぬ前に自分を突き落とした張本人である姫梨が何かブツブツ言っていたな、と。
「乙女ゲームって何ですか?」
クラリナがそう聞いた時の球体の動揺は凄かった。
「『主人公は私なのよ』って言われて階段から突き落とされたんですよ、私。どういう事ですかね?」
更に畳みかける様に問いかければ、球体の大きさは半分程に萎んでしまっていた。
「全て教えてくれますよねぇ? 当然」
その言葉にそれまで球体だったモノは一人の男の姿になっていた。正座した状態の。
そこから更に聞いた話を纏めると、つまり、クラリナは乙女ゲームが基盤の世界で主人公として存在していたそうだ。しかし何の手違いかその世界が乙女ゲームだと知る者が現れた。
それが桐原姫梨であり、そして彼女は自分こそが主人公に相応しいと思い出した。
「それで私は殺された、と……」
「はい、そうです」
相変わらず正座のままの男と仁王立ちで腕を組んだクラリナ。
二人が居るのは相も変わらず真っ白い空間なので、白い空間に唯一浮かぶ色彩を持った二人のその姿は異様でしかなかった。
「なぁんかさぁ、手違い多くない?」
「……」
「てか、主人公死んでいい訳?」
「あ、いや、まぁ、あくまで基盤としているだけだから、全てが乙女ゲーム通りってわけじゃないんだよね。別の世界で流行った乙女ゲームなんだけど、この世界の神様がそれを再現してみようとして創ったんだ。けど、必ずしもゲーム通りにはいかないし、そこで生きている君達にはちゃんと個々の意志がある。だから、別に主人公がゲーム通りに異世界に行かなくてもいいって考えだったんだよ。ただ平行世界に乙女ゲームを基盤とした世界を創っただけ。主人公が行かない事を望むなら、その二つの世界が交わる事も無かった。まぁ、その“別の世界”の記憶を持っている人がこの世界に居て、その人が主人公に成り代わろうと考えるとは思わなかったんだよ。だから君は死んでしまったんだけど……あまりにも申し訳ないからってこの空間に呼んだのは神様の意向だよ」
「それで? 申し訳ないなら何をしてくれるの?」
「君が望む様にしてあげる。元の世界への転生を望むなら、性別や容姿、生まれる場所や特技、性格に髪の色、瞳の色まで望むものをあげるよ」
「望む様に。……なら、」
そうしてクラリナは冬原灯からクラリナ・ハミューリーと成った。
容姿はそのままに、記憶も残して、ただ世界だけをその平行世界の異世界の方へと。
流石にいきなりそのままの年齢でとなると色々不便だろうから、年齢だけは少し時間を遡って貰って、姫梨が来るであろう時に死んだその時と近い年齢になるように生まれさせて貰った。
そうしてずっと待っていたのだ。
自分を殺した相手に復讐するこの時を。
イラストレイター様から、元令嬢の書籍二巻のカバーイラストのラフ絵とジン様のイメージデザインが送られてきました!
二巻のカバーイラストは、一巻よりも更にかっこいいです(*'ω'*)
そしてジン様!!すっごくかっこよく描いて頂いて( *´艸`)
二巻の発売日は未だ未定ですが、ぜひぜひ絵になった彼等にもあって頂けたら嬉しいです!




