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「元! 何をしている、早く逃げるぞ!」
教室の扉から体が半分出たところで、光は教室の真ん中で尻餅をついて震えている元に気づき、早く逃げるよう促す。
「わかっているよ! で、でも、足がすくんで動けないんだぁ」
討伐隊に入りたいと言っていた元だが、ウォームを目の前にして恐怖で体が動けなくなっていた。
その間にもウォームは高く跳躍し尾を細かく左右に振りながら、元がいる場所に迫る。
ウォームの動きと震えている元の姿に、光は焦った声を上げた。
「元! 早く逃げろぉ!」
「あ、あ――…………」
風を切るような音と、何かが裂けるような音が同時にした時――。
「元? おい……嘘だろ? 元ッッッ!」
光が親友の名を叫ぶが、しかし時はすでに遅く、彼の首から上が天井に届くくらい高く宙を舞い……ゴトリと音を立てて床に転がった。
そして頭部を無くした元の体は後方に力なく倒れていく。
天井の一部と床が真っ赤に染まっていく光景を、光は呆然と眺めていた。
次にウォームは、教室の扉付近で立ち尽くしている光に狙いを定める。
「キシャァァァァ!」と、奇声を上げたウォームが床から飛び上がり、光の首を尻尾の刀で切断しようとした時!
「フォルティス」
光の背後から声が聞こえ、同時にウォームは教室の中央に吹っ飛んでいった。
飛ばされたウォームは衝撃で体が仰向けのまま、足をバタバタを動かしている。
ウォームが飛んでいく様子を見た光はやっと我に返った。
「……え?」
「ウォーム討伐隊員の神堂亮夜です。早く逃げてください!」
新堂亮夜と名乗った、迷彩服に身を包んだ長身で細身の男性が光の側に立っていた。
しかし、光は首を左右に振り、それを拒む。
「いやだ、元がそこにいるんだ!」
その言葉で亮夜は教室の中に視線を向ける。そしてウォームよって傷ついた痛ましい遺体を見つけた。
亮夜は目の前にいる少年が大事な友人の凄惨な姿を受け入れていないことを悟る。
しかし武器の無い少年がウォームの側にいては危険なので、心を鬼にして説得する。
「彼のことは私に任せて。今は逃げてください」
「で、でも、俺はっ」
「君がここに居ても何もできません。早く校庭へ行きなさい」
丁寧な言葉遣いだが、有無を言わせない圧倒感が亮夜にはあり、光は納得するしかなかった。
「……分かりました。元をこれ以上傷つけさせないでください」
「約束する」
元がすでに死んでいることを光は理解している。しかし、それを認めたくない気持ちから、目の前にいる亮夜に元のことを頼んだ。
そして光は教室を後にして、校庭に避難した。