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断固拒否を致します。

「お断り申し上げます」


 広い室内に凛とした声が響いた。その言葉にザワリと空気が揺れる。


 リディーラン王国王城の謁見の間。多くの貴族や騎士に囲まれたその中央で玉座に座る王に膝を折りながら、それでも顔だけは真っ直ぐ王を見据えてシルティーナは断りの言葉を口にしたのだった。


「……なんだと?」


「お断り申し上げます、と言ったのです」


 一段低くなった王の声音に、それでも平然と先程と同じ言葉を返すシルティーナ。

 王の顔に怒りが浮かぶ。それはこの謁見の間に居る全ての人間が浮かべている表情でもあった。


「王である我の命が聞けぬと言うか」


「お忘れですか、国王様。王であるあなた様の命を受け、私は2年前この国から追放されたのです」


 何の感慨も感じられない声音で、シルティーナはただ事実のみを口にする。


「有りもせぬ罪を着せられ、学園を退学させられ、家から絶縁され、国外追放させられた私が何故、僅か2年の(のち)にこの国に呼び戻されあなた方の為に剣を振るわねばならぬのです?」


 シルティーナは貴族令嬢だった。リディーラン王国の中でも王族の次に権力を持っていた"バルラトナ公爵家"の長女、"シルティーナ・バルラトナ"だった。そんな彼女がまるで謀られたかの様にその手にあった全てを失ったのが2年前である。否、あれは確実に謀られていたのだろう。異世界からやって来た一人の少女によってシルティーナは全てを失ったのだ。


「私は既にこの国の国民ではありません。故に、あなた様の命に従う道理はありません」


「お前の生まれ育った国の危機なのだぞ!?」


「だから何だと言うのです? この様な事態に陥ったのはこの国の……ひいては国王であるあなた様の責任です。私は兼ねてから申しておりました。そこの女にうつつを抜かし過ぎれば、(いず)れそれに見あった対価を払わないといけなくなると」


 国王の後ろに控えている王族達の、第一王子の隣に寄り添っている少女へと目を向けてシルティーナはいい放つ。


 全て自業自得だ。救ってやる価値もない。

 この国から見捨てられて2年、シルティーナは必死に生きてきた。隣国へ渡り、それまで嗜み程度でしか握った事の無かった剣を握り、長かった髪を売り、ドレスの代わりに動きやすい服を身につけ、魔力が尽きかけるまで魔法の練習をして、それこそ本当に死に物狂いで生きてきた。

 彼女をそんな境遇に追いやった者達が、今更自分達の身が危ないから助けてくれなどとはちゃんちゃら可笑しな話ではないか。


「魔物がこの国に蔓延り始めたのも、彼女がこの世界に来たのも時期が一致すると、故に警戒は怠らないようにと、私は散々進言申し上げました。それを無下にした挙げ句、"国税の使い込み"などと全く身に覚えのない罪を着せられた私が、一体なんの大義があってあなた方を救わねばならないのですか?」


 この世界には古より国の政治や治安が乱れると現れるモノ達がいる。"魔物"と呼ばれる彼らは何処から来ているのかも、その起源が何なのかも全く分からないモノ達であり、けれどその強さだけは並みの兵士だと太刀打ち出来ない程なのだ。彼らにより、一体幾つの国が滅んだか知れない。


 そんな存在がここ、リディーラン王国にも現れた。打ち倒さなければ王国は滅び、それに伴い多くの人命が失われるだろう。

 けれどもう、シルティーナには一切関係のない話である。この国の全ての民が憎いとは言わない。それでも、シルティーナは確かに2年前、この国の王族を筆頭とした民達に命を奪われかけたのだ。

 そんな者達を救ってやれる程、シルティーナは寛大な心を持ち合わせてはいない。


「どうしても受けぬと言うか?」


「私の意は変わりません」


「バルラトナ公爵家にその名を戻す事を許してもか?」


「今更地位など望みませぬ」


「では、土地と金をやろう」


「ギルドに身を置き、世界を渡り歩くこの身に土地など必要なく、多すぎる財は重荷となりましょう」


「ならばお前が望むモノをやろう」


「私の望みは私が叶えます。他人に施して貰う様な望みは持っておりません」


 王の申し出全てにシルティーナは否と応えた。そんな彼女に王は諦めを抱き始めていたが、ここに来て一人の少女が言葉を発した。第一王子の隣に居た少女である。


「何でそんな冷たいことを言うんですか!? 人の命がかかってるんですよ!」


「……」


 そんな少女に向けられたシルティーナの視線は冷たい。


「シルティーナさんが受けてくれれば助かる命が一杯あるんです! なのに何で断るんですか!?」


 ふざけるな!!と怒鳴り返したい衝動をグッと堪えて、シルティーナは深く息を吐き出した。


「アカリ・フユハラ嬢、関係のない貴女は口を挟まないで頂きたい。これは私の問題です。私が決める事柄です。貴女がいくら綺麗事を並べようと、私が否と言えばこの件の私に関するモノは全て否なのです」


「だけどこの国には貴女の家族もお友達も居るんですよ!!」


「そんなモノは居ませんよ。この国に居るのは、私を貶めた友だった人達と私を裏切った家族だった人達だけ。私の守りたい人達はもうこの国には居ません」


 貴女が全て奪ったのだろう。とシルティーナは思った。名を"アカリ・フユハラ"と言う彼女こそ、シルティーナが全てを失うよう謀った人物だ。2年前の時を思い出し、シルティーナは知らず知らずの内に深いため息をついた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お話がいい [気になる点] 第一話のアカリの発言 「シルティーナさんが受けてくれれば助かる命が一杯あるんです。…」 の「一杯」は「いっぱい」か、「たくさん」にしたほうがいいと思う。 [一言…
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