愚王と元令嬢
馬の姿のクロイツに乗ったシルティーナがクラリナ達の前に現れる。
その表情は僅かに引き攣っている。
『お前の事で俺の知らない事はない』
「……久しぶり、クーちゃん!!」
「シルティ、聞かなかった事にしたね……けど、うん。久しぶりだね!」
キャッキャッと再会を喜ぶ二人。
『シルティーナ』
「……なに、ジン?」
そんな二人の間に水をさしたのはジンだ。
『今から向かう。待っていろ』
「へ? は? 今から!? って、もう居ないし!」
ジンの言葉に振り返ったシルティーナの目に映ったのは、先程までジンが写っていた情景に別の男が代わりに映っている物だった。
「ジンは?」
『使い魔に乗って行ってしまわれました』
「そう……」
「うち等の再会を見て、自分もシルティに会いたくなっちゃったんだろうね……」
二人同時に落とした溜息は重かった。
「おまえがっ!!」
そんな二人に国王が唐突に声を荒げた。
「お前が!! 全てお前が原因かっ!? お前が!! お前のせいでっ!!」
「うるさいなぁ。シルティが原因? 笑わせないでよね」
「クーちゃん」
叫んだ国王の胸倉をクラリナが締め上げる。
そんなクラリナを諫めたのは当のシルティーナだ。
「けどシルティ……」
「ジンが言ったでしょう? そんな楽しい事は私にさせて。ね?」
「……分かったよ」
クラリナの手が放され、咳こむ国王の前にシルティーナが立つ。
「お久しぶりですね、国王様」
その顔は笑顔だった。
「……」
「全ての浄化は無事終わりましたよ、国王様」
「よくも抜け抜けとっ!!」
「あなたの望み通り、聖女様の護衛をして穢れた土地全ての浄化を終えたのです」
「だから何だと言うのだ!?」
「お忘れですか、国王様。最初に申し上げたではないですか。今回の依頼が無事に終了したその時をもって、その後一切私には関わらないようにお願いしますと。マンリーニャの浄化が終わったその時をもってして、依頼は遂行されました」
「……何が言いたい?」
「つまり、その瞬間から、あなたは私に一切関わらない筈です。それなのに何故今あなたは私の視界に入り、剰え私が原因などと宣うのですか?」
それはあまりにも理不尽な言い分であった。
けれどもまた、事実でもあった。
浄化の旅が始まるその前。護衛を引き受けたその時にシルティーナは確かに国王とそう約束を交わしていたのだから。
「ねぇ、国王様。私が原因とあなたは言いましたね」
「そ、そうだ!! お前が全ての首謀者だろう!? 二年前、国外追放にされた恨みをはらすつもりだろう!?」
「恨み? ご冗談を。確かに私は二年前の国外追放以降、こんな国滅んでしまえばいいと思ってはいますが、別に恨んではいませんよ」
「嘘をつくな!! では、なぜこんな事になっている!?」
「全てあなた様の自業自得ですよ」
「何を……」
「こうなった原因はあなた様にあるのではないかと言っているのです」
「……」
「まぁ、今更もう、どうしようもない事ですがね」
「我らが何をしたという!?」
「……そうですね、」
そこで言葉をきったシルティーナは後ろで静観していたクラリナと視線を交わす。
ニッコリと笑ったクラリナにシルティーナも笑って頷き、国王に向き直る。
「私を国外追放にしたではないですか。私は無実だと言ったのに信じてはくれなかった。碌に調べてもくれず、異世界から来た者の言葉を鵜呑みにして。しかも国外追放って言ったのに、私を途中で放り投げて下さいましたし? 二年前、もしもあなた様が違う選択をしていたのなら、きっとこの様な結果にはなっていなかったでしょう。よく、考えて下さい、国王様。魔物が現れ始めたのは何時からですか? 聖女様が現れて暫く経ってからでは無かったですか? 国のお金が無くなったのは何故ですか? フラクト王子が聖女様に無駄な贈り物をし続けたからではないですか? 聖女様が来てから、この国は荒れたのではないですか? ねぇ、国王様。こうなった原因は、異世界から来た“フユハラ・アカリ”と名乗る少女にあるのではないですか?」
「そんな馬鹿な話……」
「ある訳ないですか? まぁ、誰に原因があるにせよ、こうなってしまったからにはもう後は終わるだけです」
「終わる……?」
「今に分かりますよ。では、時間も押していますし私はこれで。行こう、クーちゃん」
「うん」
クラリナの手を引き歩き出したシルティーナにいつの間にか黒猫の姿に成ったクロイツが続く。
国王はその後ろ姿をただ唖然と見送るしかなかった。
そうして訪れた何とも言えない沈黙の場に、甲高い悲鳴のような声が木霊する。
『どういう事よこれ!?』
「な!? アカリ!? それにフラクトまでっ!!」
声のした方向、先程クラリナが投げた紙の内未だ情景しか映していなかった三枚の紙の内の一枚に両手と両足を拘束されたアカリとフラクトの姿が映し出されていた。




