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元令嬢様の華麗なる戦闘記  作者: 夢猫


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ファミラス

 ギィィン!! と甲高い金属音が響いてファミラスの押しに負けた男が倒れ込む。


「あー、やっぱ剣だといまいち調子出ねぇなぁ」


 ぼやいたファミラスの周りには十数人の男達が倒れている。


「刃こぼれは……うし、してねぇな。……お?」


 剣の状態(刃こぼれの有無)を確認したファミラスが安心した様に一息ついたその時、背を向けていた店から転がる様にして一人の男が出てきた。


「お、おま……お前っ!」


「あー、誰だ?」


「お前のせいでっ!!」


 ファミラスの姿を認めた男が怒りに満ちた瞳で睨み付けて来るのを当のファミラス自身はあっけらかんと見返す。


「お前のせいでっ!!!!」


「……俺のせいって、何がだよ?」


「お前がっ!! お前さえ居なければっ!!」


「……」


 近くに転がっていた剣を手にファミラスへと斬りかかって来た男の、その大振りな太刀をファミラスが僅かに体を反らす事で避けてついでとばかりに男の足を払い転ばせた。


「う、」


「なぁ、お前よ、中から出て来たって事はアルと接触したんじゃねぇのか? それでも剣を奪われるだけで出て来れたって事は見逃して貰えたんだろ?」


「……っ、」


 男の腰に提がっている鞘を見たファミラスが側にかがみこみ問いかける。

 その声音は心底呆れているモノだ。


「なのに何でまた俺に向かって来るよ? 大人しく逃げてれば俺もアルも手出しはしなかったのによ」


「うるせぇ!! 仲間がやられてんのに一人だけ逃げられるかよっ!!」


「だが、お前は逃げて来たんだろ? アルの(おど)しから。その先で仲間がやられてたから、見捨てるのが心苦しくて向かって来たんじゃねぇのか?」


「っ、そうだよ! だったら悪いのかよ!?」


「いやぁ。別に悪かねぇよ。ただ、」


 男の答えに笑ったファミラスが中途半端に言葉を切って店の入口へと視線を向ける。


「二度も俺達に刃を向けて無事で済むとは思ってねぇよな?」


 ファミラスの言葉を引き継ぐ形で続けたのは店から出て来たアルハルトだった。


「ほらよファーラ」


「おぅ、助かったぜ」


 互いに軽く放られたそれぞれの武器が持ち主の手に収まる。

 未だに倒れたままの男はアルハルトの姿を見た瞬間に顔を青ざめさせ、体を震わせていた。

 そんな男の前に立ち、アルハルトは一つ大きな溜め息を漏らす。


「まさか見逃してやった僅か数分後にこうして顔をつき合わせるとは思わなかったぜ」


「ぅ、うるせぇ!! おま、お前等が俺の仲間を傷つけたんじゃねぇか!!」


「だが、最初に仕掛けて来たのはお前等だろう」


「それは……っ!?」


 ファミラスの言葉に食って掛かろうとした男はしかし、視界に捉えた彼の表情を見て押し黙った。


「勘違いしてもらっちゃ困るぜ? 最初に俺達を襲って来たのはお前等で、今だってそうだ。俺達はただ、自分の命を守るために正当な防衛をしたに過ぎない」


 そう言ったファミラスの表情は、全ての感情が抜け落ちたかの様な完全なる"無"であった。

 発せられる声も酷く冷たい。


「俺達は別に、命までは……」


「奪う気はなかったか? けどな、お前の仲間が苦し紛れに適当に放った攻撃魔法が俺の仲間を傷つけた。死んじゃいねぇが、あいつはもう二度と剣を握れなくなっちまった。試行錯誤して、何度も失敗して挫折して、やっと見つけたあいつの生き方が、お前等によって一瞬で奪われた」


「そ、そんなの……」


「分かってるさ。そんなの別に全てお前等が悪い訳じゃない。あいつの油断と実力不足が招いた結果でもある。だが、もし俺達の憎しみが向かう先があったなら、それは確実にお前等だ」


「そんな……」


「俺達はな、仲間を傷つける奴を決して許さないんだよ」


「残念だよ。俺が見逃してやった時に大人しく逃げてればよかったのにな……」


「ま、待ってくれ!」

 

 押し潰されそうな恐怖の中、何とか上体だけを起こせた男が振りかぶられた切っ先に震える声で制止を乞う。


「待ったさ」


「……え?」


 そんな男の言葉にファミラスがその口元を歪めた。


「俺達がこの街(フィミナン)に着いて三日間。俺はお前等が来るのを待ってた。思ったより遅かったんで待ちくたびれたぜ」


「それじゃあ、俺達は……」


「種明かしをしてやろうか?」


 楽しそうに笑ったファミラスが切っ先を一旦下ろし男の前にかがむ。


「一番最初に逃げ出す奴が出た時、俺は残った奴等に聞こえる様に次の目的地を告げた。流石に逃げた奴等を追って仕留めるのは骨だからよ。自分達の方から来て貰う様にした訳だ」


「……」


「目的地を告げ、今日此処に来た奴等だけを逃がしてやった。正直来るか来ないかは賭けだったんだが、まぁ、来るだろうとは思ったぜ。何せお前等は奪う事は慣れてても、奪われる事には慣れていない。お前等の盗賊としての矜持は俺達に負けた事によって奪われた。それを取り返すには俺達に勝つしかない。お前が逃げた奴等全員集めて来てくれて助かったぜ。お陰で俺は仲間を傷つけたお前等を思う存分叩きのめせた」


「……悪魔めっ!!」


「ハッ!! 天使か何かに見えたか? 残念ながら俺達はどっちかっつーと悪魔寄りだぜ?」


 請ける内容は選ぶが、基本的に"依頼"であれば何でもこなす。

 自分達はそういう人間だ。

 "傭兵ギルド"を名乗っている為、殆どの依頼が護衛であったり戦の時の戦力であったりするのだが、極たまに仄暗い依頼が舞い込んで来る。

 その殆どは"暗殺者(アサシン)"が請け負うが、それでも自分達にそういった依頼が全く回って来ない訳ではないのだ。


 自分達は決して正義ではない。


 双翼の剣に所属する者達はそれをよく理解していた。


 そもそもの前提から間違っているのだ。

 自分達は世間からの評価などどうでもいいのだから。


 "依頼"だからそれをこなす。それが悪だろうが正義だろうがどうだっていい。

 世間一般の目線から見て確実に間違っている事だろうが、批判される事だろうが、感謝される事だろうが、喜ばれる事だろうが関係ない。

 その他大勢の他人からの評価なんて知ったこっちゃない。

 自分達にとって一番大事なのは仲間だから。

 世界中の人から後ろ指を指されようが、仲間が笑って隣を歩いてくれるのならなんだっていいのだ。


「残念だが確実にお前等は喧嘩を売る相手を間違えたんだよ。もしお前等がこの前の復讐の為に俺達の所に来なくても、お前等は全滅させる予定だったんだぜ」


「は?」


「当然だろう? 俺達の仲間を傷付けたんだから。お前等を仕留める手段なんて掃いて捨てる程あるんだから逃げても無駄だったんだよ、実は」


「な、何だよ、それ……」


「さぁて、絶望してるとこ悪いが、そのまま絶望しながら逝ってくれや」


 一閃。物言わなくなった男の表情は正に、"この世に絶望した人間"のそれであった。


「絶望のすぐ後に死ねるお前はまだ幸せなんだぜ? 絶望のままに生きて行くのは、それこそ地獄なんだからよ」


「何だファーラ、自分の事かよ?」


 事切れた男を見ながら呟いたファミラスにアルハルトが欠伸混じりに問いかければ苦笑が返された。


双翼の剣(俺達)全員の事だよ」


「あー……確かにな」


「ま、もう乗り越えた事でもあるがな。絶望を喰らって俺達は強くなったんだからよ。もう二度と、他人からの絶望に屈してなんてやるもんか」


「そうだな」

 

 ファミラスの言葉に頷いたアルハルトが男へと視線を移す。


「選択肢間違うからこうなるんだぜ、おにーさん」


 呟かれた言葉はただ静かに響いて消えた。

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