アルハルトと
ファミラスが店の外へ出て数秒後には、外から戦闘の音が聞こえ始めた。
ザワザワと混乱に揺れる店の中に在りながら、それでも我関せずと食事を続けていたアルハルトへ一人の男が近づく。
「おいおい、仲間が戦ってんのに自分は暢気に飯かよ? 随分と薄情だな」
「……」
ニタニタと笑いながら先程までファミラスが座っていた椅子へと無造作に座った男へ一瞬だけ視線を向けたアルハルトは、それだけで興味は失せたとばかりに食事を続けた。
「無視かよ……」
アルハルトの態度に舌打ちを溢した男は、しかし次の瞬間にはその顔に再び笑みを浮かべる。
「なぁ、いい事教えてやるよ」
「……」
「お前、この街に二人の連れと一緒に来ただろ?」
「……」
「お前とその二人が一緒に街に入って来たのを偶々見てた奴が居てな。お前がこの店に来て、あの男と知り合いだと分かった時にこりゃ使えるって思ってよ」
ニタニタと笑う男の声音は至極楽しそうだ。
そんな男に一瞥もくれずにアルハルトはただ黙って箸を動かし続けている。
「何人かそっちの方に向かわせて貰ってるぜ。なぁに、人質になって貰うだけだから殺しちゃいねぇさ。たぶんな」
「……そうか」
カラン、とアルハルトが食べ終わった料理の皿を床に置きグッと伸びをして立ち上がった。
「ならこっちもいい事教えてやるよ」
「あ?」
「お前達が手を出そうとしている二人の内、女の方を仕留めたいなら百人単位で送り込め」
「は?」
「じゃないともれなく返り討ちだぜ」
「ハッ!! なんだぁ? 仲間がピンチだって知ってとち狂ったか? 高々女一人の為に百人なんざ化け物かよ」
「あぁ。化け物だぜ、あいつ」
二ィ、とアルハルトは笑う。
「……」
「そうそう、気になってたんだがよ、」
「あ?」
「お前は、一体何の用で俺に話しかけたんだ?」
「そりゃお前、」
その問いに男がスッと目を細め、次の瞬間には腰に提げていた剣を抜いてその切っ先をアルハルトへと向けていた。
「お前にも人質になって貰おうと思ってよ!」
「あぁ、そうかよ」
「…………へ?」
振りかぶられた刃は、しかし振り下ろされる事は無かった。
「あー、やっぱ槍って使い難いな……しかもこんな狭い場所じゃ振り回せねぇ。ファーラに剣貸すんじゃ無かったぜ」
ファミラスから預かった槍の柄で男の剣を弾き飛ばしたアルハルトが溜め息混じりに言う。
「な……は? え?」
「なぁ、」
いまいち状況が掴めず、剣を持っていた筈の自身の手とアルハルトを交互に見比べる男に槍を肩に担いだアルハルトが笑顔で声をかけた。
「此処は食事処だから、出来れば血で汚したくはないんだよ」
「え?」
「しかも今俺が持ってる武器は使い慣れない槍だからよ、手加減なんて出来そうにないし、そもそもこんな狭い所で使うモンじゃねぇから周りに何れだけの被害が出るかも分からない。無関係な人間巻き込むのは流石に良心が痛む」
「……」
自分の言葉にキョトンとしたまま反応を示さない男にアルハルトが溜め息をつく。
「なぁ、分からねぇか?」
「え?」
「見逃してやるって言ってんだよ」
「あ……」
「向けられた刃に対して手加減なんてしてやらねぇ俺が……俺達が、見逃してやるって言ってんだ。尻尾巻いてそそくさと逃げろよ。そしてもう二度と現れるな」
「……」
暫く悔しそうに唇を噛み締めてアルハルトを睨んでいた男だったが、最終警告とばかりに槍の柄で床を叩いたアルハルトに無言でその場を去った。
「まぁ、シルティの方に向かった奴等は見逃してなんて貰えねぇだろうけどな。可哀想な奴等……」
折角ファーラから逃げられたのに、と呟いたアルハルトはファミラスの槍を持ってそのまま外へと出ていった。




