絶望の始まり
「どういう事よこれ!?」
悲鳴に近い音量で発せられた甲高い声にアルハルトが思わず手で耳を塞ぎ眉間に皺を寄せた。
「うるさいな、聖女様。どういうもこういうも見たままだよ」
魔法陣により映し出された六つの場所。その内四つの魔法陣に映し出されたモノはアルハルト達にとっては予想通りのモノであり、しかしアカリやフラクト達にとっては信じられない光景だった。
「父上!!」
『フラクト!!』
映し出されたその光景に思わず声を上げたフラクト同様、向こう側で国王も声を上げる。
「父上! これは一体……何がどうなっているのですか!?」
『どうやらこ奴等に嵌められたようだ。今、この国は……否、この国だけでなくルラン王国も同様に双翼の剣の者達によって制圧されておる』
「なっ……そんな、高々ギルド一つにそんな……」
唖然と今自分達が置かれている状況を僅かながら理解したフラクトが信じられないと言った体で呟く。
そんな彼等の心情など全く構わずにまた別の魔法陣の映し出す景色に一人の男が写り込んで来た。
『やあ、皆お揃いかな?』
金の髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ優し気な風貌の男、双翼の剣のギルドマスターであるアイト・ブルランテは、ぐるりと周りを見渡す仕草をした後に満足気に頷いた。
『うん、ジンさん達もクラリナさん達もシルティーナさん達も皆ちゃんと自分の仕事は済んだみたいだね。何でかジンさんが持ち場に居ないけど、まあいいか』
「いいのかよ……それで? そっちはどうなんだ、マスター?」
『こっちも無事終わったよ。マンリーニャには結界を張って周りの守備も他の子達が固めてくれてる。問題ないよ』
そう言ったアイトの言葉に応える様にまた別の魔法陣に映し出された景色に今度は眼鏡をかけた錆色の髪と瞳を持つ男が映る。
『クラリナ嬢に言われた通り、マンリーニャを囲む結界は四重にしてあります。五人一組のチームで周辺の警備も行って貰っていますし、街中も同様の人数で見て回っています。今のところ問題はないですよ』
「おー、イルーサ久しぶりだな」
『アル、久しぶりですね。……ところで、何時まで私のユトを縛っておく気ですか?』
ニッコリと笑顔で発せられた筈の言葉はしかし、とても重く感じられた。
その言葉に肩を竦めたアルハルトが縛られているアカリ達の方を振り返れば、何も言わなくても意を汲んだレインがユトを縛る縄を解いていた。
「ちょっと待って……何でユトだけ? ねぇ、どういう事よ? ユト? ねぇ、ずっと一緒に居てくれるんじゃなかったの?」
震える声ですがる様に言ったアカリに自由になった体を伸ばしていたユトが近づき笑いかける。
「ねえアカリ、いい事を教えてあげる」
優しい声音で、優しい表情で、それでもユトの発した言葉はアカリの絶望の始まりであった。
「実はボクね、女なんだよ」
「え?」
「まあ、中性的な顔立ちだってよく言われるし、声もどっちか判別しにくいとは言われるしね。胸だって小さめだし、更にその上から布を巻いているから分からないだろうけど、ここまで見事に気付かれないとは思わなかったよ。結構抱き着いて来たりしてたから、実は気付いてるんじゃないのかなって疑ったりもしたけどそれもなかったし? 流石にちょっとショックだったよ」
「……」
「あぁ、後ボク双翼の剣のメンバーなんだ。だからね、君とずっと一緒に居るなんて無理だし、嫌だし、お断りだよ」
「嘘よ、だってあの時手を握ってくれたじゃない……」
「ただ手を握っただけで勝手に勘違いしてくれて助かったよ。言葉で答えないといけなかったらボク、思わず本音を言っちゃってたかもしれないからね」
「そんな……ユト、何で……」
「何で? 何でって、そんなの簡単だよ。君はシルティ嬢を傷付けた。そんな君をどうしてボクが好きになると思うの?」
「うそよ……うそ……こんなの嘘に決まってるわ……だって、私は選ばれたのよ……邪魔なあいつを消して、私が選ばれたの……なのにそんな……間違ってるわ、こんなの、間違ってるっ!!」
「いいやぁ、間違ってなんてないさ」
ブツブツと狂った様に何かを呟くアカリにかかった声。
その声に顔を上げたアカリの顔が恐怖に引き攣った。
「な、何であんたがここに居るのよ!?」
アカリの視線の先、シルティーナと並んでそこに立っていたのはクラリナ・ハミューリーその人であった。
「おうシルティ、お迎えご苦労様。クラリナも久しぶりだな」
「アル君久しぶり。シルティ凄かったんだよ。見事な“悪役令嬢”を演じてくれたんだから」
「へぇ! そりゃ見たかったな」
「ふふ。結構楽しかったわよ」
「あはは。……さて、終わらせよっか、シルティ」
「ええ。そうね」
「うちがズタズタに追い込んであげるから、最後にシルティが終わらせてあげればいいよ」
そう言ったクラリナがアカリの前に立つ。
「あ……いや、来ないで……」
「そんな反応傷つくなぁ。久しぶりの再会なんだし、もっと喜んでよね」
ニッコリと笑ってそう言ったクラリナが次に放った言葉が、アカリを更なる絶望へと突き落とす引き金だった。
「会いたかったよ、フユハラ・アカリさん? 覚えてるかな? 覚えてるよね、勿論」
楽しそうな声音で。楽しそうな笑顔で。何でもない事の様に、彼女は“真実”を口にした。
「だってあなたが“私”を殺したんだもの」




